第二十章-第一幕- 危険生命
「……今、集合指示を出したから、いずれ来るわよね」
と、ソニアは施設の外の野原にて呟く。
端末を使って全方位の味方に集合指示をかけたのだ。
『来られる者は全て集合するように』との文面である。
これで施設を制圧している部隊は自分達でないと分かるだろうし、
勇者軍主力部隊は残らず集まる、という算段だった。
それから二分後、チームB、チームFが集合した。
「やれやれ、まいったまいった。ああいう罠とは思わなかったよ」
「いやまったく。どうなる事かと」
サイモンとライナスがほぼ同時に愚痴をこぼす。
更にそれから一分後、チームC、チームEが集合した。
「お、やはり隊長達は先に来ていたか。流石だ」
「俺達より先に来るとは、やりやがる」
テディとヴァジェスがジルベルトを素直に誉める。
そしてその二分後、最後に、チームDが集合した。
「いや、お待たせして申し訳ありません。
敵の抵抗が思ったより激しくて苦戦してしまいました」
「無事ですか……皆さん、本当に良かったですわ」
イスティーム王とキョウカ王妃が言うそばから、
大福、
きなこ、
みたらし、
黒ごまの四匹は、
恋しげにジルベルトへまとわりつき始める。
これで全員が集合した形となる。
「あの……マキナさんがまだ出てきていないので、
警戒を緩めたら……いけないと思います」
何故か申し訳無さそうにメイベルが言うので、全員頷く。
そこへイスティーム王の端末に通信が入る。
「どうしました?」
「すまん……俺だ、ケヴィンだ! イスティーム王、聞け!
先程捕縛したネイチャー・ファンダメンタルの兵から
尋問で聞き出した、ここから割と近い島に、
奴等のプラントがあるらしいと聞いて、調査隊を送った。
だが、その調査隊はものの数分で壊滅寸前だ。
何とか死ぬ気で逃げてきたおかげで、奇跡的に死者こそいないが、
幹部をあんた達が倒したというなら、そのプラントに
件の
デウス=エクス=マキナとやらがいる可能性が高い。
悪いが、ただちに向かってくれるか?」
「島の名前は分かりますか? 座標を検索します」
「ここから徒歩でも遠くない。アルヘイ島という島だな。
離島としては比較的大きめだが、海との境目はひどく曖昧で、
島としての面積が潮の満ち引きに多少左右されるだろう。
ただし干潮の時は船さえ必要ない。地続きで走れるはずだ」
「……分かりました、出撃します!」
イスティーム王とケヴィンの通信が切られた。
これ以上の支援の期待が薄くなってきた証拠でもある。
「ジルベルト、号令を」
イスティーム王が促すので、ジルベルトは口を開く。
「……行こう! アルヘイ島へ!」
「了解!!」
全員が応じ、一気にアルヘイ島へ向かって駆け抜ける。
――二十分後。ちょうど干潮だった大陸から
地続きになった離島、アルヘイ島へと到着しつつあった。
「……確かに広い島だな」
と、コンラッドが呟く。よく見渡してみると
建物があるので、とりあえず入ってみる事にした。
どうやら研究施設のようである。培養装置が大量に置いてあった。
「バスク、何か分かる?」
「くそっ、シルヴィア主任かリゼル補佐官ならもっと早いのに!」
と、ぶつくさ言いながら端末に残ったデータを閲覧するバスク。
「なになに……これはネイチャー・ファンダメンタルの歴史か?
発祥は……C・C0048!? 千年以上も前からだと!?」
その事実に驚き、キョウカ王妃も画面を食い入るように見る。
「驚く事ではありません。それを言うなら勇者軍など
一万年近く存続してきているのです。このような組織が
水面下で耐え忍んで何かをしていたとして、
さして驚いてやるだけ時間の無駄でしょう」
冷静にイスティーム王が言い捨てる。
「……だが、これは重要な事実だ。あのマキナのような存在が
一朝一夕で育つわけもないと俺は前から疑問に思っていた。
かなり長い時間をかけて育成された存在なのだろう」
ヴァジェスが嘆息すると、フローベールが急かす。
「他に重要そうな事実は無いの、バスク?」
「……急かさないでくれ。ふむ、ふむ……なるほど。
ネイチャー・ファンダメンタルは発足当初は
かなり平和的な団体で、今のような強硬手段に出る事は
無かったみたいだな。マキナが生まれる前後のタイミングで
かなりのゴタゴタがあって、これで方針が変わったらしい」
「諸行無常は世の常、か。やりきれん事だな」
ギースも嘆息する。
「……色々データを漁っても、これ以上は情報が無さそうだ。
機密レベルの事項に関しては既に抹消が完了しているらしい」
「……それだけ分かれば充分だ。
当初の理念を忘れて暴走し、突っ走った結果がこれとはね。
もう我々の力で止めるより他は無いだろう」
ライナスもそう言うので、施設を出た。
ごごごごごごごごごごご……
そこで地震……いや、地響きが起こる。
「奴なの!?」
ルシアが一気に警戒態勢を取ったので、他もそれに従う。
すると、建物が一気に崩れ去り、
そこからデウス=エクス=マキナが現れた。
「……よく来たな。ネイチャー・ジモン達が敗れた事によって、
ネイチャー・ファンダメンタルは実質壊滅したに等しい。
だが、我はその意図を体現しなければならない。
我はそのためだけに誕生させられた者であるが故に」
「何故です!? あなたはそんな事を望んでいないはず!
