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第二十四章-第三幕- フレキシブル・セレクト





勇者軍はエリック=ルストの合流を待ちつつ、
市街地の外である妖精の森内部にて
魔神軍を迎撃する構えを整えていた。
途中何か折衝でもしていたのだろうか、
随分と遅れてやってきた彼等ではあるが、
その分、万全の態勢を整えて、勇者軍に指揮権委譲を迫ってきた。
「貴様等! 今がどういう時か分かっているのか!
 イグジスターと戦うべきだろうが!」
ロバートが珍しく、至極もっともな正論を吐くと、
苦々しげな顔でレイビーは吐き捨てる。
「至極もっとも! だがなまじ自衛組織面した諸君等が
 中途半端に味方を操ってるようでは、かえって危うい!
 我等魔神軍の下に、人類の士気を一つに纏めさせてもらう!」
「軍というものはそれが私設であろうが国有であろうが、
 シビリアンコントロールの枠から外れてちゃいけねぇんだ!
 貴様等は、俺等が知っている事に気付いちゃいねぇぞ!
 勇者軍も魔神軍も、最大のエゴイスト集団だということをな!」
「そうだというなら強権の一つも発動して反対意見をねじ伏せろ!
 そうでもせねば、イグジスターに対しての勝利などあり得ん!」
レイビーとロバートの口論と攻撃が交わる。
他の者は予備役兵卒を薙ぎ散らしているが、
やはりそこらの国の兵士などものともしない個人能力に
さすがの勇者軍も手こずらざるを得ない。

「まずはウォルフ王子、君の資質を見せてもらうとしよう!」
レイビーは距離を置いて、魔法を展開し始めた。
「……なまじの魔法など、君達には通じないかもしれん。
 ならば、一手、策を練らせてもらう事とする!」
そう言って、今思いつきで始めたように、魔法の構成を練り直す。
「ぶっつけだ。アトランダムチェイサー!!」
そこそこの威力はあると見込まれる魔力弾がたくさん放出された。
てんでんばらばらの速度と属性の魔力弾が野放図に動き回る。
軌道が出鱈目過ぎて、まったく読めるものではない。
「うわわッ!」
慌ててガードするも、直撃は免れない。
ウォルフ王子は結構なダメージを受けている。
だがランダムに放たれた魔力弾はその無軌道さ故に、
味方や、自分にも当たりまくっており、戦場は混乱を極めた。
「確かに命中したか……だが、味方への被害も出たようだな」
レイビーは一人、呟く。

「ほう、面白い技を使う。だが、そこへ俺が出れば、どうなる!?」
「おっさん!?」
エリック=ルストの登場にロバートが驚く。
「ちょうどいいぜ!」
「まあそうだろう。だが、来たのは俺だけではないようだ。
 出て来い! 見えているぞ、イグジスター!!」
「きーっ!」
甲高い声をあげ、通常のイグジスターと、妖精族が一匹姿を見せる。
妖精族に擬態したイグジスターなのだろう。希少生物カーバンクルに
擬態した、イグジスター五滅将とやらなのだと、即座に理解した。
「戦術変更! これより我々は勇者軍と共闘し、
 この場のイグジスターを悉く殲滅する!」
レイビーは即座に戦術判断を下し、他の者も応ずる!
「いいね、その柔軟さ! フレキシブルだ!」
「ふ、これこそがこのレイビー=ショルダーズの持ち味でな。
 乗ってもらうぞ、ストレンジャー!!」
静かに笑うと、ロバートの背中を叩くレイビー。
「争う宿命強いられて! それを望まぬ時あらば!
 肝心要を見極めて! 共に決めるぜ共同戦!!
 合力反逆ストレンジャー! ここで負けはあり得ねぇだろ!」
息が合ってきたのか、見事にノッてみせるロバート。
「さて、では妖精族の端くれとして、貴様の相手は俺がする!」
「きーっ!」
雑魚のイグジスターを他に任せて、エリックは一人、
カーバンクル・イグジスターに向かって駆ける。
擬態イグジスターもいくらかいるが、
合力した勇者軍と魔神軍の前では
いかほどという程度でもない数しかおらず、勝機ばかりが見えた。

