「……今日も、私だけでお仕事かぁ」

 太陽のまぶしい光がお部屋を照らしますが、私の声には熱がこもっていません。
 私、櫻木真乃は聖杯戦争に巻き込まれてから1ヶ月が経過しました。既にたくさんのマスターやサーヴァントの人たちが命を落としており、私もいつ襲われてもおかしくありません。
 そのプレッシャーもあって、私の心が締め付けられます。お仕事に悪影響は出ないように、深呼吸をしなくちゃ。

「でも、頑張らないと……今日は、星野アイさんとの対談なんだから!」

 私は今、お仕事でとある建物に訪れています。
 大人気アイドルユニット・『B小町』のセンターを勤めている星野アイさんとの対談をするためです。
 アイさんにはたくさんのファンがいて、私とは比較になりません。オフィスの壁にも、アイさんのポスターが貼っていましたから。

「アイさんの笑顔、本当に幸せそうだなぁ……」

 ポスターの中で輝く笑顔を浮かべているアイさんに、私は目をそらしそうになりました。
 だって、アイさんの笑顔は心から満ち足りているから。嬉しいや楽しいじゃなく、幸せという言葉がふさわしいです。
 どれだけ大変なことがあっても、大事な人が見守ってくれる……その気持ちから生まれる眩しい笑顔。
 私だって、ちょっと前まではこんな風に笑っていました。灯織ちゃんやめぐるちゃん、それにプロデューサーさんたち283プロのみんなが、私を支えてくれましたから。

「……今の私は、ちゃんと笑えているのかな?」

 それは、私の中で何度も生まれている疑問です。
 283プロの経営が傾き、みんながバラバラになってからも、私はアイドルの櫻木真乃でいました。お仕事で笑顔を見せる機会は多いですが、前に比べるとどこかぎこちなく見えます。
 鏡の前で笑顔の練習をしても、満足できません。仕事では褒めてもらえますが、私自身が受け入れることができないです。
 理由は私自身がよくわかっています。283プロという大きな支えが私から消えてしまったからです。

 ーー夢みたいなおっきなステージ 
 ーーいつか灯織ちゃんとめぐるちゃんと一緒に出れるでしょうか?

 いつだったか、私の夢をプロデューサーさんに話したことがあります。
 その言葉通りに、イルミネーションスターズの3人でたくさんのステージに出ました。
 私たちはトライアングルになったからこそ、歌やパフォーマンスを披露することができました。

 ーー次の夢も、その次の夢も
 ーーずっとプロデューサーさんと一緒に叶えていきたいです……

 まだ、みんなで笑い合っていた頃の283プロで、私はそう誓いました。
 プロデューサーさんの笑顔を見て、私の夢は叶い続けると本気で信じていました。
 でも、プロデューサーさんはもういません。283プロがバラバラになったあの日から、何をしているのかわかりませんでした。
 灯織ちゃんとめぐるちゃんは、悲しそうな顔で私のことを見つめていました。最近、二人とは会えてないですし、この世界でもまだ顔を見ていません。行方不明のニュースもたくさん聞くので心配になります。

「……いけない。ちゃんと、お仕事に集中しないと」

 私は不安を拭うように、窓ガラスの前で笑います。
 みんなが癒されるように、真心をいっぱい込めた笑顔です。

『優しい笑顔ですね』

 すると、頭の中に女の子の声が響きます。
 私のサーヴァントになってくれた星奈ひかるちゃんの声です。彼女は霊体化をして、私のことを見守ってくれています。
 もちろん、周りの人には気付かれていません。

(そう……なのかな? ひかるちゃん)
『はい! やっぱり、真乃さんの笑顔は暖かくて……キラやば〜! になりますよ!』
(……ありがとう、私の笑顔を褒めてくれて)

