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惹き合う両翼 ◆aWSXUOcrjU




 かつん、かつんと靴音が鳴る。
 無明の暗闇の中に光るのは、手にしたランタンの明かりだけだ。
 真夜中のデパートというものは、ここまで暗くなるものなのか。
 いつぞやの学校での出来事を思い返しながら、土宮神楽はただ1人、暗がりの中を進んでいた。
「こんなことをしてる場合じゃないのに……」
 ランタンに照らされた顔色は、暗い。
 望まぬ殺し合いに巻き込まれたのもそうだが、表情を曇らせている理由はそれだけではない。
(……黄泉)
 最愛の家族だったその名を、内心で呟く。
 彼女の何よりの懸念は、残してきた諫山黄泉のことだった。
 黄泉。
 別々の家に生まれながらも、まるで本物の姉妹のように、寄り添い笑い合っていた年上の少女。
 全てを失い、命さえも果て、悪霊へと化生してしまった悲劇の少女。
 父と仲間を殺害し、今なお逃走を続けている、倒さねばならない最悪の宿敵。
 ようやく足取りを掴めたというのに、その彼女を放置しながら、こんなところへ連れられてしまった。
 今も多くの仲間達が、彼女と戦っているにもかかわらずだ。
(すぐに戻らないと)
 彼女は自分が討たねばならない。
 これ以上罪を重ねさせる前に、この手で彼女を祓わねばならない。
 そのためには、このゲームを終わらせて、速やかに戦線へ復帰することだ。
 とはいっても、殺し合いに乗るつもりはない。人を守る退魔師が、人を殺しては本末転倒だ。
 故に、このゲームを打倒し、正面から主催者を倒して脱出すること――それが彼女の目的だった。
 とりあえず、このままこのデパートを下へと降りて、他の参加者を探してみよう。
 1階まで誰の気配も感じられなかったら、外へ出て探しに行くとしよう。
 そう考えながら、闇の中を、かつかつと音を立て歩いていたところへ、
「――おぉい、あんたッ! ちょっといいか?」
 不意に横合いから、何者かの声が響いてきた。
「!?」
 反射的に、向き直る。
 念のため、懐に忍ばせた、現状の唯一の武器である警棒を引き抜く。
 漆黒の闇の向こうから、かつかつと姿を現したのは、
「いや、悪いな、驚かせて。別に取って食おうってわけじゃないんだ」
 いくらか年上という印象の、ロングヘアーの少女だった。
「あ、いえ、こちらこそすいません……」
 どうやら、殺し合いに乗ってはいないらしい。警棒を戻しながら、神楽は少女へ謝罪する。
 恐らくは、黄泉と同じくらいの年の瀬だろうか。
 燃えるような赤髪は、この真っ暗闇の中にあっても、確かな存在感を主張している。
 その下に纏った衣装は、まるでウェディングドレスのような純白のドレスだ。
 この階にあるという、服屋で見繕ったものだろうか。左の小脇には、いくつかの服が抱えられていた。
 その仕草や佇まいからは、衣装のイメージに反して、勝気な印象が見受けられる。
「で、だ。ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ」
 言いながら、少女は右手を突き出す。
 そこに握られていたのは、恐らくは音楽雑誌だろうか。見覚えのない若い女性歌手が、表紙を華やかに飾っていた。
 ここまでの行動には、何ら不自然な点は見られなかった。
 だからこそ、神楽は油断していたのだ。
「――あたしは、死んでるはずなんだよな?」
 まさか、そんな問いかけが飛んでくるなどとは、全く予想だにしていなかった。
「………………はい?」


