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第十四章-第二幕- 闇に踊る黒き焔影





ロバートはソルとターレットに即座に袋叩きにされ、
独房に放り込まれてしまった。それを心配するイノの心は揺らぎ、
監視役と称して彼の面倒を見ようとまで思い切ってしまい、
それは、エッセ教皇にとって危険な兆候となっていた。
彼の処刑の手が、遂にロバートに伸びようとしていた。
「うぐっ……!」
ロバートは独房の中で猿轡を噛まされ、更にぐるぐる巻きにされ、
適当に放り込まれていた。おおよそ人道的な扱いではない。
が、こうでもしなければ押さえ込めないというソルの推測は
まったく正しく、実に適切な処置と言わざるを得なかった。
ターレットも消極的にではあるが、賛成している。

檻の中でもはや我慢の限界に達したロバートは、
リールを引きちぎろうとするが、硬質のリールは
いくらロバートの力を持っても切れるものではない。
何故ならロバートの力が強ければ強いほどより食い込み、
皮を、肉を、そして骨を切断してしまうからだった。
激痛に呻き、ようやく大人しくなるロバート。
まったくもって頭が下がるほどの反逆ぶりである。
「ロバート……!」
そこへ心配したイノがこっそりやってきた。
手にはナイフだ。ロバートは思わず警戒したが……
「動かないで、怪我をする」
ぶつり!とリールを速やかに切断し、
更に寸分の違いなく、ロバートに一切の傷を付けずに、
猿轡を破壊してのけた。得意武器でもないのに見事であった。
「おう、助かったぜ……苦しくてしょうがねぇ。
 この恩も一回に数えた方がいいか?」
いちいち律儀に問うロバートに苦笑しつつも、
真剣にイノは一つの決断を下していた。
「いいえ、ノーカウントよ。それよりあなたをここから出す。
 あなたは、ここにいてはいけない人。ただ、それだけよ。
 同時に、いつまでも私もここにいてはいけない気がする。
 ここにいるのは本当の自分なんかじゃない。
 私も真に自由に生きてみたい。だから、抜ける。
 あなたさえよければ、共に出ましょう、ロバート」
「よく言った……!」
子供が見たら失神しそうなほど邪悪な笑いを浮かべて、
ロバートは立ち上がった。
「俺の反逆が貴様に伝染したらしいな。
 体制に阿る事もなく、ただ自由の時を貪り食らう。
 その貪欲な姿勢、勇者軍にスカウトしてやってもいいぜ」
「私の求める自由は勇者軍にも無い。
 自分の自由だもの。自分で決める」
「ますます気に入ったぜ……! 弟子に欲しいぐらいだ」
「そんなのは後。今はこれを」

がちゃり。

イノは奪われたロバートの手甲と銃を返却した。
「おい、ついでに剣はくれねぇのか?」
「見張りの隙を付いて奪ってこれたのはこれだけよ」
「ちっ……剣無しでここを脱獄出来るか……?」
「やってみるだけよ」
イノの手によって独房の鍵が開き、ロバートは外に出る。

ふぃーん! ふぃーん! ふぃーん!

サイレンだ。既に発覚してしまったのだろう。
「最短脱出路で頼む、イノ!」
「ええ!」
イノも武器を手に取った。自由への戦いの始まりだ。
独房を出て大きくダッシュ。普段エッセ教皇に謁見する
広い部屋をそのまま通過。しばらく通路を走ると、
いつぞや見た血の匂いのする部屋も通過する。
犠牲者達には気の毒だが、祈っている暇も無い。
「いたぞ!!」
多くの魔神王教団信者達が各々、武装して出てくる。
ロバートは初見だが、彼らが一般信者なのだ。
「魔神王『元』教団親衛隊長、イノ=ヘレティックが命ずる!
 私達は抜けさせてもらう。下がりなさい!」
「要は裏切り者の戯言だろうが! 捕らえさせてもらうぞ!
 そっちの男には処刑宣告がさっき出た、すぐ死ね!!
 そして豊潤なる大地の養分と化し、魔神王様復活の贄となれ!」
一方的に言い放って信者達が襲い来る。

「おらぁッ!」
ロバートは銃を乱射して二、三人を瞬く間に射殺する。
ここまで好き勝手してきた連中に手加減は必要無いだろう。
まして味方に付く気が無いなら尚更の事だった。
何より手加減していては、自分達が死にかねないのだ。
しかし手持ちの残弾は少なく、すぐにただの鉄器と化す。
武装を手甲に切り替え、殴りかかろうとする。
しかしイノはそれより早く斧の刃を取り外し、
柄を砲身にして砲撃を始める。

ずぼどぉぉぉぉぉん!

