アットウィキロゴ

第十九章-第一幕- ネイチャー・ジモンの歓迎






勇者軍主力部隊は無人兵器をことごとく片付けて、
遂にネイチャー・ファンダメンタル本部と化した
惑星アース国際平和機構本部施設へと足を踏み入れた。
ここではヴァジェスもサイズが大きすぎるため、
人型となるドラグーン形態へと移行している。
「くそっ、広いな」
悪態をつくヴァジェスをテディが嗜める。
「向こうは人海戦術が得意なようだったからな。
 これぐらいの巨大施設でなければ話にもならんのだろう。
 ……まるでそのためにここが狙われたかのようでもあるがな」
「ついでというものでしょう。彼等の作戦目的上、
 ここも狙われるのは必然だったと言えます。
 接収目的で襲った、というわけでもないかもしれません」
キョウカ王妃が苦々しい表情で語る。
「雑魚みたいな部屋はあんたの部下だけで充分だろう。
 俺達は重要な部屋を制圧するぞ。キョウカ王妃、教えてくれ」
エイリアがあまりの広さに、苛立ちを隠そうともせずに言う。
「今、全員の端末にここの地図を転送しています。少しお待ちを」
そう言うや否や、すぐに各員の端末に地図のデータが転送された。
「地図上で一階に明らかに大きい部屋が見えますね?
 それが中央の施設の管理区域です。全室をモニタリングする
 機能や通信施設などを備えており、一番の重要地点です。
 他の部屋は皆さんに任せて、勇者軍はそこを制圧しましょう」
『分かったのー』
元気良くジルベルトが応じると、他の者も頷く。

……と、そこでふと気付いたように、キョウカ王妃が赤面する。
「私ったら……室内で乗馬しているなんて、
 すっかりお行儀の悪いことを……」
「いやいや、そんな場合じゃないですから」
チトセに乗ったままのキョウカ王妃に対し、
冷静にイスティームがツッコミを入れる。
「……ユイナ王女にそっくりだなぁ……変な所が……」
と、ソニアとライナスは呟く。

中央管理室までにはそれなりの距離があるものの、
元が文化的な施設ということもあってか、大掛かりな
防衛兵器などは設置されたりしていないようだった。
フェイント的に使用されると、最弱のキョウカ王妃の身に
危険が及ぶので、勇者軍としては非常にありがたかったが。

そこで、明らかにネイチャー・ファンダメンタル軍とも、
惑星アース国際平和機構軍とも違う格好の兵士を見かけた。
「誰だ……お?」
「コンラッド君、待って待って」
コンラッドが警戒して攻撃しようとしたが、
メイベルが慌てて止めに入ったので躊躇したようだった。
「お父様の指示ですか?」
「へい、お嬢! ケヴィン様の指示で参りやした!
 俺達も各部屋の制圧行動を支援しますぜ!!」
「やっぱり。ウチの施設でよく見る方ですもの。
 うっかり攻撃されないように目立つ行動は控えて下さいね」
「へぇ、すんません。じゃ、俺はこれで!!」
どうやらアイリーン・マフィアが勇者軍の
直接支援に動いてくれているようだった。
この施設はアイリーン・マフィアからも
そう離れていないとあって、他人事のように
見過ごしておく事は出来なかったのだろう、と
メイベルが賢い事に全て察したのであった。
「っと、やべぇやべぇ。メイベル、お前んトコの奴か。
 お前が気付かなかったら危うく仕掛けるところだったな」
「大体家に出入りするスタッフの顔は覚えているの。
 さあ、これでより任務に集中出来るはずです。
 急いで行きましょう!」

それから十数分後、勇者軍主力部隊は
惑星アース国際平和機構中央管理室に足を踏み入れた。
「疑」
突如としてそれまで黙っていたゼクウが喋る。
「疑わしいの? 何が?」
ルシアがその疑問自体を疑問に思って口に出す。
ジルベルトがその意図を読んで、メールで伝える。
『外の大軍団と無人兵器で
 警戒態勢と迎撃態勢を整えたのは当然だ。
 だが、それ以外の備えが無いのは
 いくら何でも疑問が残る、って』
考えてみれば当然の事だった。
今もバスクやキョウカ王妃の端末には、ひっきりなしに
アイリーン・マフィアの構成員や惑星アース国際平和機構軍による
各部屋の制圧報告だけが、何の異常も無く淡々と行われている。
普通に考慮した場合はそれが一番異常なのである。
ネイチャー・ファンダメンタル軍による抵抗の報告さえ無いのだ。
残党がいくらかなりといてもおかしくはない。
まさか本当にマキナと幹部以外の
全戦力を投入したとでも言うのか。
それともそうせざるを得ないほど、
思ったより敵が消耗しているのか。
思考は堂々巡りになり、遂にイスティーム王が結論を出す。
「しまった、罠か!?」
そう叫んだ時にはもう遅かった。

ぶわっ!

