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鉄のこころ ◆aWSXUOcrjU




 押し寄せるさざ波の音が、支柱に当たってちゃぷちゃぷと響く。
 涼やかな夜風と重なって、穏やかな音色を奏で上げる。
 自然の調和に混ざるのは、きゅらきゅらと鳴る車輪の音だ。
 ぎこちないリズムは、死の証。錆ついた軸ががたがたと揺れ、車輪の回転を不安定にする。
「そうですか……それが、マルゴーさんの世界なんですね」
 その音を傍らで聞きながら、銀色のスーツの女性が言った。
 爽やかに切り揃えられた青髪は、スバル・ナカジマのショートヘアだ。
 瞳は前方へと向けながら、彼女は車輪の音を鳴らす、同行者の言葉に聞き入っていた。
「ここは、自然の綺麗な場所だ……『滅び』が広まるずっと前に、戻ったような気分だよ」
 目を伏せ、風を味わうように。
 口元に笑みを浮かべながら、きゅらきゅらと音を立てるのは、不思議な雰囲気を持った青年だった。
 女性のような美貌の男だ。淡い紫色の長髪は、潮風にさらさらと揺れている。
 それでも、右の目元に負った傷と、ところどころに浮いた錆とが、この美貌も長くはないのだと、言外に物語っていた。
 マルゴー――人のような姿をした、人ならぬロボットの青年は、自らをそう名乗っていた。
「君の住んでいる世界にも、こんな場所があるんだろう?」
「ええ。開発が進んで、人の住む場所は広がっていますけど……でも、綺麗な場所はいくつもあります」
「羨ましいな。それだけは、僕にはどうしても望めないから」
 マルゴーの下半身を形成する、車椅子のような車輪が揺れる。
 がたがたと響く橋の上を、感触を噛み締めるようにして進んでいく。
「お見せできると、いいんですけどね」
 ほんの少し、顔を曇らせながらスバルが言った。
 マルゴーがいたという世界は、一度、大きな災いが起こって、滅びを迎えた世界だった。
 自然物は異常を来たして暴走し、文明は自然の猛威を前に、虚しくも崩れ去ったというのだ。
 不死身であったはずのロボット達も、「滅び」という得体の知れない劣化現象に、もがき苦しんでいるのだという。
「そうだね。ここでは美しいものも、落ち着いて見ることは出来なさそうだから」
 瞳を開いたマルゴーの目には、この場所はどう映っているのだろう。
 ふと、そんなことが気にかかる。
 ここは、彼の暮らしていた世界よりも、恐らくは遥かに綺麗な場所だ。
 海は青々と波打っているし、草原には草木が広がっている。動物の姿こそないが、自然の生命力に満ちている。
 それでも、この海に浮かぶ島は、命を奪い合うデスゲームの舞台だ。
 生命の気配に溢れながらも、死の穢れに染められることが、予め定められた矛盾の大地だ。
 命を失い、死に近づいたマルゴーの目には、この土地はどのように見えるのだろうか。
「……君もまた、悩み多き人のようだね」
 はっ、と。
 マルゴーの言葉に、我に返った。
 どうやら気付かれていたらしい。視線の向こうの美青年は、にこにこと笑みを浮かべている。
「あ……すいません」
「気にすることはない。君が僕の世界について、真剣に考えてくれているのなら、それは喜ぶべきことだ」
 真摯な人は好きだからね、と。
 あっけらかんと言いながら、マルゴーは先へと進んでいく。
 しばらく、その背中を見送ると、スバルもまたそれに続いた。
 紫の髪の隙間から、ちらちらと覗く首筋には、痛ましい錆の色が浮かんでいた。
「君とあの村で会った時から、気になっていたことがある」
 マルゴーが言う。
 あの村とは、自分達のスタート地点であった、G-6地点の村のことだ。
「君は人のようでありながら、僕がロボットだと言った時に、少し変わった目つきをした」
 それはまるで、同郷の者か、あるいは同胞を見るようだったと。
 世界においても人種においても、自分とスバルの間には、何の接点もないはずなのに、と。
「……君は、人ではないのかい?」
 まっすぐと、目を覗きこんで。
 足元の海のような瞳が、スバルの瞳に問い掛けた。
「………」
 少しばかり、返事に迷う。
 この身の上をどう話すべきか、語るべき言葉を組み立てる。
「……そうですね。あたしは、戦闘機人という身体を持って生まれました」
 一つ一つを噛み締めるように、スバルの口が言葉を紡いだ。
 戦闘機人――それは生まれながらにして、身体の一部を、機械化・改造されたサイボーグだ。
 魔法技術とは異なる形で、優れた兵士を生み出すために、研究が進められていた技術である。
 スバルはその最初の成功例――2人のタイプゼロの片割れであった。
 戦うことを宿命づけられ、戦う力を備えられた、半人半機の修羅だった。
「君にとって、その生まれが負い目だったと?」
 そしてどうやら、このロボットは、何もかもお見通しのようだ。
 気になっていたこととは、そのことなのだろう。
 初めて会った時に覚えた、微かな揺らぎを捉えていたのだ。
「少し」
 全肯定するつもりはない。
 それでも、手離しに否定はできない。
 故に、少しだ。少しの苦笑を浮かべながら、スバルはそう短く答えた。
