第十六章-第二幕- ただあの人の下へ(中編)
……ソニアは一瞬気を失いかけたが、すぐに気を持ち直すと、
周囲を見渡した。気を失っているジモンはともかく、
破壊された建物に、何故か一組の少年と少女がいたのだ。
「あなた達は誰? 敵?」
警戒心全開でソニアが問いかけると、少年の方が肩をすくめる。
「一応味方のつもりで来ているんだがな」
と、頼みもしないのに勝手に牢の鍵を開け始める。
すると、もう一人の和装の少女が語りかけてきた。
「私は
リュミエル=モーディカイ。
こっちのドロボーが
ギース=リバーズっていうのよ」
「誰がドロボーだ」
と、ギースは手際良く、牢の鍵を開けて中に入ってきた。
手は休めず、彼は状況説明を続ける。
「とにかく急いで脱出をした方がいいだろう。
そこの凶暴な奴が、いつ目を覚ますか分からんしな。
俺達じゃ勝てん。無茶な爆撃だと思ったものだが、
案外最適解だったのかもしれんな」
「爆撃?」
「主力部隊の連中、無茶するわよねー。
建築物破砕用の鉄球に、爆薬満載して
この施設のド真ん中に放り込んだのよ?
あなたが中心にいたらどうするつもりだったのかしら」
「はあ」
「まあそれはいい。だが懸念事項は主力部隊の連中が、
敵将に足止めを食らっている事だろう。隊長が拉致られかけて、
あまつさえ人体急所に打撃をもらって悶絶している」
「なんですって?」
がちゃり。
そこで足枷の鍵が外れる。ソニアの目つきが変わった。
「ソニア?」
「私のジルベルト君を拉致ですって!?
どこのどいつよ! そんなふざけた真似してくれるのは!!」
「おい、まだ鍵が!」
「るっさいッ!!」
ごがん!
ソニアは委細構わず、手枷を壁に叩きつけて破壊する。
壁ごと木っ端微塵に砕け散り、
枷は文字通り意味を成さなくなった。
火事場の馬鹿力とは言え、無茶な事甚だしい行為である。
「で、それはどっちで起こったの!?」
ギースはその剣幕に、黙って西を指差す。
「あのー、ここはちなみに三階よ?」
リュミエルが一応申し訳なさそうに
註釈を入れるがソニアは無視して、
「
アースナックル!!」
どがんどごん!
地面を叩き壊して穴を開け、落下しざまに瓦礫を腕に纏う。
「もう一丁!!」
どごん!!
更に床に穴を開け……
「ずぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいッ!!」
ばがん!!
「ちょ、ちょっとソニア、無茶し過ぎ!!」
「追うぞ。一人では行かせられん」
「って、あんたも冷静すぎだから! もうッ!」
ギースが指し示した直線方向へと向かって穴を開け、
強引に直進する。その勢いに呑まれつつも
二人は慌てて追う事にしたのだった。
一方、ルシェット相手に優位に立ちながらも、
ライナスとゼクウはジリ貧の消耗戦を強いられていた。
意外にルシェットが粘り強いのだ。
「くっ……!」
決め手を欠いて手を出しかねていたライナス。だが――
ずごおぉぉぉん!!
ルシェット後方の壁が破壊される。
敵も味方も、その異変に意識が向いた。
すると、救出対象だったソニアが立っているではないか。
ソニアは極力冷静に味方と敵を識別した。
明らかに味方じゃない女が一人だけいる。
答えは簡単。そいつがジルベルトを拉致しようとしたのだ。
「あ・ん・た・かぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「え……脱獄!?」
一瞬対応が遅れたルシェットは、なんとかソニアの
アースナックルをぎりぎりで回避。大きく態勢が崩れた。
「私のジルベルト君に何してくれてんの、あんたはぁぁッ!!」
「やかましい! この子は私の家族にするの、邪魔しないで!」
「ふっざけんじゃないわよぉぉッ!!」
激昂したソニアがアースナックルを虚空へと突き出す。
だが、アースナックルとなっている石と瓦礫の塊は、
突如としてソニアの腕を離れた。
「
アースナックル・ピッチングショットぉ!!」
「わわッ!」
思わず鎌でガードしようとするが、質量差には抗し得ず、
ルシェットは石の塊の下敷きになった。
「ダブルアームパワードぉッ!!」
更にもう片腕の石の塊を射出し、叩き込むソニア。
「ぎゃぁぁぁッ!?」
ばきぼきっ!!
