第二十四章-第二幕- 森林キャンプ
時間も経ち、とりあえず日も暮れてきたので、
勇者軍は森林でキャンプする事に決めたのであった。
炊事の煙をのぼらせていれば気付かれる恐れもあったが、
糧食の摂取もまた、人間として避け得ない宿命である。
というわけで、一同はローザの作る食事をかっ食らっていた。
「おう、まだまだあるぜ!
猪の丸焼きに! 川魚の丸焼きに、山菜の丸焼きだ!」
「……相変わらず丸焼きばっかりですねー」
エナは呆然としながら、とりあえず食べておく。
これでなんでそこらのフルコースより美味いのか、理不尽でならない。
「……おいしい」
どことなく納得いかないながら、エナは懸命に堪能する。
「おい、ウォルフ。エリックのおっさんに連絡行ったか?」
「はい。端末の有効範囲内です。直接、通信出来ました。
こっちの詳細位置が不透明なので、正式な合流には
もうちょっとかかるみたいですけど」
「構いやしねぇ。おっさんがいてくれるんなら
敵が増えたところで、互角以上にやれらあ。
まっ、市街地でなけりゃ元々互角以上だけどよ」
ふてぶてしく言うロバートに、同意するウォルフ王子。
「しかし、侮るべきではないだろう。どうやったのかは知らんが、
奴等、予備役戦力まで含めれば、冗談抜きに勇者軍並みだ。
有象無象なら市街地だろうが、俺等の勝ちは揺るがない。
それが見ろ、寡兵敵せずとはいえ、このザマだ。
実質はともあれ、表面上だけ見れば立派な敗走兵だぞ」
ヴァジェスが自嘲するように呟く。
「……まあ、な。これだけの事が出来る奴だ。
俺としてはいっぺん、その筆頭にお目にかかりたいところだぜ」
ロバートは納得し、そして言う。
「共闘出来ないものですかね。いっそ一致団結すれば、
イグジスターに対しての決定打になり得るかもしれないのに」
「さあな。奴等に言え。俺はそれでも構わねえってのによ」
文句を言うロバート。まあそれも仕方ないだろう。
別にロバートは共闘に反対したりしたわけではないのだ。
ただ彼等の言い分もやや一方的に過ぎるのは否めない。
双方退けないのなら、やはり衝突は避けられなかった。
「お? どうした、エナ? なんかボロボロだな?」
「うう……」
ローザが見てみれば、あちこち服がボロボロだ。
油断してしまえば破れてしまいそうである。
「あーあー。ヤワな服を着せてるからだぞ、ロブ。
なんでこんなモン着せたよ?」
「俺じゃねぇ。レオナの奴が選んだんだよ。
あと、重いと動けねぇみてぇだしな」
「しょうがねぇな。とりあえず後で買い換えろ。
今は俺の着替えを貸してやる。普段着ないけど、
身長以外のサイズは大体合うだろうからな」
「は、はい」
エナはローザに連れられて茂みに隠れる。
「おいこら、野郎共、覗くなよ」
「覗くかよ」
「……しませんよ。仮にも一国の王子がそんな事」
げんなりしたようにロバートとウォルフ王子が呟く。
「覗いたらグーで殴った後で、ハンマーでもう一回殴る」
「だからしねぇって」
念入りな様子に更にげんなりする二人。
その横でクックッ、と人の悪い笑いを浮かべるヴァジェス。
人としての青さを笑っているのか、それともただ単に面白いのか。
それを知る術は、特に誰も持っていなかった。
「ええっ、それを着るんですか!? ボディラインが丸見えです!
そんなピチピチ、流石に恥ずかしいです……!」
「細けぇ事ぁいいんだよ! 肝心な所が見えなきゃいいんだ!」
「そんな無茶な! お腹も背中も丸出しじゃないですか……!
私、露出狂じゃありませんよぅ……」
「男共の士気が上がるからいいんだよ!」
「そんなぁ……!」
何やら揉めている。
そして茂みから叩き出されたエナの服装は確かに過激だった。
言っていたようにお腹も背中もかなり出ていて、
ボディラインがきっちり強調されていて、色香を感じる服だ。
気性の弱いエナには、似合っているようで、
実はちぐはぐな印象を受ける。
かつ、やたらとピッチピチで『お前無理すんな』感が尋常ではない。
「えぅー……」
身の置き所が無いようにモジモジしているエナ。
ばつが悪そうにわざと目を逸らすウォルフ王子。
「ほら、男共が喜んでやがる」
げらげら笑うローザに対し、ウォルフ王子は内心でこう思った。
(善意を装い、男心を弄ぶこの仕打ち、これまさに、羅刹の行状!)
胸元も開いているため、より直視出来ない。
わざとやっているとしたら、相当に性質が悪い。
「…………」
何故か脱がされたエナの服を手に取り、じーっと見つめるロバート。
「えぅぅ、私の服をジッと見ないで下さぁい~」
「ふん、確かにボロボロだな。待ってやがれ」
と、ロバートはどこからともなくソーイングセットを取り出す。
「は?」
ぽかーんとするヴァジェスを余所に、彼は裁縫を手際良く始めた。
「……気が散る。これでも着てやがれ」
「わっ?」
ロバートはいつものマントを放り投げ、エナの身体を包んでやった。
「あ、ありがとうございます」
「すぐ済む、待ってろ」
「ロバートさん、そんな特技があったんですか?」
「……あいつに、昔無理矢理手伝わされてな。その頃身に付いた」
「あいつ?」
「総帥だ」
母親、
ネイ=ストレンジャーから仕込まれた技であった。
「人は見かけによらねぇたぁ本当だな、ロブ」
「言ってやがれ。マントの修繕費もタダじゃねぇんだぞ。
俺がいくらかけて、この特注
なびきマントを
発注したと思ってやがる」
ローザの茶々に真顔で返すロバート。
「いくらだよ?」
「三十万ゲルだ。そこらの結婚指輪並みだぞ」
「……お前、馬鹿だろ」
呆れ顔でローザは話を止めた。
「ほれ、出来たぞ」
見事な仕上がりである。縫製跡もあまり目立たない。
「あ、ありがとうございます。着替えてきますね!」
お礼を言ってから、エナはまた茂みに入っていった。
すぐ戻ってくると、ほとんど元通り、という感じである。
「さて、おっさんが来るまで交代で寝るとする……お!?」
いきなり感じた気配に、ロバートは焚き火を消す。
それに続き、他の者も気配を感じて臨戦態勢に入った。
予想よりは幾分か遅かったが、
魔神軍が追撃をかけてきたのだ。
案外魔神軍とやらも、折衝に時間をかけていたのかもしれない。
そんな事を思いながら、各々、武器を手に取る。
「来るぞ!」
ロバートの叫びと共に、魔神軍兵士が飛び出て来る。
件の
レイビー=ショルダーズとやらも一緒だ。
「レイビー=ショルダーズだ。さあ、覚悟してもらうぞ!」
レイビーの号令と共に、更に多くの兵が襲い掛かってくる。
勇者軍と魔神軍の激突は、激化を始める……
最終更新:2012年07月02日 20:38