第一章-第三幕- 禁忌の領域





ロバート達は、叩き伏せた誘拐犯から引き出した情報を元に、
セート・タウンから三キロほど離れた位置にあるとされる
林の中の研究施設へと到達した。
「あの……」
「何だ」
遠慮がちに語りかけてくるエナの言葉を軽く受けるロバート。
「作戦とかはあるんですか?」
「無い。強行突破でコントロールルームを叩き潰す」
「そ、そんな無茶な……」
「これぐれぇで怯んでたら話にならねぇ。遅れるな」
「あ、はい!」
勇み足のロバートに必死にエナが追いつこうとする。
衛兵らしき者がいたが、ロバートはお構いなしだ。
「つぇいッ!」
「なっ……ぐわ!」
どごす、ばきっ!
反撃態勢も取らせず、衛兵を叩き伏せる。
一方でエナもそこら辺にあった石ころを念動力で動かし、
更に衛兵三人を叩きのめしていたりする辺り、有能ではあった。
「このまま突破だ」
ばがんッ!
正門を叩き割り、ひたすら直進するロバートとエナ。

やってくる衛兵は根こそぎ叩き伏せて口封じをしつつ、
必要な情報は随時聞き出しながらそこかしこを歩く。
結構な広さではあるが、歩いて回れない事はない程度だ。
広さは小さめのショッピングモールぐらいだろうか。
階段らしき物を見つけたので、地下へ降りてみると、
老若男女、いるわいるわの拉致された人々である。
「ひぃぃぃ!」
よほどひどい拉致され方でもしたのだろうか、
軽くない怪我をしている者も多数いて、
ロバート達を見るなり、怯えだす。
だがロバートは慌てず騒がず、銃を抜いて発砲。
速やかに鍵を破壊して牢をこじ開けた。
「出ろ。命が惜しかったら早く失せることだ」
「た、助けてくれるのか?」
「自分の足で歩け、甘ったれるんじゃない。
 そんな迂闊さだから、そういう風に捕まる」
心当たりでもあるのか、誰も特に反論はしない。
「だが出て行く前に答えてもらう。俺達はここをぶっ潰すが、
 他に拉致された被害者は誰もいないのか?」
「い、いる! もう人数は集まったからって、
 さっき早速誰か女が連れて行かれてた!
 阻止するつもりなら早くしないと間に合わないぞ!」
「場所の特定……は無理か。急ぐぞ」
「はい!」
事ここに至ってはエナも躊躇してはいられない。
勝手に逃げていくついでに衛兵や拉致犯などを
ボコボコに叩いている民間人を放置して、
ロバートとエナはもう一名の被害者を探索しだした。

ずずん!

と、凄まじい振動が施設自体を襲う。爆発音だ。
あちこちで機器が火花を吹いており、施設自体の崩壊が危惧される。
「まずいな。奴等、自爆スイッチでも押したか!?」
「早くもう一人の人を探さないと!」
もう探していないのは研究設備とコントロールルームぐらいのものだ。
押収した地図を頼りに、研究設備を目指すのだった。

すると、槍を両手に暴れ周り、機器を破壊して
警備兵や施設の上役らしき人物やらを追いかけ、小突き回している
ロバートよりやや年上の女性らしき人物を確認した。
謎の槍の女性は、ロバート達に会うなり睨みつける。
「よくもやってくれたッスね! あんた達も関係者ッスか!?」
「違います!」
何故か異口同音に返答するロバートとエナ。
するとあっさりと敵意を解く。正直迂闊でもあったが、
一人でこれだけの暴力を振り撒いている辺り、只者ではなかった。
「じゃあこんな犯罪組織に何の用ッスか?」
「俺達ぁ……まあいい。ここの連中のやり口が気に食わないんで、
 わざわざぶっ潰しにやって来てやったんだ。無事で何よりだが」
「いや、そうでもないッスよ。薬で眠らされて、
 軍事用のジャミングナノマシンを注入されたみたいッス。
 あたしの意思で自由に操れるらしいとかってほざいたから、
 本当に操ってみたらここの機器が勝手に暴走したッス」
つまりこの施設崩壊は彼女のせいだったりした。
「って無事じゃねぇし! 生きてたのが不思議だなオイ!」
思わずロバートもツッコむ。
「とにかくこっから逃げるッスよ、物好きな人達!」
「お、おう!」
「きゃーッ!!」
彼女の言う撹乱用ナノマシンのせいだろうか、
周囲の機器が爆発し始めたりしている。
もはや脱出に一刻の猶予もならない状況だった。

で、脱出中。
「走れーッッ!!」
「はぁ、はぁ、はぁ!」
必死に走るロバートとエナに平然と並走する槍の女性。
「あ、あたしレオナっていうッス。よろしくッス」
「今ですか!?」
エナも思わずツッコんでしまった。

ずどーん!

