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第二十七章-第一幕- 悪魔に命の力を委ねよ





リプトール・タウンの民間人を連れて離脱した勇者軍は、
旗艦ブルー・ワイズマン及び多数の民間人の
船舶と共に、北寄りに移動。
かなり大きめではあるが、無人島であるはずの島を目指していた。
海上にいる限り安全ではあるものの、人間は所詮、陸上生物。
特に、慣れない人間の海上生活には、それそのものに限界があった。
「……無人……島か、アレ?」
潜望鏡から、島を見たロバートが一言、呟く?
「無人島のはずですよ? 人口衛星からのデータでも
 建造物その他が存在する気配は、一切見えませんので」
ウォルフ王子が端末をいじりながら冷淡にツッコむが、
ロバートは、そのウォルフ王子をつまみ上げて潜望鏡に近付ける。
「実物を見てから言えや」
そう言われたので、ウォルフ王子も潜望鏡を覗いて見ると、
なんと馬鹿デカい要塞みたいな城が堂々と存在している。
「そ、そんな馬鹿な!? 一体いつの間に!?」
「魔法での光学迷彩だろうね。通常時は見えないと見た。
 もちろん、今は通常時ではないわけだけどね」
カイトはそれに一瞥たりともくれず、冷静に分析する。
「ですけど、こんな芸当が出来る魔力となると人間離れしてます。
 私が言うのもなんですけど、人間技じゃないです」
エナも一応私見を述べる。
「人間じゃないんだろうね。一応文献と照合するなら、
 可能性としては一つ、というところかな?」
「勿体ぶらずに早く言え」
ローザがカイトのこめかみをごりごりしながら言う。
「あはは、痛い痛い。まあ個人的な見解だけど、
 かの古の勇者、エドウィン=ストレンジャーと戦った
 魔王軍の城塞なんじゃないかと思ってるんだけどね」
「……そうか! 道理で見覚えがあると思ったらその通りか!」
いきなりヴァジェスが何かを思い出したように叫ぶ。
「ヴァジェス? どしたよ?」
「いや、随分昔なんでうっかり忘れていたが、確かにあの島、
 昔魔王軍が駐留するために城をこさえてたんだっけか。
 それから後も、物質界に駐留する際には
 よくあそこを使ってるって、千四百年ぐらい前に、
 魔王の奴に聞かされた気がすんぞ」
「へえー」
興味津々とばかりに、ロバートとカイトが擦り寄る。
この二人、随分と歴史好きなのだ。興味津々でたまらないはずである。
「……あの島への距離は?」
それを無視して、マリーはクルーに問う。
「約五千メートル。割とすぐ到達しますよ?」
「どら、もう一回様子を見てみるとするか」
マリーもまた、潜望鏡を覗いてみる。
「……? エリック殿、ちょっと」
「どうした、マリー?」
「いや……私よりエリック殿の方が目が良いかと思って。
 ちょっと気になるものを見てしまった気がする」
「うん?」
エリックが改めて潜望鏡を覗き、そして動きが止まる。
「どうした、おっさん?」
「……おい、無人島とか絶対嘘だろ。なんだあの人だかりは」
「はぁあ?」
素っ頓狂な声をあげるクルー。
「うわ、全然見えん。よく見えるな、おっさん」
ローザも改めて見るが、まったく人間とは認識出来ない。

