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第二十四章-第二幕- 野性の力






セシリアやライナスがそれぞれ各所で
すったもんだしている頃、ようやく勇者軍主力部隊は
妖精の森の中に進入していた。そのまま進んでいけば、
そう遠くないうちに妖精王の居城のある集落へ到着するだろう。
「しかしいつ来てもここは空気が美味しいわねぇ」
と、ソニア。ジルベルトを除けば、
唯一まともにここに来た事があるだけに、
その感慨はむしろ当然だと言えるだろう。
何だったらもうちょっと平和な時に来て、
小さい子等の遊び相手になってあげれば
楽しいかもしれない、などとソニアは思ったのであった。

「……ところで思ったんですけど、
 あれからFSノア49からの攻撃の報告も、
 まして発見報告さえ無いのはどうした事でしょう?」
と、リゼル。
「推論するに、まず一つ。最初の隊長の攻撃によるダメージが
 思いの外大きく、その修復に手間取っている場合、
 どこかに潜んでいる可能性があるでしょう」
シルヴィアは理論立てて推論を述べる。
アンノウン・ベビーと別れさせられた悲しみは、
ひとまず忘れてしまう事にしたようだ。
任務を終わらせてしまえば専念して探せるのは事実なので、
あながち間違った行動とは言い難い。まして組織人なら尚更である。
「もう一つはそれに加えて、私達の存在を感知し、
 高脅威度対象と認識し、軍備増強を図っている、あるいは
 単純に後回しにしようと狙っている場合。
 更にもう一つは完全撤退した場合ではないかと」
(どれが一番あり得ると思うー?)
ジルベルトが小首をかしげつつ(念話で)訊いてくる。
「一番目と、二番目の複合パターンではないかと見ますね」
冷静にシルヴィアは答えてきた。
物事は常に最悪の事態を想定して然るべきである。
軍事行動なら特にそうであった。

かさっ。
ほんの僅かではあるが、草むらが動いた。
一気に各員に緊張感が走る。
そこらで走ったり転がったりしていた猫も動きを止めた。
敵か、味方か。謎の存在がいる。
「まさか……ベビー?」
一瞬シルヴィアは怪訝に思ったがそんな訳はない。
遠く離れた大陸ではぐれてしまったのだ。
流石にここにいるというのは無理があるだろう。
「味方なのー!?」
珍しく大きな声で呼ばわるジルベルトだが、フローベールがいきなり
ジルベルトの首根っこを掴んで空中へ引っ張り上げた。
「何ボサッとしてるんですか隊長!!
 そんなにコソコソ忍び寄ってくる味方なんていません!
 ゼクウさんじゃないんですから!」
見れば、ジルベルトの立っていた位置には、
いつの間にやら、手斧が投げ込まれていた。
そのまま突っ立っていたら直撃コースだっただろう。
愛馬ベアトリスが気付かなかったら大怪我確定だった。
もっとも、フローベールの最後の一言は余計だが。
本人が聞いてたらお怒りは必至だっただろう。
(びっくりなのー)
ジルベルトもびっくりしたのか、辺りを見回す。
そもそもどこから投げ込まれたのかまったく分からない。
空を切る音もしなければ投げる音もしなかった。
何かが動く気配もしなければ、何がいるのかも分からない。
高位のニンジャに匹敵、あるいはそれ以上の擬態ぶりだ。
いや、擬態だけで言うなら明らかにニンジャより上だった。
もはや、対象が敵なのは確定である。

「にゃんにゃー!」
「リゼル君、来る!」
「はいッ!」
野生の勘を働かせ、敵の攻撃のタイミングを完全に読み、
猫達が各々鳴いたり、近くの者にしがみついたりする。
それに反応し、各員はどうにかこうにか攻撃を回避していた。
まず、敵の正体がまったく不明だ。不気味過ぎる。
こういう野生の勘を働かせないと勝てない戦いにおいては、
動物達の存在は圧倒的に重要であった。
特に動きの鈍いシルヴィアとリゼルは大助かりだ。
「どこ……!?」
これだけ時間をかけても敵の位置が特定出来ない。
ルシアは必死になって、狙撃手の目で敵を探索する。
ここにギースがいたならあるいは発見出来たかもしれないが、
どうにもこうにも分が悪いのは明らかだった。
「……ふぎゃーッ!」
どうやらこれまた野生の勘で気配を察知したのか、
一匹だけやたらと距離を取っていた様子のみたらしが、
凄まじい速度で後方四十メートルほどの茂みへ突っ込む。
「あいたたた! 何しやがる、こいつ!!」
蓮っ葉な女の声だ。どうやらそれが敵将らしい。

「でかしたわ、みたらし! おいで!」
ルシアがサムズアップでみたらしを賞賛する。
みたらしも攻撃されないうちに速攻で戻ってきた。
「ちぃっ、やっぱり動物の嗅覚相手には通用し辛いかねぇ!」
やたらと凝った擬態の外見だ。あそこまでいくと
もはや人間かどうかを識別するのに苦労するレベルだ。
双方手を出さなければ、間違いなくスルーしてしまうだろう。
「動物をたくさん連れているとは、着眼点がいい。
 流石はあの高名な勇者軍だよ。布陣に隙が無ぇな!」
誉めてるんだか怒ってるんだかよく分からないが、
どうにも乱暴な印象を受ける。
「名はフィアナ! フィアナ=マーベル!
 自然を好み、自然と共に生きるザン共和王国民政部所属の女さ!」
見つかったと見るや、潔く名乗り出るフィアナ。
「自然を好み……自然と共に……!?」
その言い方に少し引っ掛かったユイナ姫。
「まさか、あなたはネイチャー・ファンダメンタルの残党!?」
「そう勘繰る奴もいるけどね。残念ながら違うのさ。
 もっともそう言っても信じない奴も多いけど、ね」
自嘲気味に嘆息してみせるフィアナ。
もっとも擬態が完璧過ぎるせいで枯れ葉が動いているように見えるが。
「悪いが、このフィアナの管理区域内で好き勝手はさせないよ。
 大人しく民政部の作戦が完遂するまで、足止めされていてもらう!」
「あなたはあのFSノア49とかいうのを
 放置しておくのが、本当に正しいと思っているの!?」
ソニアが詰問すると、相手は律儀に答えてくる。
ただしまた新たな擬態の準備をしているようではあったが。
「放置しておくわけないじゃないか。アレは機を見て、
 必ず勇者軍より先に手を打たせてもらうまで!
 それも、より平和的な手段でね!」
「お笑い草ね。いきなり無差別攻撃しかける野蛮人相手に
 こっちが手加減してやれって? 冗談じゃないわよ!」
「そんな意見だから相容れないのさ! いいから大人しくしてな!」

再度擬態を完了させて姿が見えなくなったフィアナ。
今度は臭い消しでも使っているのか、より判別が難しくなり、
猫や馬達も、気配だけで察知しなければならなくなり、
より戦いのハードルが上がってしまった。
どうやらこういう自然区域は全て彼女の
ホームグラウンドと化してしまうようだ。条件が悪すぎる。

「アマゾネス、か……!」
リゼルは自らの知識から該当するクラスを遅れつつも理解した。
男性では『レンジャー』、女性では『アマゾネス』と呼ばれる
このクラスは、擬態能力を駆使して戦闘を展開する
異能者である。それも彼女は最上位クラスの相手のようだった。
「厄介ですよ、これは……!」
改めてまずリゼルが、そして残りが臨戦態勢に入った。

今までにいない種類の相手に、いつにない苦戦を
勇者軍は強いられざるを得ないのであった――



最終更新:2011年07月30日 22:02