アットウィキロゴ

第十九章-第二幕- 退路無き戦(前編)






勇者軍主力部隊は半ば放棄されたような状態での
惑星アース国際平和機構本部施設内において、罠で分断され、
六つの小隊に強制的に再構成させられてしまったのであった。
各小隊はAからFのチームに分かれ、一本道の出口を地下から探す。
それしか残された道は与えられていないようであった。

チームF小隊のライナス、ゼクウ、ルシアの三名は
ゲートらしきものを開き、だだっ広い空間へと出てきた。
そこには多数の人型の等身大ロボットに囲まれた
幹部の一人、キートン=グロウズが現れた。
「ひぃぃぃっ、本当に来たよぉ!」
相も変わらずの被害妄想全開で、大きく後ずさるキートン。
「悪いけど、そこ、通してもらうよ。
 痛い目を見たくないのなら、どいてもらうからね」
ライナスが呪鞘カオスリキッドから愛用の剣を抜く。
カオスリキッドの魔力を受けて切れ味も増した剣が鋭く輝く。
「そそ、そういうわけにもいかない!
 君達は怖いけど、ジモンさんはもっと怖い!!
 何もせずここを通したら何されるか分からないからね!
 彼等を攻撃するんだ、エクスロイド!!」
それだけ言うと、等身大ロボットに突撃を指示する。
エクスロイドと呼ばれたロボット達が一斉に仕掛けてきた。
「エクスターミネート・アンドロイドってところか。悪趣味ね」
ルシアは速やかに弓を構えて魔力を込める。
「ボイルドアーチ!」
熱湯を纏った矢が凄まじいスピードで放たれ、
見事に貫通して中の電子機器を破損させていく。
水分のみならず高熱の熱湯では精密機械には毒のようなものだ。
つまり、相性がばっちり噛み合っているのである。
なのでライナスもゼクウも、彼女のフォローに回る。
「いいぞ、ルシアさん! 思いっきりやれ!」
「護」
「ふん、怖くなんかあるもんか!
 僕にはいっぱい味方がいるんだ!」
懲りずにキートンはエクスロイドとやらを更に繰り出してくる。
「数だけは一丁前に!」
ルシアも負けじと、矢を束ね射ちの乱れ射ちにして応じる。
もちろんボイルドアーチの効果は続いたままだ。
「ひぃぃ! ごめんなさいごべんなざぁぁいぃ!!」
するとあっさりキートンは泣き叫び、持っていた銃を放り捨てる。
よほど自分の持っている武器さえ信用出来ないらしい。
「愚」
自らの信ずるべき武器を放り捨てるとは
愚かな、という意味だろう。
ゼクウが一人で独白する。
「あははははは! もう僕は殺されるしかないんだろ!?
 もうどうなったってしょうがない、やるしかないじゃないか!
 何をどうしても怖いのなら、しょうがないじゃないか!!」
いきなりキートンはヘビーマシンガンを取り出す。
この世の中においてもかなりの高威力火器だ。
ここまでの高威力火器は本職のライフルファイターでも
なかなか非常事態にならないと出さないような代物である。
「アクシデンタル・ディスチャージ!!」
どがららららららららららら!!
無闇やたらにキートンがマシンガンを振り回した結果、
エクスロイドにも、勇者軍にも辺り構わず弾が飛んでくる。
「防」
ゼクウが巨大手裏剣を
超高速回転させる事で即席のシールドを生み、
なんとか跳弾をことごとく弾き返すが、そうでなければ
相当のダメージを受けていたことは明白である。
「やめろ、キートン! 味方もいるんじゃなかったのか!?」
ライナスはキートンを非難する。
「君達が強すぎるのがいけないんだ!
 僕はそれが怖い! だから手段なんて選べないんだよぉ!」
キートンのマシンガンによって真っ先に壊れるのは
エクスロイドばかりであるが、
手裏剣もそういつまでももたない。
「ならばこれで! フロストゲイザー!」
ゼクウの前に作り出された氷の棘による壁が一時的にゼクウの盾となる。
「謝」
ゼクウは一瞬の隙を作ってくれたライナスに感謝すると、
一気に接敵し、速やかに鎌を取り出す。
「旋」
ゼクウの奥技『忍者秘伝・螺旋斬』が炸裂する。
自分ごと大回転して、跳弾のほとんどを弾きつつ接近。
そのままの勢いでキートンを斬り倒した。
「がっ!?」
そして倒れ伏すキートン。
「……殺したの?」
と、ルシア。
「無」
殺すも無価値、というところだろうか。
よく見れば呻いたり泣いたりしてはいるようだが、
割と意識もはっきりしており、何事か呟いている。
「うぅ……痛いよ……ルシェットさん……ジモンさぁん……
 助けて……じゃないと殺されるよぉ……誰かぁ……」
「行こう。こんな人に構ってる場合じゃない」
「放っておいていいのかしら。危険よ?」
「……だからと言ってとどめを刺したい相手でもない。
 勝っても負けても、これほど後味の悪い相手は初めてだ。
 正直に言えば、僕としては金輪際関わるのは御免だね。
 もっとも、カオスリキッドは喜んでいるみたいだけど」
よく見れば、呪鞘カオスリキッドは倒れたキートンから
負の感情を吸収し、歓喜しているようにも見えた。
「……物騒な鞘だこと。まあいいわ。行くわよ」
「是」
「待った。最後に一言言っておこうか」
「ひっ!」
動けないながらも怯えるキートンにライナスが言う。
「何が何でも自分の身を守ろうとする姿勢は間違いじゃない。
 だが、もう少しよく考えて自分の意志で戦うようになる事だ。
 そうすれば、あるいは自分どころか他人の身さえも
 守れるようになるかもしれない……考えてみる事だ。
 その場を勇者軍にしろとは言わないけどね」
それだけ言うと、ライナスは他二人に続いて立ち去る。
「ジモンさん……僕……どうすればいいのかな……?」
泣きながらもキートンは独白するのだった。
その顔は何かの憑き物が落ちたようにも見えた。