 赤毛の少女は、名を、天羽奏と名乗った。
 少し前まで名の通っていた、ツヴァイウィングというアイドルユニットを組んで、歌を歌っていたらしい。
 生憎と神楽には、そのような名前を聞いた覚えはなかったが。
「……それで、奏さん。貴方は、そのノイズっていう怪物に襲われて、2年前に命を落とした……そういうことでいいんですね?」
「ま、そんなとこだな。それが何でまた、こうして生きてるのかは分からないけど」
 服屋の試着室のカーテンの向こうから、奏が声だけで答えた。
 彼女が語った内容を、大まかにまとめると、こうなる。
 彼女はライブで歌っていた最中に、ノイズという怪物に襲われて死亡した(先ほど見た映像に映っていた、人間大の怪物がそれなのだそうだ)。
 ところが、死んだはずの彼女は、何故かこの場に生きていた。
 それも、本屋に置いてあった雑誌から類推するに、死亡から既に2年が経過しているというのだ。
「いきなりそう言われても、ちょっと信じられないですね……
 私もそっちの専門なんですけど、そういう形での死者の蘇生は、聞いた覚えがありませんから」
「マジかよ、あんたプロだったのか」
 オレンジ色のカーテンから、奏がひょっこりと顔を出す。
 まだ着替え途中だったのか、驚く顔の下の胸元は、ブラジャー1枚という出で立ちだった。
 無言でそれに頷くと、神楽は着替えを続けるよう促す。おっと、と一言口にすると、奏は上半身を引っ込めた。
 見たところこの少女からは、霊の気配が感じられない。魂だけが身体から離れ、生霊となったわけではないらしい。
 そもそも、そうであったなら、こんな殺し合いに呼ばれているはずもない。
 霊を殺すことができる者など、せいぜいが退魔師くらいしかいないのだから。
「とりあえず、奏さんが、霊体の類でないことは保障します。
 ですけど、生き返った理由までは、申し訳ありませんが、私には分かりません」
「プロから見てもお手上げか……まったく、一体どうなってんだ?」
「それに、そのノイズっていうのも、私は聞いたことすらなかったんです。分からないことだらけですよ」
「そこだよ。あたしが知る限り、あんたの歳なら、ノイズのことを全く知らないなんてのは、まずありえないはずなんだけどな」
 言いながら、試着室のカーテンが開け放たれる。
 ドレス姿から一変、天羽奏は、ボーイッシュかつラフな服装へと着替えていた。
 オレンジのノースリーブシャツに、タイトなジーンズという出で立ちは、起伏に富んだボディラインを強調させている。
「奏さんが生きていた時点で、ノイズの存在は、既に世間に知れ渡ってたんですよね」
「ああ。元々は数もほとんどいなかったんだけど、ここ数年の間で、あいつら一気に増えだしたんだもんな」
「私も、国の組織について、悪霊退治を仕事にしてはいるんですが……」
「同一存在、ってわけでもねぇだろうな。
 ノイズは誰の目にも見えるし、特異災害対策機動部以外で、ノイズ狩りを専門にしてる組織が、日本にいるなんて聞いた覚えはない」
 この2年で新しく作られたなら別だが、と奏が言った。
 それは即座に否定した。超自然災害対策室は、いくら何でも、そこまで歴史の浅い組織ではないからだ。
 そもそもそれを言うなら、神楽の方も、特異災害対策機動部など聞いたこともない。
「……まーアレだ。この際、それは後にしよう」
 いい加減こんがらがってきたところで、奏が話題を打ち切った。
 脱いだドレスをデイパックに突っ込むと、代わりにスニーカーを取り出して、それを履いて試着室を出る。
「今はこの状況をどうするかだ。神楽も、殺し合いに乗ってるわけじゃないんだろ?」
 最優先で考えるべきは、そこなのだ。
 奏の問いかけに、神楽も頷き返した。
「私はこんなゲームの存在を、許すわけにはいきません。この手で止めたいと思ってます」
「同感だな。どこまでやれるか分からないけど、あたしも協力させてもらうよ」
「ありがとうございます」
 頼もしい申し出に、礼で返す。
 もちろん、アイドル歌手が協力してくれたところで、どの程度役に立つかは分からない。
 それでも、そんなことは関係ない。誰かが賛同してくれるというだけでも、神楽にとっては嬉しかった。
「んで、まずはどうする?」
「とりあえず、他の参加者を探します。殺し合いに乗っていない人がいたら、私達で保護しないと」
「オーケイだ。目を光らせとこうじゃないか」
 言いながら、奏がデイパックを背負う。
 この階で、それなりの時間を、情報交換に費やしたが、この話し声に反応する者はいなかった。
 このままこの階はスルーして、下に降りてもいいだろう。
 神楽もまた、背中の荷物を正すと、再び身を起こして歩き始めた。


