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  • 永遠の子供1-2

崩壊学園wiki

永遠の子供1-2

最終更新:2024年03月03日 11:50

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紋章
せ〜ん〜ぱ〜い。

アルテミス
紋章、あなたまさかここでずっと待っているつもりじゃないわよね……。
ここは二年生の教室よ?

紋章
そんなの別にどうでもいいわ。だって私たち付き・合・っ・て・るんだから♪

クラスメイトたちの視線が一気に私たちに集まるのを感じた。

アルテミス
そういう誤解を招くような言い方しないでちょうだい。私、返事をした覚えはないわ。

紋章
ふうん、そうだったかしら。
先輩がサインした紙、持ってるのよ......あ、あれっ?どこにいっちゃったのかしら.....。

少女は慌てて心配そうにカバンの中をゴソゴソと探した。今にも泣きだしそうな顔をしている。

紋章
ない……。
どうしよう。もしあれが、あれがなくなったら……!
わ、私……。

涙がこぼれ落ちた。

アルテミス
そこまで深刻に考えなくていいわ。ただの申請書だし、また書けば……。

紋章
とっても大切なの!
あれには私たちの決意が凝縮されているのよ。もし失くしてしまったら、すべて元に戻ってしまう気がして……。

アルテミス
そう……。
ごめんなさい。私、ずっとあなたが本気で考えてるとは思っていなかったわ。
また私のことをからかおうとしてるんじゃないかと思ってた。

彼女と知り合って一年になる。
私が高一の時に演劇部に入って、間もなくして彼女も入ってきたのよね。
その頃、彼女はまだ初等部だったかしら。
この子は当時から人をからかうのが好きだった。
だからいつも気を緩めちゃいけない感じだったのよね。
でもあの日、彼女が言った真剣な言葉、それに彼女が見せた涙を目の当りにして、疑いの目で見ていた自分を恥じた。

アルテミス
大丈夫よ、安心してちょうだい。私たち約束したじゃない。直前で逃げ出すような事はしないって。
私、どこにも行かないから。だから……。

紋章
うん……。
……その言葉、先輩が自分の意思で言ったのよ?
ついでに言っておくと……全部録音させてもらったわ♪

アルテミス
えっ!

紋章
ふふ。

アルテミス
演技だったのね!まったくもう!

すっかり忘れていたわ。この子、演劇部の中でも飛び抜けて演技が上手いんだった。
演技力で紋章に勝る人はいないんだったわ!

——忘れられた涙が滴り♪金色の矢が鳴る♪

アルテミス
電話だわ。
部長から……。

紋章
そうよ、思い出したわ。

いつの間にか引き出しの中まで探していた少女がふと顔を上げた。

紋章
先輩がサインした申請書、もう部長に渡したのよ。
もう本当に逃げられないね、先輩♥

アルテミス
あなたっていう人は……。
私は逃げたりしないわ。逃げるつもりなんてさらさらないの。
それはそうと、私の引き出しを勝手に開けないでちょうだい!

紋章
は〜い。

——ピッ。
後悔したところでしょうがない。
複雑な気持ちを胸に、星綺部長からの電話に出た。

星綺
アルテミスさん!私、すごく感動しちゃった!
今回の舞台、あなたならきっと出てくれると思ってたよ!

アルテミス
星綺部長、大げさですよ。
それに私、だまされたんです。

紋章
ププッ。

張本人がほくそ笑んでいる。
無性に腹が立つ。

アルテミス
その人—— ある人が私に泣きながら言ったんです!私が出ないと今回の劇は成り立たないって!

星綺
ハハハッ、あなたって本当に断るのが苦手だね。
大丈夫だよアルテミスさん、純粋であることはあなたの長所なんだから!

アルテミス
部長までからかうんですね……。もういいです。申請書は撤回します。

星綺
ごめんごめん!
でもね、今回の件はとってもいいキッカケになるんじゃないかと思うんだ。
久しぶりにやりたいように思いっきりやってみよう?
きっとすごく楽しいから!

アルテミス
もう、子供扱いして。

部長の言うことはもっともだ。もうすぐ夏が来るし、高校生でいられる時間もそんなに長くない。
まだ"高校二年生''とは言っても、こうした時間はきっとあっという間に……

アルテミス
あっ。

見つめていた窓の方から目線を移すと、思った通り彼女が私のことを見つめていた。
紋章も私と同じことを考えていたのだろうか、惜しむような表情を見せた。

アルテミス
そうよ。

夏が終われば先輩たちが……星綺先輩が演劇部を離れるのよね。
高二の私ですら短いと感じるんだもの。
三年生の先輩たちにとってはきっと……。

星綺
みんなと一緒にステージに立つことができて私もうれしい。
でも、どうしても参加したくないんだったら強制はしないよ。

アルテミス
出ないとは言っていません。
ただ、私は演劇部で舞台美術の指導を担当していたので……。
ステージでは端役として、ダンスで盛り上げるくらいしかしたことがありません。
役者としての経験はまったくありませんし……失敗してしまう確率がすごく高いと思います。

星綺
そんなこと全然心配いらないよ。そうだよね、紋章さん?
もしも〜し、彼女はそこにいる?

アルテミス
はい……。

星綺
演劇部のみんながサポートするから。
アルテミスさんは頭いいし、すぐに上手にできるようになるよ。

アルテミス
だといいですが……。

星綺
期待してるね。
あっ、そうだ!今日は道具係の子に道具を作りに来てもらう日だった。
私もう行かないと!何かあったらいつでも連絡してね!

アルテミス
わかりまし——

プーップーップーッ……。
最後まで話を聞かずに切られてしまった。

アルテミス
あなたたち、示し合わせてたの?

紋章
なんのことかしら。
……今回の舞台、よろしくね。せ〜んぱい。
私の——ティンカーベル。

紋章が突然、真剣なまなざしを見せた。

紋章
必ずしも今回が、みんなで演じることのできる最後の劇になるわけじゃないわ。
最高の劇を演じられたら、またコンテストに出たいという思いをみんなに持ってもらうことができるはずよ。
たとえ高校レベルの、小規模な合同巡演公演だったとしてもね。

アルテミス
それなら、そもそも私のような素人に参加させるべきじゃないと思うけど。
でもあなたからの誘いを受けた以上、私も途中で投げ出したりするつもりはないわ。

紋章
そうやって自分の事を過小評価しないで。
この人物を演じるのに、アルテミス先輩よりもうってつけの人なんていないんだから。それじゃあ、演劇部で先輩のこと待ってるわね。
「私、どこにも行かないから。」

紋章がさっき録音した内容をスマホで再生した。

アルテミス
ちょっと!

紋章
恥ずかしかったかしら?先輩のそういう所、すごくキュートなのよね〜。

カバンを手に持ちその場を離れようとした紋章がふと足を止めた。
何もかも見透かすそのまなざしが、少し寂しげに私のことを見た。

紋章
一緒に探しに行こう。
忘れたくないもの、それと……
新しい変化を。

アルテミス
それ、私に「いいえ」っていう選択肢はあるの?

