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第十六章-第一幕- ただあの人の下へ(前編)






ソニアをハイアード・タウン区域にて拉致されてしまった
勇者軍主力部隊は、ライナス=ジーニアスとの合流を急ぎつつ、
追撃をかけるために、今までに無い勢いで進軍を開始した。
そうして進むこと、なんと1日半。
ようやく偵察に出たゼクウ、フローベールのうち、
フローベールだけが本隊に合流してきたのであった。

「で、ライナスはどこよ?」
と、コンラッド。
「ここから真西に2kmほどの地点で待機中です。
 その位置からすぐ傍に敵の拠点と思しき建物も確認しています。
 ライナスさん、かなりイラついているみたいです」
「待っておけっつっとけ! 2kmならすぐだ! 焦るな!!」
「あ、はい! 行きます!」
と、フローベールが慌てて飛んでいく。
「お前こそ急くな、コンラッド」
嗜めるようにヴァジェスが諌めるが、
コンラッドもやはり仲間の危機とあって
落ち着いてはいられないようであった。

「お待たせ……急造品だけど、これを使うわ」
と、その後方から巨大な大砲を持ってきたのは
レイリアとドルカスの銃撃チームであった。
「うお、何だそれ?」
テディが驚く。無理も無い。
大砲の口径も凄まじく大きいが、砲弾と思われる鉄球も
工事現場で使うのではないかと思うような破砕鉄球サイズなのだ。
まさかこれを射出する気なのだろうか。
「おい、それどうする気だ?」
「近くの輸送班がたまたま持っていた
 スチールボールボムを使うの。
 ジルベルト君はこれの威力、聞いたことあるんじゃない?」
『昔聞いたことあるのー』
つまりスチールボールに爆薬が満載されている
物騒極まりない代物である。
今回のような作戦には(あくまで勇者軍的に)うってつけだった。
「移動しながらだけど、作戦を聞いて」
と、ドルカス。重要な話である。
「このスチールボールボムを即席大砲で相手の拠点の
 ド真ん中へ叩き込むわ。たぶん施設の相当の部分に
 ガタが来るほどの爆発が起こると思うから爆発時は一応伏せてね。
 で、大混乱になると思うから、強行突撃でソニアを奪還。
 その後、ライナスと一緒に速やかに脱出よ。いい?」
「いやはや、勇者軍ってのはここまで派手だとはねぇ。
 俺も一員だけど、正直びっくりだ。過激過ぎる」
と、今更のような事を言うバスク。
「いやいや、本当はスチールボールボムを
 三、四発ほど叩き込んで施設もろとも全壊させてから
 ソニアを掘り出そうかと思ったんだけど、
 何故かエイリアが止めるからさー。ねぇ?」
「いや、ねぇ? じゃなくてな。埋まったら死ぬから」
と、エイリアがツッコむ。
「せめてレッド・ワイズマンMk-Ⅱが近くの海域にいたら
 長距離弾道ミサイルを五、六十発ほど
 叩き込んでもらうんだがなぁ」
「一緒だよ、コンラッド君……」
と、静かにメイベルがツッコむ。

そして大砲を転がして歩く事、二十分。
ライナス、ゼクウ、フローベールと合流するに至ったのであった。
「ところでお前、ずっと何してた?」
会うなりいきなり、テディが訊いてくる。
「修行さ。新しい技もしっかり身に付けてきた。
 そのうち……というより、割とすぐに見せるよ」
「楽しみにさせてもらうぞ、ライナス。
 さあ、やってくれ、ドルカス」
テディはドルカス達に要請する。
「ちょっと待ってね。銃口補正と弾道予測中だから。
 あ、大砲が飛んでかないように誰か押さえてくれる?」
ドルカスが要請すると、エイリアやヴァジェス、
バスクが大砲を押さえる。
「レイリアさん、これでいい?」
「うん、大丈夫。風を含めた予測とも一致する」
「カウントダウン……3……2……1……ファイア!!」

ずどっごぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!

凄まじい爆音と、煙が吹き出し、
スチールボールボムが宙を舞い、やがて敵の施設へと飛んでいく。
そして数秒後――

ごがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!

500mほど距離を置いての狙撃だったはずだが、
それでも衝撃波がこちらまで飛んでくるほどの爆発が起こった。
たちまち施設は半壊し、上へ下への大騒ぎとなった。
NBC兵器や質量兵器を除けば、破格の火力があるだけに、
とんでもない結果を叩き出してしまったようである。

「たーまやー!」
拍手喝采を送るレイリアをエイリアが小突いた。
「喝采を送ってる場合か、馬鹿! あと何だその掛け声は!!」
「そんな事はいい、突撃だ!!」
「おーっ!!」
言うより先にライナスは動いていたが、それはともかく、
ヴァジェスの指揮に全員が応じ、全力で突貫する。
キョウカ王妃やチトセ、猫達も
今ばかりは後衛というわけにもいかない。
置いていかれないように、必死について行くのであった。