一方のチームEではフローベール、バスク、ヴァジェス及び
愛馬のベアトリスとヴィッセルが同じような広い空間に出てきた。
「おや、ジルベルト坊やは来てないみたい。残念ね」
と、突然出てきたのはジルベルトを拉致しようとした
ルシェット=イルチェッカである。
「また隊長を拉致しようとしてる! 許さないわよ!」
「母親ごっこなら自分で結婚でもしていろ、隊長を使うな!」
フローベール、バスク共に思い切り非難する。
だがルシェットはまったく聞く気が無いようだった。
「ふうむ、だったらそこの子で我慢しましょうか。
 ジルベルト君の方は、後でゆっくり他のルートの人から
 譲ってもらえばいいだろうし、今は君で我慢しとくわ」
と、よりにもよってバスクを指差す。
「本当に節操の無い奴だな、あんたは」
ヴァジェスが堂々と前へ出る。
「老け顔のオッサンは引っ込んでいなさい。邪魔よ」
苛立ちを隠そうともせず、ルシェットは言い放つ。
「いいだろう。バスクはくれてやる。
 だが、俺達三人に勝てればの話だ」
と、事も無げに言い放つヴァジェスに二人が振り向く。
「ちょっと、ヴァジェスさん! 弟を勝手にやらないで下さい!」
「そうだよ、ヴァジェスさん! 俺あんなのの息子嫌ですよ!!」
二人が喚きたてるので、うるさそうに耳を塞ぐヴァジェス。
「おいおい、俺の話を聞いてねぇのかガキンチョ共。
 あいつに負けたらつったんだ。お前等いつまでルーキーだ?
 俺はあんなのに負けるように鍛えたつもりは無ぇんだがな?」
と、皮肉と意地悪さをたっぷり込めた笑いを浮かべるヴァジェス。
「……要は勝てって事でしょ? いいです、やりますよ!」
「フローベール、コンビネーションだ!!」
バスクが先に、フローベールが後に攻める。
時間差攻撃を苦も無くかわすが、同時にヴァジェスも前に出る。
「ああ。あくまで俺達三人だからな。お前等二人だけなら
 敗北の目があったかもしれないが、俺が出るならどうだ?」
「言うまでもないですね!」
「負けは、無い!」
「上出来だガキンチョ共!!」
ヴァジェスがサムズ・アップで返す。
「調子に乗らないで!!」
ルシェットは鎌を取り出し、凄まじい勢いで振り回す。
「風圧斬・カマイタチ!!」
真空の刃が見えない攻撃となって飛び行く。
「うごっ!?」
かろうじて勘だけでかわすバスクだったが、
ヴィッセルへといくらかダメージが与えられてしまった。
バスク自身にもかなりの切り傷が出来ている。
「させない! ベアトリス!!」
高々と飛翔するベアトリスの鐙の上に直立するフローベール。
「せぇぇぇい!!」
「間合いが甘いわ!」
鎌を持って突撃するヴァジェスをかるくいなして、
更に距離を取るルシェットに、バスクも舌打ちする。
「はぁぁぁぁぁぁッ!!」
立ち乗りのまま接敵するフローベールに、
更に距離を取るべくステップを繰り返すルシェット。
まったくもって勇者軍に欲しいほど身軽な人物であった。
だが、フローベールの行動は彼女の予測を上回る。
「ぶっつけ本番上等!」
「勇者軍特務戦技教導隊指導要綱31番
<背水之陣>だ、やれ!!」
バスク、ヴァジェスの両名共に絶好のタイミングと見極め、
必死に叱咤激励しつつ、ルシェットの行動範囲を狭めにかかる。
「一身是槍(いっしんぜそう)・雀蜂(すずめばち)の舞!!」
フローベールは鐙に足を引っ掛けたまま
空中のベアトリスから跳躍。
身長の割に長い足をフル活用し、自らが槍そのものとなって、
大きく弧を描いて宙を舞い、ルシェットを槍で薙ぎ払う。
「がふっ!?」
フローベールはそのまま大きく半回転し、
鐙から足を放さぬままにベアトリスの鞍へと再度座ってのける。
まことに超人的な空中技であった。
その一撃でルシェットはあっさりと気を失ったようであった。
鎧ごと裂かれた槍による傷も大きく、
しばらくはまともに動くのも億劫だろう。
「ひひんばー」
「ありがとう、ベアトリス。ぶっつけ本番でも上手くいったね?」
ベアトリスを優しく撫でてやるフローベール。
「大丈夫か、ヴィッセル?」
「ひひーん」
バスクの愛馬も大丈夫なようである。
「よし、合格! 悪くないやりようだったな。さあ、急ぐぞ。
 お前達でこの戦果なら、他はもっと先に
 外へ出ているかもしれんからな」
「はい!!」
走るヴァジェスに、フローベールとバスクが続いた。