紋章
ふふっ、早く演劇部に来てね。

そう言ってウインクすると、紋章は教室から走り去っていった。
「夢の中だったら〜♪優しさ伝わる〜♪恐れないで〜」
留まることを知らない楽しさは注意を払わずとも気づくもの。彼女が走りながら口ずさむ歌のように。

アルテミス
今回もまた言われるがままになっちゃったわね。

……。
契機、かしら……。
ずっと考えていた。自分が一体どういう気持ちで紋章の誘いを受けたのかを。
考えてみたら私、あの時どうして演劇部に入ったのかしら。
家では家族にすごく期待されていて、進学のプレッシャーも大変なバビロン学園で、反対されながらも演劇部に入ったのよね。
疲れるだけ疲れて、何も得るものがないとしたら割に合わない。

アルテミス
みんなもそれがわかってて、だからコンテストとかに参加しようとしない。
結局みんな学生だから。
でも、それでも……。

私は無意識のうちにスマホを手に取り、保存された無数のファイルを見ていた。
これまで使った脚本、ダンスの音楽、照明。それに準備用のリストなどたくさんあった。
ひとつも削除されずに保存されていた。

アルテミス
忘れたくないもの……。

そういうものは確かに存在する。


——忘れられた涙が滴り♪金色色の矢が鳴る♪
また電話が鳴った。
星綺部長だわ。何か言い忘れていたことでもあったのかしら?

アルテミス
もしもし。

星綺
アルテミスさん、念のための確認なんだけど、紋章さんから台本はもらった?

アルテミス
台本……もらっていません。

星綺
ハハハッ!
台本も持たずにアルテミスさんの所に行くなんて、一体何をしに行ったんだろうね?

アルテミス
紋章はそういう子ですから。つかみどころがないと言いますか……。

星綺
私に言わせれば、彼女は遊ぶ事ばかりに気が行きすぎだよ。
でも仕方ないか……アルテミスさん、悪いんだけど後で演劇部まで台本を取りに来てくれな。
今年の練習もついに始まるよ。
悔いの残らないよう思いっきり楽しもう。

アルテミス
今回は劇を練習しても、コンテストには参加しないのでしょうか?
大舞台で演じることが無ければ、後悔せずに済みそうですね。

星綺
そうだね。
それだとやる気でない?

アルテミス
いえ。

星綺
そう。
でもなんだかあまり元気が感じられないね。

アルテミス
それは……私の中で整理できていない部分があるからでしょうか。
本番までの二ヵ月でちゃんと演じられるようにしなければなりませんから。
お稽古にも力を入れないといけませんし……紋章が引っ掻き回したりしないよう祈るばかりです。

星綺
確かにそれ、あり得るね〜。
——聞いて、アルテミスさん。
演劇って、役者が演じる人物を体験することでもある。
だから演技の習得は、演劇部のメンバーからの指導とか自分で学ぶ以外に、自分自身の生活を意識的に体験するというのも効果的だよ。
学園の色々なところで他の生徒たちと様々なやり取りがあると思うけど、そうした体験を自らの演技に取り入れてみて。
私も教えてもらって実践してるところなんだけど、とても大切だと思うんだ。

アルテミス
ありがとうございます。
そうしたら忘れ物がないか確認したらすぐに演劇部に行きますので、またそちらで会いましょう。

星綺
うん、演劇部で待ってるね〜。


アルテミス
この劇を成功させるには、演技をマスターする必要があるわ。
紋章に会いに行きましょう。演技に関して彼女以外に頼りになる人はいないもの。


紋章が食い入るようにして何かを見つめている。

アルテミス
これは?

紋章
来たのね?これ、演劇部でやった以前の舞台の映像よ。

アルテミス
これってあの時の「アリス」の物語?

スマホで再生していたのは演劇部の以前の演目『不思議の国のアリス』だった。
だがそのシナリオは一般的に知られる内容とは異なっていた。当時、演劇部の上に立っていた先輩がシナリオを変更し、不思議の国がまるで地獄のような場所として表現されていたのだ。
その苦しみに満ちた国で真実の自分と理想の夢の国を追い求めるために、アリスがあちこちを壊し尽くすという内容だ。
この作品でアリスを演じた主演が……今まさに目の前にいる。

紋章
期待で胸をふくらませると同時に恐れもある。大人へと成長していく子供たちの心の世界って、信じられないくらい狂って見えたりするものなのよね。

紋章は画面を指さしながら自らの感想を述べた。
画面の中の彼女はまるで野獣か何かのようにあらゆる物を切り裂いている。
普段の紋章とは似ても似つかない。劇に出る人は……みんなこうじゃなきゃいけないのかしら?

紋章
先輩、見て。

紋章は一時停止を押し、画面のある部分を指さした。

アルテミス
私がバックダンサーで出たシーンね。

紋章
先輩の顔、やっぱりすごくきれいだわ。どんな時でもどういうシーンでもきれい。

アルテミス
何よ。評価は顔についてだけかしら?

紋章
顔以外は……じっくり見てからじゃないとね♪
そういえば先輩、ずいぶんと早く来たみたいだけど、やる気満々みたいね?

アルテミス
参加する以上、演劇部の期待を裏切りたくないだけよ。
それはそうと、星綺先輩が見当たらないみたいだけど?

紋章
準備室にいるわよ。
道具係が進めてた衣装デザインが上がってきたから確認するそう。
あと生徒会からも人が来てたみたいだから、話し合いか何かしているのかもしれないわ。

アルテミス
ところで演劇の指導についてなんだけど、あなたにお願いできないかしら?

紋章
えっ?……そこまでやる気を出されたなら仕方ないわね。いいわ、私が教えてあげる。
でも、指導と言っても私個人の経験を教えるだけだから、どこまで取り入れるかは先輩自身が判断してね。

アルテミス
もちろんそのつもりよ。
(星綺先輩には後で声をかけることにしよう。)
私の方は準備万端、いつでも始められるわよ。

紋章
それじゃあ始めましょう。まずはこの破廉恥な服を着て、このチェーンをつけて私について学園を一周するのよ。
ステージに立つ際にまずやらなければいけないのは、不要な 羞恥心を捨て去ること。
それが最も重要なんだから。

アルテミス
?
さらにワンとでも鳴かなきゃいけないのかしら?

紋章
猫の鳴き声でもオッケーよ♪

アルテミス
にゃ、にゃ〜

紋章
うん!?

アルテミス
隙あり!

驚いた紋章は頭上の防御が手薄になり、強烈な手刀が見事に命中した。

紋章
イタッ!
すごい破壊力!手刀もよかったけど、猫の鳴き声もよかったわ!

彼女の反応を見ると、これ以上どんな制裁を加えても意味が無いように思えてきた。

アルテミス
真面目にやらないんだったらもう知らないわ。

紋章
は〜い。
では始める前にそこのキミ!

アルテミス
えっ?

紋章
そこは「はい、紋章先生」と答えるべきでしょう?

アルテミス
……。

紋章
まあいいわ、演劇で最も重要なのはなんだと思う?

アルテミス
そうね……。
演技力かしら。
どんな観衆であろうと欺くことのできる演技力よ。

紋章
なんか言う事すべてに別の意味が込められているような気がするわね。
残念ながらその答えだと抽象的すぎよ。実際には色々な細かい点が含まれているの。例えば——体の動き、表情のコントロール、それに発声とか。
でもその中からどれがポイントかを選ぶのは容易なことじゃないわ。
それにテクニックによる表現にあまりに傾倒しすぎると、逆効果になってしまうこともある。

アルテミス
わざとらしくなってしまうのね。

紋章
そういう事。演じる人物の精神世界を完全に理解せずして、適度な演技をするのは困難を極めるわ。
だから—— 結局のところ最も重要なのは、演じる人物の理解と創造。
私はそう思ってるわ。

アルテミス
今回の劇のテーマは『大きくならない子』よね。

紋章
先輩の役は「ティンカーベル」よ。
ピーターパンにずっとついて回る、明るい性格のピクシーなの。

アルテミス
明るい性格のピクシー……私が演じると思うと頭が痛いわ。

紋章
ああいうすごく純粋で一方的な感情は、先輩にすごく似ているところがあると思うの。

アルテミス
そう……かしら?