「むっ、なんだこれは!?」
ギースが驚く間もなく、床に異常が見られる。
いきなり床が発光した。
それも部屋全体を大きく六つに分けて
六色へと発光する。驚かせるためだけだとしたら
非常に悪趣味だった。
だが、それほど生易しくもないようであった。
「よぉぉぉぉぅこそ、勇者軍主力部隊の諸君!
 我々ネイチャー・ファンダメンタルの基地へと!
 だが生憎、ここには大した守りの施設も仕掛けも無い!
 それではあまりにも無礼であぁぁぁる!!」
妙にハイテンションなのは相変わらずであった。
ネイチャー・ジモンことラッカード=ジモンの声である。
どうやら通信設備を使ってこの部屋に声を送り込んでいるらしい。
「ネイチャー・ジモン!
 この施設は元々キョウカ王妃達のものだ!
 使い物にならんなどと言うなら、
 今すぐここから立ち去れ!!」
テディが怒りを露に叫ぶと、
意外にもジモンはまともに応じてきた。
「良かろう! というよりもうその施設には我々幹部を含め、
 全てのネイチャー・ファンダメンタルの人員はおらぬ!
 そんなボロ屋、貴様等の好きにするが良いわ!!」
「意外に物分かりがいい……?」
「そんなわけあるか」
と、リュミエルの懸念をヴァジェスが即座に否定してのける。
「ただし、ここから無事に出られればだがなぁ!!」

バクン!

ジモンがそう言い放つや否や、
六色に発光していた部分の床板が開き、
ぽっかりと六つの穴が出現。
「うおわっ!?」
誰の声かは知らないが驚愕する声が響く。
だがそんな声を聞く暇も無く、
各員が六つのグループに分かれて落下する。
「元帥閣下ぁ!」
「キョウカ!? ……間に合え、エア・フロート!」
落ち行く中で、かろうじてイスティーム王の声だけが響く。
キョウカ王妃は戦う能力も何も持たない凡人だ。
イスティーム王は即座に反応し、
浮遊魔法を幻杖レプリアーツから開放し、
キョウカ王妃と愛馬チトセをそれに包むことに成功した。

そして地下十五メートルほどの地点に落下した各グループ。
完全に勇者軍主力部隊は寸断されてしまったようである。
「ったた……」
ジルベルトをとっさにかばったせいで着地に失敗したソニアが
少し時間をかけて起き上がる。周りを見渡してみれば
『アンダーグラウンドゲートA』と書かれた表札を発見。
事実上のAルート、と見なしていいようだった。
「ジルベルト君、平気?」
(平気ー)
ジルベルトはあっけらかんと返事してくる。
そこには、仔猫のあんみつを抱えたメイベルも着陸していた。
彼女はブースターを吹かして軟着陸したようである。
「他の皆さんは無事でしょうか……?」
「何言ってるのよ、メイベル。一騎当千の勇者軍なのよ。
 それより無事に出られたら、なんて言ってたわね。
 自分達が無事に出る事を考えた方が良さそうよ」
ジルベルトもうんうん、と頷く。

一方のアンダーグラウンドゲートBにおいては、
近くに寄り添っていたレイリア、エイリア、サイモンの三名がいた。
「……痛い……」
レイリアは壁蹴りで軟着陸。エイリアは鞭で電灯を絡め取り、着陸。
サイモンだけが自らの足一つで豪快に着陸し、足を痺れさせていた。
「お兄、だいじょぶ?」
「あまり無理をしない方がいいわ、兄さん」
「……っと、もう大丈夫だ。
 これぐらいでへこたれるわけにもいかない。
 だが、アンダーグラウンドゲートBという事は、
 同じようなゲートが六つに分かれていて、
 それぞれみんな同じように巻き込まれただろう。
 僕達も速やかに出口を探して、とっとと脱出しないとね」
レイリアとエイリアは素直に頷いた。それが一番早そうだし、
何より上への移動手段も塞がれていたからである。

