ぎゃあああああッ!!


そんな、年若い少年少女の断末魔が部屋に響く。
部屋の中は地獄の様相を呈していた。
ガムテープを巻いた三十人近い子供たちが、折り重なるように倒れている。
さっきまで命だったものが、今はもう物言わぬ骸となって転がっていた。
子供たちの中で生者はたった一人。
対外的にはだらだらと脂汗を流し、口をあんぐり開けて間抜けなさま。
その実、灼熱にして極寒の殺意で心中を満たして、彼は立っていた。


「ハ〜ハハハハママママ…安心しな。寿命を貰ったのはガキ共の中でも覇気の低い奴らだけさ。
命惜しさにお前を売る奴も出てきてるんだ。足元の掃除ってのは大事だろう!」


知っていた。分かっていた。
ライダーの餌やりを受け持つのは練度の低い…MP(マサクウ・ポイント)の低い者になるように命じたのは自分だ。
そして、マスター殺しの課題(クエスト)でも帰ってこなかったのは一様にMPの低い者ばかりだ。
だが、例え練度が低かろうと、新人だろうと、彼らはかけがえのない自分の仲間だった。
その仲間をライダーのババアは苛立ちの腹いせのために奪ったのだ。
人形の腹を殴る様な気軽さで。
腹を突くような怒りが、全身に満ちるのを感じる。
絶対にぶち殺す。必ず最悪の屈辱を味合わせて殺す。
その想いを心に強く強く刻みつけている間にも、耳障りなライダーの突き上げは続く。


「お前も分かってるはずだ、ガムテ。ああいうクソ生意気な小僧は生かしておけば勢いづいて厄介になる。賭けてもいいが、あのアサシンはあそこで消しておくべきだった!
そのおれの判断にお前は泥を塗ったんだ。代償があるのは覚悟の上だろう?」


俯きながら心中で幾度目になるか分かる舌打ちを漏らす。
このライダーの厄介な所は単に腕っぷし自慢のバカではない所だ。
お菓子を切らして中毒(ジャンキー)になっている時でも無ければこのように我儘な幼女が如き感情と共に、正論を押し出してくる。
先程宣った足元の掃除とやらも、一理もないわけでは無いのが業腹の極みだった。


「ライダーの言う通りだ…俺ってばあのアサシンの賢者(キレキレ)っぷりに日和(ぴえん)っちまった。ライダーを信じてやるべきだったよォ〜〜。だから、仲間の魂はオレなりの”ケジメ”だ」


ライダーが此処まで怒りを見せたのはこれで四度目。
自分たちグラスチルドレンに直接的な被害を出したのは三度目の時からだが、今回は輪をかけて酷い。
三度目は、お菓子を切らして狂化(ラリ)った時。
二度目は、白瀬咲耶のライダーに一矢報いられた時。
そして一度目は―――


「てわけでライダ〜〜…今俺の仲間で手に入れた魔力で…特攻(ブッコ)ンでみなァ〜〜〜い?
あの蜘蛛野郎ともう一勝負(バクチ)☆」


今は雌伏の時。殺意を隠し通す。一流の殺し屋は殺意すら殺すのだ。
そのまま変わらず道化の仮面を被り続けて、しかし大胆に。
ガムテは臆することなく勝負(バクチ)を切り出した。
ライダーの怒りを治めるため。
そして、これから行う賭けを成功させるため。
何より、散って言った、犯罪卿の謀略に散らされた同志(ダチ)たちに報いるために。






きっかけは、熱弁を振るい終えた解放者(リベレイター)だった。
己の暴れ馬の機嫌をどう宥めるか頭を捻らせていたガムテに、彼は意気揚々と語り掛けた。


「よぉガムテ。283じゃ何か厄介なイケメンにあったみたいだけど元気出せよ!
皆には俺から言っておいた。こう言っちゃなんだが、士気は高いままだぜ?」


成程確かに、さっきまで解放者がいた場所を見れば一度落ちかけた割れた子供達の熱量は再び上昇している様子だった。
自慢気に、新人であるにも関わらず親友の様な気安さで。
解放者は自分の所属する組織のトップへ己の功績を誇る。
ハッキリ言ってしまえば今はそれ所ではない心境ではあったけれど、ガムテは特段気分を害する事はなかった。
ニッコリ笑ってよくやった〜と適当に褒める。
だがそれでも解放者は尊敬するボスに認められたと思ったのか、胸を熱くした様子で。
もう少し話したいのだと言わんばかりに、問いかけを投げてきた。


