アットウィキロゴ

第十五章-第一幕- 形成、包囲網





魔神王教団本部施設を独力で発見し、単独潜入、
ロバートと他一名の存在を確認し、総帥ネイ=ストレンジャーから
託された聖剣エンジェルランプを渡し終え、
クロカゲは港へ駐留しているカイト=ワイズマンの元へ向かった。
郷愁揚陸潜水艦『ブルー・ワイズマンMk-Ⅰ』の通信設備を使い、
大至急勇者軍作戦本部であるアーム城へ連絡を取るためである。
ブルー・ワイズマンの艦長室では、
艦長カイト=ワイズマンが静かに一人歴史書を読んでいた。
ロバートと共通の趣味であり、二人が意気投合できる所以である。
そこにクロカゲが黒煙と炎と共に現れた。また天井に張り付いている。
「一応密室内だから炎はやめてくれないかな? 本ばかりだしね」
と、にっこり笑うカイト。
「……すまぬ……癖だ……」
一応素直に謝罪するクロカゲ。
「我……任務……成功! 拉致された隊長、生存確認。
 少女を一人保護している……名前、イノ……言ってた……」
「少女? 民間人かな……」
てっきりロバートが一人でいると早合点していたカイトは訝る。
「こっそり見ていた……かなり強い……隊長と……互角以上……!」
「それは凄いな……現地協力者を
 引き込んだわけだね。流石は隊長だ」
意外なエースの登場に驚くカイト。ただし彼の頭脳の中では
ロバートが剣を持っていなかったためにその少女に劣る可能性や、
敵を寝返らせたであろう可能性、果ては更に味方を増やす
可能性までことごとく考慮されていた。
この辺りが策士たる所以というところであろう。
「よし、ご苦労様、クロカゲ君。君は主力部隊に戻るんだ。
 強者が二人もいてそうそう遅れは取らないだろう。
 後は、確実に救出するために増援を可能な限り増やそう。
 連絡網は私が取るから、大丈夫。ご苦労様」
「分かった……!」
クロカゲは、今度は静かに帰っていった。

カイトはすぐさまダイギン共和国の
アンリ姫とアイゼンカグラ補佐官に通信を送った。
「久しぶり、アンリ姫。アイゼンカグラ補佐官も」
「おお、カイトじゃな、どうした!?」
溌剌としたアンリ姫に笑顔が自然とほころびるカイト。
「隊長がクロカゲ君によって発見されたらしい。
 座標データを送信するから、出来るだけ早く合流しよう。
 そして、みんなで隊長と協力者一名を保護するんだ」
「協力者?」
アイゼンカグラも訝る。慣れない勇者軍任務の中、
更に珍しい事態に戸惑っているのだろう。
「かなりの使い手らしいね。あるいは敵を寝返らせたのかもしれない。
 クロカゲ君は剣無しの隊長よりは強そうだと言っていたよ」
「ほう、それは凄いのじゃ」
「分かりました。では開発と並行で今より移動を開始します。
 イグジスター開発装置の完成より先に救出作戦になりそうですが」
「うん。アイゼンカグラ君の言う通りでいいよ。それが現実的だ」
「……!? 何か騒動が……不審者でしょうか。では、失礼」
何かを感じ、さっさと通信を切るアイゼンカグラ。

カイトは更にマリー=ジーニアスに連絡を取る。彼女は現在、
新兵であるレオナ=タブーフィールダーの訓練教官をしている。
そのため、恐らくロバートが捕らわれたことも知らないだろう。
「マリー君、聞こえるかな? ワイズマンだ」
「ほう、カイトか。何用だ。こちらは訓練で忙しいのだ」
「いや、ロバートが魔神王教団とかいうのに拉致されていてね。
 その救出プランを練らないといけなくて」
「……何だと!?」
信じられない、という表情をするマリー。無理もない。
人類最強クラスの勇者を捕らえるような化け物がいるとは、
カイトでさえにわかには信じがたい出来事である。
「分かった、レオナと共に向か……こら、慌てるな、レオナ!」
「だってだって、恩人さんの危機っスよ、急ぐッスー!」
「だからと言って私服はやめろ! せめて鎧を着ろ!」
「マリーさんも急ぐっスー!」
「だから走り回るなぁー!!」
「うぅわー!!」
「……やれやれ」
何やらきゃいきゃいとやかましくなってきたので、
座標データだけ送信して、カイトはさっさと通信を切った。

最後に、アーム城に連絡する。
「ウォルフ王子。今から確認する座標データを記録しておいて欲しい」
「カイトさん。どうしました?」
「その座標の地下施設に隊長がいるらしい。
 クロカゲ君がさっき来て、任務成功報告をしてくれたよ」
「そうですか。こちらにも不安要素はありますが、
 そちらは自力で何とかします。マリー達にも声はかけましたか?」
「ああ。大丈夫だよ。みんな今の私の駐留場所に来るそうだ。
 そこが一番、魔神王教団の座標データに近いからね」
「……相手は、噂に聞く魔神王教団だったのですね。
 かなり非人道的な振る舞いをしていると聞きますが」
「それについては君達の方が詳しそうだし、敢えて何も言わないよ。
 それより隊長の身が心配だ。一人保護しているらしいし、
 その人が協力者になってくれたおかげでかなりロバートは自由だ。
 この状態を保っていられるうちに突撃したいところだね」
「分かりました。急ぎます! エ……!」
叫びながら通信を切っていくウォルフ王子。
恐らくエリックかエナを呼んだのだろうと思われるので、
深く追及はしない事にした。

「……!?」
不穏な気配を感じ、カイトは艦長室を出た。
急に船内が騒がしくなってきていたのだ。
「どうした!?」
逃げ惑う船員達を問い詰めるカイト。
「く、黒い何かが格納庫で味方を追い回して……!」
「まずい、イグジスターか!」
カイトは格納庫へダッシュ。間も無く到着する。
見れば、イグジスターが二匹、一人の船員を追い回している。
スタミナ切れ目前で、放っておけば丸呑み確定コースだ。
「ウォーターキャノン!」

ばしゅん!!

水の魔法がイグジスターを一匹、中心から撃ち抜く。
間もなく爆散し、イグジスターは一匹となった。
一瞬怯んで逃げようとするが、カイトの手には鋭い鎌。
退魔の力を持つ銀の鎌である。
「こういうのは趣味ではないんだけどね!」

ざむっ!

有無を言わさず、もう一匹のイグジスターを両断。
こちらも飛び散って消えていった。
「あ、ありがとうございます、助かりました!」
「大丈夫だったか。良かったね」
船員を慰め、念のため医務室に連れて行かせる。
「物資搬入の隙間を狙ってきたか……狡猾な」
連絡した先、いずれも最後は慌しかったが、もしかしたら
彼等も同様にイグジスターに襲撃されたのかもしれない。
だが、カイトは毛ほども疑っていなかった。
誰一人として欠ける事無くイグジスターを撃退するだろう事を。

策士カイトによる魔神王教団への包囲網は、
確実に形成されつつあった。
だがその完成は今しばらくの時を要する――



最終更新:2012年03月11日 21:39