(いつの間にか、翼と同い年になっちまったんだな……)
 雑誌を思い返しながら、天羽奏は歩みを進める。
 今が最期の瞬間から、2年後の時代であると判断したのは、ツヴァイウィングのもう一翼――風鳴翼が根拠だった。
 自分のパートナーを取り扱った記事には、彼女の年齢が、自分と同じ、17歳であると書かれていたのだ。
 2つ年下だった翼の歳が、自分の年齢に追いついた――自分が知らなかった間に、2年が経っていたとしか思えない。
(あんたもここにいるのか、翼?)
 首元にぶらさげたネックレスを、指先でなぞりながら、問いかけた。
 否、それは単なるアクセサリーではない。
 ノイズ殺しの聖遺物、天羽々斬のシンフォギア――人々を守る防人として、翼が纏うべき剣だ。
 彼女が肌身離さず持ち歩いていたはずのこれが、ここにあるということは、翼の身に、何かがあったとしか考えられない。
 主催者に捕まったのかもしれないし、最悪、自分と同じように、殺し合いに参加させられているのかもしれない。
(もう少しだけ、堪えててくれよ)
 彼方の相棒を想い、内心で呟く。
 恥ずかしがり屋で生真面目で、おまけに泣き虫な翼のことだ。きっと自分が眠っている間に、苦しい思いをしていたに違いない。
 彼女の身をほぐしてやれずに、独りきりにしてしまったことは、申し訳なかったと思う。
 なればこそ、今の自分がすべきことは、これを翼に届けることだ。
 もう一度彼女の力となり、今度こそ支えてやることだけだ。
(どこまでできるかは分からないけどさ)
 神楽にはぼかしていたことだが、奏もまた、その身にギアを纏い、ノイズと戦う防人の1人だ。
 それを黙っていた理由は、もちろん、機密保持もある。
 しかし、それ以上に大きな理由は、そもそも今の天羽奏が、まともに戦えるか定かでないからだった。
 シンフォギアへの適性を持たない奏は、補助薬・LiNKERの投与によって、無理やりシンフォギアを操っている。
 だが、あの最期の戦いの中で、体内の薬は切れかけてしまった。
 そもそも自分のギア・ガングニールが、今も残っているのかどうかも分からない。
 生身で戦おうにも、この身はLiNKERの副作用で、既にズタボロに傷ついている。
 要するに、どこまで戦えるか、奏には自信がないのだった。
(……まぁ、やれるだけはやったろうじゃないか)
 それでも、何もしないわけにはいかない。
 それは共に戦ってくれた、翼への最悪の裏切りになる。
(両翼そろったツヴァイウィングは、どこまでも飛んでけるんだからさ)
 かつて語って聞かせた言葉を、今度は自分に言い聞かせる。
 翼という名の片翼を、傍に立って支えるのは、そう言った自分が背負った責務だ。
 どうせ一度は死んだ身だ。今更どうなろうと惜しくはない。
 今度こそ、これで最期になろうとも、この身が朽ち果てる時まで、翼の力となって支えよう。
 確たる決意を胸に抱いて、奏は神楽の後に続いた。


【1日目・深夜/E-5 デパート】

【土宮神楽@喰霊-零-】
【状態】健康
【装備】殺生石(白叡)、トライアクセラー@仮面ライダークウガ
【道具】支給品一式、ランダム支給品0~2(武器に見えるものはない)
【思考】
基本:この殺し合いを止め、会場から脱出する
1:殺し合いに乗っていない参加者を探して保護する
2:奏と行動を共にする。彼女が一度死んでいるというのが気になる
【備考】
※第12話「祈 焦(いのりこがれて)」にて、黄泉を追って山に入った直後からの参戦です
※諫山黄泉が参加していることに気付いていません
※天羽奏から、ノイズ@戦姫絶唱シンフォギアについての、大まかな情報を聞かされました

【天羽奏@戦姫絶唱シンフォギア】
【状態】健康
【装備】ノースリーブとジーパン、スニーカー、天羽々斬@戦姫絶唱シンフォギア
【道具】支給品一式、ランダム支給品0~2、ステージ衣装一式、音楽雑誌
【思考】
基本:この殺し合いを止める
1:殺し合いに乗っていない参加者を探して保護する
2:神楽と行動を共にする
3:天羽々斬を翼に届ける
4:あたしは死んだはず、なんだけどな……?
【備考】
※死亡直後からの参戦です。ツヴァイウィングのライブステージ衣装を着て参戦していました
※自分が死んでから、既に2年が経過していることを把握しています
※LiNKERの効果が切れかけています。ごく短時間しかシンフォギアを使えません
※風鳴翼が参加させられているのではないかと考えています

【トライアクセラー@仮面ライダークウガ】
警察が開発した新型白バイ・トライチェイサー2000の始動キー。
右側のグリップが分離して、このトライアクセラーとして扱われる構造になっている。
これをトライチェイサーに差し込み、「0318」の暗証番号を入力することで、トライチェイサーのロックが解除される。
また、トライチェイサー単体でも、警棒へと変形させて使用することが可能。

【天羽々斬@戦姫絶唱シンフォギア】
第1号聖遺物。
特異災害対策機動部二課の預かりとなっており、風鳴翼がこれを使用している。
格闘攻撃に特化した性質を持ち、アームドギアの形状は刀剣。
更に両脚部にもブレードが設置されており、全身を使ったアクロバティックな戦闘を前提とした構造になっている。

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最終更新:2013年05月11日 18:51