紋章
指導はまだまだ続くわよ。
次は、演じる人物の創造を一緒にやってみましょう。これには「想像力」と「演技」の基礎が必要になるの。
一歩一歩演じる人物に近づいていって、最終的にティンカーベルになりきる。さあ、アルテミス先輩。

アルテミス
「想像力」と「演技」……。

紋章
課題は全部で四つ。
え〜と、ひとつめの課題は……これにしましょう。
私の教室についてきて。

アルテミス
演劇部でやるんじゃなくて?

紋章
演劇部にいるだけじゃ学べないこともあるのよ。
行きましょう。

アルテミス
紋章の教室は1-C。彼女が普通のものを用意してくれるといいけど。

紋章
いいわね、時間通りよ。アルテミス先輩に1ポイント〜。

アルテミス
そんなルールないでしょうに。
これは?

紋章
物語の本よ。
より厳密に言えば演劇の台本ね。小説や童話など様々なものが私たちに物語を教えてくれるわ。
この物語を一緒に見てみましょう。

アルテミス
う〜ん……。

『ロミオとジュリエット』の台本が目の前に置かれている。

アルテミス
物語を見る......ことの意味はわかるけど、今それを言うということは単純に読むということじゃないのよね。

紋章
ご明察。それじゃあ先輩——

次の瞬間、反応する間もなく紋章の細い指が私のあごの下にあてがわれた。そして私の顔をやさしく上へと向けた。

紋章
そう.....その中の内容を演じるのよ。
これでわかったかしら、私のロミオ。

アルテミス
クッ!
ちょ、ちょっと待って。まだ何も準備が..…。

紋章
ロミオ、ロミオ、どうしてあなたはロミオなの。

顔がどんどん近づいてきてまったく集中できない。
それに周囲がざわつき冷やかす声も聞こえてくる。

紋章
お父様と縁を切り、その各を捨てて。

アルテミス
あ......ちょ......ちょっと待って.....。

頭が真っ白になった。
台本の中のロミオのセリフはなんだったかしら?
そう思い台本を手に取ろうとしたものの、紋章が迫ってきて既に身動きが取れなくなっていた。

紋章
ロミオ、私にとって敵なのはあなたの名前だけ。その名前にどんな意味があると言うの?愛しいロミオ。
さあ、各を捨てて.....そうよ。

突然、紋章がいつもの紋章に戻った。

紋章
これからあなたは「アルテミス」という名前にしなさい、ロミオ。

アルテミス
はい?

手のひらで転がされていることに気が付いた時には既に遅かった。あたりは冷やかす声に包まれていたが、頭の中はそれ以上に多くの雑音で一杯だった。

アルテミス
紋章の……。
バカ!

ドン!
……。

紋章
うふふ。先輩ったらちょっと真に受けすぎよ。

アルテミス
はあ.....私がバカだったわ。だってあなた、私がこの台本を見たことがあるか知らなかったでしょう?私が演じられるかどうかなんてわからなかったはずよ。
だから、こんなものは稽古なんかじゃないわ。

紋章
うん、まあ物語を見さえすればそれでいいんだけど。
最終的に、想像力を鎩えて物語に登場する人物になりきる必要があるのよ。
じゃあ、第三幕の第五場のロミオがジュリエットに別れを告げる部分をやってみましょうか。
そうね、ロミオの部分を。

アルテミス
その部分は......ロミオが追放される前夜にひそかにジュリエットに会いに行くのよね。
そしてここ、空が次第に明るくなってロミオはジュリエットと別れなければならないシーン。
……。
想像もできないわ。だってこんな強烈な恋愛を体験したことないもの。
いっそのこと.....私も恋愛すればいいのかしら。

紋章
ふふっ、まあ逆効果になっちゃうかもしれないけどね。
先輩、試しに私のことを愛してくれても——

アルテミス
何も知らずに演技した方がマシね。

紋章
……。
でも先輩、「恋愛すればいい」ということは、もう自分なりの答えが見つかっているんじゃないかしら。
先輩自身の体験の中からロミオを理解しようとしているでしょう?

アルテミス
ダメかしら?

紋章
それもひとつの方法だと思うわ。
元々、私も先輩が自分でどういう答えに行き着くか見てみたいと思っていただけよ。
試しにその方向で進めてみたらいいんじゃないかしら。

アルテミス
台本が机の上に置かれている。内容を体験するなら…。

もう行かないと。空は明るくなっていくけれど、私たちの悲しみの心はますます暗くなっている。
……。
自分なりにロミオの気持ちを理解し、体験しようとしてみた。
その際、自分が思い起こすことのできる色々なシーンを可能な限り振り返ってみた。
中等部の頃、初等部の頃、更にはもっと前の出来事を....。
今まで忘れずに覚えていた出来事には、どれも強烈な感情が伴っているに違いない。
でも恋愛をしたことのない私はそういう体験のヒントを、一体どの記憶から得ることができるのだろう。

考えに考えて、私は小さい頃にあった非常に他愛もない出来事に行き着いた。
……。

(回想)

アルテミス
暗くなってきたわ。

父
もうすぐ着くからな。今日はすごいご馳走だぞ。
運転手さん、ちょっと急いでくれないか。

アルテミス
うぅっ……。
ご馳走なんていらないわ。なんで誰かのパーティーに行かなきゃいけないの?
わたし、おともだちと約束があったのに......あっ、いけない!

口を滑らせてしまった。慌てて小さな手で口を覆ったが間に合うはずもなかった。

父
おともだちって、どこの子?

アルテミス
ふんっ、言わないわ!言ったってどうせパパは遊ぶなって言うに決まってるんだから!

父
はぁ、アルテミス。おまえはパパの大事な娘なんだ。
何度言ったらわかってくれるんだい?木登りだとかサッカーだとかって、おまえには似合わないだろう?

アルテミス
どうして?わたしすごく上手なんだよ!

父
ケガでもしたらどうするんだ。
おまえはうちのかけがえのない宝物なんだ。一番豪華な場所で光輝く存在なんだよ。
うちはそういう家系だからそうあるべきなんだ。

アルテミス
うぅ〜……。

私は心の中でムカムカしていることしかできなかった。それが意味のないことだとわかっていながらも。
車は更に進み街中へと入っていった。
そこで私は窓越しにそれを見つけた。
小さな店に飾られた小ぶりのクマのぬいぐるみを。
特に限定版など珍しいものでもなく、どこにでもあるようなシンプルなものだった。
しかしそれがなぜか店の一番目立つ場所に飾られていたのだ。

アルテミス
少しよごれてるけど、ほしい人がいなかったのかしら?
あれが欲しい。

ぬいぐるみがかわいそうだと思ったからか、それとも苛立つ気分を発散するためだったのかはよく覚えていない。
だけど小さい頃は、ふと目に入ったものを狂ったように欲しがることがよくあった。

アルテミス
パパ!あれが欲しいわ!

父
わかったわかった。機嫌を直してくれるんだったらなんだって買ってあげるから。
でもあれはさすがに古すぎるだろう。パパがもっときれいなやつを買ってやるからな。

アルテミス
私はあのクマさんがいいの!

