第二十六章-第二幕- エネミーイーター
カイト=ワイズマンとの会議の結果、水中と水上、
及びそれらに囲まれた離島に
人類の生き延びる場がある事に気付いた
勇者軍は、
その実践検証のため、カイトの潜水艦
『
ブルー・ワイズマンMk-Ⅰ』に
乗り込むために、
リプトール・タウンへと移動していた。
「現状では余り騒ぎを大きくしたくはない。
ステルスが得意なクロカゲがいれば偵察に便利だったが……」
エリックがぼやきながら、
イグジスターの視界が勇者軍全体に行かないよう、
空中威力偵察を行いつつ、囮としても動いていた。
ぶっちゃけて言うなら、魔力がもつ限り、飛びまくって
一方的に攻撃する方が、対イグジスター戦術としては
優秀だったりするのだが、
魔力には限界がある上に、飛べるのが彼とヴァジェスだけなので、
この戦術は思うように使えないだけだったりする。
単独で行動するとなれば、滅法有効だった。
いざという時は強行離脱も可能だからである。
「さあ、ヴァジェスも上手くやってくれているだろう。
誰にも気付かれる事無く、リプトール・タウンに入ってくれよ……」
エリックの懇願叶って、ロバート達の主力部隊は
一気にリプトール・タウンに接近していた。
「ウォルフ、周囲にイグジスター反応は?」
「かなり積極的に動いていますが、
どちらも囮に引き付けられています。
時々、ヴァジェスさんもエリックさんも、
急旋回や急反転などでイグジスターの視界から外れて、
更に撹乱を続けていますね。
この分なら、秘密裏に入り、騒ぎを起こす可能性は低いかと」
「だといいがな……奴等は視界より嗅覚の方が侮れねぇ。
もっとも、目も耳も鼻も無い奴等に
五感を問うのがどうかと思うがよ」
「それに不特定要素の存在が無い、とは断言出来ませんしね。
どこからか、民間人が逃げてきた場合は
それに巻き込まれるでしょうし、
救出を拒否する理由は何もありませんので……」
「だな」
「急ぐぜ、ロブ。せっかくヴァジェス達が苦労してるんだ。
俺等が無駄にするわけにゃいかねぇだろ」
ローザも大事な事を念押ししてくる。
「……?」
すると、エナが急に足を止める。
「どうした、エナ。急ぐぞ?」
「いえ、ちょっと待って下さい。
レーダーに勇者軍端末の反応……です」
「エリックのおっさんか、ヴァジェスじゃなくてか?」
ロバートも足を止める。
「……違います。両名は未だイグジスターを撹乱中みたいです。
それとは別の反応が一つ、
イグジスターから逃げているみたいです」
エナは慌てて通信をONにして、呼びかけてみる。
「こちら勇者軍
サブメンバー、
エナ=ギャラガー伍長。
誰か分かりませんが、応答して下さい。誰ですか?」
すると、聞き慣れた声が応じてくる。
「こちら、
マリー=ジーニアス!
グラード・シティへ援護すると聞いて一足遅れて行ったが、
既にあそこはイグジスター共の巣になっていた……!
不運にも察知されて、結構な数のイグジスターと、
やたらと強力な擬態イグジスターに追われている。
合流を求める! こちらも抵抗したが、
既に魔力も物資も枯渇している!
繰り返す、救援と合流を求める!」
「マリー! そのままリプトール・タウンに向かいなさい!
そこからほど近いはずです! そこで待機及び援護します!
合流後、速やかにブルー・ワイズマンに乗りますよ!?」
ウォルフ王子も呼びかけると、
マリーは安堵したように一息つく。
「了解した! 市民はシェルターに
避難するよう指示しておいてくれ!
誰もいないと分かれば、私達が逃げ切る分には問題ないはずだ!」
「分かりました!」
ウォルフ王子は馬に乗り、一足先に庁舎へ向かう。
避難指示を即座に出すためである。
「よし、一足先にリプトール・タウンでマリーを待つぜ!
ローザ、おっさんとヴァジェスにも囮作戦を中断させろ!」
ロバートの指示に頷き、ローザは二人に連絡を取った。
「おっさん、ヴァジェス! 囮はそこまででいい! すぐ合流を頼む!
マリーの奴がここに来て、イグジスターに追われてるってんだ!」
「何、マリーが!? 無事なようで何よりだ。了解した!」
「そういう事態ならしょうがねぇだろうな。すぐ行くぜ、ローザ!」
二人とも即答し、すぐに反転してリプトール・タウンへ向かう。
それからの行動は迅速だった。リプトール・タウンの民間人を
シェルターに退避させる。万が一中に進入して来る可能性が
無いでもなかったが、四の五の言っていられる状況ではない。
到着後、まずは折衝を終えたウォルフ王子が戻ってきた。
その直後にヴァジェス、そしてエリックが戻ってきた。
「来るぞ!」
ざばぁぁぁん!!