「それでさ……283プロに行った時、市川雛菜や浅倉透には会えたりしたのかな〜…って」
「いんや〜〜生憎いたのはクソムカつく蜘蛛男(イケメン)が一人だ、け……」


―――『そして貴方達が到着するのに先んじて、ここの職員に働きかけ、会合の場を作らせた。
 白瀬咲耶同様、私による誘導だとは気づきもせずね』


バチン、と。
ガムテの脳内に、電流が流れた
見落とそうとしていた。解放者が尋ねなければその違和感に気づくことが無かった。
本当にほんの些細な違和感。
だけれど、彼が見落としそうになったとしても。
彼の仲間は彼の代わりに撃鉄を起こす。白刃を煌めかせる。
それが、優れた組織力を持つ割れた子供達の強みだった。


「――――――まて、今。何て言った?何でそう聞いた?教(おち)えろッッ」
「えっ!?い、いや…白瀬咲耶が死んだ日から、俺たちに感づいたアイドルがいないかSNSのアカウントをずっとチェックしてたんだけどさ…」


直感が告げていた。
今の台詞は聞き逃すべきではないと。
おかしいところがあったぞと。
解放者は突然語気が強くなった自分に驚いているようだが、今は気にしていられない。
にじり寄り、問い詰める。
途中から偶像(ドル)に詳しい偶像崇拝(アイドル)も呼んで、更に情報を精査していく。
すると、不可解な点がいくつも浮かび上がって来た。
最初は戸惑った様子を見せた解放者も、情報を整理する事によって仄かに輪郭を帯びた事実に落ち着きを取り戻していく。


「……なぁガムテ……もしかしてこれって」
「あぁ、本当によくやったよォ〜〜解放者(リベレイター…)。花丸大正解(ジャックポット)かもな〜」
「で、でもいいのか?俺が見たその投稿はもう消されてるし、今となっては証拠は無いんだぞ?」
「いや、信じるさ。そのきっかけだけで値千金(ファインプレー)だ。よくやった☆
俺一人だと見逃す所だったしな〜〜〜」


既におかしい点はいくつも浮上している。
だが、何のために?という謎解きのWhyの部分が決定的に欠落していた。
そして、あの犯罪卿の思考を読み取るのは不可能に近いのはガムテも理解している。
奴の狙いは幾つか思い当たるが、あの毒蜘蛛がそう推理する様に仕向けたのかもしれない。
だが、ガムテにはそのWhyの部分を白黒付けるためのカードが手元にある。
ガムテとしても、まさかこの局面で使うことになるとは思っていなかった、余り切りたくない鬼札。
これから自分が行うのは、間違いなく賭けだ。
勝っても負けてもライダーの首は遠ざかり、負けた時に支払う代償はいうに及ばず。
もしかしたらこの思考すら、犯罪卿に誘導されたものかもしれない状況なのだ。
だが、勝てばリターンも大きい。あの犯罪卿の化けの皮をはがせる可能性だってある。
ならば……ガムテは躊躇わない。
あの犯罪卿も分の悪い賭けに青天井(ベット)し、そして自分に勝利したのだから。
ならば、此方もリスクを背負うことを躊躇うわけには行かない。
ここで臆するようなら犯罪卿やライダーはおろか、輝村極道の首など夢のまた夢だ。


ふと視線をずらすと、今まで沈黙していた舞踏鳥と視線が交わる。
彼女は何も言わなかったが、ガムテにとっても言葉など要らなかった。
王の隣を歩くものとは、そう言うものだからだ。


「よォ〜〜しッ!行くかァ〜第二局目(ラウンド)」


パズルのピースは今組みあがった。
次に冷や汗をかくことになるのは奴の方だ。





「ふむ。確かにこれは便利ですわね、使い方のご教授ありがとうございましたわ。黄金球さん」
「当然(イイ)ってことよォ〜、スマホ一つで黄金時代(ノスタルジア)が喜ぶなら安いモンだ」


