第二十章-第二幕- 最強の矛と盾
勇者軍主力部隊は、ほぼ無人島に近い離島、アルヘイ島にて
遂に本気を出したマキナとの戦闘を強いられていた。
しかし、勇者軍も戦力を増強していた事によって、
戦局は膠着の様相を呈し始めていたのであった。
「
疾風剣!!」
呪鞘カオスリキッドによって
切れ味を大幅に増したライナスの剣が、
マキナの腹部を大きく切り裂く。
「ぬぐっ! だが、まだまだだ!!」
マキナは傷を抑えながら、例のバイオ・プラントを破壊。
取り出したカプセルから培養液を身体に振り掛けると、
たちまち傷が塞がっていく。培養目的以外にも
治療用途で使えるような特殊な液体なのだろう。
あるいは彼自身がこれに浸かっていたのかもしれなかった。
「畜生! こっちはロクに
治療も出来ないのにあんなの有りかよ!」
思わずコンラッドの愚痴が漏れる。
「悪いな、少年! こちらも命懸けだ!」
マキナは一声呼ばわると、容赦なく攻撃を叩き込んでくる。
「危ない、コンラッド君!!」
レイリア、ドルカスが一斉に対物破砕砲を撃ち込むが、
マキナはある弾を回避し、ある弾を手だけで弾き、
なんとある弾を丸々と受け止めてみせた。
「くっ、やってくれる!!」
テディは手を出してはみるものの、
マキナの敏捷性に思わずたじろぎ、
結局、積極的には手を出せない状態になってしまっていた。
「どいてなさい、テディ!!」
リュミエルが呪符やら何やらを繰り出して牽制するが、
それでも牽制止まりとしかならないのがもどかしかった。
何よりこの巨体にして異常な敏捷性こそ最大の難敵である。
「てぇぇぇぇぇい!!」
フローベールが上空から奥技で攻撃を仕掛けるが、
マキナを悠々と手で受け止め、
フローベールを
ベアトリス共々地面に叩きつけるべく、
豪快に投げつけた。叩きつけられれば無事では済まない。
「フローベール!」
バスクが寸前でクッションとなって何とか凌いだが、
それでもフローベールとベアトリスにかかった負担は大きく、
一気にスタミナを奪われてしまっていた。
「絶!」
ゼクウやヴァジェス、それにサイモンやエイリアも
懸命の攻撃を仕掛けているが、有効に通っているのは
ヴァジェスの
ドラゴン・ブレスぐらいである。
「くっ、やはりとは思っていたが強い!」
「竜王の子よ、汝の力はその程度か!?」
「
ヴァジェス=バハムートの血統をなめるなよ、マキナ!」
遂にヴァジェスは
ワイバーン形態へと戻る。
本気のブレスがマキナの身体へと確実にヒットする。
「ぬおおおおおおおおッ!!」
絶叫をあげて大きく揺らめくマキナ。
だが、またもプラントからの培養液によって回復する。
「またアレか! こんな事なら
施設を全壊させておくんだった!」
サイモンからも愚痴が飛ぶ。
「愚痴言ってる暇があったら戦って!」
エイリアからも怒号が飛ぶ。
「ちっ、人間並みに動く巨大生物と
なると厄介だな!」
ギースも必死に回避しながら牽制攻撃を加えるが、
大した痛手にはなっていないようである。
イスティームが
幻杖レプリアーツの力を温存しながら、
自らの力で何とか攻撃を加えつつあった。
「
ガトリングスルーフ!!」
槍の猛連打が一気にマキナを傷だらけにする。
「
ザン共和王国の王か……やるな!
