第二十三章-第一幕- 成長の兆し






勇者軍主力部隊は、海戦での危機を乗り越えて、
ようやく陸地まで到達する事が出来た。
あとはアーム城への訪問である。
戦力もだいぶ整う事になるだろう。それほどまでに
王女ユイナの存在はこの勇者軍では重要である。
それはさておき、勇者軍一同はアーム城に入る事が出来た。
とはいえ、流石にエルリックは連れて行けないので、
先代艦長であるカーティス=ワイズマンが船もろとも預かった状態だ。
ここからのコンラッドは、一般兵と変わりが無い存在となる。

「ユイナ姫ー! どこですかー!?」
フローベールが上がりこむなり、いきなりユイナ姫を探し回る。
「ど、どうしたんですか!? フローベールさん!? 皆さんも……」
ユイナ姫が姿を見せ、そして驚く。
「どうしたもこうしたもありません! バスクは!?
 安否は確認出来ているんですか!? ユイナ姫!」
姉なので当然だが、バスクが心配でたまらないフローベール。
ユイナ姫も心配そうな顔で応じる。
「たまたまシエルとジークさんが遭遇したところで
 行方不明になった、と連絡が入っています。
 シルヴィアさん達が出立した直後ぐらいのタイミングですね。
 ただし、生命反応は追えていて、生きているようですよ。
 もっとも現地の水害がひどく、
 まだ出てこられないようですけど……」
「そうですか……」
まず生きていると知ってホッとするフローベール。
「ああ、でもあの子すぐおなかとか空くから……
 最低限の非常食は持ってたと思うけど……心配です……
 せめてこの非常食袋を届けてあげられたら……」
と、凄まじいパンク具合を見せている非常食袋を取り出す。
むしろ内容量よりそれを詰めた技量を賞賛すべきか。

「それも大事ですが、すみません、ユイナ姫。
 アンノウン・ベビーに脱走されてしまいました……」
と、申し訳なさそうにリゼルが言う。
「脱走? シルヴィアさんに懐いていたのにですか?」
「ええ。それは間違いないんですが、いかんせん時期が悪過ぎました。
 敵の襲撃でダメージを受けて、逃亡してしまったんです。
 出来れば全世界規模での
 捜索網を立てておいて欲しいのですが……」
「分かりました。出来れば管理下に置いておきたいですからね。
 というより、敵とは、やはり例の『FSノア49』ですか?」
「えふえすのあふぉーてぃー?」
何のこっちゃ分からん、という顔をする一同の前で、リゼル一人が
「あ、敵がなんかそんな名前を言っていたような気がします。
 それって、例の円盤都市の名前か何かですか?」
「ですねー。ザン共和王国民政部が突如こう呼び出したので、
 仕方なく私達も準拠して呼ばせてもらってますけど。
 なんでそんなコードネームにしたのか、教えてくれなくて。
 正直、お母様の再交渉も難儀しているみたいです」
ユイナ姫もやれやれ、という顔をする。
とはいえ、いつまでも名称不明では締まりがないのも事実。
とりあえずその呼び名に総員が従う事にした。
ともあれ、敵はそのFSノア49だけではない。
「いや、もうなんか早速民政部からの嫌がらせっつーか
 妨害っての? そういうのが立て続けに来るのよね。
 とりあえず、ここに来るまでに二回は襲われたわね」
「二回もですか!? まずいですね……
 お母様の再交渉、上手くいっていないんですね……」
ソニアの文句に、更にユイナ姫は怪訝な顔をする。
(毎回撃退すればいいのー)
「あのね、ジル君。事はそう簡単でもないの」
と、子供をあやすようにユイナ姫が言う。
「レオンハルトおじ様もそうだけど、民政部には
 少なくとも六名の戦闘エキスパートが揃っているの。
 勇者軍よりも遥かに特異な戦闘能力の持ち主だから、
 甘く見ていると酷い目に遭わされるかもしれない。
 というよりまともな戦士はおじ様だけかも……」
ネイチャー・ファンダメンタルみたいに
 変な奴等がうじゃうじゃ出てくるっていうの?」
ルシアも気になるのか、訊いてくる。
「性格的にはまともな人達ですよ、政治家ですから。
 ただ純粋に能力が特殊な人達が多いらしいんです。
 私も知人が多いわけでもないから詳しくは無いですが……
 今までに類を見ない苦戦の仕方をするでしょうね。
 勇者軍としては当然、抵抗せざるを得ない立場ですけど、
 そうなると、彼等がもうすぐ出てくると推測されます」
「つまり、時は金なり、ですね?」
シルヴィアがなんとなく噛み合っていないまとめをするが、
大体伝わるので、気を利かせて黙っていてあげる一同であった。

「となれば、ユイナも行かねばならないでしょう」
と、後ろからイスティーム王が姿を見せる。
「ほら、既に荷物の支度はさせてあります。
 幻杖レプリアーツは持っていますね?」
「はい、お父様。きちんと持ってます」
と、家宝である幻杖レプリアーツを取り出す。
ストレンジャーソードに匹敵するスペシャル装備だ。
ほぼ全ての魔法や技をストックのキャパシティ分だけ吸収し、
任意に即時放出出来るという反則極まりない武装である。
「では、行って来て下さい。バスクの事も心配でしょう。
 今回は私が自ら、この城を守らせてもらいます。
 軍機で守られた部分も責任を持たないといけませんしね」
「はい、行って来ます。じゃあ行きましょう、皆さん」
ユイナ姫はむしろ乗り気で参戦してきた。
やはり、自らの手でバスクを探したいのだろう。
その想いは、むしろフローベールと並ぶところだった。
「必ずバスク君を探し出しましょう、フローベールさん」
「はい、必ず見つけ出してみます。待ってて、バスク!」
固い握手を交わす両者。

(ユイナ姫が加わってとっても頼もしいのー)
「……あれ? 隊長、思考送信ってそんなに明確に出来てたっけ?
 なんか以前よりずっと明確に隊長の声が聞こえる気がすんだけど。
 てかなんか隊長、目が変じゃねぇ?」
と、ここまで黙っていたコンラッドが疑問を示す。
確かに、ここしばらくの訓練のおかげで、
ジルベルトのテレパス能力は先鋭化し、思考を送る力も
より明確化してきた。それはサイキッカーとしての領域である。

しかし、そこまでくれば副作用も生じてくる。
副作用には個人差がある。ほとんど他人には区別の付かないものから
容姿があからさまに変わるものまで千差万別である。
参考までに、初代勇者軍メインメンバーセレナ=カレンの場合は
髪型が無作為に変わる、というワケの分からないものであった。
ジルベルトには……オッド・アイ化の兆候が見られる。
特に実害は無い模様であるが、見慣れないと違和感がある。
現実的には超能力使用中の合図である、と見なされているようだ。

「じゃあジル君、ひょっとしたらサイコキネシスが使えるかも。
 練習してみたら実戦でもいけるかもしれないわ」
と、ユイナ姫がボールを渡してくる。
(ん~~~~~)
ジルベルトが強くボールを意識すると、
ふいよふいよと、実にゆっくりだがボールが動き出す。
やはりジルベルトの能力には成長の兆しが見られた。
この不安材料だらけの戦局においては、数少ない希望であった。
「じゃあジル君は練習しながらでいいけど、行きましょう。
 とりあえず、レイリアさんとエイリアさんに出撃願わないと」
「メインメンバーが多い方が嬉しいからなぁ」
と、コンラッドも同意した。

こうして大方の方針は決まり、次の目標地点は妖精の森
目的はルスト家メンバーと合流の流れとなった――



最終更新:2011年07月30日 20:35