割れた子供達に紹介されてから一時間程後。
黄金時代こと北条沙都子は黄金球から与えられたスマートフォンを満億気に操作していた。
与えられた理由は一つ、沙都子が黄金球に強請ったからである。
これから仲間として連携を取っていくうえで必要になるが、自分は生憎持っておらず、また田舎の出身のため使い方にも疎いと説明すれば、直ぐに彼らは新品のスマートフォンを用意してきた。
合法の契約ではないようだが、名義は借金のカタに名義を売った無関係の債務者のなので足はつかないらしい。
そして、黄金球は懇切丁寧に使い慣れていない沙都子のためにメールや地図アプリ、ニュースサイトの閲覧方法、そしてSNSの使い方まで熱心に教えてきた。
まさに至れり尽くせりの待遇だ。


(車は当分空を飛ぶ予定はなさそうですが、情報通信の飛躍は目覚ましいものがありますわね)


インターネットと地図アプリを併用すれば、態々住所を調べて紙の地図とにらめっこしなくとも目的に辿り着けるし、そこまでの正確な距離さえわかる。
ニュースサイトを開けば、狙った情報が三秒かからず手に入る。
トラップマスターの見地から言えば、これだけで戦略の幅が大きく広がるという物だ。
沙都子は既にスマートフォンの扱い方を理解しつつあった。


「オッ、見ろよ黄金時代。今日ガムテがいった事務所、活動休止だって。派手に暴れたんだろうな〜」
「それで戦果が上がっていないなら子供の駄々と変わりありませんわよ」


己のリーダーの所業を誇るように、ニュースサイトを開いたディスプレイを向けてくる黄金球の発言を、バッサリと切り捨てた。
成程、さっき言っていた握手会だの。蜘蛛男だのとはこれにまつわる事か。
しかし、してやられたのかは知らないが、ただ暴れてすごすごと帰ってくるだけとは。
ニュースの内容を見れば、被害にあったのは家具とか壁だけで、人的被害は何もないと言う。
どうせならマスターでなくとも数人アイドルを殺してくれるだけで此方の心象は今よりも上がったものだが。


「それで貴方達のリーダーさんはいつ戻ってくるんですの?もう一時間ですわよ?
レディを待たせるなんてエスコートの仕方は落第点ですわね」
「えっ、い、いやー…さっき話が纏まったってチェインがきたから、そう言わないでやってくれよ」


にべもない沙都子の言葉にがっくりと項垂れる黄金球。
それを見て薬と笑みが漏れる。
不思議と悪い気はしなかった。
一目置いた視線を向けてくる周囲の子供達も、辛辣に扱われても面倒見がいい黄金球も。
懐かしくて、くすぐったくて、遠く離れてしまった過去とこれから来るべき未来での沙都子の居場所を思わせる何かを有していた。
彼らが可能性のない虚構の存在だなんて、俄かには信じがたい程に。
界聖杯は、残酷な人形師ですわね、とそのたびに沙都子は思った。


「よっ!待望(おっま)た〜〜!」


その直後。
その少年は、割れた子供たちのリーダーは、瞬間移動でもしたのかと錯覚するほど気配を悟らせず。
相も変わらずお道化た様子で沙都子の背後に立っていた。



「遅い帰りでしたわね。ま、便利な物もいただけましたし、それについては目をつぶりましょう。
……で、ゲストを待たせるだけの何かがあったんですの?」
「無論(モチ)。んじゃこれからの事を話すついでにライダーの面通しもやっから着いてきてくれ」


そう言って、ガムテは廊下を先行し、くいくいと遺った方の腕で手招きしてくる。
相変わらず何を考えているか分からない男だと思いながら、沙都子はその後を追った。
黄金球の話ではライダーは最上階にいるらしいから、そこへ連れられて行くのだろう。
だが、彼女のそんな予想は早々に裏切られる事となる。


