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第3部序章-第三幕- 瞬間、命重ねて






バスクが溺れていたり特訓していたりする頃、
勇者軍サブメンバー、リュミエル=モーディカイはというと、
特訓を一通り終えて、バイオレット・ヴィレッジから帰途につき、
これからライゼリーネ・タウンにある家にたどり着くべく、
現在、ヴェール・シティに到着したばかりだった。
「よっ、と。ありがとね、コンラッド」
レッド・ワイズマンMk-Ⅱに同乗させてもらって、ここへ来た彼女は、
船長であるコンラッドに軽く礼を言った……のは良かったが、
妙にコンラッドがげっそりしているのが気になる。
「ねえ、大丈夫なの? てかなんでやつれてるの?」
「どうもこうもねえ……エルリックを見ただろう?」
「ああ。最初隠し子か何かかと思ったけど」
「メイベルが見事に誤解してくれてな……誤解を懸命に解くのに
 ほぼ丸一日を費やしたのが未だに響いている上に、
 なんとか降格処分は勘弁してもらった傍から、今度は夜泣きだ。
 しかも結構な頻度で夜中に叩き起こされる。
 いっそ生活リズムを夜型に切り替えようかどうか真剣に考えてる。
 ……というわけで、こういう状態だ。分かったか」
「……大変なのねぇ」
「夜泣きはともかくメイベルに不潔呼ばわりされたのはこたえたな。
 ああいう所が妙に頑迷で、思い込みが激しいっつぅのか」
「本当に難儀なこと。じゃあ、私行くからね」
「おおう。元気でなぁー」
「ばぶばーぶー」
いつの間にか這い這いしながら近くに来ているエルリックも
別れを律儀に告げたところで、リュミエルは歩を進めた。

しかし土産話の一つも無しに帰るのもいまいち癪なので、
リュミエルはヴェール・シティの名物の一つである
I-BISグランプリなるレース競技を見物しに行った。
ちょっと小金で賭けもしてみたりする。
シュィィィィイイイイイイイイインンンン……!!
凄まじい音を立ててI-BISマシンと呼ばれる
ホバー・ヴィークルがコース上を準音速で疾走していく。
「おおおおおおおおおおお!?」
リュミエルは自分が賭けたマシンがたまたま1位を独走中なので、
そのビギナーズラックぶりにびっくりして注目していた。
もちろん端末に乱数計算させて買っただけのBETなので、
本命にはほど遠いマシンであり、周囲もざわめいていた。
「おっしゃー! 行けぇー!!」
そこら辺のオッサンみたいな発言を慎む事もなく、
リュミエルは全力でたまたま賭けたマシンを応援する。
どうやら、たまたまコース形状がマシンとの相性抜群なようで、
そのマシンも絶好調そのものの走りを見せている。
「行ったぁー!!」
そして、そのままフィニッシュ。
オッズ32.5倍という結構な高配当がリュミエルに入ってきた。
小金が、中金ぐらいにグレードアップした感じである。
ぶっちゃけホテルに一週間は泊まれそうな金額だ。
「ついてる! 私ついてるよ!」
もちろん速攻で配当金を受け取り、ギャンブルの魔力に
うっかり取り憑かれそうになりつつも、
あくまで冷静に小金をちょこっとだけ賭けるリュミエル。

そして、次のレースが始まった。
端末がランダムに出した配当はオッズ11.9倍のマシン。
これで当たれば更に儲けものである。
ピッ、ピッ……
スタートシグナルが赤く、二つ点灯。スタートの合図だ。
ポーン!!
そしてスタートシグナルは青くなり、マシンが発進――

ずがどががぼごぼごどごどぉぉぉぉぉぉぉん!!

と、いきなりレース会場、客席問わず大爆発。
「何、何、何よ!?」
観客はパニックを起こし、一目散に逃げ始めた。
中にはシェルターの存在を察知し、機敏に逃げるものもいたが、
概ね事態は恐慌状態と言っても良かった。
周囲に爆発物の反応は無い、というよりあっても既に爆発して
跡形も無いだろう。一体何が起こっているのか分からなかった。
そしてふいに、空が暗く、否、黒くなる。
「えっ!?」
そして端末が爆発物の反応を探知した。無数にある。空からだ。
即ち、その答えは瞭然としている。
「爆撃なの!?」
直上を見上げれば、何らかの建造物のようなものが
空を飛んでいる。雲と見間違うようなサイズだ。信じられない。
そんな事を考えている間にも、謎の建造物は雨あられと
爆雷を降らせて無差別爆破に及んでいる。とんでもない凶行だ。
「くっ!」
リュミエルは素早く御札を持ったまま競技場を出た。
もちろんマシンのパイロット達もマシンごと逃げている。
それほどの猛爆撃が周囲を襲っていたからだ。
レースコースももう、修理より再建の方が早いだろう、というほど
ボロボロに破壊されきってしまっていた。
「術式・防御結界!!」
とりあえず御札を周囲に無差別にばら撒き、
自らの魔力を使って、街全域に防御結界を展開するリュミエル。

ぼごんぼごんぼごんぼごんぼごん!!

