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第二十六章-第三幕- 勝利と敗北は紙一重





マリー=ジーニアスと合流し、呪鞘カオスリキッドの封印を解かれた
ストレンジャーソードは今、その進化の形を顕現させる。
その反逆暴牙剣エネミーイーターは隙あらば、持ち主のロバートさえ
食らいつくそうとする呪いの剣であったが、
ロバートはそれを力でねじ伏せ、
それを改めて同族であるはずの
リビングメイル・イグジスターに向けた。
「……!? なんだ!?」
すぐに敵に向かおうとしていたウォルフ王子だったが、
何故か民間人がシェルターから
恐慌をきたして脱出している光景を見かけた。
騒音がキツ過ぎて、かえって地下では
パニックのもとになっていたらしい。
音の割に人の声が少ないのも、かえって混乱を助長した。
「あの、どちらに行かれるつもりで!?」
「やっぱりあの化け物相手に地下じゃ駄目なのかも分からねぇ!
 だから俺達はありったけの船を使って、ここから逃げる!
 あんた達も命が惜しかったら、すぐ逃げるんだよ!」
民間人が一旦停止して説明してくれた。
「ご心配無く。先に逃げていて下さい。
 私達が誰だかご存知ではない、とは言わせませんよ。
 我々誇り高き、勇者軍メンバーと、その筆頭の名を!」
「おおッ!」
その一言だけでいくらか冷静さを取り戻す民間人達。
「ようし、みんな! 今のうちに船で脱出だ!」
どうやら、その程度には信頼されているようであった。

「ロブ、民間人の脱出を援護するためにも、ここはあの
 リビングメイル・イグジスターだけでも討って、
 敵の指揮系統の乱れを誘ってから、私達も離脱しましょう!」
「よし行け、ウォルフ、マリー! 数は俺等が引き受ける!」
ロバートはエネミーイーターを持ち、イグジスターへ突撃。
その他のメンバーも他のイグジスターの移動阻止に専念する。
たまたま現状のメンバーが、ヴァジェスとロバートを除いて
大規模攻撃を不得手とするメンバーばかりなのが痛いところだ。

「では、行きましょう。メインメンバーが二人がかりです。
 あのような中途半端な存在に負けるわけにはいきませんよ?
 疲労もしていらっしゃるようですが、大丈夫ですか?」
「無用な心配だ、王子。ジーニアス家の誇りにかけて、
 これ以上の醜態など、晒すわけにもいくまい……
 惜しむらくは満足な武器が揃っていない事か」
ボロボロになった槍のみが、彼女の手元に残っていた。
他の武器は、酷使しすぎて片っ端から壊れている。
「おらよ!」
ロバートから、マリーに愛剣タングステンソードが渡った。
「む?」
「特注品だ! ちっとやそっとじゃ壊れやしねぇぞ!」
「かたじけない! では、行くぞ!」
マリーが先陣を切る。ウォルフは後に続く形だ。

ロバートのエネミーイーターが渋々ではあるが、彼に従い、
斬りつけると同時に、攻撃範囲外の敵を丸呑みにして、同化する。
「ぎぎぎぎぃぃぃぃぃぃ!」
慟哭と哀しみの声をあげるエネミーイーターを、随時殴りつけて
反抗する意思を奪いながら、ロバートは高らかに笑う。
「ふふふふふ……ははははは……はぁーっはっはっはっはぁ!!」
「ああ、ロバートさん、楽しそう……」
何やら物騒な見守り方をするエナだったりする。

マリーがリビングメイル・イグジスターと鍔迫り合いを行う。
「ぬううん! 貴様等……それら人にあるまじき所業、許さぬ!
 下位種族の分際で、我等絶対上位種を顎でこき使うとは!」
「貴様等の蛮行に比べれば、これでも温い!
 精々、煮え湯でも呑むのだな、イグジスター!」
「勝手に上位種ぶって、本当に支配者のつもりですか!
 戯言も程々にしていただきましょう!!」
マリーに続き、ウォルフ王子も続き、二人で押し込む。
「調子に乗るな、人間!」
リビングメイル・イグジスターがパワーだけで二人を押し返す。
『離れて!』
いきなり外部スピーカーから、隠れたはずのカイトの声がする。
マリーが上を見ると、かなり近く、後方に
超高速低空飛行弾道弾が叩き込まれていた。
ウォルフ王子と、マリーをそれぞれの愛馬が強引に咥えて運ぶ。
「すみません、ターミネーター!」
「助かる、ステファン!」
それぞれ愛馬に跨り直し、様子を見守る。
「ぬうう!?」
流石のリビングメイル・イグジスターもミサイルまでは回避しきれず、
最後の一発をスピアで突き刺す。残ったミサイルは
遠くへ飛び去り、多くのイグジスターを撃破した。
「修羅抉り!」
ミサイルに刺さった槍を捻り、抉り、こねくり回す敵。
強引にパワーだけで引き千切られたミサイルは、
起爆する事も無く落下した。
「所詮は人間、姑息な真似しか出来ぬ惰弱よ!」
まるで笑うように身体を揺らすリビングメイル・イグジスター。