そしてスチールボールボムによって綺麗にくっきり
東西に分断された敵施設のうち、西の方を探したのだが、
どこまで細かく探してもソニアの姿は見つからなかった。
とはいえ、敵も完全にパニックを起こしており、
勇者軍に構ったり戦ったりする余裕など
どこにもあるわけが無かった。
勇者軍の姿を見れば逃げ出すか、腰を抜かすか、謝るかの三択を
彼等は強いられているのだった。そんな中の一人を
ルシアとキョウカ王妃がとっ捕まえて尋問を始めた。
「私の妹はどこ!? あんた達が捕まえたでしょ!!」
「お願いです……教えて下さい……これ以上の攻撃は望みません」
ハナから抵抗する気も失せている敵兵はあっさりと白状した。
「あああ、あの娘は東の区画の3階に監禁されているんだ。
 こ、これ以上の事は知らねぇよ、勘弁してくれよぉぉ!!」
そこまで言うと、ルシアの拘束を振り切って兵士は逃げ出した。
「ハズレを引かされたか……」
サイモンが忌々しげに呟く。
「悔やむのは後だ、先に行くよ!!」
ライナスがまたも先陣を切り、後の者が続くのであった。

が、ライナスはいきなり足を止める事になった。
爆心地を突っ切って東の区画へ走ろうとした時、そのド真ん中に
一人の女性が突っ立っているのだ。妙に風格がある。
「……誰だい?」
「ルシェット=イルチェッカ。この施設の管理者よ」
「そこをどいてもらおうか。俺達は東の区画に用がある」
「……ふうむ。それは困ったわね。それは出来ない相談だわ」
と、ルシェットとやらは鎌をいきなり投げつけてくる。
あまりにいきなりだったので、一瞬挙動が遅れたライナス。
うっかり直撃を食いそうになったが、慌てて滑った事が幸いして、
鎌はあらぬ方向へと飛んでいった。
「運のいい男。身長がもうちょっと低ければ好みなのだけど」
と、そこでジルベルト達がやってきた。
「あら、お仲間の登場……ん?」
急にルシェットの目つきが変わった。
明らかにジルベルトを見ている。
「あらあら、可愛い子じゃないの」
慈愛に満ちたような目で急にジルベルトに語りかけてきた。
その態度の豹変ぶりに驚き、ジルベルトは対応が取れずにいる。
「?」
「君みたいに可愛い子が
 戦場になんかいたら駄目じゃないの。
 私が安全で、綺麗で、楽しい所に連れてってあげるからねー」
「?」
なんか母親のように語りかけ、
いきなりジルベルトの手を引っ張り出す。
ワケが分からずにジルベルトは為すがままだった。
「ジルベルト君、離れろッ! そいつは敵の幹部だぞッ!!」
ようやく事態を察してジルベルトがもがき出すが、
すっかり抱きかかえられて
ロクに抵抗も出来ない状況に陥っていた。
「あらあら、暴れちゃ駄目よ。大人しくしててねー」
まるで子供をあやすような対応。いい加減腹が立ってきたので、
ジルベルトは本格的に大暴れの態勢に入り始めた。
その気配を察してか、ルシェットは指でジルベルトの人体急所を
立て続けに連続で突くという凶行に及んだ。
「がっ!?」
一瞬何が起こったか理解できなかったが、
自らが悶絶したのであろうという事は
なんとなく分かったジルベルト。
「手前ェ!」
コンラッドが激昂し、襲いかかろうとする。
「だーめ。あなたは可愛くないもの。でもこの子は可愛いから、
 連れて帰って私と一緒に家族にしてあげるの。いけない?」
「いけないに決まっとるわぁぁぁッ!!」
ほぼ全員によるツッコミ。
「ショタコンか……」
その中でルシアは頭を抱えていた。
しかもどうやら重度のものらしい。
こうやって強引に拉致監禁に入ろうというのは、
ある意味で只者ではないのは分かった。
当のジルベルトはまだ悶絶したままでロクに喋る事もできない。
……もっとも通常時でもロクに喋りもしないのだが、
それはまあどうでもいい。