「機械の身体を、嫌っているわけじゃないんです……
 それでも、この身体が、戦うために作られたってことには、少し堪えたこともありました」
 少女であった頃の、影の差した記憶だ。
 元来スバル・ナカジマは、優しく気の弱い性格だった。
 誰かを傷つけてしまうことを、自分が傷つくことよりも、恐ろしく感じていた少女だった。
 それでもこの身体には、人を傷つけるための力がある。
 少しでも使いどころを誤れば、たちまちに人を殺めてしまう、凶暴な力が与えられている。
 戦士となるべく生まれた自分と、戦うことを恐れる自分。
 今でも胸を締め付け続ける、呪いのような矛盾だった。
「マルゴーさんは、自分がロボットに生まれたことを、どう思っているんですか?」
 だからこそ、スバルも問い掛けてみる。
 自分の同胞でありながら、自分よりも人から遠い、完全なる機械の存在へと。
 人の手によって作り出された、人ならぬ鉄の人形は、自らをどう捉えているのかと。
「……君には、友達はいるかい?」
 返事が返ってくるまでに、さほど時間はかからなかった。
 そして、返ってきた言葉は、そんな奇妙な問い掛けだった。
「え? あ、はい……確かに、友達はたくさんいますけど」
「僕にはいないんだ」
 そう答えると分かっていたのか。
 スバルの返答に対して、間髪入れずにマルゴーが言う。
「面白い矛盾だと思わないか? 僕は別に、戦うために作られたわけじゃない。
 だけど僕は、人と親しくなることにおいて、君に遅れを取っている。
 君がむしろ、人を傷つけるために作られたにもかかわらずね」
「あ……」
「要はそんなものなのさ。何のために生まれたかなんて、さして重要なことじゃない。
 大事なのは、生まれた後に、何をどうしたのかということだよ、君」
 身体ごとスバルに向き直りながら、足を止めて、マルゴーは言った。
「君は、人を殺めることが嫌だと言った。それでも別に構わないじゃないか。
 君は多くの友に恵まれている。彼らが君に対して、戦うことを、強要しなかったこともよく分かる」
「どうして、そうだと?」
「君は僕を殺さなかった」
 君が君の言う通りの人間だったならば、自分の命はとうになかったと。
「それは君が、そうでない生き方を、しっかりと選び取っていた証だ。
 君はそれでいい。自分でそうありたいと願ったように、生きていけばいいんだよ」
 そこまで言い終えて、数瞬の後。
 何かを思い出したように、マルゴーが背中へと手を伸ばした。
 デイパックを身体の正面に持ってくると、蓋を開けて中を探る。
 鞄の中から取り出したのは、1本の細い画筆だった。
「落ち着いたら、一緒に絵を描いてみないか?」
「絵……ですか?」
「設計段階にはなかった、僕が自分で選んだ趣味だ。君の世界の、絵になりそうな風景に、連れていってくれると嬉しいな」
 屈託のない笑顔で、マルゴーが言った。
 ああ、そうか。
 自分はそれでもよいのだと。
 この道を選んで進んだ自分は、間違ってはいなかったのだと、改めて理解させられる。
 答えの出ていた疑問ではあった。要はその答えに対して、納得を得たいだけだった。
 壊すために与えられた力を、守るために使いたかった。
 恩師・高町なのはに助けられた時、自分もこういう風になりたいと、心から強く憧れた。
 だからこそ、この力を鍛え上げ、管理局のレスキューへと志願し、今も災害の現場で戦っている。
 それでよかったのだ、自分は。
 遠い世界の壁を隔て、巡り合った同胞の言葉だからこそ、一層の説得力をもって、実感させられた。
「……分かりました。これが終わったら、ご一緒します」
 ありがとう、と言うように。
 柔らかな微笑みを顔に浮かべて。
 スバルは静かに頷きながら、マルゴーの申し出を受け入れた。


【1日目・深夜/F-6 橋】

【スバル・ナカジマ@魔法戦記リリカルなのはForce】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、ランダム支給品1~3
【思考】
基本:この殺し合いを止め、主催者を打倒する
1:マルゴーを保護する
2:橋を渡って北へ行き、市街地の方へ向かう
【備考】
※Record 17:「Bayonet」終了後からの参戦です
※マルゴーから、「キャシャーン Sins」の世界について、ある程度の情報を得ました

【マルゴー@キャシャーン Sins】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、ランダム支給品0~2、画材@現実
【思考】
基本:生きて元の世界に帰る
1:スバルについて行く
2:どうせなら美しいものを見ていきたい
【備考】
※第12話「生きた時間を色にして」にて、
 キャシャーンと出会ってから、芸術が完成するまでの間からの参戦です
※スバルから、「魔法戦記リリカルなのはForce」の世界について、ある程度の情報を得ました

【画材@現実】
油絵の具のセットとイーゼル。

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最終更新:2013年01月04日 23:56