 私たちは念話でコミュニケーションを取ります。
 ひかるちゃんと契約してから、口に出さなくとも意思を伝え合えるようになりました。まるで、エスパー能力者になったみたいです。
 この念話さえあれば、メッセージアプリや通話がなくてもいつでも会話できます。ねられない日があったり、何かこっそり二人だけの秘密にしたいことがあれば、この念話でひかるちゃんに伝えられるでしょう。

(だったら、お仕事も大丈夫だね)

 ひかるちゃんの励ましに、私の心は落ち着きます。
 良かった。ひかるちゃんを喜ばせることができたから、自信が生まれそう。

『……ごめんなさい、真乃さん』

 だけど、ひかるちゃんの声は急に沈んじゃいます。
 何か、後ろめたいことがありそうでした。

(ほわっ? ごめんなさい、って……どういうこと?)
『わたし、真乃さんの考えていることや、悩みとか……何も知りません。
 わかってあげられないのに、こんなことしか言えてないです』

 その言葉に、私の胸がドキンと高鳴る。
 やっぱり、ひかるちゃんは何でもお見通しでした。
 とても優しくて好奇心旺盛な上に、相手の気持ちをすぐに察することができる女の子がひかるちゃんだから。昨日の夜だって、私の不安をすぐに見抜いてます。
 もしも、私の目の前にひかるちゃんの姿が見えていたら、きっと頭を下げているはず。

『それでも、わたしは真乃さんの笑顔はとても素敵だと思っています!
 ここに来る前の真乃さんに何があって、今は何に悩んでいるのか……わたしは全く知りません。
 でも、今の真乃さんの笑顔はとっても綺麗ですし、アイさんに負けているとは思いません!
 わたしだって、キラやば〜! って思いました! これだけは、嘘じゃありません!』
(そっか……ありがとう!)

 嘘や同情なんかじゃなくて、心の底からひかるちゃんは励ましてくれている。
 その思いやりが嬉しいことも、私にとって嘘じゃない。ひかるちゃんが守ってくれるから、お仕事に集中できることも本当です。

(ふふっ! やっぱり、私たちはおそろ……どんなことがあっても、引きはなせそうにないね)
『はい! わたしたちは、なにものにもひきさかれませんよ! 誰がなんと言おうとも、心は一つです!
 まだ、大変なことばかりだから……言えないことだってあります。でも、真乃さんが言いたくなったら、いつでもわたしに言ってくださいね!
 わたしだって、真乃さんのお話を聞くことならできますから!』
(そうだね……その時が来たら、私はひかるちゃんに頼るよ。
 私たちの心は一つだから!)

 ひかるちゃんは私の悩みを少しずつ拭おうとしている。星のプリキュアに変身して、宇宙に生きるたくさんの人を助け続けたように。
 本当なら、今すぐにでも聞くことができたはずだけど、ひかるちゃんは決して私の心の中に踏み込もうとしない。私の意思を尊重して、悩みを話してくれることを待っています。
 その気持ちは嬉しかった。283プロのことや、灯織ちゃんとめぐるちゃんのこと……それにプロデューサーさんのこととか、相談したいことは星の数ほどある。
 まだ、口に出す勇気はないけど……ひかるちゃんがいてくれれば、いつか必ず話せる予感がするよ。

(それじゃあ、もうすぐアイさんも来ると思うから……ひかるちゃんは見張りをお願いね!)
『わかりました! 真乃さんも、何かあったらすぐにでも呼んでください!』

 そう締めくくると、ひかるちゃんの声が聞こえなくなる。
 でも、彼女はいつだって私を守ってくれているから、不安はありません。

「お待たせしました〜!」

 すると、入れ替わるように女の人の声が聞こえてきます。
 振り向くと、彼女が……星野アイさんがやってきました。
 瞳は星のように輝いて、腰にまで届きそうな紫混じりの黒い髪はとてもサラサラです。桃色のチュニックとハート型のペンダントもマッチして、キュートさを引き立てています。
 何よりも、アイさんの可愛らしい笑顔に、私の心が奪われそうです。