嫌な音が響く。恐らくあばら骨が数本折れたのだろう。
もはや戦闘継続は必要無い。それで決着は着いた。
全てが終わって力を出し尽くしたソニアはゆっくりと座り込む。
「はぁッ……はぁッ……ジル……ベルト君……」
ジルベルトはゆっくりと近寄り、そして……
ぽすっ。
軽い音を立てて、その胸に飛び込み、抱きついた。
「ただいま、ジルベルト君」
(助けに来るのが遅れてごめんなさいなのー)
「いいの、言いたい事は分かるから何も言わなくていいわ」
ソニアはジルベルトの頭を優しく撫でてやった。
その二人を包むように、猫達が周りを囲う。
「で、君ら誰?」
が、場の空気を一切読まずに、
レイリアがギースとリュミエルに質問する。
「あー、一応あの人の救出に来たんだけど
あんまり必要無かったみたい。
私はリュミエル=モーディカイ……
って、テディ! あんたもいるの!?」
「おう、リュミエル。訓練生時代以来か?」
「むー。あんた優秀だったもんね……
でも手柄では負けないわよ!」
ライバル心剥き出しで、リュミエルが睨む。
どうやらそういう関係らしいと分かると、
ドルカスは彼等を無視した。何故なら話が一向に進まないからだ。
「で、私がギース=リバーズだ。
成り行き上救出に当たったが事態が事態だ。
我々も主力部隊に入らせてもらうが、よろしいか?」
『よろしくなのー』
と、ジルベルトがメールで知らせる。
どっごぉぉぉぉん!!
突如、施設の中央の瓦礫が弾け飛ぶ。
「!?」
一同が見やると、あの
デウス=エクス=マキナが
血だらけ傷だらけになって立っていた。
どうやら
スチールボールボムの爆心地にいたらしい。
「……流石に今のは効いた。今まで気を失っていたぞ」
「……やる気か!?」
全員が戦闘態勢に入るが、マキナはルシェットを雑に回収すると、
今度は建物を適当に壊し、ジモンを回収し、後ろを向く。
「そちらも、こちらも、お互いボロボロの身内がいる。
それでは戦闘にはなるまい。
今は休戦といきたいが、どうか?」
『分かったのー』
「ウチの大将はいいって言ってるぞ」
ヴァジェスがジルベルトのメールを意訳する。
「では、いずれまた会おう。決着と願いたいところだ」
と、マキナはあっさりと引き下がった。
スチールボールボムがよほど効いたのだろう。
「待て、デウス=エクス=マキナとやら。
お前……まさかとは思うが、
ドラグーンなのか?」
マキナの背に生えた翼を見て、ヴァジェスが問う。
「然り」
それだけ言い残してマキナは飛び去っていった。
「ドラグーン……ということは、半人竜の事で?」
「ああ。正体は竜族だ。サイズは想像もつかんがな」
キョウカ王妃の問いに、ヴァジェスが苦々しげに答える。
「とにかく、今後の方針を決めねばならんな」
ギースの提案に、ルシアが賛同する。
「最優先事項だったソニアの救出は終了したわ。
今はキョウカ王妃を一刻も早く
アーム城へ届けるべきね」
「アーム城への距離は? まだ遠いのか?」
ようやく悶絶から回復したバスクが問いかける。
「バスク、無理しちゃ駄目よ」
「分かってる。動かないよ」
意外と素直にバスクはフローベールの助言を聞き入れる。
「そうだな……現在座標から察するに遠くはない。
この数日の行軍でむしろ近付いたぐらいだろう。
ほどなく到着、というところか」
土地勘を活かして、サイモンが冷静に分析した。
「分かったわ。とにかく行きましょう。いつまでも瓦礫の傍で
無駄な時間を過ごしている場合じゃないからね」
と、ソニアがジルベルトを抱き上げたまま、元気に立ち上がる。
活力に満ち溢れているようであった。
次の目標はいよいよ一つの節目となる、
キョウカ王妃のアーム城到着。確かな足場となる
重要拠点であるアーム城の守りがあれば、
キョウカ王妃の安全確保もより一段と確実になるのである。
この作戦を仕損じるわけにはいかないのは明らかである。
新たにライナス、そしてギースとリュミエルの
三名を正式に加えた
勇者軍主力部隊は、
大急ぎでアーム城方向となる北東方向へと、
その足を向けるのであった――
最終更新:2014年10月08日 00:59