第十九章-第三幕- 退路無き戦(後編)
無事に脱出したD、E、Fチームに続き、
ほぼ同時刻の残り三チームは、各自大きな部屋に出て、
激しい幹部との戦闘を強いられていたのであった。
テディ、ドルカス、リュミエルで構成されたチームCは、
リンナ=リンクスの待ち受ける部屋に到着していた。
「うふふ……また来たのね、あなた達……」
酷薄な笑みを浮かべてにじり寄るリンナにリュミエルがドン引きする。
「うわっ、誰この人、怖ッ!」
「敵の幹部だ、怯むんじゃない! お前にもう用は無い、どけ!」
開口一番、テディはハンマーで殴りかかる。
ごすっ!
避けもせずに殴られるリンナ。たちまち血まみれだ。
「あはは……痛い……痛いわ。血の化粧、赤の化粧。
これでまた一つ私は美しく、艶かしくなれるのね。
これが私の生きる実感。凄く、嬉しい……」
「ひぃぃっ!? 何なのこの人!?」
この被虐趣味に到底ついていけず、更にリュミエルは引く。
「こういう奴なのよ! 呑まれたら相手のペースよ!」
ドルカスが思わず叱り飛ばすが、
当のリンナは全く意に介していない。
「うふふ……さあ、そこの可愛らしいあなたも一緒にどう?
きっといい痛みを私に与えてくれるんでしょう?」
「嫌よ! なんか気持ち悪いもの! どいてよ!!」
めちゃめちゃビビりまくったままリュミエルが虚勢を張る。
すると、やはりリンナの目つきが変わる。攻撃信号だ。
「……痛めつけてでも言う事を聞かせるわ。私をぶたないと。
あなたが死ぬ事になるわよ。それでもいいのなら……」
「ちぃッ!」
ドルカスが射撃を加えるが、それは巧みに回避される。
あれだけの出血量にも関わらず、
相変わらず化け物じみている。
「いい加減寝ていろ! 邪魔だっ……ぐっ!? 何だと!?」
テディがいい加減に忍耐の限界にきていたようで、
またもハンマーで打ち据えるが、その場をすぐ飛びのいた。
激しい痛みを感じたのだ。まるで自分が殴られたように。
「リンナ=リンクス、これは何のつもりだ!?」
「あはは……
マゾヒスティックカウンター。
私のオリジナル呪術よ。受けた痛みをそのまま返すの。
さあ、一緒に痛みと生きる実感を味わいましょう?
どこまでも、どこまでも……ふふ、楽しいわ……」
「ぐっ、厄介な技を!」
手を出しあぐねてテディが後ずさる。
聖杯ライブチャージャーの力を開放し、ひとまず傷を癒すが、
これではただの消耗戦にしかならない。ましてやリンナは
いつ倒れるか分からないのだ。誤って殺すかもしれない。
その状況を把握するや否や、リュミエルが覚悟を決める。
「要はあの呪術を何とかすりゃいいのね。
テディにはそんな真似、そりゃ出来ないでしょ。
いいわ。ここの手柄は私がもらうわよ」
そしてリュミエルは
術式・防御結界を組む。
「痛い目が見たいのなら見せてあげるわ……
出来ればマキナ戦までは取っておきたかったけど、
四の五の言ってられる状況でもないみたいだからね」
「あはは! どうぞどうぞ!!」
歓喜の声に打ち震えるリンナ。つくづく変態そのものである。
「
天罰覿面・雷鳴陣!!」
リュミエルを中心に野放図なまでの雷撃が広がる。
テディとドルカスはリュミエルの防御結界の中にとっさに入って
無事だったが、もちろんリンナはそうはいかない。
ばちばちばちばちッ!!