「あなたが櫻木真乃さんだよね? 私は星野アイです! よろしくお願いします〜!」
「ほわっ!? は、はじめましてっ! わ、わ……私は櫻木……真乃ですっ! こちらこそ、よろしくお願い、しますっ!」

 アイさんを前にして、私は緊張でうまく挨拶ができません。
 私はアイドルとして頑張ってきたつもりでしたが、アイさんを前にすると圧倒されます。
 アイさんの綺麗な顔……いいえ、全身からはまぶしいオーラが見えますね。実績と経験、更には才能だって私よりもずっと上でしょうから。

「あれ、もしかして緊張してるの? ふふっ、だいじょーぶ! こんな時は、まずは深呼吸だよ!」
「えっ、あっ、は、はいっ! ……すーっ、はーっ、すーっ、はーっ……」

 朗らかに笑うアイさんに言われるがまま、私は呼吸します。
 すると、胸が軽くなりました。心もふんわりポカポカとして、プレッシャーも吹き飛びます。
 ううっ……ひかるちゃんに励ましてもらったばかりなのに、何だか申し訳ないです。
 でも、アイさんの優しさが嬉しくて、癒されます。アイさんからもらった分だけ、私が恩返しをするべきですね。

「……あ、ありがとうございます! 改めて、よろしくお願いしますね! アイさん!」
「もっちろん! よろしくー!」

 気が付けば、挨拶だってちゃんとやり直せました。
 アイさんは元気いっぱいの笑顔を見せてくれますし、この後のお仕事だって問題なくいけそうです。
 少なくとも、アイさんの足を引っ張らないように頑張らないと。私とアイさんの対談を楽しみにしているファンの人はたくさんいますから。

「それにしても、本当に急だよね! ライブもそうだけど、前日になって私たちがいきなり対談インタビューをすることになるなんて。
 真乃さんは大丈夫?」
「心配ありがとうございます。私でしたら、大丈夫ですよ! 確かに、283プロはバタバタしていますけど……私がカバーすればいいだけです!」
「ふーん、そっか。なら、頑張らないとね! 私だって手伝うからさ!」

 アイさんが言うように、こちらの283プロも危機に立たされています。
 天井社長とはづきさんはいてくれますが、プロデューサーさんの姿はありません。そのせいで、はづきさんたちの負担が大きくなり、またいつ倒れてもおかしくないでしょう。
 例え、事務所のみんながNPCだったとしても、大切な人をまた失うなんて耐えられません。だから、今回のインタビューとライブは成功させるべきでした。
 このお仕事が成功すれば、プロデューサーさんだって喜んでくれるはず。プロデューサーさんとだって、胸を張って再会できます。

「はい、私も頑張りますよ! むんっ!」

 決意を胸に、私はいつものポーズを取りました。
 ……と、そこで私は気が付きます。アイさんの右手に包帯が巻かれていることを。

「あれ? アイさん……その包帯、ケガでもしたのですか?」
「ん? あぁ、これ? この間、ちょっと火傷をしちゃったんだよね〜! 痛みはもうないけど、まだ傷が残っているから外せないんだ」
「それは……大変でしたね。とっても、痛かったと思います」
「心配しなくても大丈夫! これくらいなら、私にとって全然平気だよ!
 あの時に比べたら火傷なんて……」
「あの時?」
「……あっ! これは、こっちの話だから! 気にしないでね!」

 焦ったように、アイさんはぶんぶんと両手を振っています。
 よくわかりませんが、どうやら触れない方がいいですね。誰にだって秘密にしたいことはありますから。
 私だって、今は両腕にアームカバーを付けていますが、UVカットではありません。ひかるちゃんと繋いでくれる令呪を隠すためです。
 もしも、令呪のことが誰かに知られたら、私は疑われます。悪いうわさが広まれば、283プロも信用されなくなり、お仕事も減るでしょう。