「んじゃ、俺の後に入ってきてね〜〜」
「いや、ついてこいと言われましても……」


ガムテが先行した先は何故か玄関の方ではなく、大きなジャグジー付きの浴室の方だった。
一体何を考えているんだという目で見つめても、ガムテという少年の様子は相変わらずヘラヘラしている唯のバカにしか見えない。
もしや、危ない薬を使っているという話だったし、本当に薬の効果で頭をやられてしまったのか?
そんな考えを巡らせている内に―――ガムテの身体は浴室の前方、鏡がある方へと進み出た。


「な……!」


これにはオヤシロ様の代行者。新たなる魔女となった身の上の沙都子も驚愕を隠し切れなかった。
何故なら、ガムテの姿が鏡の中へと吸い込まれて消えたのだから。
鏡の中へと入るなど、まるで童話の世界の話だ。


「お〜〜い。黄金時代(ノスタルジア)躊躇(ビビ)って無いででさっさとカモ〜ン!」


俄かには信じがたい光景だったが、鏡の中からガムテの声が聞こえてくれば最早疑いようもない。
ついて来い、と言うぐらいだから自分も入れるのだろう…余り気は進まないが。
意を決して、鏡へと手を伸ばす。
すると、ずぷんと沈み込むように指先が沈み込んだ。


「早く行きなさい……私たちは、入れないんだから」
「え!ちょっ!ちょっと待って―――!」


恐る恐ると言った様子の沙都子の背後から、平坦な声がかけられる。
振り返って見てみれば、殺気ガムテの隣にいた少女…舞踏鳥が険しい顔で立っていた。
まるで、羨むように。そして、妬むように。
次瞬、ドンと背中を押されて、鏡の方へとバランスを崩す。
そして、そのまま鏡の中へと吸い込まれていった。




「ヤッホー。黄金時代(ノスタルジア)。ま、座れよ」


なんともメルヘンチックな鏡の世界で待っていたのは、テーブルを前にして椅子に腰かけるガムテープを巻いた子供と、夥しい数の鏡だった。
なんともミスマッチな景色ですわね。そんな事を考えながら、彼女も用意された椅子に腰をかける。


「よォ〜し。そんじゃ、悪事(ワル)さかます相談しよっか☆」


バサリと、目の前のテーブルにプリントアウトされたと思しき紙の山が広げられる。


「何ですの、これ……?」
「イ〜から。ま、読んでみ」


試しに一番上の紙を一枚手に取って見てみれば、そこに載っていたのはさっき黄金球が教えてくれたSNSの投稿の画像だった。


今日のおやつ
【#ノクチル】
【#市川雛菜】
【#ノクチル】


そんなハッシュタグと共に、二つのアイスとどこかの事務所の窓が映された写真。
ノクチル、というワードに心中で「げ」と吐き捨てながら、これが何なのかと尋ねた。


「それなァ〜〜このガムテ様が今日の午後行ってきた偶像事務所(ドルムショ)の偶像のトーコーを復元した奴。
でも肝心の偶像(ドル)共は一人もいなかった。いたのはクソムカつく美男子(イケメン)が一人」
「………件の蜘蛛男さんですの?でも、それとこの写真が何の関係があるのでございましょう。
様は貴方が来るのを察知されて、一足早く避難させられた。というだけの事では?」
「ン〜〜そうなんだよなァ。これを聞いた時、俺も最初はそう思った。でも、奴は俺を準備して待ち構えてたって言ったンだよ」
「会話の主導権を握るための嘘(ブラフ)でしょう」
「凡夫(モブ)ならな。でも、奴みてーな真実(ガチ)悪魔が裏を取られれば即嘘だと分かる嘘を吐いたこと、それそのものが俺には不可解(イミフ)だったんだよなァ〜」


