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第十七章-第一幕- 守護する者はただ眼前の敵を薙ぐ





ローザ=カレンはやや緊迫感の足りない感じで、
テナントトラックを運転していた。前バイトしていた先から
古くなったので、と買い取った車両である。
ドネルケバブを焼く機能が搭載されており、非常に便利だ。
彼女の料理の腕ならいっぱしの屋台として名を馳せるであろう。
だが、今はとりあえずケバブ屋は休業である。
緊急招集命令が出たからである。
「ったく、おちおち店も開けねぇのな!
 ロバートも情けない……! みすみす捕らわれやがって!」
愚痴を垂れつつ、出来るだけ急ぐローザ。
このトラックを港に置いて、高速船で旧グラード・シティへ
移動しなくてはならないのだ。間もなく港へは到着するだろう。

「…………!?」
しかしその時、ただならぬ殺気を感じて車を降りた。

ずがんっ!

なんと、魔道書による攻撃だ。火の魔法が叩き込まれ、
あっという間に大破炎上するテナントトラック。
「なんだ!?」
動揺するローザだったが、周囲にはおびただしい数の人間。
だが、それが人間である保証はもちろんどこにも無い。
むしろ今、切迫した政情で仕掛けてくるのだ。
まともな人間ではない。それがたとえ人間であろうと。
覚悟を決めて、ローザはハンマーを握る。
愛馬は残念ながら不在だ。今は預けてある状態である。
ナイトとしては苦しいが、それでも戦わなければなるまい。
「ふはは……見事な予測回避だ。流石だよ」
流暢に人間語を喋ってくる。
「お前等は人間じゃないだろう? この非常時に
 わざわざ勇者軍に仕掛けてくる馬鹿はイグジスターしかいない。
 よしんばいたとして、それは勇者軍の敵に違いない。
 どっちにしろ、容赦はしねぇぞ!」
「ひひひ……! さあ、どっちだろうな?」
人間らしき者達だが、物の言いようからしてもイグジスターだと
推測する方が可能性としてはあり得る。
何にしても、こっちが一人だと思って、なめてかかっている。
そんな侮辱を一騎当千の猛者が許せるはずもなかった。
まして人間社会に潜り込む事で真の実力を発揮するであろう
イグジスターかもしれない生き物が、その人間社会から離れて
調子に乗っている事が、よりローザを苛立たせた。

「うぉらぁぁあぁっ!!」
ハンマーが一閃。市民のふりをした敵を叩き潰す。
すると黒い液体となり、瞬く間に飛び散る。
「やっぱり手前ェ等、イグジスターか!」
「それがお前達人間が呼ぶ我等か。ならばその流儀に従ってやろう。
 それが唯一の我々の譲歩だ。後は大人しく死んでおけ!!」
「そんなふざけた要求が呑めるか!」
更にハンマーを振り回して猛然と暴れ回るローザ。
だが、ますます擬態イグジスターは数を増やしていく。
次々と増援を送ってきているのだ。

しばらく暴れているとスタミナが次第に尽きてきた。
三百ほどは屠ったと思うが、もうローザ自身覚えていない。
「……ちっ、ライブチャージャーがありゃあなあ……」
イグジスターに撤退という概念が薄いのか、
擬態イグジスター達はのべつ幕なしに攻撃してくる。
「こんな所でくたばれるかよ! まだ味方の顔も見てねぇぞオラ!」
母親から渡された指輪を付けた拳を高く掲げ、威嚇する。
何かあったらこの指輪が守ってくれる、と言われていた指輪。
御伽噺にしか思っていなかったが、この際何にでもすがりたかった。

カッ!!

すると指輪が光りだし、その光は天へと伸びる。
そして光は消え、その跡には一頭の飛竜がいた。
「……!?」
呆然とするローザを他所に、飛竜は地上へ降り立つ。
「俺を呼んだのは、お前か……なるほど、カレン家の血統のようだな」
「あ、あんたは?」
驚くローザだが、それはイグジスターも同じだ。
まったく予想外の状況に、攻めあぐねている。
「俺の話を聞いていないのか……まったく、雑なことだ。
 竜王ヴァジェス=バハムートの名を知らんとは、バチが当たるぞ」
「お、御伽噺だと思ってたんだ……」
「それこそバチ当たりな。俺の名はフェイト=ヴァジェスⅡ世。
 そして今は竜王ヴァジェス=バハムートⅡ世と名乗っている。
 困っているなら力を貸すぞ、カレン家の奴」
「あ、あの竜王なのか……! 是非一緒に戦ってくれ!
 俺はこんな所では死ねねぇ! 死ぬわけにはいかねぇ!
 俺を信用して待ってくれてる味方のためにもだ!」
「承知した……乗れ!」
ヴァジェスはローザをくわえると背中へと放り投げる。
ローザも応じて見事に背中に乗っかる。
「……俺は、しばらく竜宮城から人間社会を見ていた。
 竜族も少しだが、犠牲になっている。
 俺は、あのイグジスターの存在を許すわけにはいかん!」
明確な殺意を擬態イグジスター達に向けるヴァジェス。
それを感じ取ったのか、イグジスター達はヴァジェスを敵だと見なした。
ローザがだいぶ蹴散らしたせいで、数はそこそこに留まっている。
増援にもいくらか限界があるようであった。
「……がぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

ずばしゃぁぁぁぁぁ!

ヴァジェスの水のブレスがそのまま水圧砲となり、
圧力だけでイグジスターを叩き潰す。質量はそのまま破壊力となり、
かなりの敵を薙ぎ払った。
「……おおおおおおおッ!!」
咆哮と共に続いて火のブレスを叩き込む。

ぼごどぉぉぉぉぉぉぉん!

シャレにならないレベルの水蒸気爆発によって、
更に多量のイグジスター達が爆発四散する。
パワーだけでなく、頭脳を使った戦いぶりだった。
「うおおおおお!?」
で、ローザはというと振り落とされないように必死だった。
気が立っているヴァジェスは第三撃を叩き込もうとするが、
もうほとんどイグジスターが残っていないため、
ローザは必死に鱗を一枚引っぺがして止めた。
「痛ぇ! 何しやがる!」
「もいい、もういいって! 地図が変わるだろ!
 やめれ! あと何匹かぐらいしか残ってねーぞ!
 俺が残りはやってやる! そこで見てろって!」
止めた手前、ローザは自ら降り立ち、
水蒸気の吹き荒れる地上で残りのイグジスターを撲殺した。

「ふぃー、物凄いな、ナインサークルロードってのは」
「お前等とて一対一の戦いなら俺に負けないはずだ。
 少なくとも潜在能力ではそうあらねばならんようになってる。
 今はまだ未熟故に、こんな結果に終わっているがな。
 そもそも、聖杯ライブチャージャーはどうした?」
「今はネイ総帥が一括管理してるんだってよ。
 出来れば俺も使ってみたいんだがなぁ」
「……そうか、まあいい。ここからは俺が同伴してやる。
 もっかい乗れ、一気に目的地まで連れて行ってやる」
「いいのか? お前いい奴だな!」
「おうよ。俺はお前の守護竜だ。保護責任も生じる。
 それがセレナ、そしてシオン達との約束だ」
「……そっか。ありがとよ」
ローザは礼を言うと、ヴァジェスに乗る。
「ようし、行くぞ!」
「待った!」
「何だよ? ローザ」

ローザの端末に通信が入っていた。
無差別通信であり、それをキャッチしようと端末をいじっていたのだ。
その通信は、意外な所から出されていた――



最終更新:2012年03月06日 16:51