あなたは生き物の命を奪って良しとする方ではないはずです!」
「
キョウカ=カザミネ=ザン=アーム。確かにその通りだ。
だが我の役目は、この命をもって世界に警鐘を鳴らす事だ。
我が命はただ哀しみのみしか産む事の出来ぬ存在ではあるが、
未来への教訓と礎となって果てる事が出来るというのなら、
それそのものに躊躇など無い。あるはずも無い」
「生命の本能は生きる事そのものにあるはずです!
警鐘を鳴らして死ぬだけの生命に何の価値があると!?」
「警鐘をただ聴くだけの者になってもらっては困るという事だ!
無論、我も生命である以上、最後の抵抗はさせてもらう!!」
「和解の道があるはずです!」
「我の存在はそれを受け入れるにはあまりに巨大に過ぎる。
我一人が生きる事で何兆の生命が死ぬ事になるか分からぬ。
我一人という生命そのものが核など比較にならない危険物だ!
その危険な命を、君達の心胆に刻み込め、勇者軍!!」
そこまでで会話を打ち切り、マキナは攻撃へと入る。
一直線にジルベルトへと向かってくる。
十五メートル級の巨体が、
スプレッダーなど比較にならない敏捷さで、
ジルベルトへと一直線に進んでくるのだ。脅威という他無い。
「……ッ!」
慌てて、ジルベルトが
砲剣ストレンジバスターのトリガーを引く。
ずどごぉぉぉぉん!!
凄まじい爆風がマキナに直撃する。傷だらけになりながら
委細構わず、マキナは突撃してくる。これは予想外だった。
「……!?」
回避するだけの余裕が与えられていない事に
ジルベルトは驚愕する。
「兄様ッ!!」
フル・ブーストをかけたメイベルがジルベルトを吹き飛ばす。
ジルベルトは辛くもマキナの射程外に逃れる事になった。
ごがっ!!
「ひゃっ!?」
大きく吹き飛ぶメイベル。アースシールドで防御したおかげで
自らに大きな損傷は無かったが、肝心のアースシールドには
ただの一撃でヒビが入ってしまった。
「メイベル! 大丈夫なの!?」
「……な、何とか!」
大きく吹き飛びはしたものの、ブースターを吹かして
何とか姿勢制御に成功したメイベルを、フローベールが気遣う。
一方、メイベルに突き飛ばされたジルベルトもすぐに起き上がる。
スプレッダーとは頑強さの桁が違う。爆発に怯みもしないのだ。
その事を理解したジルベルトは、完全に本気になった。
「
烈風剣!!」
「うおおおおッ!!」
そんなやり取りの間にも、ライナスやテディ、
それにその他のメンバー達が
必死にマキナの攻撃をかわしながら、
なんとか少ないチャンスを見計らい、確実にヒット&アウェイで
一撃ずつ決死の攻撃を叩き込んでいく。
特にライナスの
呪鞘カオスリキッドによって剣に与えられた力は、
数少ない大きなダメージソースとなってくれていた。
前に対峙した時よりマキナも本気になっているが、
家宝の分だけ勇者軍もかなり実力が上がっていた。
マクスフェル戦線の雄の一人である
ヴァジェスやイスティーム王の力も大きく貢献している。
新たな仲間の力も実に頼もしかった。
ならば、自分だけが慌てているわけにもいかないだろう。
ジルベルトの闘志にもいよいよ火が点き始めた。
「……止める!」
それだけ言うと、心配するキョウカ王妃や猫達をよそに、
今まで温存していた体力も投入して、全力でマキナに向かって
ジルベルトは突撃をやり返すのであった――
最終更新:2011年02月21日 00:28