「ああああああああああああッ!!」
リュミエルに向かってカウンターの雷撃が飛んでくるが、
そのカウンターさえ、防御結界が弾き返す。
そのまま弾かれた雷撃が再度リンナを打ち据える。
「きゃあああああああああああ!!」
耳をつんざくような絶叫をあげた後、リンナが倒れ伏す。
「人を呪わば穴二つ……成敗ッ!!」
軽い音を立てて、リュミエルの防御術式が閉じた。
「やるな、リュミエル! 驚いたぞ!」
頭をくしゃくしゃに撫でてやると、リュミエルが怒る。
「やめてよ、テディ! 髪型崩れるでしょ!?」
「私も驚いたわ。呪術に対してなら無敵かしらね」
ドルカスも素直に賞賛する。
「たまたま相性が良かっただけよ。
大体私は肉弾戦の方が好みだっちゅうのに……
まあいいわ! さあ、急ぐわよ!」
「おう、分かった!」
「ま、今は従っておいてあげましょうか」
元気いっぱいのリュミエルに続く二人であった。
一方のチームBでは、レイリア、エイリア、サイモンの三名が
シーゲル=クーパーのいる部屋へと到着していた。
「なんか広い所に出たね」
「そこまでだな。
勇者軍主力部隊!!」
「シーゲル=クーパーか!?」
サイモンが律儀に驚いてやるが、既に知った顔ではあった。
「あの時貴様等を取り逃がしたせいで、この俺ともあろうものが
ジモン殿に随分と叱られたものだ。今度は逃がさんぞ!
エクスロイド! 仕掛けるんだ!!」
件のエクスロイドとやらがぞろぞろと壁から出てくる。
「この期に及んでまだ数に頼るか!
僕達を倒すつもりならこの千倍は連れて来い!」
サイモンが久しぶりに振るう斧でことごとくエクスロイドを
脳天から豪快にかち割ってみせる。
「続くよ、エイリア!」
「分かってる……何ッ!?」
レイリアに続こうとしたエイリアへ急激にシーゲルが接近する。
「鞭同士か。あの時はそのような余裕も無かったが、
今度は技量の競り合いを楽しませてもらおうか!」
「一方的な嗜虐趣味が何を言うか!」
エイリアも強引な態勢から鞭の一撃を叩き込むが、
流石に鞭の軌道を知っているのか、速やかに回避する。
「やる! だがこれでどうだ!
サディスティックビート!!」
びしばしびしばしびしばしッ!!
軽快なリズムで叩き込まれる鞭が、いくらかエイリアをかすめる。
「そらぁッ!!」
鞭の軌道だけを計算に入れて回避し続けるエイリアだったが、
そこへ猛烈な勢いの蹴りが叩き込まれる。回避は困難だ。
ごすッ!!
「ぐはっ!?」
思わず避けきれなかったエイリアは、浅い当たりとはいえ、
一撃を受けてしまった。
「いいな、その表情! 最高だな! はははははは!
苦しむ顔を見せろ! それでこそやり甲斐がある!!」
「ちぃッ!!」
エイリアは無様に転がったものの、これで闘志に火が点いたのか、
受け身も取らず、片手だけでハイジャンプ。そこから立ち上がる。
いわゆるジャックナイフと呼ばれる機動だった。
「ほう、身軽だな。かなり出来るようだ」
「うるさい!!」
更に攻撃を繰り出すが、シーゲルもかなりの戦士だった。
技量はほぼ互角。戦況は拮抗しつつあった。
「エイリア、お姉ちゃんが行くまでもたせて!」
「エイリア、無理はするな! 後が控えているぞ!」
レイリアとサイモンの激励が飛ぶ。
「分かっている! こんな奴に遅れは取らん!」
ごすッ!
エイリアの鞭の攻撃に少したじろぎ始めたシーゲルに、
容赦無く顔面へ蹴りを叩き込むエイリア。
「ぎっ!?」
「どうだ、同じような事をされる屈辱は! 借りは返したぞ!」
「ぎぃぃぃ! 小娘がぁぁぁ!!」
今度はシーゲルの怒りに火が点く。
更に熾烈な鞭と蹴りの応酬が繰り広げられるが、
それも長くは続かなかった。
「ずぇい!!」
「そりゃッ!!」
サイモン、レイリアの一撃で最後のエクスロイドが沈む。
「エイリア、いくよ!!」
そして即座に二人は振り向き、銃と弓でシーゲルの
右肩と左肩を、恐ろしく精密な射撃で射抜く。
「ぎゃああッ!?」
鞭を取り落とすシーゲルを、同じく鞭を放り捨てて
胸ぐらを掴み上げるエイリア。
「一騎当千の勇者軍メンバー三人を相手に、
こんなポンコツ連れただけで勝てると思うのは、論外!
性根を鍛え直してからかかってこい、愚物!!」
ごがっ!!
