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第二十章-第三幕- 太古龍の決別






勇者軍総帥エリシャ=ストレンジャーは、
夫ノエル=ラネージュと共にリニアドライバー施設からの
シャトルで一気に宇宙へ出るため、出発。
高度三千メートルに達した途端、彼女は力を感じた。
思わず窓を眺め、周囲の景色を見渡してみれば地表に青い光。
「ジルベルトの力ですの、ノエルさん」
「ジルベルトの!? まさかあの剣の二重進化を!?
 エリシャ……あなたでさえ成し得なかったというのに!」
ノエルも身を乗り出すような形で窓を見る。
確認し、すぐ納得したようであった。
「この戦線においてもっとも激しい戦いになっているはずですの。
 私達の子供は……今見た力で、きっと生き残る事が出来ますの」
にっこりと微笑むエリシャであった。
「……それだけ無条件に信じられるというのは素敵だと思います。
 私もここは一つ、自分の子を信じてみるとしましょうか」
苦笑しながらではあったが、ノエルも概ね同意したようではあった。
その胸に、確かな勝利への確信を抱きながら――

勇者軍主力部隊は、メイベルとキョウカ王妃を欠きながらも、
何とか態勢を立て直し、再度追い込むことに成功しつつあった。
しかしマキナの回復用培養液がある限りは決着は着きそうにない。
「ぬぅぅぅん!」
マキナがまた培養液を振りかけ、傷をすぐに癒す。
「あの液はどれだけあるというのだ!?」
エイリアが驚愕する。レイリアのナノ・マシンによる
治療速度も大概のものだが、レイリアのそれと違って
培養液は基本的に有限のはずだ。その事を言っているのである。
「お前達の破壊力が一部を除いて思ったより大きくないのでな。
 おかげでこちらも培養液を節約させてもらえる!」
また暴れ始めるマキナに、大きく退くエイリア。
しかし、その時――
「!」
「ジルベルト=ストレンジャー、来たか!!」
ジルベルトが『矛盾』を構えて突っ込んで来た。
どうやらこの武器自体に推進装置まで付いているようだ。
元々はスカーレット・アーマーのものであろう。
今やジルベルトはその身で飛行する事さえ可能となっていた。
「つぇぇぇぇぇいッ!」
マキナがその豪腕を横薙ぎに叩き込もうとする。

ずどがん!

だが、ジルベルトは『矛盾』の砲撃をブレーキ代わりに使用し、
横薙ぎの殴打をあっさりやり過ごすと、再度ブーストをかけて
『矛盾』による刺突攻撃を実行。
「ぬぐはっ!」
刃は元々ストレンジャーソードであるだけに凄まじい切れ味だ。
流石に呪鞘カオスリキッドに強化された
ライナスの剣ほどではないが、
それでも生身の肉体に叩き込むには充分過ぎる。
「今!」
ゼクウの一声に全員が反応し、全員が最大火力での攻撃に移る。
怯んだマキナへの追い討ちは成功し、大ダメージを与えた。
だが、これで終わりではない。
「終撃砲!!」
ずどどぉぉぉぉぉぉぉぉん!!
零距離からの最大出力砲撃。反動で大きく後退するジルベルト。
だがその反動も推進装置によって軽減される。
もっとも爆風で味方も多数吹き飛んでいるのはご愛嬌か。
「がぁぁぁぁぁあああああ!」
絶叫と共にマキナが暴れ、そしてその口には火を纏っていた。
忘れそうではあったが、彼も竜族、ブレスを吐くのだ。
「危ない、ジルベルト君!!」
ソニアの悲鳴が響くが、既にブレスは発射された。
回避はいくら何でも間に合わない。しかし――
がしゃこん!
瞬間、リロードを行う事によって、
中折れ式のフレームが前を向き、シールドが前面に出る。
それにより、寸前で事無きを得るのであった。
まさに紙一重の攻防一体さ加減である。
リロードとガードまで一体化しているのだ。
「……!」
スペックをなんとなく察していたとはいえ、この隙の無さに
ジルベルト自身が少なからず驚いていた。
「凄い……あれがアースシールドの防御力……」
「スカーレット・アーマーもよ、ソニア」
ルシアが嗜めてくる。
「最強の矛と盾は両者が相容れない存在であるが故に
『矛盾』なのよ。その両者を
 くっつけてしまえばいいじゃないみたいな考え方なのね。
 ナンセンスだし、お馬鹿だし、子供っぽい発想……
 けれど、なんか悔しいのは事実だけど……似合うわ、アレ」
ドルカスも理屈っぽく賞賛する。
「しかしいくらなんでもデカ過ぎないか?
 あれでは武器の大きさに振り回されてしまうぞ」
サイモンはちょっと苦言を呈するように言う。
「……確かに不自然だ。むしろ隠し玉があるんじゃないか?」
バスクも研究部らしい言い方をしてみる。

