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月明かりの3人 ◆aWSXUOcrjU




「キョーコ……キョーコ、どこぉ……?」
 鬱蒼と生い茂る木々の合間を、ふらふらと歩く人影が1つ。
 緑の髪を両サイドで結び、ゆらゆらと揺らす幼子の影は、千歳ゆまという少女のものだ。
 微かな月光のみが足場を照らす、深緑色の闇の中で、少女は半べそをかいてさまよっていた。
「うぅぅ……」
 人間、一度や二度死体を見たからといって、そうそう簡単に慣れるものでもない。
 ゆまもかつて目の前で、魔女という異形の怪物に、両親を食われたことがある。
 だからといって、それで人死にに耐えられるようになったかと言われると、そうでもない。
 殺し合いを要求され、実際に1人の人間が死んだ――幼い子供がそんな状況に、到底耐えられるはずもなかった。
「……キョーコぉ」
 辛うじて、涙が足を止めることはなかった。
 それでもこぼれる涙そのものは、いかんともしがたいものがあった。
 己が保護者の名前を呼び、ゆまはその影を探し求めた。
 どこにいるかも分からない。もしかしたら、ここにはいないのかもしれない。
 それでも、引き裂けかかった己の心を、繋ぎとめることができる者を、彼女はキョーコ――佐倉杏子以外に知らなかった。
「!」
 その時、不意に。
 がさがさがさ、と音が鳴った。茂みを何かが通り抜ける、そういう音が聞こえてきた。
「……お? 子供か?」
 音の向こうから現れたのは、1人の赤毛の少年だった。
 恐らくは、杏子と同じくらいの歳だろう。そうであってもその背丈は、幼いゆまの倍はある。
 長袖のシャツにジーパンという、いかにも男の子という印象な出で立ちだった。
「え、えっと、あの……」
「落ち着けよ。俺は光牙だ。お前は?」
 言いながら、コーガと名乗った少年は、その場で膝を折って屈んだ。
 遠く離れた赤い目線が、ゆまの高さへと降りてくる。
「……ゆま」
「ゆまか。よろしくな。……まぁ、こんなところでよろしくってのも、何だけど」
 父親以外の異性と接した経験は、ゆまにとっては、あまりない。
 それでも、多少ガサツな雰囲気はあるものの、このコーガという男は、どうやら優しい部類のようだ。
 少なくとも、いきなり襲いかかってくるような、そういう類ではないだろう。
 わしゃわしゃと頭を撫でる手に、ゆまは、微かな安堵を覚えていた。
「にしても、これはどうなってんだ? マルスの火時計が灯ってから、だいぶ経っちまったみたいだけど……」
 立ち上がりながら、コーガがぶつぶつと呟き始める。
 左手に嵌めているものは、どうやら腕時計のようだ。
 あれは背中に背負った、デイパックの中にあったのだろうか。そういえば恐怖のあまり、すっかり支給品の存在を忘れていた。
「ゆま、何か知らねぇか? すごい嵐が起きたりとか……ものすごい地震が起きたりとか」
「? 知らないよ?」
「だよなぁ……何がどうなってやがんだ?」
 がりがりと頭を掻きながら、コーガは背中を向けてしまった。
 どうやらコーガは、ゆまの預かり知らないところで、何か疑問に思っていることがあるらしい。
 もちろん、それが何かなどゆまは知らない。
「……???」
 だからこそ、首を傾げるしかなかった。
「はー……こういう時、ユナか龍峰がいればいいんだけどな」
「コーガのお友達?」
「ああ。苦楽を共にしてきた、俺の仲間だ」
 それでも、分かることもある。
 ユナとリューホー……2人のことを語るコーガの顔は、とても晴れやかな笑顔だった。
 きっとその人達は、コーガにとって、とても大切な友達なのだろう。
「いいなぁ……」
 自分には、そういう友達はいない。
 両親が死に、家も何もかも失って、友達を作る機会もなくしてしまった。
 友達でなければ、キョーコがいる。彼女は今や自分にとって、お姉ちゃんのような人だと思う。
 けれど、キョーコにとってのゆまは、どんな風に映っているのだろうか。
 泣きべそをかいて迷う自分を――“役立たず”と思っているのだろうか。
「いいな、って……おいおい、ゆまにも友達くらい――」
 コーガが何やら言いかけた、その時だ。
「――少し、いいか?」
 不意に背後から、新たな声が聞こえてきたのは。
「え……」
 それまでの思考が打ち切られる。意識が声の方へと向かう。
 コーガのそれよりも、少し低い。それでも、耳によく通る声だ。
 そんな声の聞こえる方に、コーガと一緒に、視線を向ける。
「君達は、この殺し合いに乗っていないのか?」
 がさり、と落ち葉を踏む音と共に。
 木々の陰から現れたのは、コーガよりも背の高い、黒い髪の男だった。
 身に纏った装束は、上から下まで白一色だ。唯一、胸元の模様だけが、真紅の存在感を放っていた。
 黒髪は薄い月明に照らされ、艶やかに夜風に揺れている。
 真っ直ぐとこちらを見据える瞳は、まるで海のように深い。
 鮮やかな光を放ちながら、それでもどこか茫洋とした、不思議な雰囲気を纏った青年だった。
「………」
 しばし、ゆまは息を呑む。
 どこか儚げな美しさを漂わせる、この細身の青年に対して。
 お互いに、何も口にしない。静寂だけがその場に広がる。
 奇妙な沈黙を破ったのは、
「……星矢!? 星矢じゃないか!」
 斜め後ろ上方から響く、コーガの素っ頓狂な声だった。