予選の段階から待ち構えていたと言うなら、今日の午前中まで普通に事務所が稼働していたのは明らかに妙だ。
事務所を唐突に締める事が不自然にならないよう午後に来るのを見越した采配だったのかもしれないが、それにしてはニュースが流れるタイミングがおかしい。
午後から来てほしいならばニュースを流すタイミングとしては昼頃だろう。
朝に流れれば、まだアイドルがいる午前中に行こうと考える主従が出てもおかしくない。
というより、他ならぬ自分たちがそうだった。
とは言え、ライダーが甘党である事すら把握していた相手だ。
自分たちが寄り道する可能性も見越しての采配だった可能性は十分にある。
しかし、それなら今度は情報を発信した媒体がおかしい。
自分とライダーを誘い込みたかったのなら、もっと直接的なメールなどのメッセージを選ぶはずだ。
ニュースやSNSでは情報が無作為に広がり過ぎる、他の好戦的な主従が目にしても不思議ではない。
その結果事務所で鉢合わせ――自分たちに釘を刺す暇もなく乱戦に発展した可能性だってあった。
それに気づいた時、ガムテの中で疑惑の種が萌芽した。
そして調査をしてみると、おかしな点は他にも見つかった。




次にガムテが見せたのはペットショップのホームぺ-ジと、もぬけの殻になった思わしき件の店舗の写真だった。
特段、ホームページの方は変わった様子はない。
八月の定休日のお知らせ、というページだけ分かるのはで今日は営業日だったという事ぐらいだ。
だが、店員はおろかペットすらいなくなり、休業どころか廃業の様相を呈していた写真と組み合わせると沙都子も微かに違和感を抱く。


「この写真、今日撮った物ですわよね」
「そ、つーかさっき撮ってきた」
「私はこういった事に疎いのですけど…これだけ店舗が空っぽなのに、お休みの連絡とか致しませんの?今日急にお休みしたみたいですし、この様子だと、一日二日のお休みではすみませんでしょう」
「正解(ピンポーン)。ここでまた、奴が言ってた『ずぅっと準備して待ち構えてた』って台詞が怪しくなる」


もし準備していた状態で待ち構えていたと言うなら、既に休業の知らせが通知されているだろう。
ホームページをよく見てみれば最終更新日は三日前。
毎日とは言わずとも頻繁な情報発信を行っている店舗なら猶更である。


「で、畜生小屋(ペットショップ)でこれなら偶像(ドル)共の予定はどうだったんだ?って調べてみたのがコレッ」
「焦らなくても目を通しますから…押し付けないでくださいまし……!」


矢継ぎ早に用意した資料を突き出してくるガムテに少々苛立ちを覚えながら、新しい資料に目を通す。
そこに記されていたのはここ一か月の283プロダクションに所属しているアイドルのスケジュールだった。
一月前までは特に違和感を抱く場面はない。だが、3週間程前から沙都子の目から見ても違和感を抱くスケジュールとなっていた。


「……なんですのこれ?日付が今日に近づくにつれて遠方のお仕事が増えたり休止になっていたり…
あ、ガムテさんが来るのを見越して此処を空っぽにする準備とか?」
「いや、それは皆無(アリエ)ねぇ。俺がこの偶像事務所に来るとしたら今日しかなかった。
なのにあの暗殺者(イケメン)は態々一週間先まで事務所を空っぽにしようとしてるってコト」


聖杯戦争が本格化すれば白瀬咲耶の敗退の黒幕だったと言われても「今更予選の脱落者の事がどうだと言うんだ」という反応しか帰ってこないだろう。
一番予選敗退者に注目が集まるタイミングは現在である。
そのために自分たちに挑発行為を行うなら今日をおいてほかになかった。
しかし、それにしては今日でお役御免のはずの事務所を空ける期間が長すぎるのだ。