こちらの回復液も、既にだいぶ減っている。
このままで攻撃され続ければもたんかもしれんな!」
素直に賞賛し、そして攻撃してくるマキナ。
少なくともジルベルトに次ぐレベルの
高脅威と認識されたらしい。別に嬉しくもないが。
ソニアとルシアは攻撃力不足が祟って、
完全に牽制と囮ぐらいしか出来ない状況にあった。
また、キョウカ王妃の護衛も完全に放棄するわけにもいかない。
前と違ってマキナは無差別攻撃状態になっているのだから。
むしろそちらの役割こそが大きいと言っても良かった。
上手い具合に
チトセを誘導し、何とか逃げ回っていた。
「危ないからこっちに! 急いで!!」
「ひひぃぃぃん!!」
懸命に二人が逃がしている中、
マキナの攻撃は更に苛烈さを増す。
そこへ、とにかく暴れ回るマキナの腕が
キョウカ王妃達をかすめる。
「きゃああッ!?」
落馬まではしなかったが、思わず身を竦めるキョウカ王妃。
「くっ!!」
ルシアが牽制射撃を加え、ソニアが更なる誘導を行う。
だが、巨体に大してあまりにチトセは小さかった。
「ぬうううううううううん!!」
だが、そこで救いの手が現れた。
「王妃、逃げて下さい!!」
小さい身体をめいっぱい押し出してメイベルがフォローに入った。
ふらふらしていた状態からようやく復活したばかりなのに、
無理な体勢からブーストを吹かしてキョウカ王妃を守ったのだ。
どごすッ!!
「あうッ!!」
アースシールドも砕け、自慢の
スカーレット・アーマーも
いくつかのパーツに分解するほどに砕け散り、
メイベル自身は空中に投げ出された。
(メイベル!!)
突撃するために走っていたジルベルトは、
慌てて進路を変えてメイベルをキャッチするために走り出した。
ソニアもその地点へと走り出す。
「ジルベルト君、キャッチよ!」
(うん!!)
「せぇぇーのッ!!」
二人で優しく空中へ投げ出されたメイベルを受け止める。
「兄様……ソニアさん……すみません……私……」
「大丈夫よ、傷はそんなに深くないから!
しっかりなさい、メイベル!!」
「兄様……私のスカーレット・アーマーも、アースシールドも
壊れてしまいました……私はもう戦えません……
けれど、兄様なら私の分まで戦える……
信じていますから……後はお願いしますね……」
「……うん!」
メイベルの懇願にジルベルトは返答する。
「キョウカ王妃! メイベルを連れて避難、急いで!
いよいよ危なくなってきていますから!!」
「は、はい!!」
立て続けに大ダメージを受けたメイベルを連れて、
とうとうキョウカ王妃とチトセ、
それに猫達は退去を強いられた。
それほどまでにマキナの猛攻は苛烈だった。
「メイベルとキョウカ王妃の分まで……!」
ジルベルトは、
砲剣ストレンジバスターを掲げて魔力を込める。
すると、メイベルが着ていたスカーレット・アーマーの破片と、
キョウカ王妃のアースシールドの破片が残らずジルベルトに近付く。
いや、もはや吸い寄せられていると言っても良かった。
「何!? 何なの!?」
ソニアが慌てるが、おかまいなしに事態は進む。
びかっ!!
ソニアの銃が融合した、あの時と同じような光が辺りを包み、
そして戦場の動きがそれを確認するべく全てを止めた。
砲剣ストレンジバスターは
剣の『みね』の部分に大砲が付いていた。
だが、今度の進化はもっと仰々しくなっていた。
その大砲の上にかぶさるように形を変えたアースシールドが、
そして剣そのものを装甲で包むように、
変色したスカーレット・アーマーが現れていた。
全てが青色に輝いている。アースシールドに準ずるかのように。
「これは……攻防一体の砲剣!?」
ソニアが、そして全員が驚愕する。
「この剣の名は――」
ジルベルトがその剣の切っ先をマキナへと向けて言う。
「この剣の名は
絶壁砲剣『矛盾』!!」
勇者軍筆頭完全専用対巨大生物対応式
超重量零距離戦闘用攻防一体型最終究極決戦兵器、
その名も絶壁砲剣『矛盾』が秘めた性能を唸らせ、
今にも業火を噴くべく、水蒸気を吹き出したのであった――
最終更新:2011年02月21日 00:32