「……でも、よく考えたら、私も真乃ちゃんみたいにすればよかったかな? そっちの方が自然だし」
「ほわっ……それでしたら、一緒にお買い物でもしてみましょうか? インタビューの後でしたら、時間を作れますし」
「本当!? じゃあ、そうしようか! 私も、これからいっぱい大変なことがあるから……そろそろ息抜きをしたかったんだよね〜!
 一緒によろしくね!」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」

 良かった! アイさんと楽しく話せるきっかけを作れそう。
 言葉の意図はまだわからないけど、これから少しずつ知ればいいです。私だって気軽に触れられたくないことがあるように、アイさんにも秘密はありますから。

「それじゃ、インタビューの後は美味しいものを食べて、楽しいショッピングをしよっか!
 確か、この近くにはプリンセスストア……略してプリストってお店も、新しくオープンしたみたいだから!」
「ほわっ! プリンセスストア……可愛らしい名前ですね!
 どんなお店ですか?」
「うーん、私もまだよくわからないんだよね。ただ、2号店や3号店ができるくらい、人気のお店らしいよ!
 噂だと、女の子はもちろん、男の人もたくさん来るみたい! 誰でも輝けるって話は聞いたから!」

 アイさんとの会話は弾みます。
 こうした雑談でも、アイさんは星のようにキラキラしていて、まるでひかるちゃんみたいです。
 星奈ひかるちゃんと星野アイさん。二人ともお星さまみたいに輝いていますから、わたしも負けちゃダメですね。
 櫻木真乃は今日もがんばります。ふふっ。


 そうだ!
 アイさんと一緒にプリンセスストアに行くなら、ひかるちゃんも誘ってみよう!
 なんとなく、ひかるちゃんに似合う場所な気がするから。


 ◆


「真乃さん……良かった」

 櫻木真乃さんの笑顔を見て、わたし・星奈ひかるは胸をなで下ろす。
 真夜中の宣告を突きつけられてから、真乃さんはずっと不安になっていて、あまり眠れていない。
 それに、真乃さんは何かを心の中で抱えている。聖杯戦争のことじゃない、もっと大きくて大事な秘密だけど、わたしにはまだ聞くことができない。
 わたしは真乃さんのサーヴァントになったけど……いいや、サーヴァントだからこそ、簡単に聞いちゃいけないよ。
 今は真乃さんと星野アイさんを守るため、この辺りを見張るべきだね。昔のノットレイダーみたいに、真乃さんたちを襲ってくる人がいるかもしれないから。

「それじゃあ、真乃さんの為にわたしも頑張らないと! あっ! 警備員さん、お疲れ様でーす!」

 意気込みながら、わたしは外に出る。
 警備の人には「お仕事見学に来た真乃さんの親戚」として通っているから、特に怪しまれていないよ。私があいさつしたら「お疲れ様!」と優しく応えてくれた。
 もちろん、霊体化をすれば気付かれずに通れるけど、それはルール違反だと思う。だから、真乃さんはわたしのことをみんなに話してくれたの。
 当然、真乃さんのお仕事を邪魔したらいけないし、誰かに話すつもりもないよ。アイドルのお仕事は大変だからね!

「確か、この近くには美味しいドーナツ屋さんもあるから、差し入れも買ってこようかな?」

 実を言うと、わたしは真乃さんからおこづかいをもらっているよ。
 人間だった頃は、宇宙飛行士として生計を立てていたけど、今のわたしはサーヴァントだからお金を持っていない。お昼ごはんやおつかいなど、必要に応じて真乃さんからもらうことになっているんだ。
 だから、今から真乃さんたちのためにドーナツを買いに行くよ! 当然、見回りも忘れずにね!

(そういえば、ユニも宇宙アイドルのマオに変身してたくさんの歌とダンスを披露していたけど……やっぱり、今の真乃さんたちみたいにインタビューも受けていたのかな?)