どうやら自家発電の動力炉が爆発したらしい。
ものの見事に周囲一帯はクレーターと化している。
関係者は我が命こそ大事と、我先に逃げ出したりしていた。
もはやこの研究の再開は不可能だろう。
何はともあれ、決定的な被害者を一人許してしまったものの、
一応一件落着といっていい状態になった。
「で、あんた達は結局誰ッスか?」
「……ロバート=ストレンジャーだ」
エナ=ギャラガーです」
「ほえー、あんた達があの勇者軍ッスか。
 眼福眼福ッスよ。勇者軍には随分やんちゃな子がいるッスねー」
「……お前ほどじゃねぇよ」
幾分かげんなりしながら応じるロバート。
これならこの女性だけは助けなくても大丈夫だっただろうと思うと、
何とも言えない気分になった。が、反逆ぶりは悪くない、とも思った。
「どうせ孤児な上に拉致られて行く当てもないから、
 せっかくの機会だし、あたしも勇者軍に置いて欲しいっス。
 可愛いし、あたし潤い担当になるッスよー」
ピンク色のボブカットは確かに独特の愛嬌はあるが、
どちらかというとムードメーカーかな、と内心エナは思った。
流石に口に出すほど空気が読めないわけではないが……
「……まあいいだろう。俺と徒党を組むには
 いい反逆ぶりだったからな。名前を訊こう」
「レオナっていうッス」
「いや苗字は?」
「あたし、元々戸籍にも載ってない孤児っスもん。
 どうしても姓があるのがいいなら、
 ここの組織に付けられたコードネームを使ってやるッス」
「コードネーム?」
エナが訊き返してくると、何故かカッコ良さげなものを
披露するかのように、自慢気に宣言するレオナ。
レオナ=タブーフィールダーランスファイターやってるッスよ」
「タブーフィールダー……禁忌の領域の主、というところか」
「ナノマシンを操れるッスからね。イメージ悪いけど」
「上等だ。貴様もエナと共に勇者軍に組み込んでやる。
 ただし半ばお尋ね者なのは覚悟しておくんだな」
「こっちこそ上等ッス。名目上助けに来てもらってるし、
 あんたのために戦ってやるッスよ」
と、何故か嬉しそうに語るレオナ。
よほど徒党を組む相手が出来たのが嬉しかったららしい。

「で、これからどうするッスか?」
「まずはしばらく、セート・タウンでの滞在を続ける。
 ことの顛末が無事に進むか見届けておきたいからな。
 しゃしゃり出た以上は、ある程度の責任が生じる。
 もっとも……誉められる事はした覚えがあるが、
 今回に限っては責められる事をした覚えは無いぞ」
「ええ……まあ。あ、朝日ですよ」
本当に明朝までに決着が着いたようだった。
「もう寒くもなかろう。マントを返せ」
「あんっ」
やや乱暴にマントを毟り取るロバート。
その勢いにエナはよろけるが、
一見乱暴に見えても、しっかり支える辺り、
ロバートの本性が隠れているように、エナには思えた。
「……ウォルフ達に俺を追う動きがまったく無いのも気になる。
 どのみちセート・タウンで情報が集められるのなら、
 それに越した事は無いはずだ。行くぞ、二人とも」
「はい、行きましょう」
「おうっ!」

三人になったロバートの反逆集団は、
士気も高まり、一旦、ただの農業地帯へと戻った
平和なセート・タウンへ戻っていくのだった。
一方、ウォルフ王子の住むアーム城には
新たなる脅威が接近しつつあるとも知らずに……



第二章-第一幕-へ続く>
最終更新:2011年12月10日 20:46