第一章-第二幕- 動乱、セート・タウン
アーム城城下街やゼン・ヴィレッジからだいぶ西に進み、
ロバートとエナは
セート・タウンと呼ばれる普通の街に到着した。
セート・タウンは主に農業拠点とベッドタウンとして機能しており、
ザン共和王国における重要な一大食料庫として機能している。
だが、そこに重点を置くあまりに治安は疎かになりがちであり、
最近ではしばしば営利誘拐などが発生しているとされる区域である。
とはいえ、昼間に出歩く分にはそう悪い場所ではない。
比較的のどかな光景に、さっそくロバートは癒されていた。
「ふぅ……悪くねぇ光景だ」
「あの、ロバートさん?」
「ん?」
「ここに立ち寄った目的とかはあるんですか?」
「特に無いな。強いて言うなら骨休めだ」
「でも、ここあんまり治安が良くないって……私、不安です。
何かに巻き込まれるんじゃないかって」
「いきなり不安がってどうするんだ。
勇者軍の一員としての自覚を持てよ。俺は持ちたくねーけど」
「そんな無茶な」
呆れ顔で資料をしまうエナ。
しかし話すべき事は決して少なくはなかった。
主にロバート側の事情だが、何故に一人旅をしているのか、
何故に追われているのかを教えてもらった。
「……つまり、ロバートさんはお尋ね者なんですか?」
「勇者軍の内輪の話だがな」
ニヤリ、とロバートは笑う。
「俺が怖いか?」
「いいえ」
気が弱い割には即答してくるエナ。
「ほう。何故だ?」
「怖かったら同行なんてしませんから」
「ふん、上手い事を言う。一本取られたな」
底意地の悪そうな笑みでエナを賞賛するロバートだった。
そんな事をつらつらと喋っているうちに、
時刻も遅くなり、夕日すら沈もうとしていた。
いよいよこのセート・タウンが危なくなってくる時刻である。
ならず者が闊歩し、そこかしこで人攫いの暴言が飛び交う。
何がしかの組織が絡んでいると見ており、
勇者軍の資料でも夜間のこの町は警戒リストの対象になっている。
「……いい星が出てるな。夜襲には遭いにくいだろう」
「いや、そんな物騒な喜び方をされましても……くちっ!」
苦笑するエナだったが、寒いのかくしゃみをする。
「寒いか?」
「ええ」
「使え」
なびきマントを手渡す。展開しなければ
周囲への迷惑になる事もないし、防寒用に使えるだろう。
「ありがとうございます。けれどいいんですか?」
「何がだ」
「ロバートさんは寒くないんですか?」
そのタイミングで、どこかから女性の悲鳴が聞こえた気がする。
エナは聞き漏らしているが、ロバートはその悲鳴を確実に聞いた。
「……心配要らん。どうやらむしろ身体を温めんといかんらしいからな」
そしてロバートは走り出す。新たなる反逆を促しに。
「あ、ちょっと! 待って下さい!」
エナは慌てて追うのだった。
「ちょっと、放しなさいよ!」
近所の住民なのだろう。明らかにならず者然とした連中が
数人がかりで女性を抑えつけて猿轡を噛ませようとしている。
身体は既に縄で拘束されているが、かろうじて足の自由は保っていた。
「大人しくしろ! お前はある場所に連れて行く!」
「やーっ、むーっ!!」
とうとう猿轡まで噛まされた。大声は出せない。
「よいしょっ」
ごがすっ!
横から音も無くロバートが割り込み、一人を叩き伏せる。
「なんだ手前ぇ!」
お決まりの台詞を聞きもせず、ロバートは二人目を叩き伏せた。
あと二人だ。物の数ではないと言える。
そもそもが弱いので尚更だ。
「俺の名前を訊きやがったな!?」
マントが無いのでしまらないが、銃を抜いて応じるロバート。
「風が吹くトコどこにでも! 現れ出ずるはこの俺よ!
華と喧嘩の漢道で、煽る騒ぐの悪行三昧!
動乱反逆ストレンジャーとは俺の事だ!!」
「要はお節介焼きかよ、引っ込めや!」
三人目を難なくいなしてから背負い投げで一発で仕留めた。
「おい、女!」
「むー!?」
ナイフを突きつけられているので
動けない女性に対してロバートは怒鳴る。
「お前はそのままでいるつもりか! 徹底的に抗い抜け!
人にはな、死んでもやらなければならない事と、
死んでもやってはいけない事があるんだ!
お前はどうしたい! 言葉は要らん、態度で示せ!」
その言葉に激昂した女性が、唯一自由になる足で、
めいっぱい男の足を踏み抜いてから、拘束を振りほどき、
縛られたままではあるものの、急所を蹴り飛ばした。
「ぬごぁッ!!」
「よし、いい反逆だ、こっちへ来い!」
そのタイミングでエナがようやく追いついてきた。
女性も救出し、今はロバートの後ろへ回っている。
「エナ、解放してやれ!」
「あ、はい。大丈夫ですか!?」
エナの手で女性の拘束がさっさと解かれていく。
「あ、ありがとう!」
「礼は要らん。お前の成した反逆だ!」
「はんぎゃく……? ま、まあいいわ。本当に助かったから!」
お礼を言う女性を軽くスルーしたロバートであった。
「素直じゃないんですから」
女性を助けたロバートに対し、苦笑するエナ。
「俺は反逆の申し子だ。かつて戦史に載っていた
カーティス=ワイズマンのように、な」
そう言って、未だ悶絶している四人を引きずり、並べる。
「最近この街を騒がせているのは貴様等のような誘拐犯か。
営利目的だけでやってるわけじゃなさそうだ。
元締めはどこの組織だ、答えろ」
めいっぱい脅しを効かせて言うロバートに、
四人は怯えているようであった。
「勘弁してくれ……そんな事喋ったら殺されちまうよぉ」
「言わんなら被害者達の近親者に引き渡す。どうなるかは知らんぞ」
まず殺されるだろう、という前提で喋っているが、
この脅しは殊更に効いたようであった。
「言う、言うよ! だからそれはやめてくれ!」
「言え」
「この街から三キロメートルほど
離れた林の中に研究施設が建ってるんだ。
非合法薬剤メーカーから、新薬の被験者としての
人体実験に使う人間を掻っ攫って来いっていう命令だったんだ!
ある程度人数が揃ってから始めるって話だったんで、
まだ実験自体は始まってないはずだよ! 本当だよ!」
聞いてもいない事をべらべら喋ってくれたので、
内心、ロバートは爆笑していたのだが、平静を装った。
「失せろ。そしてこんな事は二度とさせん。
何故なら明朝までにその研究組織は全損している」
「ひぃぃ!」
逃げ惑う男達を放置して、ロバートはまた歩き出す。
「いい反逆を見た。今の気分は悪くない」
「はあ……」
「行くぞ。このくだらない愚行を根こそぎ叩き潰す。
死にたくないなら貴様なりに動いてみせろ」
「は、はい!」
二人はぽつりぽつりと、破壊を振り撒きに行き始める。
謎の研究用建造物を目指して。
最終更新:2011年12月11日 00:46