第二十八章-第三幕- 繚乱せよ、蹂躙せよ、暴露せよ






勇者軍主力部隊は、一旦旗艦である
レッド・ワイズマンMk-Ⅱへと乗船し、一路大海原へと出航。
一人船酔いで呻いているユイナ姫を放置したまま、
最終目標であるFSノア49を捜し求めて、
当てもない旅路へと出発する事になってしまった。
「…………ううぅ~」
相変わらず致命的に船に弱いユイナ姫が呻く。
「大丈夫?」
優しくバスクがさすってやったり、フローベールからもらった
酔い止め薬を飲ませてやったりしているが一向に良くならない。
「だ、め、そうですぅぅ……ぐっ」
今にも吐き出しそうである。
幻杖レプリアーツに酔い止めの魔法とか入れなかったの?」
「そんな魔法……ありませんものぐっ」
「吐かないで! 耐えて!」
慌ててまた背中をさすってやるバスクであった。

「……深刻ね」
その二人の光景を一瞥して、呆れ果てるシエル。
「お兄ちゃん。冗談抜きにどっかに上陸しないとマズくない?
 いざ敵が来ても、あれじゃあいつまでも戦えないわよ、彼女」
(そーかもー)
困り果ててしまうジルベルト。
「……ねぇ、あれ何?」
遠距離を遠く見つめて、セシリアがふと指差した。
「……あれは……戦闘機?」
ザン共和王国民政部の戦闘機やライディング・フレームだ。
しかも相当数の編隊である。こちらの妨害目的にしては大袈裟だ。
「まずい、海上で襲われたら流石に不利だ。迎撃態勢!」
コンラッドが指揮を執る。
「当たるとは思わんが、対空砲火準備! 副砲、スタンバイ!」
船員が慌しく準備を始めた。エルリックの面倒を見ていた
メイベルも、慌ててエルリックをカーティスへと渡した。
「コンディション・イエロー! 対空戦用意!」
と、コンラッドが宣言したところで、
民政部の戦闘機やライディング・フレームの大軍は
あっさりとこちらを無視して通過していった。
「……あれ?」
間抜けな声をあげて、ドルカスが拍子抜けする。

だが、戦闘は別の場所で始まっていた。
空中のあちこちで火線と火器が飛び交う。
ミサイル、機銃、爆雷、光学兵器と何でも有りだ。
時々流れ弾がこちらにも飛んでくるので、
それを防御するのに手一杯という有様である。
単純な空中戦力では、向こうに明らかな分がある。
だがその民政部が、一体何と戦っているのか。
正体はすぐに分かった。

光学迷彩反応を検知! 強制解除される模様です!」
リゼルが端末を見ながら言うと、間もなく、
あのFSノア49が迷彩を解除させられ、姿を見せた。
更に双方の砲撃が激しくなり、FSノア49側の被害も増すが、
どちらかというと民政部の方が消耗がより激しかった。
迷彩装置こそ完全に破壊したものの、敵の弾幕が厚すぎて、
まともな接近すらさせてもらえないのが現状である。
一機、また一機と撃墜されては脱出を繰り返す。
それでも民政部の航空部隊は懸命の攻勢を繰り返し、
敵の砲門を少しずつではあるが、削り潰していく。
「民政部に黙ってやらせておいていいのか!
 こちらからも何か攻撃出来んのか!?」
「無理です! 距離が遠すぎる上に、
 下手な発砲は民政部機への誤射を誘発します!」
船員が怒鳴り返してくるので、コンラッドは困るしか出来なかった。

やがて決着は着き、ほぼ全ての民政部機が撃墜、そして脱出。
残りの機体に回収され、やむなく戦線を放棄した。
FSノア49は未だ健在とはいえ、光学迷彩装置を破壊され、
黒い煙をもうもうとあげながら、近くの陸上、
ここからで言えば、アーム城からほどちかい遺跡である、
バレント遺跡方面へ向かって退却を開始していた。

「くそっ、あっちのが足が速いか!」
ギースが悪態をつくと、テディが前へ出る。
「俺に任せろ!」
彼が口笛を吹くと、たまたまそこら辺を飛んでいた
一羽のウミネコが飛翔し、こちらへ来た。
「悪いが、監視をしておいてくれ。頼むぞ!」
カメラをくくりつけると、ウミネコを解放。
ウミネコは真っ直ぐFSノア49方面へ飛んでいった。
これで詳細な位置が分かりやすくなったと言える。
万一見逃したとしても、光学迷彩装置の
修理前に攻勢をかけられれば、勝機はあると言えた。

「あんたのその能力、なんだかんだで便利よね、助かるわ」
ルシアが素直にテディを誉める。
「まったくだ。俺もよく助けられている」
と、テディも同意する。
そこへ、一機のライディング・フレームがやってきた。
いつぞやのカスタム機に乗った、メロウ=クミンであった。
何故か横に即席で取り付けたと思しきサイドシートには、
リルル=ブレッドまで搭乗していたりする。
「リルル、あれを」
「はい」
メロウの指示により、念動力で手紙を寄越してくるリルル。
――もとい、念動力使用時なので、シャルル。

「手紙?」
一番近かったのでキャッチしたフローベールが驚く。
この時代に手紙とは、なかなかにレトロな事である。
「確かに渡した。それじゃ」
とあっさり言い残してメロウとリルルは去って行った。
「見せて、フローベール!」
リュミエルが言うので、とりあえずフローベールは
ベアトリスから降りて、手紙を読んでみる。
『奴は姿を見せた。先に待っている――ヴェルファイア』
実に簡潔な内容の手紙だった。

「罠なのかしら?」
イシターがそう呟く。更に続けざまに素朴な疑問を口にした。
「……そもそも新入りの私が言うのもなんですし、
 ある程度の戦況は聞かされてきたつもりですけど……
 そもそも私達の妨害をする事に何の利点があるんですか?
 もっと言えば、なんで私達を妨害してるんですか?」
誰もが思っていたはずだが、戦っているうちに
いつの間にか忘れていた疑問。新入りならではの疑問だった。
「確かに妨害する意味がない。何より民政部の連中も
 ほぼ全力でFSノア49を攻撃していたからだ。
 そもそも即時攻撃に反対する立場を取っていたのは何故だ?
 一体、何故共闘を拒否する必要性がある。ワケが分からん」
「……無」
ヴァジェスと、ゼクウが同意する。
「あるいは私達以上に深い考えがあっての事なのかもしれない。
 だとしたら、私達はそれを確かめないわけにはいかない」
ソニアも改めて、決意を深めた。
それに同意した以上、取りうる道はただ一つであった。

「進路をあのウミネコの向いた方向へと向けろ!
 いい加減に民政部と決着を付けて、真相を聞き出す!
 恐らくだが、奴等は……何もかも知っているんだ!
 最大戦速、方位三時だ、手がかりを見失うな!!」
コンラッドの指示に、慌てて方位修正する船員達。

それから長々と追いかけた結果、丸一日後には
陸地に到達した。アーム城からやはりそれほど離れていない。
バレント遺跡方面に向かっている最中、
大きな熱源をレーダーが探知した。かなり遠くだ。
そこに、恐らくはいるのだろう。修理中のFSノア49が……
山岳と森林が邪魔になって見えないが、恐らく間違いないはずである。

物語はいよいよ最終局面へと突き進もうとしていた。
だが、勇者軍にはまだ試練の時が待っている――



最終更新:2011年09月17日 22:01