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第二十三章-第一幕- 第二の戦略目標





人工衛星を打ち上げ、惑星アース全域規模で
イグジスターの分布図を把握できるようになった
勇者軍一同は、そのメリットを全人類に伝え、
そしてアーム城へと堂々凱旋するに至ったが、
問題はまだ山積みだった。
それで、今後の事を話し合うため、
緊急に民政部と合同で会議が開かれた。
「まず第一義にイグジスターの殲滅です。ですがこれは
 イグジスターの数が多すぎる事と、また発生源も定かでない事から、
 とりあえず一時保留とせざるを得ないでしょう」
民政部の大臣の一人が説明口調で丁寧に状況を話す。
「また、現状で取り得る最上の手段として、イグジスターの分布図を
 人工衛星により全惑星アースに配信し、数量的に勝てそうであれば
 その都度戦力を集め、報告された最寄の地点で対抗手段を打ち、
 寡兵敵せず、という状況であれば速やかにその場から退避、
 もしくは隠密行動を取って全世界でゲリラ戦を展開します。
 これに必要なイグジスター識別装置のマスターハードを搭載した
 人工衛星は、先日、王子達の奮闘によって打ち上げに成功しました」
おおお、と周りから歓声があがる。
「戦闘員はこのまま地上に残って先述通りゲリラ戦を続行。
 特に勇者軍には肝心要たる戦力として一番働いてもらいますよ?」
「ああ、分かってる」
一方的に当てにされる事にいくらか不満げではあるものの、
つべこべ言っている場合でもなく、ロバートは否応無く応じた。
「問題は生産力やら銃後の守りとして機能せねばならない民間人が
 常に危険に晒され、また既に多くが被害に遭っている事実です。
 数は少ないでしょうが、ここは民間人の避難を第二戦略目標とします」

ここで、ウォルフ王子がすっ、と立った。
「では各自、スクリーンをご覧下さい」
ウォルフ王子は、端末から接続した計画書をスクリーンに投影する。
「これは……?」
ローザがいつもよりはいくらか空気を読んで、ひっそりと声をあげる。
「アーム城を敷地もろとも天空に飛ばし、そこを退避場所とします。
 私達が遭遇したミズチ・イグジスターのような例外を除けば、
 イグジスターは根本的に飛翔出来ないと思われますので、
 乗せられる人数はそう多くありませんが、これだけでも
 対策のモデルケースとしては有意義だと言えましょう。
 無論、大国ダイギン共和国にも既に同様の準備が出来ています。
 アーム城の敷地は広大ですし、それなりに人も入れるかと」
「消極策か……だが、やむを得まい。
 我々のような人を統治する立場の者など、
 乗れようが乗れまいがどうでもいいが、
 民の命は一人でも多く残る方が良い」
大臣達は国を、民を各々に想い、とにかく使える手は使おうと考えた。
それは勇者軍も同様で、特に反対する者はいなかった。
「問題は人選だ……城下街から選定するのはやむなしとしても、
 果たしてそのうちの何パーセントの人間が乗り込める?」
「推定、九パーセントほどかと」
「九パーセントだと……!?
 くっ、だが、それでも断行せざるを得んか。
 平等にやるなら、志願者の中から更に抽選するほかあるまい」
苦虫を噛み潰したように苦渋の決断を強いられている。
重苦しい空気が周囲に漂う。
「だが下手を打つと暴動が起きるぞ、どうするつもりだ、王子?」
ヴァジェスもナインサークルロードという立場から、
ここに参加していた。
「先程言った通り、ゲリラ戦を展開し、
 なるだけ守り切るしかありません。
 最悪の場合は市民全員を一時疎開させて凌がせる事も考えます」
「……だが、人間は集落を離れて生きていけるほど強くもないぞ?
 それを実行した時、都市を取り戻すために
 どれほどの命が失われるか……」
「分かってはいるんです。なじっていただいて結構。
 私は傀儡とはいえ君主。その責任は必ず、どこかに生じます。
 そのひずみによる致命的損失も覚悟はしています……
 それでも、私達は人類絶滅のシナリオだけは選べません」
「……その歳で大した君主だ、お前は」
ヴァジェスはどうにもならない苛立ちを感じながらも、
ウォルフ王子を賞賛し、また自分の気を引き締め直した。