更に一方のチームDではイスティーム王、
ギースとコンラッドにキョウカ王妃、
そしてその王妃に抱かれた大福、きなこ、
みたらし、黒ごまの仔猫四匹、更にはアーム王家の
愛馬チトセという(数だけなら)最多のチームが、
同じように広い空間に出てきていた。
「美しき白薔薇、見参!!」
そう言って出てきたのはナルシストのジーネ=フォーゲルだった。
相変わらずと言えば相変わらずだったが、随分久しぶりでもある。
「誰ですか?」
「誰だ?」
「誰こいつ?」
イスティーム王とギース、コンラッドは面識が無いので首を捻る。
「ジーネ=フォーゲル。一番最初に出てきた敵の幹部の人です」
「エクセレント! よく覚えておいででしたね、キョウカ王妃!
 私は賢い! 私は強い!! そして私は美しい!!
 ネイチャー・ファンダメンタルの美しき白薔薇、
 ジーネ=フォーゲルとは私の事です!」
「……まあ何でも構わんが、そこは通してもらうぞ」
「うわっ、キモっ。俺生理的に嫌いだわこういう奴」
ギースとコンラッドが心底嫌そうな顔で吐き捨てて、
ジーネを押しのけて通ろうとする。
「おっと、そうはいきませんよ! ジモン殿のご命令により、
 ここで皆さん全員、屍と化していただきましょう!」
「やる気ですか……愚かな……」
「黙りなさい! いでよ、エクスロイド!!」
キートンの部屋にもあった殺人ロボットのエクスロイドが
勇者軍主力部隊の行く手を阻む。ちなみにルシェットが
これを使わなかったのは単に趣味の範囲なのであるが、
それはまあ余談なのでこの際どうでもよい。
「また無人兵器か。趣味の悪い」
「私もそう思います。貴方とは割と話が合いそうですね!」
何やら勝手にギースに共感するジーネ。
「狩りは生き物が生き物に対して行うから美しいのです!
 こんな一方的なやり方はただの虐殺でしかありません!
 そこに美学を感じるとは、貴方は私の部下になる素質がある!」
「鬱陶しい! 邪魔だッ!」
「ふがっ!」
勝手にヘッドハンティングしようとするジーネをギースは蹴る。
「よよ、よくもよくも!! せっかく死ぬべきところを
 部下にして差し上げようというのに、無礼千万!!」
怒ったジーネは剣を抜き、一気に接近する。
「ちっ、素早い!!」
ジーネの接敵により、慌てて退くギース。
イスティーム王やコンラッドは、
エクスロイドからキョウカ王妃を守るために
幻杖レプリアーツにストックされた魔法をフル活用したり、
手持ちの武器で攻撃したりするので精一杯なようで、
ジーネはギース自身がどうにかするしかなかった。
「ひょほほほほほほ! 必殺・ビューティフルハント!」
ステップを踏みながら接近したかと思えば一気に攻撃に出たり、
また距離を取ったりと、非常に技巧派な技を繰り出すジーネ。
「ぐっ、なんて嫌らしい間合いだ!?」
ギースも回避だけで手一杯になり、攻撃など出来なかった。
「うみゃー!!」
「きゃっ、あなた達!?」