 ふと、わたしはユニのことを思い出しちゃう。
 昔、みんなで宇宙を旅していた頃、レインボー星人のユニって女の子と出会ったよ。
 どんな姿にも変身できるユニは、たくさんの顔があった。ノットレイダーのバケニャーン、宇宙怪盗のブルーキャット、大人気の宇宙アイドルマオ、そしてスター⭐︎トゥインクルプリキュアのキュアコスモ……まるで虹みたいだよ。
 マオに変身したユニは歌とダンスがとても上手で、宇宙規模でたくさんのファンを喜ばせるくらいキラやば〜! だね。プルンスだって、マオの歌があったから辛いことも乗り越えられたし、「マオたん」って呼ぶくらいに推してるよ!
 でも、マオの正体が宇宙怪盗ブルーキャットと知った時は、心から落ち込んでいたかな……? ちゃんと気を取り直して、正体を知ったユニとも仲良くなれたけどね!

(ユニがここにいたら、真乃さんたちと同じステージに立っていたのかな?
 宇宙アイドルマオ、奇跡の復活ステージって!)

 ノットレイダーとの戦いが終わって、宇宙に平和が戻ってからはユニも惑星レインボーの復興に力を入れていた。だから、宇宙アイドルマオも引退になっているよ。
 ただ、どこかでユニに声がかかれば、またマオとしてライブを開いてくれるかなって思う。
 マオになった時、たくさんの人の前でユニは楽しそうに歌っていた。あの頃のユニみたいに、真乃さんたちが歌えるステージをわたしが守らないといけない。
 真乃さんの歌は本当にすてきだったから。

(真乃さんが心から歌えるように、そして心配事を解決できるように頑張ろう! わたしが真乃さんを守るって約束したから!)

 決意をあらたに、わたしは前を進み続ける。
 見たところ、怪しそうな人は見当たらなかったけど、まだまだ油断はできない。

「よう」

 気持ちを引き締めた途端、声をかけられた。

「……ん?」

 わたしは足を止めて、振り返る。
 すると、背の高い男の人が立っていたよ。黒い髪は剣山のようにトゲトゲしてるけど、顔の輪郭は整っていて、たれ目と泣きほくろがミステリアスな印象を与えちゃう。
 背広とネクタイがバッチリ似合っていて、大人になったまどかさんみたいに真面目そう。

「そこの嬢チャンだよ、嬢チャン」
「あれ? わたしですか?」
「そうだぜ。ここは嬢チャンみたいな子が一人で来るところじゃないぞ?」

 男の人は不敵な笑みを浮かべている。
 ひょっとして、ここの偉い人なのかな? 確かに、わたしはアイドルと無関係だから、気軽に出入りするのはおかしいよね。
 真乃さんは説明してくれたけど、みんなが知っているとは限らないから。

「あっ……ごめんなさい! わたし、ここのアイドルさんに許可をもらって……お仕事見学をしているんです! 全然、ボディーガードなんかじゃありませんから……あっ!?」
「お仕事見学ぅ? それにボディガード? そりゃ、熱心なこと……邪魔したかい?」
「い、いえ! 全然、大丈夫……ですからっ! なんでもありませんよっ!」

 男の人に説明しようとするけど、しどろもどろになっちゃう!
 昔から、わたしはウソをつくことが苦手なんだ。せっかく、わたしがここにいる理由を真乃さんが用意してくれたのに……
 うぅ……このままじゃ、怪しまれそう! 墓穴を掘って、余計なことをしゃべっちゃうかもしれない!

