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第十二章-第三幕- グロフィス





「あれは、俺が妖精の森に戻った直後だった。
 我が妻フォルテシアの元に戻るや否や、
 家族ぐるみの大騒ぎになったんだ……」
エリックは、自らの目に映った事実を淡々と語り始めた。

エリックは家族の無事の是非を確認するため、
妖精の森に戻っていた。家に戻るなり、大慌ての妻がいた。
「あなた……ちょうど良かったわ!」
「どうした、フォルテ!?」
「ゼブリーズとジュスティヌはここにいるの。
 でも、グロフィスがいないの、どこにも!
 まだあの子は満足にウロウロ出来る子でもないのに……!」
「しまった、誘拐か!?」
エリックは様々な可能性を考慮した。
拉致された、一人で出歩いた、何かの事情で誰かに保護された、
もっとも確率でありそうなのは拉致である。
ただ出歩くのが不可能、とまではいいきれなかった。
ハイハイで歩く事は出来たし、立つ事も一応は出来る。
妻の発言は若干過保護意識に過ぎると言っても良かった。
が、それ以上に危険な可能性が頭をよぎる。
「落ち着け、フォルテ! 端末で熱源探知!
 対象を人間サイズに絞り込んで、無制限探索!」
「え、ええ!」
すると、村から少し離れた位置に不自然な熱源。
明らかに子供のそれであった。
「いたわ! そう遠くない!!」
「よし、俺が行って来る! あとの二人の子は任せた!」
エリックは焦燥に駆られ、ただ駆けた。
最悪の可能性を必死に感情の中で否定しながら、
最悪の可能性を理性で否定しないように気をつけながら。

七分後、エリックは長男グロフィスを発見した。
気を失っているようである。
「無事だったか! 起きろ、ロフ!」
「パパ……?」
自分の知っているグロフィスよりはっきりと、
言葉を喋り、すぐに抱きついてくる。
その態度に、エリックはやはりかすかな違和感を感じた。
(このように鮮明に喋ったところを見たことが……俺は無い。
 恐らくフォルテもそう言うだろう。だが子供の成長というものを
 頭から否定して、イグジスターだと断定していいものだろうか?
 もし斬り捨てたりして、この子が本物だった場合には……!
 ええい、今は考えるな! 俺が警戒していれば
 いいだけの話だろうが!)
エリックは理性をもって、グロフィスを抱き上げた。
「ねむい……」
起こされたことに不満でもあったのか、グロフィスはまた眠りそうだ。
「よしよし、よく無事だったな。さあ、ママの所に帰ろう」
「うん……」
そしてグロフィスは眠ってしまった。
その表情に邪気も害意も悪意も何も無い。
やはり杞憂である、との感情と、不自然である、との理性が
ジレンマとなって、自然とエリックの足を早めた。

「フォルテ、ロフが見つかったぞ!」
「あなた……良かった……」
「いや、ひょっとすると拉致や殺害より悪い事態かもしれん。
 フォルテ、覚悟を決めろ。勇者軍の者として。
 アンティウス家の女として、ルスト家の妻としてだ」
「あなた……?」
そう言うと、エリックは寝ているはずのグロフィスを
密室に隔離し、完全に外から手を出せないようにした。
「俺が前の戦争で戦ったイグジスターは知っているな?
 報告書もあるし、映像も残っているぐらいだ」
「あの、黒いゲル状の物体で、人の身体を丸呑みにし、
 対象に擬態し、人間社会に入り込むという……まさか!?」
「確定情報ではないが、ロフの態度が明らかに不自然だ。
 ついこないだまで舌足らずなしゃべりしか出来ず、
 よたよた立つのが精一杯だったロフが、
 急にはっきり喋りだし、機敏に立ち、俺に抱きついた。
 不自然にも程がある。それが一般人に気付かない程度の
 差異だったとしても、俺の目は欺けない。だとしたら、俺は……
 ゼブリーズとジュスティヌを同じ目に遭わせるわけにはいかん。
 フォルテ。もう一度言うが、もしそうだった場合の覚悟は決めろ。
 そして君の力で、イグジスターを一匹たりとも寄せつけるな」
「グロフィス……!」
無念の表情で涙をこぼすフォルテシア。それはエリックも同じだった。
「……だが確証は無い。そこで俺は
 グロフィスを王子の元へ連れて行き、
 何事も無く、いずれ作られるイグジスター識別装置を
 難なくスルーしてくれればいい、と俺は願う。
 だが、もし奴がイグジスターであれば、
 皆の力を借りなければ、止める事は出来ないかもしれん。
 だから俺は、すぐにグロフィスを連れて、アーム城へ向かう。
 いいな、フォルテシア。俺達の子を何としても……守り抜いてくれ。
 これ以上勇者軍からは誰一人として犠牲者は出させない。
 俺が、ネイが、王子が、ロバートが、そして皆の力がそうさせん!」
「任せて、いざとなったら総帥の所へ逃げるから!」
「そうしてくれ……では行って来る!」
エリックはそう言うや否や、グロフィスを抱いて出て行った。
そしてフォルテシアはその夫を省みなかった。
すぐに全力で我が残り二人の子を守り抜くために動き始めたのだ。

そこで、エリックの回想は終わった。
「……そういうわけで、今俺の手に抱かれて寝ているのが、
 グロフィス……かもしれない生き物だ。
 イグジスターである可能性が高い」
「彼を主力部隊に同行させて泳がせようというのですね?
 識別装置が出来るまで、最大限の警戒をしながら、
 暖かく見守るという残酷な仕事を皆にさせようと?」
「勝手なのは知っている! 王子!
 だが俺は親としてそうする以外の術を知らん!」
「誰も責めてはいません、ですが我々は拉致されたロブを
 可及的速やかに捜索するという任務を帯びています。
 また、周囲の警戒も必要です。なのでこの子の監視は
 一般のソルジャーには任せられません。サブメンバーの人手を集め、
 可能な限り勇者軍メンバーにやらせなくてはいけませんね」
「わ、私も手伝います!」
エナも覚悟を決めて承諾する。ロバートを助けてもらうのだ。
自らも為すべき事を為さねばならない、という覚悟である。
「すまない、エナ、頼むぞ……!」
エリックはエナに頭を下げた。

「しかし、ロブを拉致した敵の正体が不明なのが不気味です。
 何かを要求するわけでもなく、こちらに発覚するのを
 恐れているかのように沈黙を保っています。
 だとしたら、彼等が困る事をしてやればいいのです。
 既にそのために、クロカゲさんを送り込んでいます。
 しばらくは静観するしかありませんが、必ず事態は動きます。
 我々は厳戒態勢を密に敷き、城下街への
 イグジスターの侵入を限界ギリギリまで防ぎましょう」
課題と悩みの増えたウォルフ王子が苦々しげに言う。
「ロブが拉致されたというのが引っかかる。
 数で押さえ込まれたにしては目立たな過ぎる点が特にな。
 あるいは、奴と互角以上の使い手でもいたのか、
 そうでなければロブが本気を出せなかったのか……」
エリックもまたロバートの敗北に疑問を抱いた。
その解決の糸口を握る男、クロカゲは今、闇に踊る。
そして、情報を集めるべく、東奔西走していた。



最終更新:2012年03月19日 20:56