 さわさわ、と耳をくすぐる音がする。
 涼やかな夜風が木々を揺らし、深緑が鼓膜をくすぐっている。
 見上げれば、葉の隙間からは、茫洋と月明かりが滲んでいた。
 見下ろせば、ふかふかとした大地が、生気の気配を漂わせていた。
(信じられないな……)
 四方に広がる生命の気配に感嘆しながら、白服の男は、森の中歩みを進めていた。
 男の名はキャシャーン
 月という名の太陽を殺した男。
 かつて救いの女神を殺し、世界に滅びを振りまいた男だ。
 そのはずだというのに、この場所には、まるきり滅びの気配がない。
 荒廃した灰色の世界ではなく、緑の生い茂る世界がここにはある。
 空気に感じる湿り気から、普段歩いている世界とは、根本から違うことが理解できる。
 ここは人の命を奪う、死のゲームの世界だというのに。
(止めなくては)
 キャシャーンにはそれが許せなかった。
 命ある者達を弄ぶ、あの者達を許せないと思った。
 どうすればいいのかなど知らない。それでも、立ち止まってはいられない。
 この大地には、今もなお、暴力に明け暮れる者達がいる。彼らに蹂躙され、涙を流す、多くの無力な者達がいる。
 そこへこの殺し合いだ。それは前者のような者達を、盛大に刺激することに他ならない。
 静かに義憤に駆られながら、キャシャーンは歩みを進めていく。
「うーん……どう見ても星矢なんだけどなぁ」
 そしてその隣には、うんうんと唸る少年がいた。
「ホントに違うのか? 別人じゃねぇだろうな?」
「……確かに、顔は似てるとは思うが」
「それだけじゃなくて、声もなんだよ。あんたも見ただろ? さっきの映像」
 光牙と名乗った少年の言葉に、やんわりと応じる。
「うん、そっくりだった!」
 そんな少年に便乗するのは、彼と一緒にいた童女だ。名は確か、ゆまと言うらしい。
 彼がしきりに「似ている」と言うのは、この殺し合いが始まる前に、映像の中で戦っていた男だ。
 黄金の翼を羽ばたかせ、光の拳を振りかざす男――サジタリアス星矢と呼ばれる、伝説の勇者。
 明確に反論することができないのは、キャシャーン自身も、思うところがあったからだ。
 言われてみれば、確かに彼の顔つきは、自分のそれとよく似ていた。向こうの方が少しばかり、彫りが深かったような気もしたが。
 その上、こちらはあまり自覚はないが、声までよく似ているらしい。
 自分と同じ顔をした男が、自分の目の前で戦い散ったというのは、少々奇妙な心地だった。
「まさか、星矢の親戚とか!?」
「僕はロボットだ。人間の親戚にはなれない」
「うそ! キャシャーンって、ロボットなの!?」
「マジかよ……すっげぇなあ。人間と全然違わないじゃんか」
 かぶりを振ったキャシャーンの言葉に、光牙とゆまの2人は湧いた。
 不思議な2人組だ、と思う。
 人間の容姿をしたロボットなど、本来は珍しくもないはずだ。
 それに自分と違って、この生気に満ちた世界にも、何ら違和感を覚えていないように見える。
(人間ならば)
 彼らの言う通り、自分が人間であったなら。
 不死身の命を与えられず、寿命を実感できる身体であれば、どれほどよかっただろうかと。
 何度となく繰り返してきた自問が、再び胸に込み上げるのを感じた。
「でも、そっか……だったら、やっぱり星矢は、あそこでやられてたんだな……」
 そう呟く光牙の顔は、暗い。
 つい一瞬前のはしゃぎようが、まるで別人のようだった。
「知り合いだったのか?」
「まともに喋ったことなんか、全然なかったんだけどさ……それでも星矢は、俺を助けてくれたんだ。大事な使命も、託してくれた」