「がぁぁぁぁッ!!」
鉄拳制裁によって気を失うシーゲル。
「すまないな、二人共……正直、助かった」
「んー? お礼を言う時はどう言うの? エイリア?」
少々意地悪くレイリアが言う。
「……ッ、あ……ありがとう……お兄ちゃん、お姉ちゃん……」
「よし!」
「……って、だああ、もう、恥ずかしいわ!
兄弟姉妹間の上下関係が大事とかそういうのも分かるが、
私等三人とも、だいぶいい年してるんだから
もういい加減そう呼ばせるのやめないか!? なあ!?」
エイリアが耳まで真っ赤になって声を張り上げる。
「あはは。僕としてはそう呼ばれるのも嬉しいかな。
さあ、遊んでる場合じゃない。先へ進もうか」
「うん、分かってるよ」
「もう! 勝手に話を切り上げて!!」
むくれ気味のエイリアはともかくとして、
Bチームは無事に三人揃って脱出に成功したのであった。
最後にAチームのジルベルト、ソニア、メイベル、
そしてメイベルの抱いたままの
あんみつの三名+一匹は、
ラッカード=ジモンその人の待つ部屋へと辿り着いた。
「ふふふはははははは! よく来たな、小僧共!
おっと、遺伝子操作の化け物も一緒とは都合のいい!
勝利の暁にはマキナの餌にでもしてくれるわ!!」
「ラッカード=ジモン!!」
「大人しく我が妻となっていれば厚遇したものを……
ソニア=メーベルヴァーゲン、後悔するが良い!!」
「……」
と、ジルベルトがソニアをじーっと見つめる。
「……何よ?」
『あの人のお嫁さんになるの?』
と、メールが届く。
「ならないならない! あいつが勝手に言ってるだけ!!
むしろ迷惑してるから! すっごい困ってるから!!」
事実を確認するや否や、ジルベルトがたちまち不機嫌になる。
自分からソニアを奪おうとしたのが、
とことんまで気に入らないようだった。
(ソニアさんを困らせたら駄目なのー!!)
という意思を込め、ただまっすぐ突撃するジルベルト。
「馬鹿めが! 一人で待ち伏せしていると思ったか!
エクスロイド部隊出撃! もろともに砕けぃ!!」
エクスロイド部隊がわらわらとジルベルトに殺到する。
「ジルベルト君、危ない!!」
「兄様ッ!!」
慌ててソニアとメイベルがフォローに入ろうとするが、
その必要は無かった。
きゅごがぁぁぁぁぁん!!
たちまち
砲剣ストレンジバスターが火を噴き、
エクスロイドのほとんどを一撃で吹き飛ばす。
「……流石ね……」
落盤事故を誘発でもしやしないかと冷や冷やしながら、
とりあえずソニアは賞賛しておくことにした。
「それが貴様の力か、小僧!!」
と、斧を取り出すジモン。
『メイベル、ソニアさんも。下がって』
と、速やかにメールを送るジルベルトに、
二人共思わず身を引いた。ジルベルトは本気なのだ。
「ラッカード=ジモン! 自然生命の理想の元に、
いざ、尋常に、あ、まぁぁいるぅぅぅぁぁぁぁッ!!」
妙なテンションと口調のまま、ジモンが突撃してくる。
うかつな砲撃は爆炎で相手を見失う可能性が高いため、
ジルベルトは素直に砲剣を剣として使い、斧を受ける。
「ふふふははぁ! ここまでやる小僧だとは思わなかった!
あながち
スプレッダー戦役終結の立役者というのも、
間違いは無いのであろう! もっとだ、もっともっと!
我輩を楽しませろやぁぁぁ!!」
「……!」
ずどぉぉぉん!
更に過激になるジモンの攻勢に身を引き、牽制射撃を加える。
その砲撃を巧みに受け流し、ほぼ無傷で立ち上がるジモン。
(強い……!?)
ジルベルトは更に警戒の度合いを引き上げた。
「我輩の奥技を受けよぉぉ!
マッドマックス!!」
ジモンは握り拳を作る形で両手に斧を握る。
ただし持ち方は指と指の間に挟む形で、斧は六本。
なんと両手で六本の斧を握っているのだ。
これで今までのように軽々と斧を振るわれたのでは、
砲剣ストレンジバスターで受け止められる保証は無かった。
「おらおらおらおらおらおらおらおらぁッ!!」
がっ! どがっ! ごすっ! ばきぃッ!!
