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第十三章-第一幕- 反逆が目を覚ます





エナが駆け込み、エリックが苦悩していた頃、
魔神王教団に仮入信し、幹部候補生となった
ロバート=ストレンジャーは、幹部である
教皇親衛隊長イノ=ヘレティックの案内を受けていた。
「……宗教集団だって言うから、俺はてっきり
 定期的に祈りを捧げたりとか、教本を読んだりすんのかと思ったが」
ロバートはひとしきり施設の中身を見て回ったが、
特に目についたのは教室らしき部屋ぐらいであった。
あとは居住区や電算室が大半で、
およそ宗教結社という印象からは程遠い。
「魔神王教団唯一の教義は魔神王復活の積極的促進と、
 復活後の被支配を受ける事。そのためだけの組織よ。
 それとも、銅像や焚き火をする場所でもあると思ったの?」
「おう、思ってた」
景気良く笑うロバート。
「そんな事したら目立つでしょ? いくら地下に施設を作っても
 そういう事したら、外部にバレてしまうわ……」
「バレるのが怖いって事はやましい事してる自覚はあんだな?」
「!」
ズバリと指摘するロバートに、イノはびっくりする。
まるで初めてその事実に気付いたかのように。
「な、何言ってるの? わ、私は教皇に育てられて……
 そ、その恩返しをしないといけなくて、だから……!」
「嘘だな。貴様の心がそれを望んでいない。
 自らの心の向くモノを吐き出せ。
 それが貴様のためになるだろう」
「……! そうやってからかって……嫌いよ!」
顔を真赤にして否定する。それしか知らないからだ。
「そうかい。まあこれからしばらく世話になるんだ。
 ま、仲良くやろうや……ククク……」
含み笑いをしてイノの頭を撫でる。
これではどちらが先輩か分かったものではない。

そして二人で歩いていると、一枚のドアが見えた。
「お、ここは案内してもらってねぇ……な?」
違和感にすぐロバートは黙る。
鼻を動かし、匂いを嗅ぐ。
ロバートは、ドアを開けようとするが、イノが制止する。
「開けない方がいい。私は慣れてるけど、
 今のあなたが見たら正気を失いかねない。
 幹部候補生になるあなたは、そんな目に遭わせられない」
「開けなくたって分かるに決まってるだろうが……!
 これは血の匂い……何の血かも大体分かる……!!」
ロバートはイノの胸ぐらを掴み上げ、
血走った目でイノを睨み据える。
「言え……ここには何人分の死体がある?
 これは貴様がやったのか!」
「数えられない。多すぎるもの。
 知っているのは定期的に増えたり減ったりするという事だけ。
 それに詳しく知らない方がいい。そうなれば私は、
 あなたを全力で押さえ込まなければならなくなる。
 お願いだから、私にそれをさせないで。
 あと、この仕事は私の管轄外なの……」
「……そうかよ」
それだけ言うと、ロバートはイノを降ろした。

ロバートは降って早々、ここに至って早くも決心した。
イノはまだ正気だ。彼女をこの教団から引き剥がして
保護する必要性が、何としてでも、ある。
この狂気の場所で、かろうじて正気を保っている彼女を
そのままにしておいていい理由は何一つ無かった。
ロバートは隙を見て脱走するだけのつもりだったが、
彼女を巻き込んで、となると難易度が大幅に跳ね上がる。
しばらく様子を見なくてはならないだろう。
彼女を説得するにも時間がかかりそうだ。
色々と熟考し、ロバートは押し黙ってしまった。

(イノ=ヘレティック。こいつはここにいちゃいけねぇ。
 外の世界を知り、ここから離れなきゃいけねぇ存在だ。
 そのためには反逆だ、反逆しかねぇんだ……!!)
反逆の息吹を吐く男が覚醒しつつあった。
絶対反逆の精神が目を覚ましつつあったのだ。
だが、さりげなくも、他者から見たらあからさまに
イノを糾弾するロバートに対し、殺意が向けられている事に、
迂闊にもロバート本人は気が付いていなかった。

物陰では、息を荒げつつ武器を構えている少女が一人。
魔神王教団の内部粛清の渦が、ロバートを巻き込もうとしていた。
「反逆容疑者…………死ね!」
物陰より躍り出るサキ=ボラッシュ。
「危ない!」
「うおッ!?」
どんッ!
鎌による一撃が叩き込まれる前に、イノはロバートを突き飛ばし、
何とか両者とも難を逃れた。

「ってぇ……何すんだオラぁッ!」
ロバートはイノを押しのけ、銃を抜き応戦の構えを取った。
サキもまた、鎌を構えて、いつでも飛びかかれる態勢に入った。
一触即発の雰囲気が、イノにプレッシャーを与えつつあった……



最終更新:2012年03月19日 20:58