それから交わした会話についてはよく覚えていない。
その後、父はかかってきた電話に出て、車を降りるまでずっと通話していた。
私はと言えば、車が次第にその店から離れていくのを指をくわえて見ていることしかできなかった。
結局、父は確かにとても大きなクマのぬいぐるみを買い与えてくれたけど、私は全然うれしい気持ちになれなかった。
絶対にその店に戻ってあの時のぬいぐるみを買うんだ——まだ小さかった私の頭の中は、もうその思いだけでいっぱいだった。
だけど……。
ちょうど店の近くに行く機会があって、幼い私が向かった時には——
お店はつぶれて売りに出されていた。
車から見かけた時には、きっと店主も店をやめるつもりだったのね。
あのクマのぬいぐるみが一番目立つ所に飾られていたのも、店がつぶれてしまう前に店主が、ぬいぐるみを気に入ってくれる人を見つけてあげたいと思ったからなんじゃないかと思ってるわ。
家に帰った私は一晩中泣いたのよね。
……。
…………。
(回想終)

アルテミス
…………。

紋章
すごい集中力だわ。
愛する者の近くに居続けることのできない悲しみ、それに眼差しからは隠しきれない怒りが見てとれる。
それこそがあなたにとってのロミオなの、それとも..…。

アルテミス
!?
ひょっとして私に話しかけてるの?

紋章
気にしないで、独り言よ。
どう?

アルテミス
なんだか説明するのは難しいけど....…。
私の考えるロミオは......とても苛立たしかったんじゃないかしら。だけど権力にあがらうことができず、その場を去るしかなかった。
背景を深く理解しているわけじゃないから、もしロミオがその場に残る展開だったとして、ジュリエットを傷つける結果になってしまったかはわからない。
だけど、愛する者から自ら離れることを望み、しかも少しも名残惜しいと思わない人なんていないじゃない。
それが強制されたものであればなおさらよ。

紋章
あら?
先輩、確か恋愛したことないって言ってたわよね?

アルテミス
……ないわよ。

紋章
じゃあ、過去のどういう経験を吟味して......その結論を導くことができたわけ?

アルテミス
……。

紋章
教えてよ〜。

アルテミス
……マ。

紋章
よく聞こえないわ。私に指導してほしいのよね?

アルテミス
クマ……。

紋章
クマ?

アルテミス
クマのぬいぐるみ!どうしても欲しかったクマのぬいぐるみのことを考えていたのよ!

紋章
…… プッ、ハハハッ。

アルテミス
笑わないでよ!

紋章
い、いやバカにして笑ったわけじゃないの。
やっぱり.....先輩って思った通り、すごく純粋な人だわ。ホントよかった——これでも私、喜んでいるのよ。

アルテミス
まだ言うの!?

紋章
ゴメンゴメン......プッハハハ〜。

アルテミス
ああ、言わなきゃよかったわ!
……。
うちの教育がどういうものか、あなたも知ってるはずよ。

紋章
そうだったわ。
それにしても、ロミオが別れを告げる時の気持ちを先輩にも理解させられるだなんて、そのクマ、先輩によっぽど気に入られたのね。

アルテミス
紋章。
あなたも、普段からこうやって演じる人物の思いを経験しているのかしら?
そう考えるとやっぱり伴優って.....なんだか怖いわ。

紋章
私のこと尊敬しちゃった?

アルテミス
……。

紋章
まあ物語も見終わったわけだし、そろそろ現実に戻りましょ〜。

アルテミス
ずっと現実の世界にいるじゃない。

紋章
人物を演じる時って、自分が持つ想像力を頼りに元々の状態から自分を切り離す必要があるのよ。
試しに想像力をそうやって使ってみるといいわ。

アルテミス
わかったわ。

紋章
そうしたら次の課題の準備に移りましょう。
少し休憩を入れてもいいわよ、先輩。

アルテミス
私は大丈夫。続けましょう。

紋章
それじゃお言葉に甘えて。
……。
(小声)自分の過去の体験を通じて、演じる人物の気持ちに近い状態になるのよ。
それが先輩の選んだ表現の方法なんだから。

アルテミス
えっ、何?何か言ったかしら?

紋章
いいえ、私はただ先輩の横顔に見惚れていただけ。
二階に行ってるから、私のところに来て。
次はその想像力を如何にして素晴らしい演技へと昇華するかよ。

二階へとやってきた。教室の前で紋章が期待したような表情で待っているのが見える。
紋章はきっと初めから私が教えを請いに来るって知ってたのよね。そうじゃなきゃここまで周到な準備をこんな短時間でできるはずないものね。

紋章
どうしたの、疲れちゃった?
まだ一つ目の課題しか終わってないのよ。学ぶことはまだまだあるんだから。

アルテミス
分かってるわ。

紋章
でもこの調子でいけば、先輩もすぐに演劇部の精鋭のひとりになれるわよ。
どう、うれしい?

アルテミス
そんなに簡単にいくんだったら、今頃そこら中役者だらけよ。
言っておくけど、今回はちゃんと"直接”本題の内容を教えてよ。前回みたいにまた私を笑いものにしたら……。

紋章
了解、私ももう手刀を食らいたくないしね。
先輩の手刀も挙もすごい威力なんだから、その腕で本気出したらどれだけすごい事になるのか、ちょっと見てみたいわね〜。

アルテミス
早く本題に入りなさい。

紋章
は〜い。
それでは第二の課題よ.......うん......。
今回こそは本当に即興の演技よ。

アルテミス
テーマは?

紋章
女子生徒よ。
今回、先輩には「何かを怖がっている女子生徒」を演じてもらうわ。

アルテミス
分かったわ。

頑張って困惑したような表情を作ってみた。

紋章
怖がっている表情を誇張しすぎないように、意識的に表現を控えめにしようとしているのはわかるわ。
でもまだ足りないわ。一体何を怖がっているのかをしっかり考えないと。

さっき練習したテクニックを使うということかしら?
記憶の奥にある一番怖かったシーンを思い起こしてみよう......。
初等部の時とか、中等部の時のあの出来事なんかはかなり怖かったわ。
それか以前見たホラー映画とか。
あの時は確か……。
………。

紋章
ちょっと待って。

アルテミス
えっ。
なんで途中で止めるのよ。

紋章
私から場面を指定することにするわ。
先輩に求められているのは自在に操ることのできる演技よ。
もし毎回、今みたいに記憶の世界に没入してたら、遅かれ早かれ壁に突き当たることになっちゃうしね。

アルテミス
ふふふ、そうね、それは確かだわ。

紋章
テーマは「何かを怖がってる」女子生徒でしょう?......先輩、何笑ってるのよ?

アルテミス
いえ、あなたが本当に先生みたいだから。
これじゃあ、どちらが先輩なのかわからないわね。

紋章
これくらいの事して当然よ。
私のティンカーベルのためなんだから。
では始めましょう。場面の設定はこれにしよう......。
いい?私が設定した場面を意識しながら演じるのよ。

紋章がどこからともなくノートを取り出し、何やら書き始めた。

紋章
私はあなたにとって一番の親友。
私がどこに行って何をするにしても、あなたは私についてきてくれる。
ある日私はあなたに、言い伝えられているある都市伝説を一緒に見に行こうと持ち掛けた。
そして私たち二人は学校へとやってきた。

紋章は何かを書き終えると、ページを一枚切り取った。
そしてノートの方を私に手渡した。

紋章
開いちゃダメよ。

この紋章の説明の仕方、いかにも人をけむに巻くような感じね。
でも......演技の表現はもうここから始まっているのかもしれないし——
ここは彼女のやり方に合わせよう。

アルテミス
ノートには何が書かれているの?

