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第二十一章-第三幕- 全力迎撃戦






ルシアを加えた勇者軍主力部隊は、
カシミア大橋を経由し、一気にクルーズ・シティへ向かう事を
決めつつあったが、そこに最終撃滅目標である
謎の円盤浮遊都市が、ストレンジャー・タウンから
かなり離れた位置に姿を見せたのであった。
「…………」
全員に緊張が走る。まさか最終目標がこうしてわざわざ
やって来てくれるとは思わなかったからだ。
まして民政部との交渉は決裂したばかり、
邪魔が入る事も無いだろう。ましてここには
絶壁砲剣『矛盾』を手にとったジルベルトがいる。
これ以上無いほどの好機と言って良かった。

やるなら、今だ。

全員にその雰囲気が伝わり始めた瞬間だった。

ばしゅばしゅばしゅん!!

遠距離から円盤浮遊都市のミサイルと思わしき攻撃を確認。
弾数は3発。牽制のつもりだろうか。
「こういうのは弾頭をぶち抜けば終わりなのよ!」
ルシアが一発目の弾頭を弓で完全に射抜く。
後の二発の弾頭はシルヴィアとリゼルが魔法で迎撃。
共に完璧なタイミングで弾頭を叩き壊した。
ミサイルは爆発もなく、無様に町の寸前で落下した。
「やったわ!」
ソニアが喝采をあげるが、それで終わりではなかった。
ばかん!
弾頭はハッチのようなものでしかなかったらしい。
ミサイルから多数の人型ロボットが出てきた。
どうやら町の規模が小さいのを見て、火力戦でなく、
白兵戦に切り替えて攻撃しようと言うのだろう。

「小細工! 鬱陶しいわね!」
ソニアが真っ先に相手に殴り込みをかける。
『エリミノイド大隊、起動。白兵戦開始』
電子的な音声の後、エリミノイドと名乗る人型ロボット軍団は
勇者軍に真っ向勝負を仕掛けてきた。
「ボイルドアーチ!!」
電子機械に対して圧倒的な効果を誇るルシアの必殺奥技が
一直線に敵の大隊を縦に割ってのける。その隙を突いて
ソニアが手当たり次第にエリミノイドを殴り倒して行く。
(烏合の衆なの……)
ジルベルトも静かに、しかし砲剣の砲撃により、
多数のエリミノイドを吹き飛ばして行く。
至近距離で受けたエリミノイドはズタボロに千切れ飛んだ。
「流石は隊長ですね……ヒールバスター!」
格闘戦がやや不得手なリゼルを治癒魔法で回復させるシルヴィアを
高脅威対象と認識したのか、エリミノイドはシルヴィアを狙い始める。
「危ないわよ、シルヴィア、離れてなさい!!」
「ちょ、ちょっと厄介そうです!」
シルヴィアは次第に数で押されてきた。
彼女も格闘戦は不得手だし、相手はなかなか物騒な武器を持っている。
恐らくは鋼の武器であろう。切れ味も結構なものだ。
時折銃弾らしきものも飛んできており、完全回避は困難である。
「にゃーッ!!」
大福達四匹の猫が護衛に回っているが、それでも集中攻撃は厳しい。
「ウォーター……ブラスター!!」
減りまくる体力をかばいつつ、必死に応戦するシルヴィア。

「ギーッ!!」
だが、そこでアンノウン・ベビーが姿を現す。
育ての主に攻撃する対象に対して怒りを感じているようだ。
「危ないです、ベビー!」
「ギキャァァァァ!!」
だが、アンノウン・ベビーは、強酸を噴射し、
凄まじい数のエリミノイドを腐食させ、行動不能に陥らせる。
「あれは……アシッド・デモリッション!?」
リゼルが、シルヴィアが驚愕する。

アシッド・デモリッション――
そう名付けられた技を駆使する生物がいた。
かつてスプレッダー戦役の元凶となったスプレッダー女王体だ。
しかしこのアンノウン・ベビーはスプレッダーなのだろうか。
その疑問が二人の脳裏をよぎる。
しかしその正体が何であろうと、今はシルヴィアを助けた。
味方に他ならない。ならば二人が言うべきことは――
「ありがとう、ベビー!」
「助かります、ベビー!」
二人して、その誠意を讃える他になすべき事など、無い。
それが二人の精一杯の、そして衝動的な答えであった。

そしてほどなくエリミノイドは全滅した。
物量の無駄であると思ったのか、円盤浮遊都市は撤退を始めた。
あるいは勇者軍主力部隊を高脅威度対象と認識したのだろう。
だが、ジルベルトは見逃す気は更々無かった。
しつこいようだが、これは撃墜する好機なのだ。
「アズール・アーマー展開!!」
ジルベルトの意思に応じ、絶壁砲剣『矛盾』は装甲をパージし、
ジルベルト自身の鎧となり、その身を守る。
(トランスフォーメーション!)
ジルベルトが更に砲剣ストレンジバスターを鎧に接続すると、
戦闘機のようなフォルムに変形し、飛行突撃用のモードになる。
「ちょっと、ジルベルト君! こんな所から届くの!? 遠いわよ!?」
「届いてみせるの!」
いつに無く強い意志を秘め、ジルベルトは突撃する。
自分達がいなかったならストレンジャー・タウンも壊滅していただろう。
これ以上野放しにしておきたくはなかったのだ。
「封神封魔流無手勝秘剣――惑星貫通剣ッ!!」
ベルトリンクから繋がれた弾丸を全て加速に使い、
ジルベルトは一気に視認距離ギリギリにいた円盤浮遊都市を捉えた。

ずぎゃうッ!!