すると、そこに割り込む影、一閃――
「離!!」
どがぁん!!
地面を叩き割って飛び出したゼクウが、ルシェットの腕を蹴る。
「あうッ!!」
ついジルベルトを離してしまったルシェット。
「ジルベルト君!」
思わず放り投げられたジルベルトを心配して叫ぶルシア。
ゼクウは敵の隙を狙い、小柄なジルベルトを奪還して、
素早くキョウカ王妃の愛馬、チトセに乗せたのであった。
「ありがとうございます、ゼクウさん……」
「無」
と、メイベルが礼を言うが、当人は意にも介さないようだった。
「ジル君、しっかり!」
キョウカ王妃が懸命に介抱し、ようやくジルベルトは
ふらふらと立ち上がれる程度にまでは回復したようである。
「ふうん……ジルベルトっていうのね、その子」
ルシェットは相変わらずジルベルト以外に興味を示さない。
「よくも隊長を……覚悟しろ!!」
バスクが言い放つや否や前進、続いてフローベールが前へ出る。
その真ん中にライナスが陣取った。
「君も可愛いけど、やっぱりジルベルトほどじゃないかな」
と、ルシェットは鎌を投げて応対。
一瞬のガードの隙を突いて、また人体急所へ攻撃を叩き込む。
「がぁぁぁぁぁぁ!!」
「バスク!!」
ジルベルト同様に悶絶し、落馬してのたうち回るバスクを
フローベールと、バスクの愛馬ヴィッセルが介抱する。
「速いな……」
ライナスも流石に慎重になり、その挙動の素早さの正体を
見極めようという気になったようであった。
「知りたいなら教えてあげる。私は元々シーフファイター。
 素早さならあなた達の比じゃないつもりよ?」
と、不敵に微笑むルシェット。
「ゼクウ君。援護を頼む」
「了」
ライナスがゼクウに援護を要請する。
「他は下がってくれ。スピードにはスピードで対抗する」
「任せるぞ、ライナス!! やれ!!」
エイリアのエールも入り、ライナスは臨戦態勢に入った。
「素早さを売りにするのが自分だけだと思わない事だ!」
「然」
ライナスとゼクウは息を合わせて連携攻撃を見舞う。
さしものルシェットも二対一では分が悪いのか、
なんとか二人の攻撃を捌くのに必死になっていた。
「なんでよ……私の家族が増えるのよ……
 あの子がいいの! よってたかって邪魔しないで!!」
ルシェットがすこぶる勝手な悲壮感に包まれながら
懸命に応戦する。流石にそう簡単には倒れないようだった。
「身勝手な! 家族が欲しいなら好きなように
 どっかで誰かと付き合って結婚すればいい!
 わざわざウチのメンバーを連れ去る意味など無い!!」
「業」
「大人の男は嫌いよ!
 みんなみんな、小ずるいのばっかり!!」
「怒」
ジルベルトに共感でも抱いているのか、
ゼクウが珍しく怒りを露にして鎌を叩き込む。
鎌と鎌がぶつかり合い、火花を散らす。
「流石に素早い……だがそれだけでは駄目だ!!」
ライナスが剣を鞘に一旦納め、身を一瞬かがめる。
「烈風剣!!」
ざむっ!!
凄まじい剣圧がルシェットの鎌をも斬り裂く。
彼の母、ロゼッタ=ジーニアスから受け継いだ必殺の剣筋である。
もはやまともな武器では応戦すら難しい一撃である。

だが、テンションが上がりっぱなしのルシェットは
まだまだ粘るつもりのようだった。
「まだまだよ!」
どこにそんなに持っているのか、予備の鎌を取り出した。
「くっ、キリが無い!!」
決め手を欠いて、二人の戦いは持久戦にもつれ込みつつあった。

一方、少し時を遡り、手械足枷を付けられたソニアは、
傷の手当ても応急のまま、牢へと放り込まれていた。
血の付いた服をそのまま着ている辺りが分かりやすい証拠だ。
とはいえ、一応魔法で処置されているので傷は塞がっている。
それより手械足枷が相当に鬱陶しかった。
「こんな……もので……」
「無理をする事は無い。ソニア=メーベルヴァーゲンとやら」
と、ラッカード=ジモンが現れた。
「出しなさいよ! このッ!!」
「ふはは、元気な事だ! それでこそ我が妻に相応しい!」
「妻ですって!?」
「その通り! その気骨、その覇気、その気位!
 それでこそ我が妻となるに相応しいというものよ!!
 敵でなく、妻として、仲間として貴様を迎えよう!!
 そして共に理想を歩む同志として
 勇者軍と戦おうではないか!」
「誰があんたなんかのお嫁さんになるものですか!!」
「ふはははははは、傷も痛むだろう!?
 結論を急ぐ事はない! だが我等が要塞は完全防備!
 ゴキブリが侵入する隙間も無いであろう!
 たとえ誰が忍び込んだとしても、
 助けてもらえるなどという甘い考えは持たない事だ!
 我等ネイチャー・ファンダメンタルはそこまで甘くは無いぞ!」
「くっ――!」
「さあ、それが理解できたなら大人しく我が妻と――」

ずどがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!
どがらがらがらがらごしゃあああん!

「きゃああああああッ!?」
「ぬぐわぁぁぁぁッ!!!」
突然起きた凄まじい爆発と、爆風、そして爆音。
勇者軍のスチールボールボムによる巨大爆撃である。
崩れゆく壁、吹き飛ぶジモン、そして捻じ曲がる建物の柱。
全てを飲み込みかねない光と、熱と、音が施設全てを襲った――
だが、これが好機になろうとは
その瞬間のソニアには思いも寄らなかったのだ。



<第十六章-第二幕-へと続く>
最終更新:2011年05月07日 21:19