白瀬咲耶の一件をほぼ知らない沙都子の視点から見ても違和感の出る事務所の動き。
下手人であり、あのアサシンと邂逅したガムテには輪をかけて怪しいものに映った。
沙都子の指摘の通り、『聖杯戦争の開幕に合わせたように』遠方の仕事やロケが入っているアイドル。
白瀬咲耶の失踪の影響が無いはずの時期から、何故か活動を休止しているアイドル。
ユニットで活動しているはずのに、何故かほぼソロアイドルと化しているアイドル。
白瀬咲耶の事件の影響を受けざるを得ないアンティーカのメンバーは置いておくとしてだ。
都心のアイドル事務所なのにも関わらず、今後都心での仕事の予定が入っているのが櫻木真乃一人と言うのは奇妙な話だった。
有識者である偶像崇拝(アイドル)から聞いた話だが、この事務所のアイドル達は都心近辺での活動が主だったと裏はとっている。
結果見え隠れするのは、アイドル達を事務所から遠ざけようとしているかのような何者かの意図だった。
そしてその何者かとは十中八九、この状況を作り出したのはあのアサシンだろう。
だが、何のために?単に今日のための人払いというなら、そもそも283プロではなくもっとイニシアチブが握れてリスクの少ない場所をあの男なら用意できたはずだ。
態々姿を曝し、実力が上の相手に喧嘩を売って得た物が空っぽの矮小(チャチ)い事務所では割に合わない。
白瀬咲耶と何らかの契約を結んだ可能性もあるが、捨て馬にしたと豪語するあの犯罪卿がそこまで便宜を取り計らう物なのか?



「直ぐに思い浮かぶのは…リスクと手間を賭けててでも蜘蛛さんが手放したくない何かがが此処(283プロ)にはある。
もしくは、純粋に此処にいる方々を逃がす事そのものが目的だった…とか?
―――ただ、もし本当にその蜘蛛さんが全て手を引いていたらの話ではございますけど。。
これだけだと嘘(ブラフ)の可能性や偶然が重なった結果であり、蜘蛛さんはその偶然に乗っただけと言う可能性も否めない気がしますわ」


もしかしたら、ペットショップは急な休業の対応で更新が遅れているだけかもしれない。
もしかしたら、偶然283プロが遠方の仕事に力を入れ始めた時期に聖杯戦争が始まったのかもしれない。
加えて、疑いの種となったSNSでの投稿も、仲間がいなくなった日にそもそもこんな情報を発信するか?と沙都子は尋ねた。


「まァ〜そこは情報が発信されたタイミングでできた誤差(バグ)か…白瀬咲耶(ブス)の事知ってたとしても信者(ファン)に対する配慮って奴だろうなァ〜〜偶像崇拝から聞いた話じゃ他の事務所でもヒストリーカッスだかの偶像(ドル)消えたらしィけど、他のメンバーは絶賛平常運転らしいぜ〜」


―――全てが元に戻った時に、戻ってきた人間が安心できるように、でございますか。
ガムテの話を聞きながら、沙都子はそんな事を考えた。
彼女も心当たりがあるからだ。
いなくなった兄・北条悟志の部屋を、いなくなった当時のまま守り抜こうとした過去。
まだ無力な少女だった頃。どれだけ叔父が怖くても、その一点だけは彼女は譲らなかった。
もしかしたら、この少女も全て理解(ワカ)っていた上で『いつも通り』を演じようとしたのかもしれない。
もっともこの数時間後のガムテの襲来でそんな願いは残酷な形で裏切られ、疑心の種を生んでしまった訳だが。


「とは言え、俺も偶然(ラッキー)って可能性が皆無(アリエ)ねぇと思ったわけじゃない。
………これを見るまではな〜」


バサリと広げられる紙束。
社員の一人と思わしき人間の休職届及び転居届や、メールでのやりとりだった。
順繰りに目を通していくが、これ自体に違和感は感じない。
むしろスタッフの一人が休暇を取ったなのなら、一部のアイドルが活動休止するのも辻褄が合うような気さえする。


「あッ!黄金時代(ノスタルジア)ここにはおかしい所は無いって思っただろォ〜?」
「――いいからさっさとこんな資料を用意した内訳を教えてくださいまし」
「チェ〜黄金時代ノリ悪〜ィ、そんなんじゃ悲哀(ピエン)だぜッ
まぁいいや、話し戻すとォ〜この事務所、偶像(ドル)は20人以上いるのに働いてるのは三人だけなンだわ。んで、そのうちの一人で唯一の社員が休業(リタイア)したんだと」
「……は?ちょ、ちょっと待ってくださいまし。私こういったお仕事について無知ですが
それでやっていけるものなんですの!?」
「フッツ〜に考えたら非実在(アリエネ)ェわな。でも実際何故か何とかなってる。なり過ぎてる」


