第二十二章-第三幕- 払われぬ不安
戦力の根本的な不足を痛感した
勇者軍は、脱走して
地中に隠れきってしまった
アンノウン・ベビーの存在を
やむなく放置し、一気に
アーム城へ向かうために、
海洋戦力である旗艦『
レッド・ワイズマンMk-Ⅱ』を
緊急で呼び出したのであった。
「おおーい!」
たまたま近くを運航していたのか、数時間ほどで
レッド・ワイズマンMk-Ⅱ艦長、
コンラッド=ワイズマンの声が
何やら遠くから響いてくる。すぐに艦影も見えた。
何故かコンラッドは赤ん坊を抱いている。
ほどなく接岸し、ゆっくりとコンラッドは降りてきた。
「いや、偶然近くを通っていて良かった良かった。
って、お前等どこ見てんの?」
明らかにジルベルト達の視線はコンラッドが抱いている
赤子に向いていたのは明白だった。
「……おお、エルリックの事な? 前報告したような気もするが、
充分に浸透してなかったか。ウチの拾い子で跡取りだぜ!
よかったら船にいる間だけでも面倒見てやってくれよな!」
「あーぶー」
のんびりと挨拶するエルリックに、一同の顔がほころぶ。
次代の担い手がこんな所にもいたのだ。
……よく思い出してみればそんな報告があったような気もしたが、
不幸な事にそんな事は誰も覚えていなかったのはご愛嬌である。
「ベビー……」
赤ん坊という語感が強く胸に染みるのか、
シルヴィア一人が浮かない顔をしていた。
「お、俺なんか悪いことしたっけ?」
慌てて慰め始めるコンラッドをリゼルがフォローする。
「ああ……ベビーって名付けた実験生物に脱走されて
結構へこんでるみたいなんです。コンラッドさんも
エルリック君も悪くないです」
「……そうか……」
困ったような顔をして船員にエルリックを預けるコンラッド。
彼なりに一応、気は遣っているらしい。
「大福、
きなこ、
みたらし、
黒ごま、行って」
ジルベルトの指示に従い、エルリックの護衛に回る猫四匹。
……遊び相手、という方が正しいかもしれないが。
足りない頭なりに、ジルベルトはジルベルトで
気を遣っているのがそれなりに分かる一同であった。
しんみりしてきたが、そんなことにはお構いなく
船は目的地に向け進んでいく。
海沿いに建設されているアーム城は、上陸後すぐに訪問可能なのだ。
しかし、勿論穏やかな航海で終わるはずもなく――
ゴォォォォォオオオオオ……!
遠くから大きなエンジン音と共に戦闘機らしき機影が接近。
このタイミングでわざわざ勇者軍の針路に乱入と
なると、
部外者である可能性は低い。敵か、味方かである。
「総員、コンディション・イエロー! いや、レッドだ!
勇者軍にあんな航空戦力があった覚えは無い!!」
コンラッドが的確に指示を飛ばす。
勇者軍一同も速やかに迎撃態勢を取る。
だが、正直分が悪い戦闘になるのは明白だった。
戦艦の対空砲はともかくにして、対空迎撃手段がロクに無い。
空を飛べる面子もジルベルト以外にいなければ、
射撃もルシアぐらいしか使えない。
爆雷を多数投下されれば撃沈の危険がある。
「…………!」
アズール・アーマーを展開し、飛行可能状態になるジルベルト。
すると、敵戦闘機の機種を確認出来た。
ザン共和王国民政部制式採用対地戦用戦闘機である、
ペットネーム『
ウィングマン』が4機、であった。
先程の『
ホークマン』と違って、うち3機は無人機のようだった。
コクピット・ブロックに生命反応が無いのが分かったからだ。
ならば有人機である1機を除き、手加減の必要は一切無かった。
ぼごんぼごんぼごんぼごん!!
既に『ウィングマン』からは爆雷の投下が始まっている。
弾幕やルシアの射撃で、ギリギリ凌いでいるが、
それでも近くの海面に着弾したり、少数命中したりと
結構悲惨な事態に陥っている。小破というところか。
「対空砲火、弾幕薄い! 弾薬を惜しむな!!」
コンラッドの檄が飛ぶと、本気の射撃が始まる。
その頃にはジルベルトの空中戦も始まり、
砲剣ストレンジバスターの砲撃で一機目を爆砕していた。
対空砲火と魔法射撃などにより、二機目、三機目と立て続けに撃墜。
一気に戦局は優位に傾いたが、依然として諦めない
有人機の存在が鬱陶しかった。爆死させるわけにもいかず、
手を出しあぐねていると、相手は調子に乗って
機銃で牽制を仕掛けてきたりして、ジルベルトは
装甲の厚さで何とか凌ぐしかなかったりするのだった。
「てぇぇぇぇぇぇぇぇい!!」
しかし、そこに空のスペシャリストである
フローベール=エルデナントと愛馬のペガサス、
ベアトリスが
味方の危機を知るや否や、全速で駆けつけた。
「フローベール!?」
防御に専念していたソニアが驚くが、フローベールは構わず、
突撃して『ウィングマン』のエンジンに槍を突き立てる。
「てやぁッ!」
大きくボディに切れ目を入れ、更にベアトリスが蹴飛ばすと、
鋸で切れ目を入れた角材が割れるように、敵機の一部が割れた。
「ちいッ!」
敵
パイロットは早々に諦め、コクピットブロックごと射出し、
速やかに脱出を済ませた事によって命拾いをした。
「白兵戦要員、速やかに確保だ!
陸地に上がり次第、このボケをそこらに放り出せ!」
コンラッドの指示によって、敵パイロットを捕縛した。
フローベールとベアトリスが着艦した。
「あの、隊長、いきなり押しかけてすみませんでした!」
フローベールが申し訳なさそうに言う。
(むしろいっぱい助かったのー)
と、さほど気にしてもいないジルベルト。
だが、フローベールは大慌てである。
「バスクがいい加減戻ってこないから、アーム城に
迎えに行ってみれば行方不明だっていうし、
その後何の情報もないし、困り果ててしまって……
お願いです、隊長! 情報何か持ってませんか!?」
「落ち着きなさい、フローベール」
と、ルシアが止める。
「私達も大した情報は持ってないわ。むしろそれから
結構な時間が経ってるからアーム城に行くべきじゃないかしら。
情報が更新されている可能性もあるかもしれないし、
何より今から私達もアーム城に行くんだから、ね。
だからフローベール。私達と一緒に各地を見て回りましょう?」
「わ、分かりました。こんな形で主力部隊入りなんて
予想もしてなかったですけど、バスクの事よろしくお願いします!」
ぺこり、とフローベールは挨拶する。
「一緒に戦うのは初めてですね、フローベールさん」
「よろしくお願いします、フローベールさん」
シルヴィアとリゼルも挨拶する。一応知り合い同士ではあるが、
こういうのも礼儀としては必要だろう。
こうしてコンラッドとフローベールを迎えた
勇者軍主力部隊一同は、通例ルートを大幅に無視し、
一気にアーム城最寄の陸地へと接岸に至るのだった。
立て続けに起こるトラブルに、不吉な予感は掻き消えぬまま――
最終更新:2011年07月16日 22:32