「そ、それじゃあ、わたしはこの辺で! お兄さんも、お仕事をがんばってくださいね〜!」

 いたたまれなくなって、わたしは男の人から背を向けちゃう。
 何だか、昔のことを思い出すな……ララとプルンスとフワ、それにノットレイダーたちが地球にやってきてから、観星町で宇宙人出現のウワサが広まっちゃったの。
 わたしはララたちの秘密を守ろうとしたけど、観星中のみんなにはバレちゃった。でも、みんなはララを守ってくれたよ。宇宙人とか関係なく、ララは大切な友達だから!
 ……考えてみたら、サーヴァントになった今のわたしって、宇宙人やUMAみたいなミステリーの存在なんだね。前のわたしが探し求めていた未知の存在に、わたしが変身するってキラやば〜! かも!
 って、のんきなことを考えちゃダメ! 早く離れないと!

「待ちな、嬢チャン。まだ話は終わっていないぜ?」
「えぇっ! まだ何か!?」

 男の人に呼び止められて、わたしは足を止めちゃった。

「悪ィ悪ィ! オレの前置きが長かった! いや、直接的(ストレート)に聞きてえことがあるだけさっ」
「き、聞きたいこと?」
「あぁ……嬢チャン、聖杯戦争のサーヴァントだろ?」
「……えっ!?」

 ーードクン! と、わたしの心が音を鳴らしちゃう。
 男の人から出てきた言葉を聞いた途端、全身に電流がビリビリと走ったみたいに、わたしは震えた。
 サーヴァント。それは今のわたしだけど、真乃さん以外が知っているはずがない。なのに、どうしてこの男の人は気付いたのか?
 聞きたいことは山ほどあるのに、必要な言葉がわたしの中から出てこない。こおりついたまま、男の人と視線がぶつかるけど……向こうは余裕の笑みを浮かべたまま。

「正解(ビンゴ)、だな」

 男の人の静かな声で、ようやくわたしの意識はもどってくる。
 車が走る音や、鳥や虫の鳴き声がわたしの耳に響いて、太陽の光がジリジリと肌に刺さった。

「……え、えっと? な、なんのことですかー? その……さ、サバババーントって? あっ!? もしかして、新種の宇宙人だったりして……」
「ははっ、やめた方がいいぜ嬢チャン! 嘘、下手すぎだって」
「ギクッ!」

 わたしは必死に言い訳しようとしたけど、男の人からあっさりと跳ね返された。
 その直後、笑顔が……どこかイヤな色に染まっていく。まるで、わたしの何かを試しているように。

「まぁ、嬢チャンがサーヴァントなら……マスターもすぐ近くにいるのかもな? だったら、すぐにご挨拶ができそうかもなぁ?」

 声のトーンが冷たくなって、わたしは気付いた。
 この人の狙いは真乃さんだ。真乃さんが建物にいることを知って、襲いに来たはず。

「……させないよ!」

 だから、わたしはすぐに構えた。
 真乃さんとアイさんを守って、二人がアイドルとして頑張れる居場所を作るためにも。
 スターカラーペンをペンダントに差し込もうとするけど……

「おいおい! こんな所でいいのかよ? オレ、そこそこ強いぜぇ?」
「そうだろうね。でも、わたしだって負けるつもりはないよ……だってわたしは、絶対にマスターを守るって誓ったから!」
「ハハッ! イ〜ネイ〜ネ! 熱くて結構! でも、悪ィけど……オレもまだ戦うつもりはねえよ」
「えっ!? どういう、こと……?」

 彼はケラケラと笑う一方、わたしは呆気に取られちゃう。

「こんな所で派手にやらかすほど、オレはバカじゃない。まぁ、それはそれで面白ぇかもしれねえけどよ……んなことをしたら、マスターにも被害が及ぶ。
 もちろん、嬢チャンが望むなら相手をしてやるが……どうするんだい?」

 その言葉に頷くことはできなかった。
 実際、こんな所で戦ったら目立っちゃうし、わたしたちのマスターにも被害が出るよ。
 何よりも、真乃さんのお仕事を台無しになんかしたくない。