その様子を見て大福達もたまらず四匹揃って飛び出す。
「ふみゃー!!」
「あいたたたたたたたた!! 何ですか!?」
噛むわ殴るわ引っ掻くわ。仔猫四匹の奮闘は思いがけず凄まじく、
たちまちジーネの鎧は傷だらけの穴だらけになり、
ついでに服や身体そのものまで傷だらけになっていく。
「このっ、離れなさい! 化け物共め!!」
ごがっ!!
渾身の力で仔猫達を蹴ったり、掴んで床に投げつけたりと
必死の抵抗を見せるジーネ。
「ふぎゃー!!」
悲鳴をあげて逃げ惑う仔猫達。
「許しませんよ、化け物! 今ここで殺してやる!!」
「すまない、大福、きなこ、みたらし、黒ごま!
 お前達の覚悟、有り難く受け取っておくぞ!!」
「何ぃッ!?」
ギースはもはや地上にいなかった。
ワイヤーアクションにより天高く舞い上がっていたのだ。
「お前達が作った隙は逃さん!
 フライングイーグルアタック!!」
ギースはワイヤーを切り離して垂直降下、
爪による奇襲でジーネを一撃のもとに斬り伏せる。
「ごばっ! 馬鹿な……ッ!!」
ジーネはあっさりと倒れ伏す。
「ウォーターランチャー!!」
そのタイミングで幻杖レプリアーツによって、
エクスロイドが全機大破したようであった。
「お見事です、無事ですか? ギース」
「大丈夫なのかよ、おい!?」
イスティーム王とコンラッドが駆け寄る。
「俺より猫です。死にでもしたら隊長に何と言われるか……」
「みゃんみゃーん!!」
と思ったら思いの外、仔猫達はギースやイスティーム王、
キョウカ王妃やコンラッドに擦り寄ってくる。
人懐こさも変わらず、元気爆発という様子だ。
「ヒールウェイブ……大した怪我じゃなくて良かったですよ」
幻杖レプリアーツがここでも大活躍だった。
「よしよし、いい子だな」
自分に抱き上げられているみたらしを、
ギースが優しく撫でてやると、ごろごろ鳴くみたらしだった。
「本当に可愛らしいですわ……生まれ方が少し違うだけなのに
 ああしてこんな子を攻撃出来るというのは、
 私には……理解の及ばない考えなのでしょうか、元帥閣下」
「独善の極みにして愚の骨頂です、キョウカ。
 既に生まれてしまった生命を滅ぼしての理想郷など、
 何を得るというのです? 今あるこの子達が現実です」
「はい!」
どこか嬉しそうに聞き惚れるキョウカ王妃であった。
そう言うイスティーム王も黒ごまと戯れていたりするし、
キョウカ王妃も大福を、コンラッドはきなこを抱き上げている。
この光景こそが勇者軍という組織の縮図なのであろう、と
内心、ギースは感じるのであった。
「行きましょう、キョウカ、ギース、コンラッド。
 我等が隊長殿は、あるいは先行しているかもしれません」
「了解!!」
イスティーム王の指示で各員、前へと歩き出す。

こうしてチームD、E、Fの三チームは無事に通過。
地上への出口を発見するに至るのだった――



<第十九章-第三幕-へと続く>
最終更新:2011年05月22日 21:25