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第二十五章-第一幕- 汝、其は只『仁』を掲げて





勇者軍はエリックと合流し、更にイグジスター五滅将の
カーバンクル・イグジスターを撃滅せしめた後、辛くも難を逃れて
半ば廃墟の都と化しつつあるグラード・シティへ赴いた。
そんな戦況でも自分達が行けば、役に立つ、との考えからであった。
「ひどい……!」
顔色を失うエナ。前に来た時も相当に無様な姿だったが、
より一層破壊された建造物などが
目立つようになったグラード・シティ。
まさに終末を予兆させるような光景でしかない。
「やはり予備役兵士を城に置いてでも、ここへ来て正解でしたね。
 まさか、ここまで大都市が追い込まれていようとは……
 仮に勝利したとしても、この都市の再興は困難かもしれません。
 ですが、一人でも多くの命を救わなくては……!」
ウォルフ王子が歯噛みする中、ヴァジェスが騒音を聞きつけた。
「おい、人の話し声だ。内容から察するに、
 難民キャンプじゃねぇか?」
「よし、行ってみるか」
エリックも同意し、一同は難民キャンプに向けて歩みを進める。

「うっ……!」
むせかえるような血の匂いが鼻を突く。
だが、不思議と怪我人は多くとも、死者の数は見当たらない。
当然である。死ぬ事は敵の擬態を招く事と同義なのだから。
恐らく怪我人は、擬態したイグジスターに
武器で攻撃されたのだろう。
見事な刀傷などを受けた兵士もかなり目立っていた。
「ううっ……血が止まらない……! このままでは……!」
何名かの深手を負った兵士が呻き出す。
「エナ! 助けてやれ!」
「はい……大丈夫ですか、今治癒魔法をかけます。
 ヒールブラスター! ヒールブラスター!」
かなり広域に及ぶ治癒魔法を連発してかけていく。
みるみる傷が塞がり、血色を取り戻していく兵士達。
「おお……命拾いした!
 これでまた戦うなり逃げるなり出来る!
 ありがとうな、娘さん!!」
「おう、本当だよ、命の恩人様だ、ありがてぇ!
 この実力、噂の魔神軍にも見劣りしねぇな!
 ひょっとして、あんた達もそうなのか?」
その一言が引っかかり、ロバートは口を開く。
「……魔神軍? 奴等がここにいるのか?」
「おお、そうだよ。あんた達は違うのか?」
「俺達は勇者軍だ。やむなく敵対している間柄だが、
 治療行為に専念しているような理性的な人間なら、
 和解の糸口も掴めるのかもしれん。会いたいが、どこだ?」
「ほれ、あっちの方向で治癒魔法を景気良く使ってるのがそうだ。
 娘さん、ちょうどあんたより少し年上か、同い歳ぐらいの娘だな」
と、エナを指差して言う兵士。
「そうか。あんがとよ、まあ頑張りな」
ロバートはそう言うだけ言って、魔神軍の兵とやらの所へ急いだ。
他の者も礼を言ってから追従する。

「ヒールランチャー!」
先程のエナより、更に高位の広域治癒魔法を放っている女性がいる。
確かにエナとほぼ同い歳にも見えるが、少々背は低い。
銀髪が目を引くが、もっと目を引くのは馬鹿でかいシニヨンだ。
遠目に見てみれば、まさか頭が二つもあるのか、とでも
誤認するかもしれないサイズの、無駄にでかいお団子頭である。
「あ、治療待ちですか?
 じゃあちょっとそこに座って下さいねー」
「いやそうじゃない。俺達は勇者軍なんだが」
「はあ」
と、ローザが歩み出る。だが、特にリアクションは無い。
「……魔神軍なのに、あんたは攻撃してこないのか?」
「なんでですか?」
「なんでって。ゲイル=ウィッシュとかいうのも攻撃してきたし、
 レイビー=ショルダーズってのも攻撃してきたぞ。
 あれは、魔神軍の総意なんだろ? あんたは違うのか?」
「だって、私それどころじゃありませんもの。
 私としては、一緒に戦えればいいなぁって思うんですけど」
あっけなく共闘意見を叩き出す。
「そうか……魔神軍も一枚岩じゃないというわけなのか。
 本当に面白い連中だ。あんたの名前、聞いておこうかね。
 私はローザ。ローザ=カレン。勇者軍メインメンバーだ」
「私はノーラ。ノーラ=アドミラブルです。
 魔神軍メインメンバーの一角をやらせてもらってます」
ニコニコ笑って握手するノーラ。何の屈託もしがらみも無い。
争いごとには我、関せず。というスタンスのようだ。

