第十四章-第三幕- 真なる危機を理解せし者
ロバートとイノは隔壁のコントロールを掌握すべく、
施設内のコントロールルームへと向かうルートへ切り替え、
聖剣『
エンジェルランプ』の治癒能力を当てに、
持久戦へと作戦を切り替えたのであった。
「……そっちに気配は?」
「無さそうね」
小声でひそひそ話をするロバートとイノ。
兎にも角にも立地に関してはここで育ってきたイノの方が詳しい。
「けれど謁見の間にエッセ教皇がいない事も気にかかる。
わざと様子を見て、泳がせているんじゃないかしら」
「……何のためにだよ?」
「私達に呼応して、潜在的な反逆者がいると仮定した場合、
それらを炙り出し、まとめて始末するためにね」
「つくづく悪趣味な野郎だ。心胆から気に食わねぇ」
先ほどの戦闘で負わされた傷を庇いつつ、
ロバートはエンジェルランプの加護の力にすがる。
この力が、今は本当に有難かった。
「泳がせてくれるつもりなら逆にそれを利用してやる。
イノ。お前の同僚に話の分かりそうな奴はいねぇのか?」
「ソルやターレットならあるいは……!」
「俺をさっきふん捕まえた奴等か……人間性は大丈夫か?」
「彼等は彼等なりに、教義のために、というよりは
打算づくで動いている人達よ……だから信用出来ると思う」
「……ふむ」
「ソルやターレットが味方になってくれるなら、
ゲイリーやサキだって、従わざるを得なくなるはずよ。
二人とも、ソルに大きな借りをいくつも作ってるから」
「よし、運良く会えたら誘ってやるとするか」
ニヤリと笑い、二人はまた歩く。
「この先が気象観測センター。コントロールルームは更に奥ね」
「よし、行くぜ……!」
角を曲がり、一気に駆けようとした二人を
ソル=ハイドが阻む。待ち伏せをかけていたのだ。
「やっぱりこっちに来ると思ったよ、イノ」
「ソル……私は自由が欲しいの。邪魔をしないで……
私なりに、一所懸命に考えた末での事なのよ?」
「悪いが教皇の命令だ、そうはいかんね」
ソルは悪びれもせず、飄々と言い放つと、
蛇腹剣と呼ばれる多間接剣を取り出した。
鞭のように使う、特殊な刃物だ。
「おい、イノ。変な武器はお前等の共通の趣味か?」
「そんなモンよ」
イノも、銃斧を抜き放つ。
「俺としては残念だ、ロバート。
お前さんを最高の右腕にしたかったんだがね」
「ほざけ! これ以上吐き気のする悪行に荷担するなんざ、
俺の反逆と、
勇者軍総帥の剣が許しゃしねぇ!!」
「来るか、ロバート、イノ……では、手合わせだ。
その力量、改めて見定めさせてもらうぞ」
ロバートはエンジェルランプを手に、斬りかかる。
ソルは蛇腹剣をしならせ、ロバートの剣を打ち据える。
弾かれそうになったが、何とかこらえる。
ぼごん!
すると、そこにイノの砲撃が叩き込まれる。
狙撃モードでソルの膝を狙ったものだ。
「いい狙いだ。だが直線的に過ぎる」
ソルは砲弾を叩き返す。
イノは慌てて、斧の刃を盾にして、砲弾を防いだ。
「隙有りだ!」
だが、その隙を突いてロバートが切り込む。
ロバートにしては珍しい突きによる攻撃だ。
途端にパターンを変えられ、ソルの腕や脚をかすめる剣。
ソルは蛇腹剣で再度牽制し、距離を置いた。
「ほう、見事なものだ」
感心したように呟くと、ソルは蛇腹剣を鞘に収めた。
「では、ここまでだな」
「何がだ!?」
嘆息し、自嘲気味に笑うソル。
「俺はお前達の味方に付かせてもらう。
教皇にはほとほと愛想が尽きた。
元々人の話をあまり聞かない性質だが、
イグジスターの脅威が目前にあるというのに、
教義を優先するようでは、先は見えている」
「最初からそのつもりだったでしょ、ソル」
ジト目で睨むイノに対し、渋くソルは笑う。
「言っただろう? ロバートを駒に欲しかったんだよ。
俺は教義に殉じるための駒が欲しかったんじゃない。
イグジスターに対抗するための駒が欲しかったのさ。
彼が味方に付いてくれるなら、ロバートが下だろうが、
俺が下だろうが、立場なんてモンはどうでもいいのさ」
「随分と物分かりがいいんだな……」
警戒感全開のロバートに、更にソルは笑う。
「真の脅威が何か、真に見えていない者に従う筋合いは無ぇんだよ。
俺は、イグジスターが何をしてきたか、如実に見てきたんだ。
他者を食らい、擬態し、社会に入り込み、また食らい、滅ぼす。
ただそれだけのために産まれてきたかのような異物だ。
あんなのがのさばっていたら教義も出世も関係あるまいよ」
「その通りだ。ソル=ハイドだったか?
あんたは物事の真理というものが見えている男のようだな。
それだけにこんな腐った教団に入信する理由が分からんが……」
「俺が若かったんだろうな。教皇の言う事が、
至極まっとうな正義のように聞こえてたんだ。
現実とのギャップには、随分泣かされたがね」
「そういうものだろう……ともあれ感謝するぞ、ソル」
「ああ、まずはコントロールを奪い、隔壁を全て上げよう」
ソルの指示で、一同はコントロールルームを制圧した。
不自然な事に、やはり敵信者は誰もいなかった。
三人でコントロールを奪い、下ろされた隔壁を全て上げた。
ついでに地図もプリントアウトして、ロバートに渡された。
この中では、唯一彼だけが地理地形に精通していない事もあり、
それが唯一の不安材料だったからである。
「ソル。どうせならターレットに
ゲイリー、サキも誘えないかしら。
どうせ逃げるならみんなで逃げてやりましょう。
特に無理矢理拉致されてきたターレットは可哀想よ」
「ああ。そうだな……奴はちゃんと説得すりゃ乗ってくるだろう」
イノの提案に同意するソルを眺めつつ、
ロバートは今、このタイミングでイグジスターが来ない事を祈った。
脱出成功の可能性が著しく下がるだろうと推測出来るからである。
同時に、
勇者軍主力部隊の到達を待ち望んでいた。
これさえ実現すれば、脱出どころか
教団壊滅さえ実現可能性が見える。
あらゆる可能性を考慮し、苦悩し、悩むロバート。
だが彼の頭は既にフル稼働していた。
あらゆる可能性を考慮し、全ての力を出し切って
絶望を叩き潰し、希望さえも横目に捨て置くほどの
絶対反逆を見せつけるべく、彼は念じ、
エンジェルランプの加護を吸い尽くすような勢いで、
着々と傷を癒し、力を蓄えていたのであった。
最終更新:2012年03月11日 21:35