第二十二章-第二幕- ベビーの悲鳴
勇者軍主力部隊一同は、
カシミア大橋の上で、
早速
ザン共和王国民政部の部隊に襲撃を受けた。
橋が壊れる危険を冒してまで仕掛けてくるのを何とかかいくぐり、
とりあえず橋から離れる事にだけは成功したのであった。
ザン共和王国製ライディング・フレーム『
ホークマン』第4小隊は
自らがからかわれつつも誘導された事に腹を立てていた。
「よくもコケにしてくれたな……多少の怪我は覚悟してもらう!」
ホークマン小隊も勇者軍の強さは充分承知しているのだろうが、
それでもせめて一太刀浴びせるつもりで気合を入れ直した。
ここからはジョークでは済まない。
思い切り撃破して爆散させてしまえば中の
パイロットは死ぬだろう。
そうなれば王政部と民政部の全面戦争になりかねなかった。
なんとか死なない程度に手加減して追い払わなければならない。
撃墜自体は楽だが、むしろそれが骨である。
(具体的にどうしたものかしら……)
と、射撃しか能が無いルシアが心中で呟く。
それをジルベルトが読み取り、これも心の声を送る。
(まず最初に両腕部マニピュレータを、次に脚部を。
最後に背部バックパックを破壊、でたぶん行動不能なのー。
逆に腰部がたぶんエンジンだから、そこの攻撃は駄目なのー)
と、いちいち律儀に推測から来る説明を入れてくる。
全員が頷き、作戦は決まった。相手の戦う力を奪う。
ただそれだけで事が足りる、と分かり、むしろ安心したようであった。
「では、攻撃開始だ!」
「了解!」
敵ライディング・フレーム『ホークマン』5機がそれぞれに挑んでくる。
「でぇぇい!」
ソニアが強引に突撃し、力任せの一撃を叩き込もうとするが、
するり、と簡単に回避されてしまった。
「速い!?」
「当然だ。何故ライディング・フレームでありながら
このサイズなのかが分かっていないと見える!
この『ホークマン』は屋内戦対応高機動機なのだぞ!」
と言いながら、アサルトライフルらしきものを向けてくる敵。
もちろん、即座に応射である。
「くっ!」
すんでのところで三点バースト射撃を回避した。
「近距離戦しか能が無い愚物に語る口無し!
大人しく寝ていろ!!」
「まだ! 土や石やらがあればこっちのもの!」
ソニアは地面へ拳を叩きつけ、弾け飛ぶ土壌を拳に纏う。
「
アースナックル・ピッチングショット!」
土塊が敵ライディング・フレームの右腕を損壊させる。
「何ぃッ!?」
「ダブルアームパワード!!」
もう片方の土塊で、健在だった腕も完全破壊した。
敵機は完全にバランスを崩している。後は嬲り放題だ。
あっという間に連続攻撃を食らい、敵機は文字通り
手足も出ないダルマとなった。
遠距離射撃や魔法射撃を得意とする
ルシア、シルヴィア、リゼルの三名は、
更にあっさり敵機を行動不能に陥れていたが、
爆音と閃光が恐慌の引き金になったのだろう。
アンノウン・ベビーが姿を見せていた。
あちこちに酸を撒き散らし、むしろ味方の邪魔になっている。
後方で指揮を取っていた一機がそれを怪訝に思う。
「あの容姿……あの酸……まさか、スプレッダーか!
クソッタレ! まだ残ってやがったか!!
あんな危険物こさえてるなんて、何を考えてやがる!?