本来なら唯一の実働部隊である職員が欠けた時点で事務所はあっという間に立ちいかなくなるだろう。
そこで事務所も対応し、臨時職員の雇用や休業届を出したはずの職員が直ぐに在宅勤務を申し出ているが……一言で言えば、対応が完璧すぎた。


「首(プロデューサー)が吹っ飛んでンのに一つも支障(アクシンデンツ)も起きず、予選の期間悠長に遺書(ポエム)書いて救急車呼んでベッドの上で大往生しようとしてンだ。色々おかしすぎンだろ〜が」
「成程…そしてそんな真似ができるのは件の蜘蛛さんを置いて他にいない、と。
態々、一月も労力と時間をかけて面倒を見るなんて…もっとやるべきことがあるでしょうに。
余程喪いたくない物があるのでございましょうね」


くすくすと、悪い笑みを浮かべる沙都子。
ここまで材料が揃えば最早この事務所に蜘蛛が手放したくない何かがあるのは疑うべくもない。
しかし一時間ほどでよく此処まで調べられた物だと目の前の少年の手腕を称賛しながら、同時に警戒を覚えずにはいられなかった。


「ま、それについてはこの枝婆がいなけりゃ無理だったろ〜な」


ガムテの隣に無言で佇む、鏡を持った枝の様な老婆。
彼がパチンと指を鳴らすと、周囲にあった無数の鏡の内の一つが映していた景色が切り替わった。
映し出された先の景色は、沙都子も見覚えのある事務所…283プロダクションだった。


「鏡世界(ミラミラ・ワールド)使えば事務所まで直通(ダイレクト)だ。警察(サツ)が居ても俺なら余裕で忍び込める。ンで虚無(シャバ)い仕事用PCの一つでも強奪(ガメ)れば―――」


―――後はライダーの能力で幾らでも情報を引き出せる。
そう言ってテーブルの下から取り出される機械端末。
それを見て、沙都子は再び驚愕を隠しきれなかった。
ソレは形状から察するに、自分の持つスマートフォンと似たような用途の物だろう。
だが、決定的に違う点が一つ。
顔が、付いていた。


『ママー!』
「はいシャラ〜ップ!悪いけどこっちは最重要機密(トップシークレット)だッ」
「あら、つれないですわね。私やっぱり信用されていませんの?」
「じゃあ黄金時代のサーヴァントの能力の情報と交換(トレード)でいいぜ〜?」
「言ってみただけですわ。話を続けましょう」


今しがた見せたのが、ビッグマム…本名シャーロット・リンリンの権能。
物質に奪った魂を与えるソルソルの実の能力である。
魂を与えられた『ホーミーズ』はビッグマムの命令に逆らう事ができない。
PCをホーミーズ化すればパスワードを設定していようと、暗号化していようと、ビッグマムが「見せろ」と一言言えば勝手に解除して開示せざる得ないのだ。
その能力を以て、外の人間では知り得ない情報の数々を抜き取ったのである。

そして、もう一つの能力、ビッグマムの実子であるシャーロット・ブリュレの能力こそ、今回ガムテが挑んだ賭けの中核を成す能力であった。
鏡を通した諜報と、鏡面世界という目立ちすぎるライダーを収容する異界の獲得。
その能力を持つ彼女を呼び出すために解禁したのが、ライダーの第三宝具である。
この宝具の事を知ったのはライダーを召喚した当初の事だ。
ライダーの統治していた国と彼女が生んだ子供達を呼び出す宝具だと、彼女は得意げに語った。
その際ガムテは彼女の息子や娘にどんな能力者がいるのかも聞き出していた。
ライダーはああ見えて用心深く、自分の能力については中々語ろうとしなかったが、息子や娘の能力については饒舌に語ってくれた。
その中でもガムテが最も関心を惹かれたのがミラミラの実という能力だ。
鏡に映した相手の姿の投射や、鏡を通した諜報と移動、そこに彼は目を付けた。