一方でマキナの負った痛手は想像を遥かに超えていた。
「ぐぐぐ……!」
何とか起き上がったものの負傷が酷い。
残りの培養液を全て使って回復しきれるかどうか、というところか。
「やむを得んか! どうせそれこそが我が命の意義!」
培養液を頭から全てかぶり、みるみるうちに傷が塞がる。
「……凄まじい戦闘能力。やはり私を殺せるのは
 諸君等を置いて他にはいないようだな」
「……何を!?」
ヴァジェスが訝るが、すぐに気付いた。
「まさか、ドラグーン形態を解除する気か!?」
「然り!!」

ビカッ!!

閃光が走り、その後には何やら
はいずる蛇のような身体の一部が見えた。
ヴァジェスの巨体をもってしても
その程度にしか理解が及ばなかった。
「これは!? 何だ!?」
テディが、ライナスが、イスティーム王が、
そして皆が周囲をわけも分からず見渡す。
「フローベール、上空偵察だ、来い!」
「は、はい!!」
ヴァジェスの指示で両名とも上空へと飛行する。
「!!?」
フローベールは半ばパニックに陥りかけた。
このアルヘイ島全域を覆い尽くすほどの巨体が現れたのだ。
慣れない手つきで情報端末を必死に操作するフローベール。
「フローベール、何か分かったのか!?」
バスクからの呼びかけ。
「お……落ち着いて聞いて、みんな……
 あれは、たぶん、マキナよ」
「全長700メートル、重量8000トンクラスだと、馬鹿な!
 そんな竜族がいてたまるものかよ! どうなってやがる!?」
ヴァジェスも悲鳴のように絶叫する。

「全長700メートル、重量8000トンクラスだと!?」
サイモンも勿論驚く。
「そんな馬鹿な! あたしの持ってる知識の中にも
 そんなでっかい竜族なんていないはずだもん!!」
実は知的なレイリアまでもが混乱する。
「ふははははははぁ! そうとも、奴こそ我等が
 ネイチャー・ファンダメンタルの生み出した
 遺伝子調整生物にしてエンシェント・ドラゴン、
 デウス=エクス=マキナそのものだ!」
「ネイチャー・ジモンか……」
マキナの頭と思しき部位がゆっくりと鎌首をもたげて呟く。
頭だけでも余裕でヴァジェスの全長を超越している。
「そうとも、我輩だ、ラッカード=ジモンだ!
 同志よ、よもや忘れたとは言わさんぞぉぉ!」
「今更何をしに出て来たのです、ジモン!」
イスティーム王が非難する。
「決まっておろうが! 我輩と幹部達の力によって
 マキナを潰し、それによって我が大願は成就されうるのだぁ!
 ぬわぁーはははははははははぁ!」
すると、未だに戦意の残っていた
シーゲル、リンナ、ジーネの三名が
ジモンに付き従っていたのであった。
「……ルシェットとキートンがいないようだが?」
「あの二人は戦意を失っていたようでしたからね。
 悪いが、この戦いの手柄は譲ってもらわざるを得ないでしょう」
「つまりはあの二人を置いてきた、という事か」
マキナはジーネの言葉の意味をしっかりと吟味し、思案する。
「我々とマキナ、貴様の本来の意思は遺伝子調整技術と
 それに関わる者達へ警鐘を鳴らし、そしてそれを滅ぼす事だ!
 そして既に貴様という警鐘は大きく、高らかに鳴り響いた!
 後はお前を作り出した我々ネイチャー・ファンダメンタルが
 貴様を滅ぼす事により、我々の正義が実証され、
 人々は自然と遺伝子調整技術を憎み、
 駆逐する事になるであろう!」
姿はボロボロながらも、これだけ見栄を張ってみせるジモン。
確かにその行動原理にだけは一本の筋が通っていた。
「そうやってマキナを道具みたいにして切り捨てる!
 貴様等の正義は同志をあっさり
 生贄にして実証するものなのか!」
ギースが真っ向からジモン達を非難する。
「黙れ、小僧! 我々が何百年待ってこの計画を
 立ち上げてきたのか知りもしないで、軽々しく言うか!
 さあ、マキナよ、貴様自身の望み通り、
 我が手にかかって死んでくれ!
 そうすれば、貴様自身の望みが命と引き換えに叶うのだ!」
ジモン、並びにシーゲル、リンナ、ジーネが突撃する。
可能な限り、速やかにマキナの首を斬り落とすためだけに。
「ぬん!」
だが、その首を大きく振りかぶり、
マキナは鞭のように叩き込む。

ごがっしゃぁぁぁぁッ!