十数分後、ブルー・ワイズマンは浮上。
他の民間人船舶と共に、海岸に船を係留させた。
「よっと」
一同が降り立つと、結構な数の人間と、
膨大な数の魔族が何故か横断幕など掲げて歓迎ムードで待っていた。
「おいでませ、魔王城を擁する島へ!」
そしてこの歓待の一言である。呆気に取られてしまった。
よくよく見れば、人間と魔族だけではない。
亜人族や竜族、怪物族に妖精族もいる。
出向してきたと見られる神族や精霊族も、ちらほら見受けられた。
「ど、どういう事だ? 一体何が起こってやがる?」
ヴァジェスがそのかつてない光景に驚愕していると、
後方から五体の雑多な種族を連れた大柄な魔族が現れた。
スケルトン、オーク、トロル、オーガ、そしてハーデス。
いずれもエドウィン=ストレンジャーの時代に
名を轟かせた強化生物だ。
「久しぶりだな。竜王ヴァジェス=バハムート」
「魔王サタン! こりゃ全部あんたの差し金か!?」
「ああ、そうだ。イグジスターとかいう
 化け物が宇宙から来た事も、それに人間や
 他のナインサークルの生物が追われている事も知っている。
 その上で我等魔族に泣きついてきたので、
 こうして保護しているのだ。我等としても、
 人間が滅びるような事態は断固として避けねばならん。
 ここは、ナインサークルが総力を挙げ、
 団結して事に当たる、と決めた。
 そのために、この魔王城、
 使わせてもらうことにするのだよ、竜王」
「はははははは! 流石は魔王、いい貫禄してんじゃねぇか!
 あんたのやりように比べれば、
 まだまだ俺はヒヨっ子同然だな!?
 安心して色々物事を教わることが出来そうじゃねぇか!」
爆笑するヴァジェス。まさか同じナインサークルロードに
こんな馬鹿げた戦略を打ち立てる男が
いるとは思っていなかった。
それが今のヴァジェスの限界であり、
魔王サタンの器の大きさでもあった。
「そんな悠長なことを言っている場合ではあるまい。
 既に天空、ないし海上、あるいは離島に避難した者を含めて、
 人類の九割以上が生命の危機に晒され続けている事になる。
 無論、各惑星付近に点在するスペースコロニーも例外ではない」
「ああ。しかしこんな離島に
 よくこれだけの避難施設を作ったものだ」
「人間式の兵器工場も、資材も万全だ。足りないのは人手だけでな」
「ここに人が来たのは願ったり叶ったり、というわけかよ」
「そうなる」
そして、魔王サタンはロバート達を見やる。
「ほう、いい覇気だ。魔族に支えられる現状でもそのまま憂うか?」
「憂うわけねぇだろ。この状況が何とかなるんだったら、
 悪魔にでもなんでもこの命を委ねてやるぁ」
「ふはは! 生意気な口を小童がききおって!
 だが、それでこそ人類史上最強の私設軍筆頭にして
 勇気と、技と、機知との象徴、絶対勝利の勇者よ!
 これは力の貸し甲斐が出てきたというものよな!!」
ウォルフ王子がそこに割って入る。
「ともかく、この民間人をそちらで人手として使って下さい。
 共に事に当たり、この難局を何とか打破しましょう」
「うむ、良かろう!」
そう言ってまた笑う魔王サタン。

「こっちです。急ごしらえですが、宿舎へどうぞ!」
他の民間人達は、既に現地入りしている人間達に案内された。
これで、まずは保護に成功したことになるが、
それは数多き人類のほんのかすかな数に過ぎない。
今この時も、多くの居住区域が襲われ、滅びを迎えているだろう。
あるいは、未だに逃げ惑っている者も多いかもしれない。
それらを何とかするためにも、ここを軸に反攻の機会を伺う。
それが現状の勇者軍に取れる唯一の手段であった。

「しかし、よく見るとものすっごい
 デカい島だな。本当に離島なのか?」
エリックが周囲を見渡すと、離島と離島が橋で結ばれていた。
不自然に大きく見えたのは、そのせいなのだと理解した。
「これらの工事にも相応に時間がかかっている。
 兵器プラントに造船所、兵器試験場に
 通信施設、鍛錬場や兵舎、宿舎、
 あるいは食料供給の土地や
 食品工場など、多くの施設もある。
 数々の施設を離島に納めるには、
 これぐらい強引な手段も必要だったのだ。
 これほどの環境破壊となると、
 魔神王にも後で弁解ぐらいは必要かもしれん」
魔神王、という単語に反応したのはロバートだった。
「おい、そういや魔神王教団とかいう
 アブない連中を前に潰したんだが、
 奴等、復活予測タイマーなんてモンを作って
 魔神王復活の時間を予測してたが、予定通りに
 出てこなかったぞ。魔神王は復活しているんじゃないのか?」
「……それに関しては我々も気になっている。
 既にこの惑星のエネルギー総量の消費量から推測し、
 あらかた復元を終えてもおかしくない
 頃合なのだろうと思っているのだが……
 確かな事は分からない。あの方の事は
 理解の範疇を超える事も多くてな」
「ふん、それをああだこうだと騒ぎ立てて、
 人を殺して自分も滅びてれば世話は無ぇぜ」
行儀の悪い事に唾を吐き捨てるロバート。
「まあ、まったくだと言っておこう」
魔王は肩をすくめて、溜息をつく。そして続けて問いかける。
「それより、宇宙の情勢を聞いているのか?」
「宇宙? スペースコロニーですか?」
「ああそうだ。アーム王家の王子も気付いていなかったか。
 最新に近い情報でな。膠着状態があまりに長く続くんで、
 かえってある程度の余裕も向こうで出てきているようなのだ。
 兵器を新造し、余剰分を惑星アースに回すらしい。
 彼等も、理解しているのだ。明らかに主戦場が、この星なのだと」
「……本当にありがたい話です」
ウォルフ王子は心底嬉しそうに呟く。
「とにかく、今まで戦い詰めだっただろう? 少しは休む事だ。
 仮に兵器が出来たとしても、お前達が疲労し尽しては意味が無い」
「おお、助かる、では遠慮なく休ませてもらおう」
特に疲労の度合いが濃かったマリーが素直に礼を述べる。

勇者軍はひと時の休息を経て、安らかな眠りに就く。
また新たなる戦場で、またしても地獄を見るためだけに……



<第二十七章-第二幕- へ続く>
最終更新:2013年08月29日 23:13