死ね! 死んでしまえぇぇぇッ!!」
激昂した敵指揮官はあらん限りの重火器を
ベビーに向けて発砲する。
「ギギィィィィ!」
何発も命中し、それでもまだ生存しているのは驚異なのだが、
明らかにベビーの動きが落ちている。損傷が激しい証拠だ。
「ベビー!」
「させない!!」
ルシアとリゼルが異口同音に呟き、あらん限りの方法で
敵指揮官機の両腕を、脚部を、バックパックを破壊し尽す。
「ギキャァァァァァァ!」
ベビーは予想外の砲火に身の危険を感じたのだろう。
ふらふらと現場から飛行しつつ離れ、やがて姿が見えなくなる。
煙をあげながらの逃走であり、危機感が露になっていた。
その声はさながら、親の助けを求めて逃げる子供のようだった。
逃げる姿に胸を打たれてしまい、シルヴィアが叫ぶ。
「ベビー、どこに行くんですか!? ベビー!!」
「シルヴィアさん、今は集中!! 方位の特定は終えています」
端末を見せ、リゼルが懸命に叱責する。
まだ数機残っているが、リゼル達は懸命に応戦を続けた。
ジルベルトは砲剣の力をもって、相手を即時撃破……
といきたかったが、思いの外上手くいかない。
アズール・アーマーはともかく、
砲剣ストレンジバスターの
火力が高すぎる。これで直撃させれば確実に誘爆確定だ。
なんとか上手く、かすめるように当てなくてはいけない。
「どうした、勇者とやら、それで本気のつもりか!?」
「…………!」
だが、もう一つの武器をうっかり失念していた事に気付いた。
鋼線――リールだ。これなら拘束に使えるはずである。
「…………!!」
ジルベルトはリールで相手を拘束する。
「こんなリール一本で何を!?」
敵はヒートランスを抜き取り、リールを切断にかかる。
ごがすっ!!
だがもう遅い。ジルベルトは全力で相手を引き倒した。
軟着陸などという生易しいレベルではない。文字通り墜落だ。
いくら低空飛行とはいえ、パイロットは無傷ではないだろう。
「ごばっ!?」
パイロットはむしろ投げ出された事が幸運であった。
下手に転げ落ちただけで済んだなら、引き摺り下ろした機体に
ミンチにされていたかもしれないからだ。
そして――
「…………!」
ずどむ! ずどむ! ずどむ! がしゃこん! ずどむ! ずどむ!
右腕、左腕、背部、リロード、左足、右足の順で
砲撃によって丁寧に、かすめるようにダルマ化する『ホークマン』。
パイロットは大慌てて負傷者を抱えて逃げていった。
「このままでは済まさんぞ……! たかが私設軍風情が、
いち国家を敵に回す恐ろしさ、いつか必ず思い知れ!!」
捨て台詞までテンプレート通りである。様式美は大切だ。
だが、勇者軍はもちろんそんな事を聞いてはいなかった。
神懸り的に素早い操作のおかげで、ベビーが逃げた方位だけは
かろうじてレーダーで追う事が出来ていた。
ベビーがサイズの割に大きなエネルギーを保持している事も原因だが、
それに助けられ、追跡を実行に移す事が出来ていた。
「ベビー、どこですか、ベビー!?」
シルヴィアが必死に呼ばわる。
すると、近くの森林で穴のようなものを見つけた。
恐らくベビーが掘った穴であろう。
スプレッダーは幼生体に限り、自らに危機が及ぶと、
地中に潜って傷を癒したりする習性があるのである。
女王体の幼生に同様の習性があったとは誰も知らなかった。
「スコップ! スコップありませんか!?」
シルヴィアが無茶な催促をする。
「いや、流石にスコップは無いです……
いずれ自然に放逐すると決めていたのです。仕方ありませんが、
今は捜索よりも任務を優先しなければなりません」
「…………くっ…………!」
悔しさに涙を滲ませるシルヴィア。明らかに自らの不注意だった。
自分が外に連れ出しさえしなければ、あんな理不尽な攻撃を受け、
こうも唐突な別れにはならなかったかもしれない、と悔いる。
(いつか、生きていればまた会える事もあるのー。
特にあれがスプレッダーなら、凄く目立つからすぐ見つかるのー。
そしたら、今度こそ皆で恩返しに守ってあげればいいのー)
ジルベルトが足りない頭で懸命に慰めるのを見ると、
シルヴィアもようやく落ち着きを取り戻した。
気が付けば
フェンリル・ヴィレッジ近郊まで戻ってきていたが、
クルーズ・シティに行くのが本当に正しいかどうか疑問が生じていた。
何より敵の部隊展開が異常に速いのだ。まるで予期されていたように。
「どうするの、ジルベルト君?」
ルシアがその疑問をダイレクトに投げかけると、ジルベルトは答えた。
(まずは自由に動けるように、コンラッドさんを呼ぶのー。
で、船でここから直接海を渡って
アーム城に行くのー。
メインメンバーのユイナ姫を迎えれば、戦力一気にアップなのー)
「なるほど、まずは無難だわね。大体リュミエルが行方不明になった
ヴェール・シティだってアーム城からのがよほど近いし、ね」
ルシアも同意し、皆もうなずいたので方針決定となった。
最終更新:2011年07月16日 21:21