「………」
 ぽつり、ぽつりと光牙が言う。
 彼が託された使命というものが、いかなるものかなど知らない。
 それでも、彼が執拗に、自分が星矢ではないかと追及した気持ちが、少し分かったような気がする。
 この少年は、安心したかったのだ。
 目の前で殺されてしまった恩人が、本当は生きていたのだと、そう安堵したかったのだ。
「……悲しいな」
 その一言だけを、呟いた。
「………」
 光牙から帰るのは、無言だ。
 死は悲しい。
 ただでさえこんな状況だというのに、その上身内の死まで重なれば、不安は一気に倍増する。
 多くの死を見てきたからこそ。
 目の前で散っていった命を、救えずに叫んできたからこそ。
 光牙の抱く悲しみならば、たとえほんの少しでも、理解できるような気がした。
「……あっ! 見て、あれ!」
 その時だ。
 不意に、しばらく黙っていたゆまが、声を上げ走り出したのは。
「あっ……おい、待てよゆま!」
 我に帰った光牙が、慌てて彼女の後を追う。
 一瞬、キャシャーンもつられて走りそうになったが、すぐにその足は止まった。
 すぐ近くのところで森が途切れ、すぐ近くでゆまが止まっていたからだ。
 深緑の闇を抜けた先には、青々と光る池があった。
 ここは森の外というより、森の真ん中なのだろう。池を覆うようにして、木々が周囲を取り囲んでいる。
 緑色の暗闇の中、ぽっかりと空いた青い光だ。
 頭上から注ぐ月明かりが、ぼんやりと照り返すその様は、いっそう幻想的に見えた。
「あれって……あれのことか?」
「うん。大きなお家」
 ゆまの横に歩み寄った光牙が、湖の中心を指差す。
 そこには橋のかけられた、小さな島が浮かんでいた。
 島の上に建っていたのが、ゆまが見つけて駆け出したもの――大きな洋風の屋敷だった。
 石造りの灰色の館は、まるで手招きするように、その存在感を主張している。
 とんがり屋根の先端が、天の月に届くかのように、高く真っ直ぐと伸びていた。


【1日目・深夜/D-2 森・洋館付近】

【千歳ゆま@魔法少女おりこ☆マギカ】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、ランダム支給品1~3
【思考】
基本:死にたくない。キョーコに会いたい
1:コーガ達について行く
2:あのお家に行ってみる?
【備考】
※第1話「魔法少女になろうなんて考えるな」終了直後からの参戦です
※佐倉杏子が参加していることには気付いていません

【光牙@聖闘士星矢Ω】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、ランダム支給品1~3
【思考】
基本:???
1:ひとまず、ゆまとキャシャーンと行動を共にする
2:あの洋館に行ってみる?
【備考】
※第33話「小宇宙の真髄!セブンセンシズ!」終了直後からの参戦です

【キャシャーン@キャシャーン Sins】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、ランダム支給品1~3
【思考】
基本:殺し合いを止める。戦えない者達を守る
1:光牙とゆまを守る
2:あの洋館に行ってみる?
【備考】
※第14話「真実は闇を照らし」終了直後からの参戦です
※星矢@聖闘士星矢Ωと顔が似ています

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最終更新:2012年12月06日 21:58