かろうじて受け止めてはいるものの、ジルベルトは
大きく後ずさるのを余儀なくされていた。
「!」
ずごぉぉぉん!
ジルベルトは砲撃によりジャンプの機動を取り、
着地後、即座に撃ち尽くした砲弾をリロードする。
そしてすぐさま一定の間合いを取った。
「武器の性能に頼りきりの小僧らしいやり口だ!!
だがだがだがぁ!! それで勝てるなどとは
笑止千万! うふわははははははははぁぁ!!
貴様が我輩に勝てる見込みは億千万中絶無!
絶望せよ! 後悔せよ! 驚嘆せよぉぉぉ!!」
テンションを上げて動き回り、支離滅裂になる言動によって
更にテンションを上げるという思考のループが始まった。
それに伴い、ジモンの運動能力は更に向上していく。
「もう手は出尽くしたようだな、終わりだぁぁぁ!」
「ジルベルト君!!」
「兄様!!」
ソニアとメイベルが悲鳴をあげる。
いざとなったら自分が盾になる事も考えていた二人だが、
動きが乱暴すぎて二人とも割って入れないのだった。
「戦場でなぁ! 家族や恋人や伴侶の名前を呼ぶなんてのはな!
死にかけの兵士が甘ったれて言う台詞なんだよぉ!
分かっているのか、ソニア=メーベルヴァーゲンンン!!」
怒号を鳴り響かせるジモン。だがそこに一瞬の隙が出来た。
「!」
ジルベルトは大きく跳躍し、
終撃砲へセレクターを合わせる。
「そのまま叩き込むつもりか、所詮貴様はその程度だ!」
六本の斧を力いっぱいふりかぶり、空中のジルベルトへ
叩き込もうとするジモンだった。
「死ぃぃぃぃねぇぇぇぁぁぁぁぁぁッ!!」
だがジルベルトは落下してこなかった。
天井の電灯にリールを巻きつけ、ほんの一瞬だけ滞空したのだ。
そしてジモンの攻撃が外れたのを見計らって切り離す。
「……終撃砲!!」
「お、おのぉぉぉれぇぇぇぇぇぇぇッ!?」
ジモンは懸命に態勢を整え直そうとしていたのだろうが、
全ては一瞬、もう遅かった。
がどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!
受身は地上で取るものである。
だが、その地上へ向けて上から爆風を叩き込まれればどうか。
イコール、それは逃げ場など無い事を示す。
通常の爆撃なら回避の目もあったかもしれないが、
終撃砲はあまりにも強烈過ぎた。
床がめくれあがり、壁にヒビが入り、大地が揺れる。
スプレッダーをかつて一撃で仕留めた火力は伊達ではなかった。
「が……!!」
どさり、と重い音を立ててジモンが倒れる。
逃げ場の無い爆風をまともに受けて既に黒焦げである。
スプレッダーより小さい分だけ、人間の方が効き目も薄いが、
それでもジモン一人を叩きのめすには充分過ぎた。
「ふぅー」
ジルベルトは服に付いた煤を払いのけつつ、息を吐く。
「やったじゃない、ジルベルト君!!」
「兄様、凄いです……!」
照れ笑いするジルベルト。その顔のなんと可愛らしい事か。
「他のみんなもきっと大丈夫よ。
でも、マキナを捕らえるとか何とかして、
この戦いにちゃんと幕を引かないとね、ジルベルト君」
こくこく、とジルベルトは頷く。
「とにかく他の皆と……合流しないといけないですね」
「メイベルの言う通り。まずは急ぎましょう!」
ジルベルトはまた頷き、先頭を走り出す。
かくして全チームが何とか危機を切り抜け、脱出に成功した。
だがジモンは数分後起き上がり、通信機を耳に当てた。
弱々しい声ではあったが、それでも致死にはやや遠い声である。
「マキナ……奴等が脱出した……もはや我々では
抑えられる保証が無い……お前の力を示せ……!
奴等を……遺伝子調整の化け物共もろとも皆殺しだ……!」
『……了解した』
マキナが淡々と返答したので、ジモンは立ち上がり、
ジルベルト達の後を追ってよろよろと歩き出したのだった。
凄まじく遅いが、確実に勇者軍を追い詰めるかのように――
最終更新:2014年10月08日 01:26