第2部序章-第二幕- 敵勢力、襲来
一方の
アーム城では、ユイナ姫及びその父親にして城の主である、
イスティーム王が敵襲から城を懸命に守っていた。
「まずいですね……」
「そうかな。まだ持ち堪えられると思うよ、ユイナ」
イスティーム王は事も無げに言い放ち、襲い来る敵兵を
二、三人ほど槍の柄で軽く殴って叩き返す。
「
ダークブラスター!!」
更にイスティーム王の放つ魔法は、有象無象の雑兵達を
あっさりと大量に薙ぎ払う。
「流石はお父様! 私も続きます……
チトセ!!」
愛馬チトセを呼ぶと、すぐに駆けつけた。
それにひらりと跨ると、戦場を広く見渡した。
味方が何人か斬り殺されているようである。
手加減しながらのこちらと違って、弱い者に容赦の無い戦い方だ。
「ああっ……ウチの子達が……!」
嘆くユイナだが、敵兵はイスティーム王へと雪崩れ込む。
「あれが
アーム王家の闇の王だ、捕らえろ!!」
「闇の王だなどと言えば、少々聞こえが悪くはありませんかね?」
若干機嫌が悪くなったのか、前より多少乱暴に
攻撃を叩き込むイスティーム王。
そのまま前線へと駆け出した。
「続きます、チトセ! 行って!!」
ユイナ姫もチトセを走らせて応戦に入る。
ユイナ姫もイスティーム王も、多少の加減はしているが、
残虐な攻撃を執拗に加える兵にはやむなく殺害行為を行った。
「このような事をして、あなた方は何なのです!?」
嘆きの声と共に、ユイナ姫が敵兵に向かって
斬り結びながら詰問する。
「知らずとも良い! 我々も上の目的など知らんのだからな!」
どうやら金で雇われただけの傭兵らしかった。
ならばいっそ叩き返してやるのが流儀というものだろう。
「チトセ、真っ直ぐに!!」
ユイナ姫の槍が水圧を纏う。そしてチトセは駆けた。
「
ウォータージェットスルーフ!!」
真っ直ぐに伸びる刺突攻撃が、
どこまでも、どこまでもまっすぐ敵陣を貫く。
その一撃で敵兵の戦意は喪失寸前にまで陥った。
しかしこのタイミングでイスティーム王には通信が入っていた。
端末を見ながらの戦闘は危険なので距離を置いて応答した。
「妻は……キョウカは脱出を? そうですか。
しかしこちらも対応は取れません。
その旨をどうか脱出機の機長に!」
そしてイスティーム王は通信を切った。
と、同時に敵陣に更なる動揺が走った。
「伝令! 向こうの首尾は駄目だ。失敗だ!
もうこれ以上陽動する意味が無い、撤退せよ!!」
その鶴の一声というべき伝令により、意外な統率力をもって、
敵軍は速やかに引き上げていった。
「お父様、あれは……退いてくれたのですか……?」
「分からない。陽動だと言っていた。
ならば別の地点が本当の目的だった可能性がある。
キョウカなのか、あるいは更に別の場所なのか……」
「ただちに味方拠点と連絡を繋がせます!」
「そうしてくれ」
ユイナ姫は馬上から降りて、急いで城内の通信設備へと駆ける。
イスティーム王は多数の亡骸が転がる大地を見渡し、嘆いた。
「私の経験してきた戦いでは死者が出る戦いは無かった。
それが
勇者軍関係で起こり得るという事は随分と不吉……
キョウカ……! どうか、無事で……」
だがイスティーム王も、その愛娘ユイナもまだ知らない。
愛する家族が、絶対勝利の勇者、ジルベルトの元に
救援を求めているという、何よりも頼もしい事実を。
其は幸か、あるいは不幸か。其を知る術、人に無し。
故に人は、人であり、人でしか無き故に――
更に、一方の
妖精の森も多大な窮地に陥っていた。
最初に襲撃されたのは、未だ幼子のいる
ルスト家邸宅だった。
ルスト家は民衆に被害が及ぶのを嫌い、
やむなく妖精王
セリナ=ワルキューレ=ヴァルキリー及び、
その夫、
リッシュ=マクファーレンの居城である
妖精王の城へと立てこもる態勢になったのであった。
勇者軍にとって幸いだったのは、出稼ぎ中であった
ルスト家当主セシリアの夫、
サイモン=アニーズィが戻っており、
万全の態勢を取る事が出来るという事実であった。
城に立てこもられた敵軍は手を出しかねて
遠くから叫びをあげ続けた。
「
レイリア=ルスト! 並びに
エイリア=ルストの
両名を引き渡せ! 我等が目的はその二名のみ!