紋章
知りたい?でも焦らないで。
まずは都市伝説の内容を聞いて。
これはバビロン学園の21段の階段に関する都市伝説。
—— 言い伝えによると、バビロン学園の校舎の階段は20段しかない。
だけど二年生と三年生の間の階段だけは違うそうよ。
試しに一歩一歩、階段を数えながら登っていくと、最終的に21段あることがわかる。
そこまで数えてしまった人は、もう一つのバビロン学園へと連れていかれてしまうことになるの。
そこは……。

紋章の言葉がそこで一瞬止まった。まるで怪談を話す人が、途中でいきなり声を上げ聞き手を驚かす時のようだ。
しかし彼女はその後も何も言わず、黙々と前へと進み続けた。

紋章
じゃあ始めるわよ。

—— キミとボクは友だちだよね。だからさ.....一緒に都市伝説を確かめに行こうよ。

「や、やめようよ.....。」
理由はわからなかったが、なぜか無意識の内に彼女を止めたい気持ちがはたらいた。
だって本当に友だちだったとしたら、彼女がバカな真似をしてしまうのを指をくわえて見ていたくはないはずだから。

紋章
この先に進む前に仮定について説明しておくわね。

アルテミス
?

紋章
物語の内容はさっき言った通りだけど、もし本当に、それが今まさに起きていたらどうするか。
一方で私の方はこの都市伝説が真実だということを事前に知っている。
あなたを誘っているのは、お化けが人を引き寄せ道連れにしようとしているから。
その状況で......あなただったらどうする?
ついでに言っておくと、そのノートは開いちゃダメだからね。呪いはそれに込められているから。

アルテミス
えっ!?

手が震え、ノートが床に落ちた。
ノートを捨うと、階段の先から紋章の声が聞こえてきた。
もう始めたみたいね。

紋章
1……
2……
3……
4……
5……
6……
7……
8……
9……
10……
11……
12……
13……
15……
16……
17……
18……
19……
20……

アルテミス
どこに行ったのかしら?
彼女……21って言ってた?
つまり、数えながら登らなかった私は、もう彼女とは別の世界にいるということ?

1、2、3……。
まったく嘘じゃないの。本当に数えて登ってるのかしら.....。

段の数は21!

空き缶の落ちる音

ちょっと、近くにいるんでしょう?
いるんでしょう!答えてよ!
紋章!

アルテミス
どうしたの!?何があったの……。

彼女は微かに震えながら、おなかを押さえてうずくまっていた。
病気か何かなの?いや、それよりもずっと苦しそう。

アルテミス
保健室の先生のところに早く連れていかないと——

そう思った瞬間、彼女が腕をつかんできた。

紋章
逃げて。

アルテミス
どうして?

もしかして呪い?
さっき言ってたバビロン学園のあの都市伝説?

アルテミス
私、冗談だと思ってた。
21段の呪い、まさか本当だったの!?

紋章
ごめんね、キミのことを巻き込んじゃって。

彼女はしわくちゃになった紙を私の手に握らせた。

紋章
ボク、これをノートから彼り取ってしまったんだ。
これを元に戻せば、キミは現実の世界へと戻れるはずだよ。
早く逃げて。

アルテミス
私たち友だちじゃない。
あなたをおいて逃げられないよ!

頭の中がすごく混乱した。
彼女は私の友だち。だけど彼女のせいで私たちはここに来ることになった。
それにこのノートだって本当に命綱なのか、実は罠で更なる地獄へといざなうものなのかすらわからない。
でももしこれを現実に当てはめたら。二人が「アルテミス」と「紋章』だったとしたら。

アルテミス
私、絶対にあなたのことを置いて行ったりはしない。

紋章
そっか。.....でも、そのノートを使って現実に戻ることができるのはひとりだけなんだ。

アルテミス
そんなのやってみなきゃわからないじゃない!

紋章
!
キミならそう言うだろうと思ってたよ。

紋章
うわわ。

紋章が突然、つかんでいた私の手を振りほどいた。
何が起きたのか確認する間もなく、もっと恐ろしいことが起きた。
——ドン!

高学年の先輩
痛っ。
ちょっと、廊下を走らないでちょうだい!

上級生に怒られたのをきっかけに、周囲の声が次第に聞こえるようになってきた。
静かだった三年生の階の廊下がざわつき始めた。
現実に戻ってきたのね。
でも「もうひとつのバビロン学園」から「現実のバビロン学園」に戻ってきたわけじゃない。

紋章
演技の世界から戻ったわね、先輩。

アルテミス
あっ……ごめんなさい!

ぶつかった衝撃で、持っていたノートの中の紙がバラバラに落ちてしまった。

高学年の先輩
気をつけてよね。分かった?

アルテミス
はい、ごめんなさい。

幸い、その三年生の人は親切で、落ちてしまった紙を一緒に捨ってくれた。

高学年の先輩
これは……。

そう言うと、その三年生は不思議そうにこちらに目を向けた。

高学年の先輩
あなた、見た目もきれいで育ちもよさそうだけど。
まさかこういうのが趣味だとはね〜。あらあら。

アルテミス
こういうのって……。

捨った紙の裏を見てみると、それは写真だった。
かっこいいセクシーな少年が、魅力的な姿勢で抱擁しあうすごく大胆な写真だったのだ。
おまけにノートのカバーがずれ落ち、本の題名があらわになった。
「禁断学園」

高学年の先輩
これも何かの縁ね。私も似たようなものを結構持ってるのよ。今度、あなたにも見せてあげるね。

アルテミス
い.....いえ、結構です!
それにこれ、私のじゃないんです——!!

紋章
うふふ、叫び声をあげて逃げちゃった。

アルテミス
ハァ……ハァ……。

紋章
お水でも飲む?

アルテミス
あなたって人は!

と言っても紋章のせいじゃない。私が気を付けなかったのがいけないのだから。
それにしてもあんな本を演技の道具として使うだなんて、いくらなんでも……。

紋章
プッ。

絶対にわざとでしょ!

アルテミス
もう本当に頭にきて、言葉で言い表せないくらいだわ。フン。

紋章
ごめんごめん。まさかあんなアクシデントが起きるとは思ってもみなかったから。
でもこれで私の推測が当たっていたことがわかったわ。

アルテミス
推測って?

紋章
先輩は本当に真剣に演技を学びたいっていうこと。
だから何があろうと私に合わせて進めようとしてる......それでいつの間にか奥深くまではまってしまったというわけ。
結論—— 先輩は没入型の俳優みたいね。

アルテミス
それって、私が今身に着けようとしている事と何か関係があるのかしら?

紋章
そうねぇ、まあいい素質を持っているという風にでも受け止めてくれればいいかな。
先輩は元々、何をするにしてもすごく真剣な人だから、別に驚くことでもないんだけどね。
さっき演技の中で、一瞬誰もいないように感じたんじゃない?

アルテミス
そうよ。それで人がいるのに気づかなくてぶつかっちゃったのよ。

紋章
第二の課題では自分がいる場面を仮定する方法についてだけ教えるつもりだったんだけど、れは予想外の収穫だったわね。

アルテミス
人にぶつかって、恥ずかしくて逃げちゃったことが?

