第二十五章-第二幕- 情報収集
勇者軍は滅びかけた
グラード・シティの難民キャンプにて
負傷者の手当てをしている、
ノーラ=アドミラブルと名乗る
魔神軍メインメンバーの少女と出会った。
彼女は他の者に比べ、いたく友好的であり、
いくばくかの情報を聞き出す事に成功したが、
もう少し情報収集をするべく、彼等はその場に留まっていた。
「よう、治療はあらかた終わったのか?」
ローザがまたも、ノーラに話しかける。
やはり彼女が一番会話的に相性が良いように感じられた。
「はい。あとは軽傷者ばかりなので、私も少し休憩です」
やっぱりニコニコして応じるノーラ。
敵意というものがまったく感じられない。
「あんた等は勇者軍のカウンターになる存在なんだろうから、
俺等がどういう組織で、どういう目的を持ってるのか、
ちゃんと知ってるんだよな?」
「はい。人類史上最強の私設軍にして絶対勝利の存在、
あらゆる特定国家にも過剰に肩入れすることなく、
それは
アーム王家を擁する
ザン共和王国も例外じゃありません。
事実、ザン共和王国の民政部とは争ったこともあると聞きます。
ある特定時点から、自衛組織に様変わりしているはずですね。
ただし、結果的に
惑星アースを救った行動も多く、
それが誤解を招いている、と理解しています」
「……いや、感心したぜ。そこら辺の軍組織より
よっぽど俺等の事を正しく把握してやがる」
素直に驚き、賞賛するローザ。
「あ、あと組織構成としては、バックにスポンサー多数。
それらとブラフと、超絶精鋭主義の結果によって
現在の立ち位置を危ういバランスで保っているはずです。
作戦部を主として研究部、人事部、情報部によって構成され、
後進指導用に特別結成されたOB・OG部隊があるとか。
それから世代交代も異様に速く、30代で現役引退も
当たり前のように行われているらしいですね」
ほとんど軍事機密に抵触するような事まで羅列してくる。
一体どこからそんな情報を集めてきたのか、
逆にローザも、そしてその他のメンバーも気になった。
「なるほど、じゃあ誰がその情報をお前達にもたらした?
私達勇者軍にスパイがいた、とでも言うのか?」
「スパイはいませんよ? 元勇者軍所属者がいるだけで」
「何ぃッ!?」
目を見開いて驚愕する一同。
「という事は、魔神軍の
リーダーは……レオナか!?」
昨今、
「ぶぶーっ、違いまーす。まだ教えられないですけど、
レオナちゃんはただのメインメンバーの一角でーす」
妙に子供っぽく訂正してくるノーラ。
急に肩透かしを食らったような気分がして、一気に脱力する一同。
「……まあいいや。とにかくそっちばっかりこっちを知っていて
こっちがそっちを知らないのは、なんか不公平じゃねぇか?
なんか教えられる事があったら教えてくれよ。
言っとくけど、相互理解が和解への第一歩だぞ?」
「はいはい。えーっと、
魔神軍は周知の通り、勇者軍と対になる存在で、
我等のリーダーは時に共闘、時に衝突して切磋琢磨しつつ、
現在の勇者軍と同等の立ち位置を確保するのが
現状の目標の組織です。意見ががっちり噛み合えば、
友好的に
なると思うんですけどねぇ。民間人の救援に関して
意見の相違があるせいで、ぎくしゃくしてますね」
「言ってみりゃ、交渉の余地は残ってるつぅ事か」
「で、組織構成は、ぶっちゃけてしまうと勇者軍の丸パクリです。
レオナちゃんが色々と教えてくれちゃったので」
「あからさまに対抗意識満々じゃねーか」
「そうする方が組織構築が早く済むからだって言ってました」
「なるほどな」
一応は納得して、ローザも応答する。
既存組織の模倣をする事は、新たな組織構築を行う際には
常套手段であり、決して悪い手段ではない。
「で、最終的に答えはこれだ。勇者軍のバックに、
最終的には
アルファ=ストレンジャーが
付いているのとは対称的に、
魔神軍のバックには
魔神王が付いているのか?」
「違いますよ。大体メンバーの中核たる私達が見たことないのに、
そんな事出来るわけないじゃないですか。
ゲン担ぎみたいなものです」
はっきりと言ってくるノーラ。
「分かった。で、最後はこれだ。ノーラはなんで一人だけ
勇者軍を屈服させる戦いにも参加せず、こんなところにいる?」
「私はこうやって人を治癒している方が性に合いますから。
しがらみとか、軋轢とか、そういうの駄目なんですよねー」
あっけらかんと回答するので、ローザも思わず苦笑した。
「そうか。じゃあ少なくとも俺達が
あんたと対立する事ぁ無いって事か。
だったら俺達に協力して、
双方の架け橋になってもらえねぇのか?」
「うーん、それはそれで魅力的なお誘いですけど……
一応メインメンバーの私が、それはまずいかなぁって……」
躊躇し、決断は避けるノーラであった。
そこまで意見が交わされた時であった。
緊急
サイレンが市街地に鳴り響き始めたのだ。
官庁にセットされた大型の識別装置が
イグジスターに反応したのだ。
「イグジスター警報発令! 詳細な数は不明!
あとおよそ三分で、難民キャンプの現状位置に交差します!」
オペレータの声が市街地中に大音量で鳴り響く。
「ちっ、話はここまでか!」
ヴァジェスが立ち上がり、先頭を切るべく、動く。
「方位特定完了! 数は推定……三十万!?
それだけじゃありません!
官庁正面から六時方向!
特に強力な一体、南の海から来ます!」
更にオペレータの声が鳴り響く。
「ちっ、
イグジスター五滅将とやらかよ!?」
特に強力な反応、というとそれしか思い浮かばなかった。
ロバートもただちに武器を抜き、臨戦態勢に入ったが、
主力となり得る勇者軍はヴァジェスを入れても六名、
他にはノーラと、ポメぐらいなものだ。
結構な人数を治癒したところで、
それが戦力になるとも思えず、
もはや敗走は確定的状況となっていた。
「あわわわ……どうしましょう……!」
「くっ、どうする……!? カイトさんなら……!」
「奴ならどうする……戦闘か、逃亡か!?」
今はまだいない仲間の策謀ぶりを思い浮かべつつ、
ウォルフ王子とエリックは各々、頭を悩ませる。
敵がいよいよ、本気の攻勢を見せ始めたのであった。
最終更新:2012年07月02日 20:52