千々に乱れて ◆aWSXUOcrjU
さざ波の音が響いている。
冷たい潮風の流れる中で、寄せては返す波音が聞こえる。
ちゃぷ、ちゃぷ、ちゃぷ、と混ざるのは、波打ち際で歩みを進める、1人の少女の足音か。
その足取りは、頼りなく。
ふらふらと糸が切れたように、和服の少女が歩いている。
調子の乱れた足音が、波音に交じって不協和となる。
ばしゃん、とリズムが途絶えたのは、それからしばらくの後だった。
死者を弔う冥界の色――黒い喪服の両膝が、崩れ落ちるようにつかれたのだ。
「……あ……ああ……」
わなわなと身体を震わせながら、そう呟くのは
諫山冥だ。
退魔の一族、諫山家――若くしてその旗の下に刃を振るう、才気溢れる退魔師の娘だ。
怜悧に、静かに、雪のような。
凍れる美貌の持ち主は、しかし今はそこにはいない。
常にしとやかであった姿はどこにもなく、今はかたかたと身を震わせ、みっともなくうろたえる様を見せていた。
「わたくしは……私は、なんてことを……!」
和装の胸元へと、視線を落とす。
豊かな両の乳房の谷間に、煌々と光を放つものがある。
太古の大悪霊・九尾――その魂が封印された、真紅の殺生石の欠片だった。
血のように赤黒く煌めくそれは、冥の胸元の肉に食い込み、完全に同化してしまっている。
これを埋め込まれ、悪霊へと変化した冥は、後継者の座欲しさに、当代の当主・奈落を手にかけてしまったのだ。
「一体、どうすれば……!」
こんなことは許されない。
であれば、一体どうすればいい。
今はまだ誰にもばれてはいない。しかし、この事実が明るみになれば、この身は確実に破滅する。
いいや、それ以上に問題なのは命だ。この手で命を奪ったことだ。
人の命を奪うという悪行は、到底許せたものではない。
殺し合いに巻き込まれたことよりも、今は何よりもその事実が、冥の心を激しく揺さぶる。
「……とにかく、今は身を隠さないと……」
ひとまずの行動方針が、それだ。
罪を償うにしても、逃れるにしても、この場から脱出しなければ始まらない。
殺生石は、人間の心の内側に秘めた、憎悪や欲望を加速させる。
そうなれば自分は間違いなく、また新たな人間を殺すだろう。
そうすれば優勝は狙えるかもしれないが、そんな手段は論外だ。
身を隠さなければならない。次にいつ発動するか分からない以上、他人との接触は、極力避けなければならない。
行動の目的を定めつつも、未だ心はおぼつかず。
ふらふらとした足取りのまま、冥は歩みを進めていった。
【1日目・深夜/G-2 浜辺】
【諫山冥@喰霊-零-】
【状態】狼狽
【装備】殺生石
【道具】支給品一式、ランダム支給品1~3
【思考】
基本:殺し合いには乗らない。これ以上人を殺したくない
1:他の参加者との接触を避ける
2:市街地へ行き、隠れる場所を探す
【備考】
※第8話「復讐行方(ふくしゅうのゆくへ)」にて、奈落の葬儀の最中、
殺生石の力が弱まった瞬間からの参戦です。喪服姿で参戦しています。
また、生前三途川カズヒロから受けた傷は、主催者によって治癒されています
最終更新:2012年12月20日 21:21