「で、問題のイグジスターの出現元の捜索はどうなっていますか?
 こればかりは民政部主導なので、そちらからの回答を待たなければ、
 王政部及び勇者軍としても、対抗策が打ち出せませんが」
「……銀河規模で探索を行うための偵察機を
 恒星サンシャイン系全域に五万機ほど射出済みだ。
 全てオート移動で各地を探し回っている。
 これだけ雑に数を寄越しているのだ。
 流石に外宇宙や他星系から出没しているわけではあるまい。
 何かあれば、すぐに連絡が来るようになっている。
 発生源情報が確定するまで、何とか粘っていただきたい」
「それだけの技術と資源と数を投入してそれなら、
 こちらとしては仕方が無い、という他無いでしょうね……」
エナも消極的に同意した。

「次に、他の惑星宙域における各スペースコロニーの戦局は?
 誰か、連絡を受けているのではありませんか?」
「はい」
スペースポートの管制塔職員だった人間が出向してきている。
他の星と、最もやり取りを多く交わしているのは、恐らく彼だろう。
「正直、戦況は膠着状態、というところでしょうか……
 惑星アースに敵も注力しているせいか、イグジスターの数も
 それほど多く送られていないと思われます。
 それでも最初はイグジスターの生態や行動に不慣れな軍人が
 多数の被害に遭っていますが、
 彼等もそれなりにコツが分かってきて、
 最近は片っ端からイグジスターを撃破している、と聞いています。
 ただし、その都度増援がどこからかやってきて、
 あの真っ黒な見た目のせいで視認迎撃も出来ず、
 一方的に防御を強いられている状況はどこも同じのようです」
「そうか……対抗出来ているだけでも、不幸中の幸いだな。
 一番大きな負担がこの惑星に来るのは厳しくはあるが……」
「例外は地表に人類が居住可能である惑星マーズです。
 他よりも若干多い数が投入されており、多少の苦戦をしている模様。
 ……もっともこの惑星アースへの投入数と比べると雲泥の差ですが」
「ふむ……」
大臣は皆、一様に納得した。
既に相当の数を殲滅しているにも関わらず、まだまだイグジスターが
ブラック・レインにより大量投入され、
いくつもの市町村を壊滅させている。
まるで脅威度の高い勇者軍がいるから、
重点的に攻めているかの如く。
「最後に……まああまり意味が無いとは思うが、
 現在の惑星アース上のイグジスターの総数は、どのぐらいだ?」
「……まあ本当に意味がありませんが、推定二千万ほどかと。
 ただし随時追加され、まだまだ増加傾向にあります。
 では私からの報告は以上……」
管制官はそこで話を締めくくろうとした。

ズドーン!
「うわーっ!」
「なんだなんだ、お前達、止まれ! ここをどこだと……」
「ぎゃああ! こいつら強いぞ、逃げろーッ!」
急に城の外から爆音と悲鳴があがり始めた。
「何だ!? イグジスターか!?」
ローザが真っ先に、それに続いて他の者が武器を手に立ち上がる。
「敵は……敵はイグジスターより遥かに強敵です! 人間です!
 識別装置にも反応しませんでした。擬態じゃありません!」
「何だと!?」
ヴァジェスが驚くが、ロバートは意にも介さない。
「この状況で人類への反逆のつもりか!? 上等だ!
 その反逆、俺が買ったぁぁぁぁッ!!」
タングステンソードを抜き、真っ先に駆け抜けて行くロバート。

極限状態の中、新たな人類の革新と切磋の一ページが、
今、ここに幕を開けようとしていた――



<第二十三章-第二幕- へ続く>
最終更新:2012年07月02日 20:24