更に一方のアンダーグラウンドゲートCにおいては、
テディ、ドルカス、リュミエルの三名が
それぞれ器用に着陸していた。
「ふう、まったく人騒がせな罠だこと」
と、冷静にドルカスが言い放つと、リュミエルはとにかく怒鳴る。
「湿っぽい! カビ臭い! こんなトコ嫌ぁー!」
「同感だ……早く外に出ないとな。
 ドルカス、デリバリー・ランチャーはあるか?」
「あるけど無理よ、テディ。上は塞がれたみたい。
 地道に外への道を探した方が早そうね。
 そもそもここ、緊急脱出口として機能してたみたいだから」
「そうなの? ドルカスさん」
「私には見れば分かる。やたら頑強に補強してあるし、
 これなら仮に私達が大暴れしてもそう簡単には崩れないわよ」
そこまで言うとドルカスはさっさと歩き始める。
「よし、行くぞリュミエル」
「偉そうにしないでよ、テディ!」
いまいち息の合わない二人が、ドルカスに続く。

更に一方のアンダーグラウンドゲートDでは、
イスティーム王と、キョウカ王妃。
そしてその胸に抱かれたジルベルトの仔猫四匹と、
愛馬チトセ、それにギースとコンラッドがいた。
「人の施設の緊急脱出口をこんな風に改造して……悪趣味ですわ」
「まあまあ、落ち着いて、怪我は無い?」
「ええまあ、元帥閣下のおかげで」
珍しく憤慨してキョウカ王妃が言うので、
イスティーム王はなだめるのに必死だった。
だがギースは別の所に着目する。
「脱出口、という事は出口もきちんと用意されているという事か。
 むしろその出口に敵の幹部が控えている可能性がありそうです」
「鋭いね、ギース君」
「ジモンの言葉から推測しました。
 無事に脱出出来れば、という事は
 そのまま素直に出す気は無い、という事でしょう。
 なら組織最強レベルの戦力を出すのが筋のはずです」
「脱出路は六つ、幹部も六人か。だがマキナが
 カウントされていないのは気になる」
「今はそこまで考えても仕方がありません。
 キョウカ王妃のこともあります。急ぎましょう」
「よし、ここはお前さんに任せるぜ、ギース!!」
ギースが先導し始め、コンラッドも同意したので、
二人はそれに従った。

更に一方のアンダーグラウンドゲートEでは、
フローベール、バスク、ヴァジェスと
愛馬のベアトリス及びヴィッセルが放り込まれていた。
フローベールはベアトリスの飛行で、バスクとヴィッセルは、
ワイバーン形態に戻ったヴァジェスに抱えられ、
全チーム中一番無難に軟着陸を成功させていたと言える。
「フローベール、上へ上がれそう?」
「……無理ね。上は蓋をされたみたい」
「ひひんばー」
ベアトリスも困ったように言う。ヴァジェスが応じた。
「俺達だけ飛んで上がっても他がそうはいかんだろう。
 気に食わんが、このトラップに付き合ってやらんといかんな」
「どうしよう、こんな新米ばっかり残って……」
フローベールが自信無さげに言うのをヴァジェスが小突く。
「ここまで生き残った時点でお前等はもう精鋭の一人だ。
 そんな弱音を吐くように鍛えた覚えは無いつもりだが?」
「はっ、はい!」
フローベールも、バスクも慌てて返答する。
「悪くない返事だ。ならすぐにここを出るぞ」
ドラグーン形態に戻ったヴァジェスが歩き始めると、
フローベールとバスクは慌てて付き従い始めた。

最後に、アンダーグラウンドゲートFでは
ライナス、ルシア、ゼクウの三名が放り込まれていた。
ゼクウがその豪腕を持って他二名を抱えたまま、
壁蹴りを駆使して強引に着陸してのける。
「ふいー、びっくりした。うわっ狭っ。苦手なんだけどなぁ」
着陸するなりいきなり愚痴をこぼすライナス。
どうやら過去の経験がトラウマになっているようだった。
「愚痴ってる場合じゃないわ。
 他の連中も出るために動くだろうし、
 ウチ等は即席チームだけど、別チームに遅れは取れないわよ」
「進」
ルシアとゼクウはさっさと進み始める。
「置いて行かないでくれよ。待った待った」
と、ライナスも慌てて後を追う。
少し歩くとゲートらしきものが見えた。
手動で開く扉を何とか開けると、更に広い空間へと出る。
今までの部屋より更に補強され、頑強な床や天井が目立つ部屋だ。
「危」
ゼクウが警戒感を強めて言う。
ライナスとルシアも即座に臨戦態勢に入った。

アンダーグラウンドゲートFの部屋と同じように、
各チームの到達した部屋に、強い敵意が渦巻き始めるのだった――



<第十九章-第二幕-へと続く>
最終更新:2011年05月22日 21:24