「それにしても聞いておきたいことがいくらあるんだが、
 治療片手でいいから、応じてもらえねぇか?」
ローザが気が合ったようなので、他の者は一歩下がって聞く。
その間にも要治療者が押しかけてきて、なかなかせわしない。
「ヒールバスター! はい、なんでしょ?」
「勇者軍を模倣したって、ゲイルから聞いているぞ。
 本当にそれだけで、こんな急に強い部隊になんのかよ?」
「はい。というかあなた達、自分達の実力と組織構造の強固さを
 過小評価しているんじゃないですか? きっちりとした
 スポンサーさえ付けば、誰でもこれぐらいはやれるって、
 レイビーさんが言っていたような気がします」
「スポンサーね。まあ確かにザン共和王国王政部や
 色んな企業がスポンサーに付いているが、どこでそんなコネを?
 主だった企業とかがあるなら知っておきたいんだが?」
「コネに関してはレイビーさんの伝手だけですから私にはちょっと。
 あ、でもグリーンクロスが代表的スポンサーに付いていますね。
 私、元々そこの出身で、脱走者なんですけどね?」
それだけで、ローザやウォルフ王子、エリックには合点がいった。
「なるほど、国際医療団体グリーンクロスか。
 何かっちゃ勇者軍を目の敵にしているあそこなら、
 勇者軍のカウンター組織として機能させたい魔神軍の
 スポンサーには打ってつけだろうな。レイビーってのは優秀なんだな。
 そこまで事情を理解して、的確にあの組織を味方につける辺りがよ」
「はいぃ。とっても凄い人なんですよ。ヒールシューター!」
笑いながらも治療行為は忘れていないノーラ。
「分かった。あんたは治療でも続けていてくれ。
 そっちの事情とあんたの意思が分かった以上、
 こっちとしても決めるべき対応というものがある。少し待って欲しい」
「はいはい。もうしばらくここにいるつもりですので、ご自由に~」
ノーラを置いて、一同は同じく治療に当たっているエナの所へ戻った。

「ふう……ふう……」
だいぶ魔力が尽きているエナだったが、聖水を頭から振り掛けて、
また治療行為を続けているようだった。
「どうでしたか? あの人の態度」
「ノーラ=アドミラブルだそうだ。メインメンバーだとよ」
未だに信じられないような面持ちで、ヴァジェスが語る。
「どうも彼女には敵意がまったく無いらしい。それを信用するなら
 魔神軍で意見の分裂が起こっている形になる。それに付け入るか、
 あるいはそのまま何とか共闘を依頼するか、悩みどころだな」
ヴァジェスの言を受けて、エリックが補足する。
「だが、もう少し話を聞くべきだろう。
 今度はエナも交えて話を聞けば、更に意見がまとまるかもしれん。
 本当はアンリ姫やマリーもいれば、なお良かっただろうし、
 カイトがいれば、俺が知恵を張るよりいくらかマシだろうがな」
「私としても特に異議はありません」
エナも了承したし、魔力もだいぶ使ってしまったので、
重傷者以外に対しての治療の手を一旦止め、
勇者軍は更に魔神軍についての詳しい情報を聞くべく、
ノーラ=アドミラブルの所へ歩み寄った。

だが、彼等にとっての難関は静かに迫っていた。
今度こそ、このグラード・シティを本物の廃墟にするために。



<第二十五章-第二幕- へ続く>
最終更新:2012年07月02日 20:47