だがそれは、見積もりが甘い。あまりにも甘すぎた。
彼等イグジスターの敵は、
単騎で千名を軽く屠る人外魔境の化け物だ。
そしてその中でも、マリーの機動力は卓越して、素早い。
「なっ!?」
そして気付いた瞬間、既にマリーはゼロ距離にまで接近している。
一旦下馬して、馬蹴りの反動と
自らの脚力をもって、一気に近付いたのだ。
そのスピードは、もはや神速を超越し、絶影と化す。
「トルネードジャンパーッ!」
「ううおおおッ!!」
マリーが剣を掲げ、彼女を中心として竜巻が発生する。
リビングメイル・イグジスターは飛ばされ、彼女は自ら跳ぶ。
がぎゃっ!
そして彼女の『烈風』と呼ばれる秘技が叩き込まれる。
ごがん!
無様に落下するリビングメイル・イグジスター。
その頃にはウォルフ王子も既に接敵完了済みだ。
「斬滅!」
まずは縦に斧を叩き込む。
馬ごとの重心移動であり、威力が桁違いだ。
「十文字斬り!!」
続いてやはり馬ごとの重心移動で、横へ攻撃を叩き込む。
見事に十文字に叩き割られ、
リビングメイル・イグジスターは動きを止め、
他のイグジスター同様に、黒いゲル状の物体となって
飛び散り、消える。
「流石ですよ、マリー」
「ジーニアス家なれば当然の事。
 それはアーム王家の誇りとて、同様に」
ハイタッチしながら、無愛想に返すマリーに、
ウォルフ王子は苦笑する。

「よし、このままフライトデッキを開放する、乗ってくれ!」
カイトが潜水艦のフライトデッキを開き、招き入れる。
「うむ、これ以上の無理は禁物だ、逃げるぞ!」
先程同様、囮をやっていたエリックが真っ先に退避する。
それに続き、他のメンバーも一斉にデッキに飛び乗ろうとする。
だが、イグジスターもそれに追従しようとしてくる。
この艦を乗っ取り、他の逃げた民間人を追う腹積もりらしい。
「この蒼き艦体は、君達を乗せては無粋過ぎる代物でね。
 父の威光を汚させない、などというつもりはないが、消えてくれ」
カイトは通信で、ブリッジクルーに呼びかける。
「対地ミサイル、水平発射! イグジスターを寄せつけないでくれ!
 味方が全員乗艦するまでの間だけで構わない!」
「了解、ミサイル、一番から十二番まで一斉射!」

ずどどどどどどどど!

多くの建物を巻き込みつつも、ミサイルは確実に
イグジスターの足を止める。
ゆっくりとしか接近できないまま、
イグジスターはまごついているしかない。
何より指揮官を失った一時的な混乱が、彼等を救っていた。
正攻法であれば、勝負にもならなかっただろう。
それほどまでに、イグジスターの数は絶対多数だったが、
ロバート達は寡兵ながらも、誰一人欠く事無く、乗艦に成功した。
民間人も援護の甲斐あって、なんとか被害は無かったようだが、
紙一重の戦略的勝利と、紙一重の戦術的敗走だったと言える。
「マリー、封印だ!」
「ああ……カオスリキッド!」
エネミーイーターの暴走を抑制するため、
マリーはカオスリキッドで再びエネミーイーターの刀身を、
呪鞘カオスリキッドで包み込んだ。
これで、ひとまず憂いは絶たれたわけである。

だが、結果としてこれも敗走である事に変わりは無い。
殲滅させられないもどかしさと、マリーが無事合流出来た
ささやかな喜びだけをもって、ブルー・ワイズマンは海上を行く。
無事に逃げる事が出来た、数少ない民間人と共に……



<第二十七章-第一幕- へ続く>
最終更新:2012年07月02日 21:09