「ぬぅぅぅおおおおおッ!?」
「ぎゃあああああああッ!!」
ジモンならびに幹部三名は大きく吹き飛ぶ。
「おのぉぉぉれぇぇい、何をする、マキナぁ!
 自らの命を持ってこの憎むべき技術を駆逐すると
 我輩の目の前で誓ったのは貴様自身ではないかぁ!」
「嘘ではないよ、ジモン。大変君達には感謝している。
 だが、それもこれも君達ネイチャー・ファンダメンタル自身が
 自らの力で人類史上最強の私設軍である勇者軍に
 勝利出来るという前提があって、はじめて成立する誓いだ!
 勇者軍に敗れた君達は、もはや門外漢と化しているに等しい!
 それでも我を殺す気でいるというなら、
 いっそ等しく死んでもらうのみ!
 ルシェットとキートンが君達より賢明だった、それだけの話だ!
 自らの浅慮をこそ呪え、ネイチャー・ファンダメンタル!
 そしてネイチャー・ジモン……否、ラッカード=ジモン!!」
その口に光が宿る。最大級のブレスの準備だ。
「まずい、あれは……全員、射線上から離れろーッ!」
ヴァジェスの指示で、全員が全力で退避する。
もはや救命のためにジモン達を連れ去る余裕は無かった。
「レーザー・ブレス!!」

ずびゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!

「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
その巨体故に、超大口径ビーム兵器に等しい熱線が、
ジモン達のいる一帯をまとめて薙ぎ払う。
あまりのエネルギーに周囲の海水はたちまち沸騰、蒸発し、
ジモンが連れていた三人の幹部は悲鳴さえあげる間も無く、
そのまま即、死亡してしまっていた。
ジモン自身も黒焦げになって、もはや動く事は出来なかった。
「……マキ……ナ……忘れる……なぁ……!
 すぐ貴様自身も……こうなる……のだぞ……ぉ……!!」
そしてジモンも絶命する。
「真に我が痛みを理解した友、ラッカード=ジモンよ、
 安らかに眠れとは言わん。ただ苦しまないで欲しい……」
嘆きの声を漏らすマキナ。
「な、なんて威力なの……!?」
リュミエルもそのあまりの火力に戦慄する。
「親父でもあんなブレスの威力にはならん……!
 デカいという事がこれほどの脅威になり得るとはな……!」
ヴァジェスさえもそのあまりの破壊力に驚きを隠せない。
「さあ、培養液も既に使い尽くした。長いことロクに
 物を食しておらぬせいで、我が力はいつ尽きるとも知れん。
 だが勇者軍よ、諸君等が我を倒す事叶わなければ、
 我は生物の本能に従って、本来の姿で世界を食い荒らすのみ!
 そんな事態が君達には看過出来るわけもあるまい!」
むしろ戦いを――自らを殺す事を促しでもするかのように
マキナはわざわざ大音声で勇者軍を呼ぶ。

「呼んでるぞ……行くしかないではないか!」
テディが聖杯ライブチャージャーの力を一部開放し、
味方の疲労と傷を癒し、生命力を分け与えていく。
こちらのエナジータンクとも呼ぶべきライブチャージャーも
無限ではない。エネルギーはストックして使うものなのだ。
「進!」
ゼクウが宣言すると同時に、怯まずに突撃をかける。
もちろん戦いはもはや避けられない。ならば迷う余地は無いのだ。
「危険を感じたら深追いは駄目よ! 攻撃は一撃ももらえないわ!
 全員、生きて帰らないと承知しないんだからね……
 ゼクウに続くわよ……全員、突貫開始よ。いざ、散開!!」
ジルベルトの代理でソニアが号令を勤めた後、
全員がばらばらに散らばる、せめて一箇所に固まる
愚かな行為だけは避けなければ、ジモン達の二の舞だ。

(……振り回しにくい……)
一方でジルベルトは武器の大きさに微妙に困っていたが、
それで迷う時間も与えられず、やむなく彼も突貫する。
戦いはいよいよ激しさを増そうとしていた――



<第二十章-第四幕-へと続く>
最終更新:2011年02月21日 00:39