第二十五章-第三幕- 特攻と退却戦
勇者軍は引き続き
グラード・シティでノーラから
魔神軍についての情報を聞き出し、あらかた必要な要素は揃った。
対策はおいおい立てるつもりでいたが、
そんな折、三十万もの
イグジスターの大軍が、
超強力は反応を見せる一体の水中型イグジスターと共に迫る。
「反応は三十万か……不利とかそんな次元じゃないな。
いくら勇者軍が少数精鋭とはいえ、この小勢じゃ
守れるものも守れやしねぇかもしれねぇな」
ロバートは意外に、戦況を冷静に見て呟く。
「あのぅ、いいですかね?」
ノーラが申し訳無さそうに申し出てくる。
「なんだ?」
「
ロバート=ストレンジャー隊長ですよね?
私から、作戦のプランを具申したいんですけど」
「プランを?」
「はい。ロバートさんが言った通り、
三十万相手に真っ向するような戦力は、勇者軍にも
私にも、もちろんこの都市にもありませんね。
なので、非戦闘員をさっさと逃がして、
粘れるだけ粘りつつ、指揮官と思われる
特殊イグジスターだけを徹底的に狙い討ちます。
そうすれば敵の指揮系統が乱れると思いますので、
私達も何とかその間に脱出したいと思うんですけど」
「四の五の言ってる場合じゃ無さそうだしな。手伝えよ?」
「はい。とにかくまずは非戦闘員を逃がしましょう」
ノーラから直接、官庁に連絡が行き、警報を聞いていた市民も、
改めて誘導されるまでもなく、さっさと逃げていく。
凄まじい手際の良さである。
余程この脅威に慣れてしまっているのだろう。
それはそれで、非常に哀れでもあった。
「来るぞ!」
ヴァジェスが呼びかけると同時に、
イグジスターの大軍が突っ込んでくる。
「多少市街地を破壊しても構わん! とにかく近付けるな!」
ロバートの指示が飛ぶや否や、
ヴァジェスやエナが広域攻撃を開始する。
しかし兎に角数が多すぎる。広域攻撃の手数が足りない。
「ちいいッ! 指揮官はどこだ!」
エリックがうろちょろと空中から指揮官を探す。
「しゃあああッ!!」
すると、突然背後から人魚のようなイグジスターが姿を見せ、
なんと空中を飛来してきた。エリックに突撃する。
「うごっ!」
腹に頭突きを当てられたエリックは無様に落下するが、
態勢を整えて何とか着地する。
「マー……
メイド!?」
エリックは回避しつつ姿を確認するが、
マーメイドではない。
同じ
亜人族だが、
セイレーンと呼ばれる種だ。
頭に翼のようなものがついており、それで飛行している。
地上での動きは不自由なのか、着地しようとしない。
「
イグジスター五滅将、
セイレーン・イグジスターよ。
残念だけど、ここで終わりにさせてもらう。
三十万ものイグジスターに対抗する術は、あなた達には、無い」
いきなり本気モードなのか、
セイレーン・イグジスターが魔力を高める。
「葬送曲・氷山の中の沈没船」
いきなり歌を歌い出す。
「ぬおおッ!? 何だ、この気持ち悪さは……気分が沈む!」
「怖い……怖い!」
早速ウォルフ王子とエナが呻き出す。
どうやら過剰な沈静効果をもたらす歌のようだ。
この歌で動きを止めて、他のイグジスターに
食わせようというのだろう。
「うおおおおッ! イシターッ! 俺は……!」
トラウマを刺激されているのか、
妻イシターに無意識にすがるヴァジェス。
「なんだってんだよ……クソが!」
「ぬうう……ロフ……俺は負けんぞ!」
必死に虚勢を張るローザとエリック。
部外者の戦闘要員も似たり寄ったりの状況となり、
実力の低い者から、さっそく捕食されたりしている。
だが、二人だけ例外がいた。
ロバートと、ノーラである。
「俺のトラウマ抉った程度で
勝てると思ってんのか……馬鹿にすんな!」
ロバートの逆鱗に触れてしまったのだ。
ノーラもまた、その決定的な楽天的性格によって難を逃れていた。
「ロバートさん、まずは一手打ちます、その間に!」
ノーラは魔法を構成し、即座に放つ。
「極大魔法!
ザ・レッドカーペットぉ!!」
ノーラの手により、炎の絨毯が一直線に敷かれる。
彼女オリジナルの最大奥義である。
その熱量は飛んでいるセイレーン・イグジスターにも届き、
敵は大打撃を受けて落下する。
落下に気付いた時にはもう遅い、ロバートは眼前だ。
「
封神封魔流最終究極奥義!!」
ロバートの目が光る。どうせこいつだけ倒せば後は逃げるだけだ。
魔力の温存など考える必要は無い、と考えたのである。
「惑星! 両断けぇぇぇん!!」
ズバン!!
千以上ものイグジスターを巻き添えにし、たった一撃で
セイレーン・イグジスターは海の藻屑でなく、
陸の生ゴミ以下の何かと化した。
「ひああ!」
その衝撃だけでゴロゴロ転がるノーラ。
慌てて立ち上がると、すぐに呪文詠唱に入った。
「
マスターレジスト!」
一気に混乱から友軍を引き戻す。
「ロバートさんがやりました! すぐに逃げましょう!」
指揮系統を失い、正気に戻る友軍とは裏腹に、
イグジスター達は一気に混乱し始める。
逃げるなら今しかない。敵が我を戻せば勝ち目は薄い。
「すみません、混乱して……お叱りは後で!
総員、撤退! 任意にこの地点から撤退せよ!
既に大勢が捕食されている! これ以上の犠牲は避けよ!」
ウォルフ王子の指示通り、今の間だけでも、結構な戦闘要員が
捕食されたり、擬態イグジスターから
攻撃されて負傷したりしている。
それでも逃げなければもれなく全滅だ。
それは避けるべき愚答である。
うろちょろするイグジスターを
斬り散らしつつ、勇者軍は敗走する。
話が通じる相手なら、指揮官を潰して
和平交渉も可能であろうが、
相手はイグジスター。そんな余地はどこにもない。
「あれ? ノーラどうした!?」
ローザがキョロキョロしてローザの姿を探す。
「さっき、あっち方向に逃げていったみたいだぞ!」
エリックがフォローする。勇者軍が逃げる方向とはだいぶ違う。
共闘する意思はあっても、
出向する気まではない、というところだろうか。
「どうせ無事だ、構うな! それより自分達の安全確保だ!」
ヴァジェスの指示に従い、一斉にグラード・シティより脱出。
完全制圧されたグラード・シティに人は残っていないにも関わらず、
イグジスター達はそれでも貪りつくすために街の中を捜索し続けた。
「おい、ウォルフ! とりあえずこれからどうするよ!」
「とにかく集められる戦力を集めましょう!
現在地上での最大の兵器建造拠点がある
ヴェール・シティ!
そこへ向かって、更に非人道兵器の投入を要請しないと!
たとえば、
エリミノイドのような!」
「喋りながら逃げるのは器用ですけど、後にして下さい!
余計なことに体力を使うと、追いつかれちゃいますよ……!」
息を荒げながら、エナが珍しくツッコミに回る。
よほど追いかけられるプレッシャーに弱いのかもしれない。
「分かっとるわ! 急ぐぞ!」
ロバートはぼやきながらも、とにかく走った。
混乱から解けた後のイグジスターに察知されれば、本当に後が無い。
今は、ひたすら走るのみの勇者軍であった。
最終更新:2014年03月06日 22:17