「……わたしだって、今は戦いたくないよ」

 だから、わたしはスターカラーペンを懐にしまう。
 腑に落ちない点はあるけど、無意味に戦わなくてホッとしてるよ。

「互いにそれが懸命だな」
「ねえ、あなたはどうしてわたしの前に出てきたの? それにどうして、わたしのことに気付いたの?」
「ん〜〜? あえて言うなら、カンってヤツさ。オレ、人を見る目はあるんだぜ?」
「か、カン!?」
「そういうことだ。とりあえず、挨拶が終わったからオレはここらでさよならするけどよぉ……また、すぐに会えるかもな?
 あばよ!」

 その言葉を最後に、男の人は煙みたいに消えちゃう。
「待って!」とわたしは呼びかけるけど、返事はない。きっと、霊体化をしちゃったと思う。
 そうして、わたしは一人取り残される。あの男の人は嘘は言ってなさそうだけど、すぐに信用しちゃいけない。
 ここにサーヴァントがやってきた以上、真乃さんたちに何か起こっているかもしれなかった。

(真乃さん、無事でいてください! 今すぐ、戻りますから!)

 すぐに来た道を逆戻りする。
 建物で騒ぎは起きていないし、真乃さんたちの方も今は大丈夫かもしれないけど……不安で心がざわついちゃう。
 だから、真乃さんを守りたい一心で、わたしは全力で走った。


 ◆


 星野アイを守るサーヴァントとして、このオレ……殺島飛露鬼の仕事が始まるかと思った。
 けど、ここにいたサーヴァントはオレはもちろんアイよりも年下だ。若くして不運な最期を遂げた英霊なのか、または青春の真っ只中の姿で召喚されたのか? どっちでも構わないけどな。

(やっぱり、あのサーヴァントは嘘が苦手なタイプか。ま、その方がオレもやりやすいけどよ。
 見事なまでに目が泳いでいたねぇ)

 生前、オレは聖華天や組の連中から慕われて、神とまで崇められた男だ。
 そのおかげか、人より洞察力が優れている自信はある。だから、あの嬢チャンもサーヴァントって見抜けたのさ。
 根拠はある。まず、この時間はアイドル全員が仕事をしている最中だから、ただの子供(ガキ)が出歩ける訳がない。
 お仕事見学……それも、間違ってなさそうだが、その割に嬢チャンは手ぶらだ。加えて、嬢チャンがボディーガードと口を滑らせたおかげで、オレは確信を得たのさ。


 あの嬢チャンは、オレとアイの敵になるサーヴァントの一人ってな。


 鎌をかけて、少しずつ聞き出すつもりだったが、勝手に喋ってくれたおかげで助かったぜ。
 もっとも、こんな所で騒ぎを起こすつもりはない。アイの仕事を邪魔するつもりはねえし、何よりもあのサーヴァント自体が半端ものじゃなさそうだ。
 嬢チャンの眼は真っ直ぐに輝(ギラ)つき、いわゆる”正しい道”を歩いてきたことが一目でわかる。情けねー負け犬に成り下がったオレとは違う。
 それこそ、オレたち聖華天を潰した忍者どもを思い出させる眼だ。あと、ボスが好きなプリンセスシリーズ(確か、『スター☆ライトプリンセス』だったか?)に出てくるプリンセスと、なんか似てる気がするけどよ……一旦、それは置いておくか。
 彼女とマジで殺り合うことになったら、お互いにタダじゃ済まねえ。仮に頭打ち抜けたとしても、そこに辿り着くまでオレも相当のダメージを負うはずだ。
 最後の一騎打ちならまだしも、まだ敵が23組も残っている状況で喧嘩を吹っ掛けるのは利口じゃない。だから、今は挨拶程度に済ませたのさ。
 幸いにも、あの嬢チャンは積極的に戦いたがるサーヴァントじゃねえからな。

(あの嬢チャンが平和主義者なら、マスターも似たり寄ったりのはずだ。なら、上手くアイを守らせることもできるかもな)

 オレは忍者に負けた。
 この聖杯戦争にはどんな化物が潜んでいるかわからない以上、オレ一人の力ではいずれ限界が訪れる。なら、彼女を上手くアイの味方にできれば、アイを守れるはずだ。

(嬢チャンみたいなヤツは、オレはまだしも……アイのことなら信用するはずだ。なら、オレとも手を組まざるを得なくなる。
 これなら、アイも特に文句は言わねえだろ?)