紋章
それもそうだけど〜。

アルテミス
あなたの教え方に疑問を感じざるを得ないわね。

紋章
そう?私はいたって普通に教えてるつもりなんだけどなぁ。
演じる人物のいる場面を仮定することで、自分自身に目的を与えて、その人物の行動により方向性を持たせる。役者ってそういう事ができるものなのよ。
いい?大切なポイントについて説明したからね。
それにしても先輩、自分のことを論して、あそこまで信じ込ませることができるだなんて、ちょっと意外だったわ。

アルテミス
台本がないものだから、演技の途中で「あなたを信じるべきかどうか」まで考えてしまったわ。
そして自分の選択をしたの。

紋章
そういう時って演技の内容も一番自然な形になるものなのよね。

そう言うと紋章はスマホを取り出し、先ほどの三階での一連の映像を再生した。

アルテミス
こ、これって......いつ撮ってたの?

紋章
こうして見なきゃ、自分がどんな風に演じてたのか確認できないでしょ?
それに先輩、自分がどうやって演じてたのかまったく思い出せないんじゃない?
すべて直感に任せて演じてるから。だからそうね——
30回は繰り返し見ることね。そうすれば自分の演技が客観的に見えてくると思う。
それができれば、自分の演技を意識的に操るテクニックを身に着けることにつながるんじゃないかな。

——ピピッ。
スマホに紋章から送られてきた映像が届いた。

アルテミス
これを見るの……?
すごく恥ずかしいわ。

紋章
休憩しながら見返してみるといいわ。
演劇部の集合時間までまだ少し時間があるから、ひと段落したら次の課題に移りましょう。
次は演劇部の近くで待ち合わせよ。

アルテミス
分かったわ。
……。

映像を送った後、紋章の顔からはなぜか、いつものいたずら好きの笑顔が消えていた。
それはそれで逆に……。
なんだか不安にさせられるわね。

アルテミス
来たわよ。

紋章
録画した映像、しっかり見て頭にインプットできた?

アルテミス
さすがにこんな短時間では無理よ。
でも寮に戻ったらゆっくり時間をかけて見て、吸収するから。

紋章
さすが真面目な学生は違うわね〜。

アルテミス
さっそく続けましょう。課題、あと二つあるのよね。

紋章
一日で全部やる気?先輩ったらホント欲張りなんだから。

アルテミス
これからは毎日、そうした練習をすることになるでしょう。
それだったらなるべく早く全体を把握しておいた方がいいと思って。

紋章
やる気があるのはいい事なんだけど、でも可愛さはちょっとだけマイナスかな。

アルテミス
私がこうして頭を悩ませて演技を勉強することになったのは、誰のせいだったかしら。
ちゃんと責任取りなさいよ。

紋章
はいはい、それじゃ第三の課題に早速入りましょう。
今回のテーマは.......。
……。

アルテミス
今回のテーマは?

紋章
う〜ん…。
やっぱりやめよう。

アルテミス
へっ?
どうしたの。今さらやめたくなったの?
それとも私の出来が悪くて失望させちゃったのかしら?

紋章
そんなことはないわ。
第三の課題は.....私のそばにいてくれるだけでいい。

アルテミス
何それ。

紋章
私にも女の子っぽくて繊細な一面くらいあったっていいでしょう?
このあと演劇部の部活の時間が50分くらいあって、台本の読み合わせもあるのよ。
私もちょっと緊張するし。

アルテミス
じゃあ……。
私も一緒に台本を見ようかしら。

紋章
私、先輩の分の台本は持ってないわ。先輩が持ってるなら話は別だけど。
でもやっぱり、今は静かに私のそばにいてほしいな。
休憩時間とでも思って。

言われてみれば課題のクリアを焦るがあまり、演劇部の台本をずっと手に入れられてなかった。
しかし紋章がまったくしゃべってくれなければ、私には何もできない。
—— そうだ、想像力の訓練でもしてみようかしら。それかさっきの録画映像を見るとか。
それにしても紋章、いつもの様子からは想像できないくらい静かで、なんだかすごくひきつけられるわ。

アルテミス
すごく真剣ね。

台本を読んでいる紋章からは、先ほどまでとはまったく違うオーラが感じられる。
何もしないでいる私が彼女のそばに立っていると、周りからは私だけ時間を持て余した暇人に見られてしまいそう。
なんだか息が詰まるような感覚に襲われ、思わず目を逸らした。
すると廊下を行き来する生徒たちが目に映った。こんなにたくさんいるとは思ってもみなかった。
息が詰まるように感じるのは余計だったのかもしれない。なぜならその中の誰もこちらに目を向ける人はいないのだから。
私たち二人を見比べる人などいないのだから。
さっきの課題の時の三年生の人だってそう。もしあの時彼女にぶつかっていなければ、ただ騒いでいる生徒として見られるだけだったかもしれない。

アルテミス
これがいわゆる自意識過剰ってやつ......なのかな。

別に沢山の人の視界の中心にいることを熱望しているわけじゃないけれど、でも確かに「自分は今、何か特別な事をしているんだ」という思いが自分の中にあった。

紋章
あら、落ち込んでるの?

アルテミス
なんて言えばいいのかしら……。

紋章
私たち、まだ学生でしょう。だから色々なことをする可能性を持ってる。
逆に、まだ学生だからこそ甘く見てもらえる部分もあるのよね。

紋章がまたよくわからない話をしている。

アルテミス
もうちょっとわかりやすく言ってほしいわ。
あなたは今、私の先生でしょう?

紋章
う〜ん、そう呼んでくれてはいるけど……。

この表情、さっき映像をスマホに送信した時と同じだ。
何かいやな予感がする。

紋章
私、四つ課題があるって言ったけど、あれは適当に言っただけなの。

アルテミス
はい!?

紋章
第三の課題なんてないのよ。本当に練習したければ、第一と第二の課題のテクニックを習熱するだけでいいの。
いや......もしかしたらその二つも習熟する必要なんてないかもしれない……。

アルテミス
どういう事?また私のことをからかってるの?

それじゃ紋章のことを信じてここまでやってきた私がバカみたいじゃない。

紋章
そう怒らないで、まあ落ち着いて。
私はプロの俳優じゃないし、まだ学生でしょう。
だから先輩にこうして教えるのも専門的な学習法なんかじゃないし、教える内容についても、別のところから学んできたものを自分の経験をもとに微調整したものにすぎないのよ。
だから教えた内容のどの部分を使うかは先輩の判断に任せるって言ったの。

アルテミス
私、あなたが今回の巡演公演でどうしても大成功を収めたいという固い決意を持ってるとばかり思ってた。
今にして思えば、それもあなたが楽しむための道具に過ぎなかったということ?

紋章
どうかしらね〜。
先輩はものすごく真面目な人だから、私が教えなくてもそれなりの演技ができると思う。
私たちはまだ学生だから、できることにも限界がある。

アルテミス
まさかあなた、もう一度コンテストに参加したとしても失敗に終わるに決まってる......とでも言いたいの?
だったら、なんで今回の巡演公演を機にみんなのやる気に火をつけたいだなんていうのよ。
これじゃまたあの時の繰り返しじゃない——

紋章
先輩。
さっき廊下を歩いてる生徒たちがいる事に気が付いた?

アルテミス
なんでそんなさっきの話題に戻るのよ……。

紋章
どう思った?

アルテミス
えっ?

紋章
彼女たちを見て、先輩はどういう印象を受けた?

