第二十四章-第一幕- 真打、推参
勇者軍主力部隊は、
レオンハルト=サイクス率いる
ザン共和王国民政部騎士部隊を撃退し、
そのまま戦力増強を急ぐため、レイリアとエイリアを
合流させに行く事を通信で伝え、先を急いでいた。
一方、その頃の
ルスト家では――
「……どうにもこうにも厄介な事になってるみたいだねー」
と、
レイリア=ルストが呟いていた。
もちろん勇者軍主力部隊からの連絡事項を見ての事である。
「どうする、レイリア。やはり我々が出るべきだろうか?」
流石に真顔になって小芝居をやめるその妹のエイリア。
「そーだねー。ブルーノとマーカスもいるからねー。
お兄は出張で出張っちゃってるし、タイミングまずいよね」
と、もうすぐ昼寝から目覚めそうなブルーノ達を見て言う。
すると、そこにブルーノとマーカスの母親である
長女
セシリア=ルストが入室してきた。
「あんた達ばっかり激戦でも悪いわ。
特に今回のはただ事じゃないみたいだし、
いくらなんでも流石に――ね?」
そう言いながら、背中から古の天使
ニノンから受け取ったとされる、
家宝『二ノンの翼』を展開する。本気の危機に疼いているようだ。
「という風に、これも落ち着かないみたいだし、ね。
今回は休んで、この子達を預かっておきなさい」
「いいのかなあ――」
「姉さん一人で大丈夫だとでも言うつもりか?」
特に二人とも、母親が恋しい時期である。
無理に引き剥がす事が、果たして子供等のためになるのか……
レイリアとエイリアはそれを真っ先に危惧していたし、
セシリア一人を行かせる事も心配していた。
ブランクは長いし、戦闘もロクにこなしていない。
本当に珍しい事だが、この十数年、本当に母親に専念していたのだ。
そんな人を前線に出す事の不安感も大きかった。
「あっ、そうだ。リッシュ君に頼めばいいよ!!
そしたらあたし等も行けるから!」
と、レイリアは意気込む。
リッシュ=マクファーレン。妖精王セリナの夫たる人物だが、
相変わらず緊急時には便利屋として扱われる事も少なくなかった。
「駄目よ。せっかく男女差別を払拭したばっかりなのに、
そういう事をするとまた馬鹿な奴が調子に乗るだけ。
本当に必要な時は二人に応援を要請するから我慢して」
「……素朴な疑問だが、その本当に必要な時には
誰をこの子等のベビーシッターにするつもりだ?」
エイリアが困ったように訊いてくる。
「ん~………………ヴァレリウスとかハイトとか?」
かつての宿敵にして、今は勇者軍の同志だった。
まあ、微妙な人選だが、確かに出来ない事も無いだろう。
実際ブルーノの乳幼児期にはやっていたのだから。
「……でも、微妙だね……」
是非も無し、という感じでレイリアが嘆息した。
すると、そこでブルーノとマーカスが目を覚ました。
そして見たのは完全に戦闘モードの母親だ。
そもそも彼等も二ノンの翼の事は知っていたし、
それを展開した母親が何をしに行くのかも知っていた。
「やだー! 置いていっちゃやだー!!」
起きるなりいきなりびぃびぃ泣き出す子供達。
「しょ、しょうがないでしょ。
みんながピンチなのよ。勇者軍のみんなが!
仲間がピンチなら、優しい人はどうするの?
言ってごらんなさい、ブルーノ」
……すると、ぐずぐず泣きながらも嫌々返事する。
「……行って、守ってあげるの」
「そう、よく出来たわね。お母さんは今から、
その行って、守ってくるのをやってくるの。
レイリアとエイリアと、お留守番するの、いい?
マーカスも分かったかしら?」
「……分かったー」
「……うん……」
二人とも渋々、本当に嫌々ではあるが納得したようだ。
「じゃあ行ってくるから。サイモンには後で連絡しといてね」
「行ってらっしゃーい!」
「二人は任せておけー!」
妹二人の応援を得て、長女にして母親は旅立つ。
今は、自分の成すべき事。本当の危機への対処のために。
それほどの事態が起こっているのは、翼が教えてくれる。
泣き疲れてしまったのか、しばらくするとまた子供達は眠った。
「よしよーし」
「よしよし……」
レイリアとエイリアは必死に宥める。
「レイリア。もし本当にこれが
マキナ戦役より厄介な事態だとするなら、
私は、私なりの最終作戦を今、
メインメンバーとして提示したい。
本当の緊急時にはやむを得ないかもしれんのだからな」
「何、改まって?」
「……全メインメンバーと
サブメンバーの総動員だ。
退役総帥、退役元帥、現役総帥、現役元帥にもお出まし願う」
「ちょっ!?」
レイリアは露骨に慌てた。それは非常事態を指し示すからだ。
「しーっ! 子供等を起こすな。小声でだ」
「本気なの……? 退役して数十年の人達を前線に出す気?」
「個々の能力は問題ではない。この作戦、どう足掻いたところで、
最終決戦では士気の維持と高揚こそが勝負を分ける。
そこまでの戦いになる事を予期しておかねばならん」
「……仕方ないの、かなぁ」
改めてレイリアは嘆息した。
一方、もう一人の真打、
ライナス=ジーニアスは、
ヴェール・シティより離れた
ハイアード・タウンで、
軽傷と呼べる程度の負傷をしたリュミエルの治療に専念していた。
病院へ入院し、あと数日ほどで本格的に復帰出来るだろうとの事で、
彼は随分とマメに見舞いに来ていたりしたのだ。
「……マメねえ。とっとと前線に出ればいいのに。
私なんて置いてっても実害無いのに」
「そうはいかない。勇者軍は自衛互助組織だからね。
俺がいない間に襲われでもしたら助けた意味が無いだろ?」
「そりゃあ負傷したって連絡だけは入れたけどさあ……
主力部隊は今、戦力を求めてるのよ?
ライナスさんが行かなくてどうすんの?」
リュミエルはリュミエルでライナスに気を遣っている。
彼女なりに思うところがあったのかもしれない。
「どうせ勇者軍主力部隊の進軍コースにはこの町も入ってるだろうし、
ほどなく君も退院なんだ。二人で堂々と合流すればいい」
「……そりゃそうだけど」
なんとなくばつが悪い感じがした。
親父以外の男にこうも優しくされた事が無かったからだ。
もっとも近しいテディでさえ、ただのライバル関係である。
「まあ何と言ってもジルベルト君とは違った意味で
君は危なっかしそうだし、心配しといて損は無いよね」
「分かったわよ! 大人しくしとくから! だから黙って!」
照れ臭さから、リュミエルはつい怒鳴ってしまった。
「はいはい」
と、軽くライナスは受け流すだけであった。
平和なんだかややこしいんだかよく分からない光景が
各地で繰り広げられていくなか、勇者軍主力部隊は、
着実に
妖精の森の入り口へ差し掛かっていた――
最終更新:2012年08月24日 22:47