「きーっ!」
カーバンクル・イグジスターは
額に嵌まっている宝石のような発振体から
高出力のレーザーで正確に狙撃してくるが、エリックもまた本気だ。
「ニノンの翼! その真の力を顕現しろ!」
遂に解放された八枚翼モードが、エリックに飛行を可能とさせる。
ひらりと回避すると、凄まじいスピードで敵に迫る。
「ダークバスター!」
魔法で牽制しつつ、更に急接近。
「ふん!」
杖で猛打撃を加え、一気に急速離脱。
いかに通常のイグジスターとはかけ離れた存在とはいえ、
所詮大元にした素材がカーバンクルでは、
今のエリックには赤子同然の敵でしかなかった。
惜しむらくは積極的な攻撃性能を持っていないクラスのせいで、
どことなく決め手に欠けている事だが。
「きーっ! きーっ!」
杖で打ち据えられ、腹を立てたのか、
カーバンクル・イグジスターはレーザーを更に撃つ。
「ぬっ!?」
今度はショット・レーザーだ。
拡散した光線がランダムにばら撒かれる。
「いくら拡散しても、そう狙いが雑ではな!」
エリックは急上昇し、一気に狙いから逃れる。
「ローザ、とどめだけでも頼むぞ!」
「おう! 分かった、おっさん!」
ローザがハンマーを抱え、エリックの支援に回る。
その後方から少数のイグジスターが迫っている。
「後ろを見ろ、ローザ、危ないぞ!」
ヴァジェスの声も聞いておらず、ローザはひたすら前進、
エリック一人に気を取られている
カーバンクル・イグジスターに接近した。
「ひっさぁぁぁぁぁつ!」
ローザがハンマーを振りかぶる。
「メトロノームスタンプ!!」
ずがん!
景気の良い音を立て、
カーバンクル・イグジスターにハンマーがめり込む。
「っつぇぇぇぇぇい!!」
ローザはハンマーを持ち上げ、振り上げてそのまま後ろへ叩き込む。
ごごん!
また景気の良い音を立て、後方のイグジスターにヒットした。
「二往復目だ!」
ずごん! どごん!
カーバンクル・イグジスターに再度直撃し、
その後後ろの雑魚にも当てる。前後両方を完全フォロー。
見た目に反して合理的な技であった。
もっとも、ローザのパワーがあって初めて可能でもあるのだが。
「三往復目! テンポ上げてくぞオラぁ!」
乱暴な振り下ろしと振り上げを前後に繰り返し、
ローザは迫るイグジスターと、カーバンクル・イグジスターを
ひたすら交互に叩きまくった。はっきり言ってやり過ぎである。
十五往復分も叩いた頃には、彼女の周辺には何も残っていなかった。
それだけ叩けば当たり前である。ついでに地面も陥没している。
「ふぅ。杭打ちするバイトとか無ぇかな? おっさん」
「……杭が割れるぞ」
ハイタッチしながら、すべからく間抜けなやり取りをする。

その後、レイビー達魔神軍の活躍もあって撃退はすぐに終わったが、
擬態イグジスターの攻撃で何名かが負傷を負っているようだった。
「さあ、どうする、レイビーさんよ」
「そっちは戦力増、こっちは手負い付きだ。言うまでもない。
 まずは退かせてもらう。次に会う時までに、状況か、
 あるいは諸君等の意見か、どちらかが変わるのを望んでいるぞ……
 全軍、撤退! 一度、ノーラにも合流するように通達するぞ!」
「はっ!」
凄まじい手際の良さで一時撤退していく魔神軍。

「行っちゃいましたねー」
エナがぼんやりと呟く。
「で、俺が合流出来たわけだが、これからどうするつもりだ?」
ロバートに今後の方針を問うエリック。
「そうだな。まずはグラード・シティ行きだろうぜ。
 あそこはかなり厄介なレベルで追い詰められてるって聞いてる。
 前も一度制圧されたはずだし、あそこは防備がいまいちだろ。
 兵器群の製造まで時間もかかるし、いっちょ雑魚潰しといくか」
「運良くイグジスター五滅将とかいうのに出会えれば、
 潰して敵の指揮系統も乱せるかもしれないし、だな?」
ヴァジェスがきっちり真意を読んでくる。
「まあそういうところだ。そう都合良くいくとも限らねぇが、
 仮にイグジスターが魔神軍か何かに撃退されてたとしたところで、
 エナの力が怪我人の治療にぐらいは役に立つだろ?」
「はい、私、頑張ります!」
ニコニコ笑って、上機嫌にエナが答える。
よっぽど服を修繕してもらったのが嬉しかったのか、
もしくはあの過激な服を着なくていいのが嬉しかったのか、と
勝手にロバートは解釈して、黙って歩み始めた。

だが、本当の苦戦はここから始まる事を、
勇者軍も、魔神軍も、誰も知らない。



<第二十五章-第一幕- へ続く>
最終更新:2012年07月02日 20:43