弾頭が爆散し、より多くの信者達が薙ぎ散らされる。
「私を誰だと思っているの? イノ=ヘレティックよ。
 私の元部下だったあなた達が、私の腕を知らないとは言わせない」
「負けるな! 数で押し込め!」
どこからそんなに湧いて出るのか、続々と集まる兵士達。
とは言え所詮二百人にも満たない。
一騎当千たるロバートには勝てない。
ただし、ロバートは本来の実力を半分も出せていないが。

四分後、全ての敵信者は沈黙し、倒れていた。
ロバートが本調子でないせいか、随分と手間がかかった。
息も荒く、無駄に動きすぎのせいでスタミナに懸念が残る。
「生きてる、ロバート?」
「ぜはぁ……はぁ……はぁ……なんとかな。
 だが随分なハンディキャップマッチだ。
 流石にこれ以上は自信が持てんかもしれん」
「まだまだ区画一つを抜けたばかりよ。大体分かるでしょ?」
「ああ……!」
だが、焦燥感ばかりがつのり、スタミナ回復に結びつかない。
まずい兆候でしかない。ロバートも自覚しているがどうにもならない。
ほんのわずか、諦めがよぎり、頭を下げてしまう。

ぼばぁッ!

だが、そこに炎と黒煙を巻き上げ、天井に逆さに立ったニンジャが
ド派手に、しかし無言で姿を現した。
「隊長……生きていた……!」
「クロカゲか!? どうやってここを!?」
ロバートは本気で驚いた。今の今まで救出の素振りさえ無かったのに、
ここに来て頼りになる増援が現れたのだ。
「我……伝える……更なる増援……呼ぶ! 王子に頼まれた……!」
相変わらずの片言で不器用に用事を伝えるクロカゲ。
「そして……今……これ……渡す! 総帥から……頼まれた……!
 今は……これで……凌げ! 我、急ぐ! 焔の黒影、駆ける!!」
クロカゲは一振りの剣を渡すと、その場から消えた。
「あ、あれは何?」
「俺の部下だ。フレックスタイム制勤務のニンジャでな」
「……随分と横着なニンジャもいたものね」
「だが、ありがたい……!」
ロバートはクロカゲから託された剣を受け取った。
抜くと、暖かい光を放つレイピアが、持ち主を求めるように輝く。
「これは母の剣か……! いいだろう!!」
特別にチューニングされた持ち主に加護を送り、
身体を癒し、守るという斬撃特化型のへヴィレイピア、その名も、
『エンジェルランプ』がロバートの手に握られた。
ちなみにネーミングは母親、ネイのセンスらしい。
彼の花の花言葉は『あなたを守りたい』だからだろうか。
良くも悪くも母の愛情を感じたロバートは、
照れ臭さと同時に、心強さというものを知った。

「いい剣だ」
持っているだけで力が湧いてくる。ストレンジャーソードが
本来在るべき愛剣でなくば、メイン・ウェポンにしたいほどだが、
そのネーミングと自分の性質の合わなさに、彼は珍しく苦笑する。
「そうね。近付くだけで私も癒される」
実際に癒されている事も気付かず、二人は刹那、安穏とするが、
気を引き締めなおして、脱出のために二人は歩く。
「ここからが長いわ。隔壁も下ろされているかもしれない。
 いちいち破壊して回っていては非効率的かもね。
 出来れば、コントロールルームを押さえたい」
「そうだな……今なら誰が来ても負ける気がしねぇ。行くぞ」
「ええ!」
せっかく回復した体力を無駄に浪費しないために、
出来るだけ無駄に使わないために隠密行動に切り替え、
二人は不本意ながら、足止めを余儀なくされたのだった。

だが二人は気付いていない。自らの関係無い所、関係ある所、
いずれにも関わらず事態が拡大し始めている事を――



最終更新:2014年09月07日 01:36