それほど多くはなかったけど、行き交う生徒たちがいて、笑い交じりにおしゃべりしながら部室棟に行く子もいれば、事務室から出てきて厳しい表情をしながら教室に戻る子もいた。
窓の外を見れば、運動場や中庭を駆け回るもっと沢山の生徒がいるかもしれない。
放課後に入ってもう一時間ちょっと経つから、今学園にいる人たちは部活で忙しいか、勉強に追われているかのどちらかね。
それらに対する印象について答えるとすれば……。

アルテミス
楽しそう、かしら?もしくは.....事務室から出てきた子の表情はすごく深刻そうだったし、どうだろう……。

紋章
でもその人たちは目を輝かせていた。
課題に取り組んでいる時の先輩の目も、恥ずかしがってたりとか、間違って悔しそうにしてる時とか関係なく、すごく輝いてたのよ。

アルテミス
そう……。

紋章
人って、成長していく過程でそういう輝きが次第に失われていくのよ。でも人によって差があって、早く失われる人もいれば、いつまで経っても輝き続けている人もいる。
私はただ先輩......それに演劇部のみんなのそういう目の輝きをなるべくたくさん見たいだけ。
大成功ってね、必ずしも一位になることだけじゃないと思うの。

アルテミス
でもみんなたくさん時間を割いて、こんなに頑張って——
それってずっと目指してきた目標を達成するためじゃないかしら?

演劇部の部員
なんだ、ここにいたのね!
あれ、なんか気まずい雰囲気?紋章がまた先輩のこといじめてたんじゃないでしょうね。

紋章
まさか〜。

演劇部の部員
もうすぐ台本の読み合わせよ。そういえば星綺部長があなたたちのこと探してたわ。
演劇部に早く行ってみるのね。

紋章
わかったわ。

演劇部の子が走り去るのを見届けると、紋章はこちらに目を向けた。

紋章
先輩はどう?先輩が真に追い求めているのはどっち?

星綺
ジャジャ~ン。脚本と台本を修正したよ!

後輩の奈花
わあ、星綺部長の台本ね!

レイ先輩
主役がピーターパンじゃなくなってますね。

紋章
ふふ。
私は賛成よ。だってアルテミス先輩が出演してくれるんだからね。

紋章が私の方に視線を向ける。
彼女たちが言った通り、修正された台本では主役がティンカーベルになっていた。
予想外だった。

アルテミス
確かピーターパンがウェンディっていう女の子と知り合って——
ピーターパンはウェンディとその弟たちを連れてネバーランドへ旅に出るのよね。
そこで大冒険を繰り広げた後、離れ離れになってしまう。
最終的にウェンディは大人になりピーターパンの事を忘れてしまう。けれど永遠に成長しないピーターパンはウェンディのことをずっと覚えていて、ウェンディの娘もネバーランドに行くことになる。
そういう物語よね。

紋章
どの人の心の中にもピーターパンはいるものよ。ずっと子供のままなんの心配事もなく生きていきたい、という気持ちがあるからね。

星綺
本来のピーターパンだとそういう物語だね。でも、やっぱりこの演劇部ならではの内容にしたいよね!
それにアルテミスさんが出演してくれるんだよ?私もう大興奮で、あなたにぴったりのシナリオにしたいと思ったんだ!

アルテミス
どこがぴったりなんですか。
私、舞台で役を演じるの初めてなんですよ。それなのにいきなり主役だなんて.....。

星綺
そんなの関係ないよ。舞台に上がった数なんて、みんな数えられるくらいだから。
私たちは学生なんだし、誰もプロの俳優を見る目で観劇したりしないしね。

演劇部の部員
アルテミス先輩、きれいですしダンスもすごく上手じゃないですか!
大丈夫よ!

演劇部の部員
そうよ、アルテミスが演じてくれるんだったら、ここにいるみんな大賛成よ。

紋章
先輩もそろそろ自分がどれだけ人気があるか気づくべきなんじゃない?

アルテミス
うう……。

まあそうよね、結局は学生の部活だもの。
オーディションも面接もない。
演劇の学校の人が有望な人材を探しに見に来るとかはあるかもしれないけど、演劇部の目標は必ずしもそこにはないわけで。
最初から過度に期待されることもないわけよね。
でも本当にそうなのかな。

(回想)

演劇部の部員
いつもだったらまだ練習してる時間だよね?

演劇部の部員
はあ….....しょうがないじゃん。落選しちゃったんだから。

(回想終)
……。

星綺
大体これくらいかな。今日は会議もあって台本も変えたりで、すごく時間かかっちゃったし。
残りの時間は読み合わせを一通りやって、それで解散にしよう。

——はーい。

星綺
それじゃあみんなに台本を配るね。これまでまだなんの役をするか決められてなかった人は、配られた台本の内容でやってみて。
なにかあったらまた後で聞いてね!

ガヤガヤ。

紋章
アルテミス先輩、先輩の台本はこれよ。

紋章が渡してくれた台本には、様々な色で事細かに書かれていた。
それらはメモや注釈だった。紋章がわざわざ書いてくれたのかしら。
ここまで真剣にやってくれるだなんて、適当に楽しむためのようには思えない。
この子が一体何を考えているのか、更にわからなくなってきたわ。

演劇部の部員
私の役はトゥートルズだわ!

演劇部の部員
タイガーリリーかぁ、お化粧が難しそう。

……。
………。

紋章
ティンク、ダメだよ、ティンク!
ティンクが死んじゃう。誰か!妖精はいると思うかい!

読み合わせは、最初の頃は別に演じずに読むだけでいいもの。
だけど紋章は既に役になりきっていた。声自体は幼いものの、すごく慌てた様子が伝わってくる。
すごいわ。

演劇部の部員
さすがは紋章さん、演じる人物を既に把握しているのね。

星綺
どう?紋章さん。

紋章
う〜ん……。
そんなことないわ。

演劇部の部員
えっ?

紋章
全然わからないわ〜。

演劇部の部員
いつも通りの爆弾発言ね。
私たちにしてみれば、十分上手にできてるわよ。

紋章
だって……。
全然成長しない子供なんていないじゃない。
だからわからないのよね。この時のピーターってもう成長しているのか、それともしてないのか。
この台本に書かれてるみたいに、経験したことが増えれば増えるほど人って成長するでしょう。
精神面も同じよ。特にここまで大変な思いをしたのであれば、私だったら一晩で一気に精神的に成長しそう。

星綺
確かにそうだね。

紋章
本当に難しい人物を任されちゃったわ。星綺部長には。

星綺
フフッ、だからあなたに任せたんだよ。
どうかした?アルテミスさん。

自分の役の部分をやっと見つけられた。
わからないことが多すぎてどうしても集中力が上がらない。

アルテミス
ごめんなさい、すぐに……。
あら?

星綺
どうしたの、脚本に何か問題でもあった?

アルテミス
い、いえ、大丈夫です。

次の一幕は、復活したティンカーベルが、ピーターが無謀に一人で海賊に立ち向かうのを止めるために必死に語り掛けるところね。

アルテミス
私.....きっとできるわ。


アルテミス
ピーターパン、あの残忍な海賊にひとりで立ち向かうだなんてできるわけがないじゃない!
あなたにそこまで強い意志を与えたのは、ひょっとして島の外からきたあの女の子!?

紋章
プフッ……。

星綺
おお〜。

演劇部の部員
あれっ、この台本なんだか……。

演劇部の部員
しっ!

