第十二章-第二幕- 煽られる不安(後編)
勇者軍が、いや全世界がウォルフ王子主導のもとに、
対
イグジスター殲滅作戦の下準備にとりかかっていた頃、
エナ=ギャラガーはいつまで経っても
迎えに来てくれないロバートを心配し、
とりあえず
アーム城に来ていないか、尋ねてみる事にした。
戦闘能力の無い両親は既にアーム城に避難する準備をしていた。
後は両親と一緒に家を出て、向かうだけである。
彼女達は勇者軍関係者である。シェルターに入るわけにはいかない。
何より恩人であるロバートがどんな目に遭っているかも分からず、
安穏としておくことだけは、エナには許容出来なかった。
「よし、用意出来たぞ、エナ!」
「急ぎましょう、さあ!」
「気を付けてね、お父さん! お母さん!
市民が少なくなった今、あの黒い敵が、どこに隙を見つけて
市街地に入ってきていないとも限らないわ……
戦闘になった時は、私に任せて、逃げて!」
「お前に戦えるほどの胆力と力が備わったのは嬉しいが、
無理はするな。親は私達で、娘はお前なんだ」
「分かってる。無理だと判断したら私だって逃げるから……」
油断は一切せず、速やかに走り出すギャラガー一家。
市街地からは速やかに脱しつつあったが、
その刹那、物陰からイグジスターの一匹が家族を襲う。
「きゃあッ!」
エナの母親狙いだ。父親が身を挺して突き飛ばす。
その勢いのまま、父親も第一撃を回避してのけた。
「お父さん、お母さん!」
エナが、
サイキッカーに使用を許された念動干渉円剣、
ソーサーを十枚ほど一気に射出する。
前の戦いで実は誤解から上司に破壊されてしまったが、
公費で弁償してもらっており、慣らしもばっちりだった。
「ロバートさん達がいないもの……私が、やる!」
ずばしゅっ!! ざしゅっ!
ソーサーをフェイント交じりに動かし、
瞬時にイグジスターを斬り捨ててのけた。
イグジスターは不気味な音を立てて消えていく。
何者も吸収していないイグジスターが単体で来たところで、
もはやエナの敵ではなかったようである。
「さあ、アーム城はすぐよ、急いで、二人共!」
「ああ、助かったよ……急ごう」
エナが全方位を警戒しながら殿を務め、
これ以上の敵勢力がいない事を確認して城へ入る。
どうやら先程のイグジスターはたまたま群れからはぐれた一匹らしい。
幸いにして、それ以上の増援も来る気配は無かった。
もっとも、既に擬態が終わっていたなら話は別だが……
「ウォルフ王子、お父さんとお母さんの保護をお願いします!」
入るなり、いきなりウォルフ王子を呼ぶエナ。
「分かっていますよ。やはり待ちきれずに来ましたね」
と、ウォルフ王子は微笑む。
「ロバートさんは!? ロバートさんはまだですか!?」
「落ち着いて下さい。先刻、ロブが襲撃されたとの情報が。
オートタクシーが一台破壊され、ロブの私物が確認されました」
「オートタクシーが!? ロバートさんは逃げたんですか?」
「いえ、応答がまったくありませんので、殺害されたか……
じゃないですね。むしろ拉致された確率の方が高いでしょう。
すんなりロブを殺害出来る人間がそういるとは思えないでしょうし、
殺したなら殺したで、こんな露骨な証拠を残すはずありません」
「拉致……! 大変! 救助に行かないと!」
「待った!」
慌てるエナを引き止めようとするが間に合わない。
と思ったら、彼女のポケットから猫が顔を出して彼女の手を噛む。
「痛ッ!」
クロアシネコのポメ。彼女の愛猫である。
彼もまた状況を正確に把握し、必死に制止したのだ。
「どうして止めるの、ポメ!?」
「ふぎゃーっ!」
「やれやれ……エナさん、あなたよりポメの方が冷静ですね。
むしろ、敵を泳がせて尻尾を出すのを待とうとしていたのに」
「泳がせる?」
「誰を捕らえて人質なり利用なりしようとしているとお思いで?
敵が誰かは知りませんが、人類史上最強の私設軍筆頭にして、
勇気と、技と、機智との象徴、絶対勝利の勇者にして
絶対反逆の男、
ロバート=ストレンジャーですよ?
一時的に捕らえたところで、本当に彼を屈服させ得る者が、
この世に本気で存在すると思っておいでで?
むしろ彼を利用して、敵の正体を暴きます」
「でも、それではロバートさんに対してあんまりです!
彼だって人間だし、怒りもすれば悲しみもします!!
何の手も差し伸べないというおつもりですか!?」
「誰もそんな事言ってません。ただ、適材適所で」
ぱちん、と王子が指を鳴らすと、エナの背後から
鬼瓦のような仮面を着けた
ニンジャが姿を現した。
「クロカゲさん!?」
「そうだ……」
神出鬼没のフレックスタイムニンジャ、
ホムラ=クロカゲである。
相変わらずの片言な上、容貌がすこぶる怖い。
「情報収集と、ロバートの捜索。特別報酬待遇で任せたいのですが?」
「分かった……!」
それだけ言うと、クロカゲは速やかに消え失せた。
「エナさん、あなたは一つ勘違いをしておいでですね。
ロブを助けるのがあなたの役目ではない。
ロブが帰る場所を守る事が今のあなたの仕事です。
今は私と一緒に、ロブが帰る場所を死ぬ気で守りましょう」
「わ……分かりました!」
敬礼するエナ。
ようやく場が落ち着いたかと思った瞬間、
今度は
ルスト家の、
エリック=ルストが飛び込んできた。
「王子……話がある。エナもいいか?」
何やら沈痛な面持ちである。
「……察するに、近しい者が既にイグジスターに襲われていた、
とでも言いたいのでしょうか、エリックさん」
「そんな所かもしれん。確証は持てんが……覚悟はしている」
苦々しげな口調で呟くエリック。
「……話を聞きましょう」
「ああ。事は
メインメンバーの存続に関わるレベルだ。
ロバートの事は先程、部下から
聞かせてもらったが……それとは別にな」
エリックはぽつりぽつりと、自らが見た物について語り始めた。
それは、更なる悲劇の幕開けに他ならない出来事だった――
最終更新:2012年03月11日 21:11