そちらの城への攻撃及び敵対意志は無い!」
それを聞いたセシリアの目の色は変わった。
泣き声をあげ続ける我が子らを懸命になだめながらだが、
妹二人に質問をかけた。
「あんた達、よくトラブルに巻き込まれるわねー。
まだ
ストレンジバスター機関の火種とか残ってんのかしら?」
「それは無いよ、お姉。唯一に近い生き残りの
ゼクロスは、
スプレッダー戦役の後でまたどっかに行っちゃったし」
「とは言え、我々二人だけはというのも解せん。
二人だけの共通点と言えば、ストレンジバスター機関か、
あるいは
ナノ・マシンぐらいしか思い当たらん」
三姉妹はめいめいに意見を出した。
リッシュと一緒に城門を破られないように警戒していたサイモンだが、
そろそろ攻城兵器による攻撃に耐えかねているようであった。
そんな城内の様子を冷静に見ていたセリナ女王は
一つの決断を下したのであった。
「レイリア、それにエイリア。よくお聞きなさい」
「あ、はい!」
二人が口を揃えてセリナ女王へと返事した。
「これを差し上げます。とにかく今すぐこの場を脱出し、
サイモンの護衛を受けて、勇者ジルベルトと合流するのです」
セリナ女王の手からエイリアに渡されたのは、
瞬時に遠隔地への移動を可能とする『
天使の翼』だった。
「……そうだね。どうやら私達が最大の目的みたいだし、
どうやらアーム城からの連絡を聞く限りでは向こうは陽動っぽいし」
「気に食わんが私達がキーパーソンなのだろう。
サイモン兄さん、頼めるか!?」
「僕も城門警備は飽きたところだ。そうしよう!」
サイモンは城門から離れ、二人と合流。
「任せるわ、サイモン」
セシリアの言葉を聞き終わるや否や、
三人は瞬間移動の準備を始めた。
「行って来るね、お姉!」
「城と、家と、ブルーノ達は任せた!!」
「二人を無事に連れて帰ってくるよ、じゃあ行って来る!」
ばしゅっ!!
三人は一気に飛翔し、どこか遠くへと飛び去って行った。
ごがん!!
「うわっと!!」
それと同時に攻城兵器によって、城門が破られてしまった。
リッシュも巻き込まれては迷惑と、素早く飛び退いた。
相変わらずの見事な退き際である。
器用さなら彼は有数と言って良かった。
「レイリア=ルスト、及びエイリア=ルストを出せ!」
「妖精王セリナ=ワルキューレ=ヴァルキリーが
居城と知っての無礼か。これ以上の乱暴狼藉は許しませんよ」
セリナ女王が若干語気を強めて言う。
「だからこの城及び
妖精族への敵対意志は無い!
大人しく両名を引き渡せば良いのだ!」
「残念ですが、その両名は既にこの城より逃亡しております。
嘘とお思いなら、この城を捜索するといいでしょう」
「いいだろう!」
敵兵ががさごそと大勢入ってきて、無分別に城を散らかし始める。
「……一体どうなってるのかしらね、リッシュ」
「分からん。だが面倒なのは間違いないようだ、セシリア」
「どうしたらいいものかしらね。私は眼中に無いっぽいし」
「今は傍観するしか無いだろう。今全力で戦ったら、
こっちが戦死するか、あるいは
敵が全滅するかの二択しか無くなる。
常にどっかに余裕を持ってこその勇者軍ってモンだろう?」
「……まあ、ね。ジルベルトって子が
上手くやるのを期待するしかないか」
そう言って二人は同時に嘆息するのだった。
それでも子守りの手は止めない辺り、やはり両方とも流石ではあるが。
そして舞台は渦中の人物となる、ジルベルトのいる場所へと移る――
最終更新:2011年02月26日 21:40