流石に距離が遠すぎて目測がおぼつかず、円盤浮遊都市の底面部を
大きく抉るのみに留まったが、それでもそのコース上にあった武装は
全て破壊を通り越し、爆散あるいは融解させるに至った。
正直なところを言えば、ジルベルトもここまでの戦果が
叩き出せるとは思っていなかった。
しかし、ほとんど魔力が残っていない。
マッハ2に至るまでの加速で魔力をほぼ使い切ったのだ。
衝撃のおかげで減速の手間だけは省けたのが幸いだ。

「…………!」
しかし事態は甘くなかった。
砲撃が一斉にジルベルトへ向かった。
巡航速度でジルベルトは一斉に退避を始める。
敵はジルベルトを最高脅威と認識し、光学兵器まで
投入し、ジルベルトを撃ち抜きにかかっていた。
彼は強引かつランダムな機動で敵の攻撃をかいくぐり、
数分をかけてようやくソニア達のいる地点に戻ってきた。
その頃になると、敵も砲撃を諦め、再度撤退にかかっていた。
「危なかったー」
ほっ、と息を吐きつつジルベルト。
「やったの!?」
ルシアが慌てて訊いてくる。
(底の方がいくらか壊れたのー。結構な被害を出してきたのー。
 でも魔力が無くなったからとりあえず帰ってきたのー)
と、心の声でジルベルトは伝えた。
「聖杯ライブチャージャーも無いと厳しくなりそうね。
 ますます戦力増強が必須になってきたかしら」
ソニアも無事に帰ってきたジルベルトを撫でる。

「ところで、それは本当に危険な存在じゃないの?
 さっき見たら、酸とか吐いてたっぽいけど」
当然の事だが、ルシアがベビーに対して追及する。
「……確証はありませんが、私はあの生物ではないかと思っています。
 すなわち、スプレッダー女王体の幼生ではないか……と」
「スプレッダー!?」
リゼルの言葉に、ジルベルトとソニア、ルシアは慌てて
臨戦態勢を取る。随分と痛い目に遭わされてきた敵である。
これはむしろ当然の対処だと言えた。
「冷静に思い出してみれば食性にも共通のものを感じます。
 偶然似た習性の別の生物の可能性もありますが……
 放置しておいては危険な存在だと僕も思います、シルヴィアさん」
「嫌です。この子は私を今助けてくれたんですよ。
 その恩を仇で返して、刃を向けるというのなら、
 私は戦います。誰とでも戦います」
いつになく強い語気のシルヴィア。
(……分かったのー。よくよく考えてみれば指揮する部下となる
 他のスプレッダーもいないし、繁殖も出来ない現状、
 大した脅威にはならないはずなのー。でも、今までみたいに
 ペット同然に連れ歩くのはいくらなんでも無理があるのー)
「……ありがとうございます、隊長。
 場合によっては人里離れた無人の森林地帯に放逐して、
 その生涯を全うしてもらおうと思っています」
シルヴィアは、理解のある上官に対し、素直に感謝した。
「いつかそんな事になる可能性は
 かねてより危惧していました。これを見て下さい」
シルヴィアが機械を見せる。
「森林地帯を発見して不時着するマイクロロケットです。
 これがじきに完成しますので、確認次第、射出します。
 隊長も、皆さんもそれでよろしいですか?」
「こんな状況で仲間割れもしてられないしね。しょうがないわ。
 でも完成したら放逐するのよ、処分されたら嫌でしょ?」
ルシアが仕方なく嘆息する。
「はい……もう少しだけだけど、一緒にいましょう、ベビー」
「ギーッ」
どこか寂しげにシルヴィアが呟き、ベビーが答えた。

「なんでスプレッダー幼生体の処分を許可しなかったの?」
(僕の猫達と立場は似たようなものだものー)
「そっか……そっかー……」
ソニアはどこか納得したように呟いた。
「そうと決まれば急ぎましょう。モタモタしていられません」
リゼルが促すので、全員が当然の如く頷き、
進路をクルーズ・シティに向け、全員まとまって歩き出した。

前途は多難だが、まだ戦いは前哨戦にすら入っていない。
ますます不吉な予感だけが勇者軍を包むのだった。



最終更新:2011年07月16日 20:43