 アイはオレが汚れ仕事をすることを望まねえし、オレもアイには汚れてほしくない。
 オレは大人になれなかったせいで、花奈を失った。オレと違って、アイはまだ大人になれる可能性を秘めているから、こんな痛みと悲しみを背負う必要なんかない。
 オレはもう二度と諦めるつもりはねえ。仮に、途中でオレが無様に負けようとも、あの嬢チャンならアイを守り抜こうとするはず。
 出会ってから、5分も経ってねえけどよ……それだけは確かだ。

(まぁ、その為には……すぐ近くにサーヴァントがいることを、我が愛しきマスターのアイに教えてやるべきだな。
 待っていろよ、アイ)

 嬢チャンの様子から察するに、マスターはそう遠くに離れていない。
 追跡すれば、二人まとめて見つけられるが、今はアイの元に戻りながらの報告が最優先だ。
 万が一、ということもあるからな。


 アイは嘘だらけの人生を過ごしてきた。
 それは紛れもない事実で、そんな生き方しかできなかったことをアイは悩んでいた。
 でも、その果てにアイは真実の気持ちに辿り着く。お腹を痛めて産んだ双子を愛し、また抱きしめたいという気持ちは本当だ。
 オレだって、産まれた花奈を抱き締めて、父親になれたと実感した時は、心から満たされたからな。あの感動や、花奈を抱き締めた時に流した暖かい涙は決して嘘じゃない。
 アイの願いを、そしてオレの思い出を嘘になどさせない。
 アイが輝き、そして幸せを取り戻せるなら……なんでもできるし、なんでもなれる。
 この気持ちは、オレにとって正真正銘の真実(マジ)だからな。


【目黒区・どこかの建物/1日目・午前中】


櫻木真乃@アイドルマスターシャイニーカラーズ】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:当面、生活できる程度の貯金はあり(アイドルとしての収入)
[思考・状況]
基本方針:ひかるちゃんと一緒に、アイドルとして頑張りたい。
1:今はアイさんと一緒にお仕事を頑張る。
2:アイさん、凄い人だな……


【アーチャー(星奈ひかる)@スター☆トゥインクルプリキュア】
[状態]:健康
[装備]:スターカラーペン(おうし座、おひつじ座、うお座)&スターカラーペンダント@スター☆トゥインクルプリキュア
[道具]:なし
[所持金]:約3千円(真乃からのおこづかい)
[思考・状況]
基本方針:真乃さんを守りながら、この聖杯戦争を止める方法を見つけたい。
1:今は急いで真乃さんの所に戻らないと!


星野アイ@【推しの子】】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:当面、生活できる程度の貯金はあり(アイドルとしての収入)
[思考・状況]
基本方針:子どもたちが待っている家に帰る。
1:今は真乃ちゃんと一緒に仕事を頑張る。
2:その後は二人でおでかけをする。


【ライダー(殺島飛露鬼)@忍者と極道】
[状態]:健康
[装備]:大型の回転式拳銃(二丁)&予備拳銃@忍者と極道
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:アイを帰るべき家に送り届けるため、聖杯戦争に勝ち残る。
1:まずはサーヴァント(ひかる)のことをアイに報告する。
2:サーヴァント(ひかる)と交渉して、アイを守らせる。


時系列順


投下順



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OP:SWEET HURT 櫻木真乃 015:かごめかごめ
アーチャー(星奈ひかる
星野アイ
ライダー(殺島飛露鬼

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最終更新:2021年08月10日 00:00