かすかに誰かの話し声が聞こえてくる。
ということは、まだ完全に演技に集中できていないということね。
上がった幕の向こうにどれだけのお客さんがいようと、そこに意識がいかない状態にならないといけない。
しっかり集中すれば——

アルテミス
ふぅ……。

深呼吸した。

アルテミス
私の妖精の粉はあなただけのためのもの。
私の羽はあなただけのために曲を奏でる。
この小さな体もあなたのもの。あの笑い声でできた心も。
彼女ではなく私。
私のためにフック船長を……。

何かおかしい。

アルテミス
……。

そっと目を開けてみると、みんなが期待に胸をふくらませて私の方を見ていた。
やっぱりおかしい。
私が知る限り、ティンカーベルはピーターパンに対して強烈な独占欲を持ってはいたけど、さっきみたいに嵐のような表現は確かしなかったような……。

アルテミス
星綺部長。

星綺
あ、はい!

アルテミス
私が演じるティンカーベル.....つまりティンクは。
こういうキャラクターなんですか?

星綺
あ〜。

目が泳いでいる。

アルテミス
紋章!あなたの仕業ね!

紋章
あ、ばれちゃった。

私に台本を渡したのが紋章だった事に、もっと早く気づくべきだった。
星綺部長が変更した台本だと思っていたら——
まさか紋章の仕業だったとは。

アルテミス
あなたちょっと……。
こっち来なさい!
今日という今日は死んでも逃がさないわ!

紋章
イヤ~殺さないで〜。

待ちなさい!

演劇部の部員
まったくこの二人ときたら。当分終わりそうもないわね。

演劇部の部員
星綺部長もなんで止めなかったんですか?

星綺
面白かったからかな?
みんなも楽しかったでしょ?だからいいんじゃないかな!

——待ちなさい!
……。
この子ったら、普段はだらだらしててちゃらんぽらんなのに、なんでこんなに足が早いのよ。
こうして30分の間——
私は彼女を全力で追いかけ続ける羽目になったのだった。
…………。

紋章
ハァ、ハァ……。

アルテミス
も......もうさすがに走れないでしょ。

紋章
こんな下敷きにされて、走れるわけないじゃない。

アルテミス
!?

紋章
ふふふ……ははははは〜。

アルテミス
計画通りに進んだのが、そんなにおかしかったわけ?

紋章
でも——
先輩も笑ってるよ。

アルテミス
あれ。

こうして騒いでいたら、混乱していた頭の中がなんだかスッキリした気がした。
まるで悩み事なんてひとつもないような、非常に楽しい気分だった。

紋章
どうやらこのひと時の楽しみにも大いに意味があったみたいね。
先輩の目にもう曇りはないわ。
えっ、でも待って。まさか恥ずかしすぎて涙がちょちょぎれちゃって.....それで目がキラキラしてるわけじゃないよね?
よしよし、先輩からの告白、しっかりと受け止めたからね。

アルテミス
だまらっしゃい!

その後もまたこの子にペースを握られて、結局ふざけて終わった。
読み合わせでは、自分のパートをしっかり見ることさえできなかった。
この日は練習と言えるような事は何もできず、『大きくならない子』の劇に関する収穫はほとんどなかった。

アルテミス
まったく、時間を無駄にしちゃったじゃない。

紋章
そうかしら。今回の劇をうまく演じるには、私は小さい子供みたいに楽しむことができないといけないと思ったのよ。

紋章が目くばせした。その目線の先には星綺部長たちがいた。

演劇部の部員
星綺部長!この台本ですけど、こことここをこうしてああした方が……。

星綺
そうかな?じゃあちょっと考えさせてね.......。

演劇部の部員
確かにここは変えた方がいいわね。
それに冒頭のウェンディとピーターパンがネバーランドに向かう所、原作通りではあるけど。
これだとちょっと間延びしないかしら?
もう既に結構手を入れているわけだし、ここも変えたらいいんじゃないかな。

星綺
ここだね!じゃあここもちょっと考えさせてね!
ああ.....もう時間がいくらあっても足りないよ。これじゃあ徹夜になっちゃうかも。

紋章
授業で居眠りしたりしないでよ〜。

星綺
あなたにだけは言われたくないよ!

騒がしくて耳が痛いくらい。

アルテミス
紋章、自ら悪役を買って出ることで、今回の劇が持つ真の価値を私に伝えたかったのよね。

紋章
私はそんな深く考えてないよ。

アルテミス
うそ。
でも......みんなの笑顔を見てたら、どうしても失敗したくなくなっちゃったわ。
出場して勝つか、そもそも参加しないか。やっぱりそのどちらかしかないみたいね。

紋章
それが先輩が導き出した答えね。
それで先輩はどっちを選んだの?

アルテミス
勝つ方よ。
ガッカリすることになったら、この笑顔も違うものになってしまうわ。

紋章
ふふっ、そんな風に真面目に言われると、なんだかこっちが恥ずかしくなってくるじゃない。

アルテミス
まったく誰のせいよ!

私たち二人が騒々しかったからか、それとも時間ももう遅いからか。
星結部長が私たち二人に来るよう手招きした。

アルテミス
星綺部長が呼んでるわ。

紋章
……。
これで先輩のやる気にも火が付いたかしら?

アルテミス
えっ?

紋章
あ〜残念。さっきの先輩の表情がずっと見たかったのよ。
それを録画できなかっただなんて、今日はもう寝付けなさそう。

アルテミス
あなたはもう一生寝なくていいわ!

……。

星綺
よし、みんなそろったね。
解散する前に連絡があります。

星綺部長の表情が真剣になった。

星綺
今日生徒会の人が来て、いつ舞台の審査をしてもらうか話し合ってね。
二週間後に決まったんだ。学園の音楽ホールでドレスリハーサル形式で行う予定だよ。

アルテミス
二週間後!?

星綺
本格的に夏に入ってくると、部活のサポートが増えて忙しいらしくてね。
それで早めにしてもらいたいんだって。

紋章
しょうがないわ。学園の外でやる以上、代表としてイメージを背負っていくわけだから。生徒会も杜撰な劇はしてほしくないんでしょうね。

アルテミス
でも、二週間しか準備できないだなんて.....。

紋章
いい?プロの俳優なんて、すごく複雑な人物でも3、4日で完璧に準備できるものなのよ!

アルテミス
あなた、さっき私たちはプロじゃないって強調してなかった!?

紋章
あれれ〜。

アルテミス
ごまかさない!

星綺
今回はコンテストに参加する劇じゃないから、審査っていってもそんなに厳しくないと思うよ。準備期間も長くとってもらえなかったし。

星綺
まあ単なる手続きのひとつとでも思っててね。

星綺部長はそう言うと皆を解散させた。
残り二週間……。

→永遠の子供1-2 サブ任務


キンコンカンコン——
学園内での活動の終了を告げる鐘がなった。
鐘の音が鳴った後は校内に留まっていてはならず、寮に帰らないといけない。
しかし正当な理由があって申請すれば、夜の外出も認められる。

アルテミス
でも、その必要もないわね。
今日はもう戻って休もう。なんだかすごく疲れたわ。
これからの二週間は、毎日今日みたいな特訓ね。
今日学んだことは絶対に無駄にならないはず。
紋章は、出した課題は適当なものだったと言ってはいたけど。

でも何かヒントを得られたような気がする。

アルテミス
それにしても、素直じゃないのは私と紋章、どっちなのかしら。

これから先、全身全霊で取り組まないと。
ドレスリハーサルの日が来るまで。
とにかく......。
まずはこの関門を乗り越えないとね。
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