豪快な音を立てて(これでも静かに浮上しているつもりだが)、
ブルー・ワイズマンが姿を見せる。
ハッチを開けてカイトが呼びかける。
「民間人もろとも、全員無事か……すぐに避難を!」
「すまん、カイト! マリーの奴が今追われてるらしい!
それを保護してから、乗る! ハッチはまだ閉めておけ!」
「分かった……待つよ」
ロバートの言葉に納得したカイト。
彼はハッチを閉めて、イグジスターの侵入阻止に専念した。
「来るぞ、敵とマリーだ!」
だが、イグジスターの戦闘には何故か鎧付きが混じっている。
「あれか!
イグジスター五滅将! えーと何体目だ!?」
「四体目ですよ、覚えておいて下さい……!」
ローザにツッコミを入れるエナ。
「さしずめ、
リビングメイル・イグジスターってトコか」
「亡霊……の憑いた鎧ですか? そんなの、呑めるんですね」
「亡霊単体なら無理だろうが、鎧を媒介しているからだろう」
ヴァジェスが冷静に持論を述べるも、
追われているマリーはそれどころではない。
「くぅ、しつこい……! はぁ、はぁ……ロブ、援護をしろ!」
「助けて下さいとエナみたいに素直に言えんのか貴様はっ!」
「そんな事をほざいている場合か、お前は!」
「いいから解けよ、封印をよ!」
ロバートは、諸事情により今まで使う事が出来なかった、
家宝ストレンジャーソードを取り出し、
その鞘付きの刀身を高く掲げた。
マリーとイグジスターまでの距離はまだそこそこに開いている。
封印を解くなら、今のタイミングしかなかった。
「今こそ封印を解き、我が手に戻れ、
呪鞘カオスリキッド!!」
じゅばっ!
意思を持つリキッドメタルである
カオスリキッドが鞘としての役割を止め、
一枚のコインに戻って、本来の持ち主、マリーの手に戻った。
それと同時に力を解放された
ストレンジャーソードが遂にその力を顕現させる。
刀身を黒いゲル状の何か、そう、イグジスターと同じ物質が包み込む。
その力は聖なる何かとか、優しい何かとかでは決してなく、
強いて言うなら邪悪とか、魍魎とか
そういう得体の知れない何かである。
その異様な反応に驚き、リビングメイル・イグジスターを含めた
数万からのイグジスターの大部隊は、揃って足を止める。
自らの同族が、人間側の力となっているに
等しい様を見た、いや見せられたのだ。
それは彼等にとってまさしく悪夢同然であり、
信じられない出来事だった。
「何だ、あれは……!
我等に近く、しかし何かが違う異物か……!」
リビングメイル・イグジスターが呟く。
が、その剣は持ち主にとって安全装置にはなり得ない。
「がぁああああああ!」
普通のイグジスター同様に、
持ち主であるはずのロバートを食らおうと
丸呑みの捕食行動をかけてきたのである。
「っ!?」
すぐに回避し、危うく難を逃れつつ、異物となった剣は放さない。
「所有物が持ち主に逆らうんじゃねぇぞコラぁぁぁぁぁっ!」
どがすっ! ぼごすっ! がごっ!!
剣のイグジスター化した部分を殴りつけるロバート。
自らの武器と格闘する異様な光景を見せつけられ、
イグジスターどころか、勇者軍までもが呆気に取られる。
やがて一方的に殴りつけ、
抵抗する気力をイグジスター部分が失うと、
あらためて、ストレンジャーソードを抱え直すロバート。
「ようし、このクズが、大人しくなりやがったな」
そのいびつな剣をイグジスターに向けてロバートはいつもの如く、
巨大
なびきマントを広げて、紋切り型の台詞を口走る。
「殲滅させるが上等と! ほざきのたまう愚物の群れを!
同族同類押し付けて! 共食いさせての生者必滅!
魍魎反逆ストレンジャー!
一方的捕食の因果を貴様等も味わいやがれ!
この『
反逆暴牙剣エネミーイーター』の暴虐によってなぁ!」
ぐったりとしたエネミーイーターをごりごり足で踏み躙りながら、
強引に言うことを聞かせるロバート。
「我が同族へのその仕打ち……許せぬ……!」
初めてまともな事を言いながら、
迫るリビングメイル・イグジスター。
それに他のイグジスターが続く。屈服させられる同族の姿が、
よほど衝撃的だったのだと理解すると、
ロバートは口から湯気を吐き、目を光らせ、
今にも熊か何かを食い殺しそうに感じられるような、
恐ろしく陰惨な笑みを浮かべる。完全に狂人の視線である。
だが、その顔が、何故か勇者軍に不思議と勇気を与えるのだった。
「ロブ……それでこそ、貴様という奴なのだな」
先程まで切羽詰っていたマリーも、ようやくふてぶてしく笑う。
改めて鞭を抜き放ち、戦闘の意思を示した。
リプトール・タウンに駐留するブルー・ワイズマンと
マリーの生存をめぐる戦いが今、幕を開ける。
最終更新:2013年08月29日 23:05