爆雷は見事に防がれ、一時的にではあるが街への被害は止まった。
ならば次にする事は決まっている。パニックを収めるのだ。
「動ける人は怪我人を連れてシェルターへ! 今のうち!!」
「あ、あんた誰だ!?」
「私は勇者軍の一員よ! 言ってる意味は分かるでしょ!?
 ぐだぐだ言ってないで速く逃げて! 頼むから!!」
「わ、分かった!」
市民Aが応じ、即席の連帯感を発揮しつつ逃げ出す市民達。
最初の爆発による死傷者は防ぎようも無かったが、
それ以降の被害は、何とかギリギリで食い止める事が出来た。
端末が無かったら事態の理解が遅れて被害は拡大しただろう。
それどころか自身の命さえ危うかったかもしれない。
「どこの馬鹿か知らないけど、惑星アース人類に対する挑戦のつもり?
 このツケは高くつくわよ……見てなさい!!」
正体もはっきりしてきた。ニュースか何かで聞いたような気がする、
宇宙から来た謎の円盤浮遊都市という物体だろう。
相手が機械なら、充分対抗は可能かもしれない。
そう踏んで、リュミエルは魔法の準備を始める。
「プラズマキャノン!」
とりあえず適当な位置に雷の魔法をぶっ放してみる。
少なくとも着弾地点次第では、ただでは済まないはずだ。
ばごぉぉぉぉぉん!!
砲台か何かを爆破したのだろう。爆炎が円盤都市の底面に見えた。
「さあ、次々いくわよ!」
リュミエルが次々と魔法を放出し、円盤都市の砲門を破壊する。
しかし、爆炎がすぐに沈火し、すぐ再攻撃が始まるのが不自然だ。

「端末、望遠モード!」
冷静にリュミエルが観測すると、小型のメカがまとわりついて
破損箇所を即時パーツ交換などで修復しているようだった。
「あのサイズで自己再生!? どうしろっての!?」
そしてよろしくない事に、リュミエルの火力が敵の警戒度を高めた。
機銃兵器やミサイル兵器、光学兵器などが雨あられと降り注がれる。
「きゃああああッ!?」
既に力の尽きかけた防御結界はたちまち破られ、
懸命に爆撃を避けなければならなくなった。
あまりに巨大な防御結界を維持したために、
ロクに魔力も残っていない。
だが、幸いにも市民の避難だけは済んでいた。
あとは、自分自身が何とか脱出しなくてはならない。
だが、下手に反撃した事が裏目に出ているのか、
敵はリュミエル一人に火力を集中させるという
更なる蛮行に及び始める。
「ひえぇ、あんなの無理無理! 一人じゃ無理!」
慌てて全力疾走で逃げ出す。敵がこちらを狙うのなら、
都市部から逃げ出す事で被害を減らせるかも、という
淡い希望もあったが、いかんせん火力が集中し過ぎていて、
逃げるのも難儀である。

「み、ミサイル!?」
リュミエルは追尾型のミサイルに特に厳しく狙われ、
危うく何発も命中しかけるところまで追い詰められていた。
「もう駄目なの!?」
「駄目なものか!!」
そこへ味方の増援が現れた。
メインメンバー、ライナス=ジーニアス。
敏捷性と小回りの効きように関しては主力部隊でも随一の男だ。
「ライナスさん!」
「疾風剣!!」
ライナスは剣閃を一瞬輝かせるだけで、
リュミエルを狙う全ての実弾兵器を細切れにしてのけた。
その上でリュミエルを抱え、
瞬時に大ジャンプし、爆発から逃れてもみせる。
既にリュミエルは傷だらけだが、死なずに済んだだけ重畳だ。
「ありがと! 助かったけど、なんでここに!?」
「たぶん、俺も同じだ。さっきまでI-BISの客席にいた。
 女の子の大きい声が聞こえたから、まさかとは思ったけどね」
「ひぇぇ、なんたる偶然なの。自分の強運がたまに怖いわ」
「フリーズキャノン! さて、俺は何をすればいい?」
ライナスは更に迫り来るミサイルを全て回避し、
魔法を一発ぶっ放してから言ってのける。
「逃げるに決まってるわ! 今の私等だけじゃあんなの無理だし!」
しかしライナスはリュミエルを抱えたまま、既に逃げ出していた。
「やるべき事が分かってるならいちいち訊かなくていいし!
 意味も無いし時間も無いし命も危ないから!!
 いいから、隊長と合流! こりゃあ只事じゃ済まないわ!」
「はいはい」
いちいち発言に意味の無いライナスは、リュミエルを抱え直して
崩れゆくヴェール・シティより全速で離脱した。
恐らく、復興には数年がかりとなるレベルでの
壊れっぷりだっただろう。
それを省みて、リュミエルは呟いた。
「あれが本気で惑星アース人類を殲滅するつもりなら、
 あの円盤都市は間違いなく……私達にとって最大の敵になるわ。
 見てなさい……勇者軍に手を出す事の
 愚かしさを思い知らせてあげる」
傷だらけになりながらも、
どこか不敵な笑みを浮かべるリュミエルだった。

かくして、宇宙から来た謎の円盤浮遊都市と、
勇者軍との激闘が、幕を開けようとしていた。



最終更新:2011年07月02日 21:07