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第二十六章-第一幕- 真なる恐怖、迫る





グラード・シティから強引な撤退を決行した勇者軍は、
魔神軍メインメンバーである、ノーラとも共闘したものの、
結局は別れ別れになり、現在兵器工場をまともに稼動させている
数少ない拠点である、港町ヴェール・シティへ移動した。
兵器工場にお邪魔して、通信施設も借りて
アーム城と通信を取っている。
こういう時のウォルフ王子は本当に忙しそうである。
「アーム城と通信、繋がりましたね……
 こちらウォルフ。通信兵、いますね?」
「はっ、こちらアーム城通信施設。現在浮遊中、
 高度千五百メートル付近に滞空中。回線、良好です」
「例のマスターハード搭載型人工衛星の稼働状況を報告して下さい」
「はい。予定通り本日、正午から稼動開始します。
 ……っと、そろそろじゃないですかね。
 端末にリアルタイム送信可能にしてありますので、
 アップデートのインストールをしておいて下さい」
「了解。避難させた民間人達の様子はどうです?」
「至極落ち着いている素振りを見せてはいますが、
 やはり地上の様子が気になっているようです。
 イグジスター情報はリアルタイムで伝わりますので……」
「……了解。では、そのまま警戒を密に」
「はっ」
通信が切られる。

「…………よし、アップデート完了。来ますよ、データ」
全員が端末を握り、世界地図をじっと見つめる。
すると、異様な数のイグジスター反応が世界中に表示される。
まったくいないのは、海中とか、よほど小さな離島ぐらいだろうか。
「なっ!?」
エリックがまず驚愕する。ご丁寧に推定されるイグジスターの
数量をカウントする機能を見て驚いたのだ。
「一億二千五百八十万……!?」
なんと、せいぜい数千万程度だと思っていたイグジスターが、
既に一億を突破して世界中をじわじわと侵食しているのだ。
「ぐっ……まさか、奴等の勢力伸張がこれ程とは……!」
エリックが歯噛みするが、ウォルフ王子はあくまで冷静だ。
「それでも、宇宙の各コロニーでは膠着状態を保っていますし、
 機械に対して極端に弱いなど、弱点も露呈しています。
 擬態さえ抑制し続ければ、いつかは殲滅も……可能です。
 そのためには兵器工場を出来るだけ守り抜きたいですが……!」
「いや、もう一つ対策があるぜ」
ロバートが対策を打ち出した。
「!?」
突然の発言に驚愕する一同。
「グラード・シティで俺達が敗走した時、
 海岸沿いの都市であるにも関わらず、
 水中から現れたのはセイレーン・イグジスター一匹だけだっただろ?
 それに世界地図を見ろ。水中に反応が一切無いのも逆に不自然だ。
 仮に擬態して知性を得て、船を操り出す、と仮定したところで、
 擬態そのものを阻止し続ければ、
 一方的に攻撃するのも可能かもしれん」
「なるほど……!」
ローザとエナが一際びっくりした。まったくの盲点だったからだ。
「となると、退避先としての最適解はどうなる、ウォルフ?」
「船舶、艦艇、ないし潜水艦による水中、水上での行動、ですね?」
「だったら、今取るべき行動は何だ?」
「カイトさんをここに呼びましょう。あの潜水艦、
 ブルー・ワイズマンMk-Ⅰであれば、兵器を組み立てたりする
 設備にも事欠きませんし、簡易工場代わりにも出来ます。
 また潜水艦からの一方的ミサイル攻撃も可能でしょうね」
「だったらやれよ」
「はい」
ウォルフ王子は通信施設を用いて、アドレスコードを検索し、
カイト=ワイズマンを呼び出した。

「ああ、こちらカイト。現在海中から策敵中。
 暗号通信とはいえ、若干穏やかではないね」
「それどころじゃありませんよ、カイトさん。
 あなたの艦が、対イグジスター戦においての
 決定的戦力の一つになるかもしれないんですから?」
「そうとは思えないんだけどね。以前、この艦は
 イグジスターの侵入を許しているしね」
「ですがそれは係留時の話のはず。
 それとも、海中や海上にいる時に奇襲でも受けましたか?
 つまり、そういう事だ、とロブは言っていますよ」
しばらく熟考してから、カイトは答えを出す。
「なるほど、言われれば隊長の言う通りだね。
 つまりイグジスターは、擬態でもしない限り、
 水中への攻撃、及び進行手段を持ち得ない、と?」
「そうなります。となると世界中の船舶、艦艇、潜水艦を結集し、
 民間人の退避所として利用するのが最適解でしょう。
 その上で離島などに避難し、
 敵が手出し出来ない状況に持ち込んで、
 離島に兵器工場を建造するのが無難かと思います」
「今までの君達の理屈でいうと、制空権と制海権は、
 未だ人類のものだと断言して構わないわけだね。
 ならば急ぎ、あらゆるネットワークを駆使して
 各国家、各自治体に通達。兵器工場を離島に建造して
 一気に反攻の準備を行わないといけないみたいだ」
「お願いできますか?」
「やってみる。ちょっとヴェール・シティからは
 遠い位置にいるので合流までの時間をフルに使わせてもらう。
 なので合流に最適なポイントをこちらで指定するので、
 すぐに移動を始めてもらいたいところだ」
「はい、指定をどうぞ」
「ヴェール・シティから南西方向に向かう道を進めば到着出来るね。
 リプトール・タウンという小さな港町だ。この潜水艦も
 かろうじて係留可能、という程度の町だが、
 この際、目立たない方向で話を進めたいからね。
 イグジスターに察知されると本当に厄介だし」
「はい、じゃあそのつもりでこちらも移動します!」
カイトはすぐに通信を切った。不必要な通信の継続は
魔神軍に察知される可能性も高く、妨害を受ける危険があった。
彼等と交渉の余地はあっても、現状は対立関係なのでしょうがない。

「リプトール・タウン付近にイグジスターの反応はあるか?」
ローザがぶつぶつ言いながら、端末をいじると、
リプトール・タウンの周辺に少数ながらも反応がある。
といっても前の戦いの三十万という数に比べて、というだけの話で、
実際その周辺には数万単位のイグジスターが辺りを策敵していた。
情報履歴を見てみれば、リプトール・タウンは人口も少数で
ほとんど無視されている状況にあるようだったが、
何か起こればいつでも襲える、という態勢と見るべきだろう。
すなわち勇者軍が来る、という重大事態が発生した場合、
イグジスターが集団で到来する可能性がかなり高い。
それを覚悟の上で、リプトール・タウンでの合流を目指すのである。
局地戦での犠牲は覚悟してでも大局の上で勝たねばならない。
いざと言う時は、民間人をシェルターに封じる必要があるだろう。
それらの覚悟を決めて、勇者軍はリプトール・タウンに向かう。

かすかな希望を求めての流転と敗戦の繰り返しが、
またもリプトール・タウンで勇者軍を待ち受けているのであった……



<第二十六章-第二幕- へ続く>
最終更新:2014年12月12日 02:34