目を付けたが―――この時はあえて発動できない風に振舞った。
当然ライダーは機嫌を損ね、その時は使えないマスターだとなじられた。
思えば、ライダーを召喚してからあれが最初の癇癪だっただろう。
駄菓子で満足していたライダーに高級菓子を納めるきっかけの事件であり、アレによりライダーを養うための資金が莫大なものとなってしまった。

だが、ライダーの機嫌を損ねててでもガムテにとってこのカードは温存…否、封印しておきたかった手札だ。
何故ならこの手札はガムテにとってリスクの大きい宝具だったからである。
まず、単純にこの宝具は燃費が悪いのだ。そもそも気軽に切れるカードでは断じて無い。
全力展開を行うならば、令呪の使用が不可欠となる。
だがライダーという暴れ馬を抑えるための、緊急時の制御装置を易々と手放す気にはなれなかった。
そのため、予選の段階では使用不可能だったというのも半分は嘘ではないし、ライダーの追求を受ける際もこれを理由にやり過ごすつもりだ。
この宝具がマスターへの負担が大きいのはライダーもまた承知しているのだから。

そして、この宝具が抱えるリスク。そのもう一点。
ライダーに忠実な部下を呼び出して仕舞えば、自分がライダーに叛意を抱いていることがバレる危険性があるためだ。
今の所ライダーが此方の最終目標に気づく様子はない。
だが、ライダー以外の大勢の部下も呼び出してしまえば感づかれるリスクは上がる。
感づかれなくとも、部下の戦力によってライダーの消耗が減れば必然的にその首も遠ざかってしまう。
その上、此方は莫大な魔力消費で消耗を強いられるオマケ付きだ。
それを考えれば、必要に迫られなければ余り切りたくない手札なのは間違いなかった。
ガムテの最終目標は優勝だけでなく、ライダーをぶっ殺す事に他ならないのだから。


以上の理由から敬遠していた第三宝具の解禁だが、犯罪卿との邂逅によってそれも叶わなくなった。
情報戦において、自分たちは大きく遅れを取っている事を自覚させられてしまったからだ。
その遅れを埋めるために、第三宝具の解禁に彼は踏み切ったのである。
想定通り、使い魔であるブリュレ一人呼び出すために発動した一瞬の展開でもかなりの魔力を持っていかれた。
今までのお菓子の接種によって得た魔力と、仲間(ダチ)の魂を代償にした魔力が全て消費されてしまったのだ。
だが一度ミラミラの実で作り出した異界…鏡面世界を作ってそこに収容して仕舞えば、後は固有結界を現実世界に発動し続けなくともよい。
直接のスペックは低いブリュレ一人の維持なら、消耗は抑えられる。
魔力消費は当然増えるが、ライダーにお菓子を食べさせ続ければ自己補完の範疇だ。
そして、それは奇しくも、ライダーと同じ四皇・百獣のカイドウが取った手段と同一の物であった。


ただ誤算だったのは、苦労して手に入れたミラミラの実の能力の制約が想定以上だったこと。
まず、前提としてマクロな探知にはこのミラミラの実の能力は向いていない。
この東京には鏡が多すぎる。反射物も含めれば途方もない数に及ぶ。
それを一枚一枚除いていたらマスターを全員を補足する頃には数か月は経っているだろう。
となれば、ある程度ポイントを定めて決め撃ちするほかない。
ミクロな情報の傍受には絶大な効果を発揮するが、あの犯罪卿の様な0から1の情報を得るには不得手な能力だった。


加えて、鏡面世界は現状NPCには不可侵領域だったこと。
もし侵入可能であればすぐさま割れた子供達全員を安全な鏡面世界内に収容し、万全の監視体制と、補足したマスターの拠点の反射物から強襲作戦が可能となっていた。
だが、舞踏鳥や他のメンバーで試してみたが、やはり鏡面世界へ足を踏み入れるのは不可能だった。
リスクを避けるためにブリュレの意思を?奪した完全な使い魔での召喚だったためか、
或いはそれを認めてしまうと著しくバランスを欠くと界聖杯が判断したためか。
それとも―――やはり彼らが『可能性無き者』だからか。


「っとによォ〜ッ!苦労して呼び出したのに使えねーなこの枝婆!!枝ッ!枝ッ!枝ッ!」
「その方に当たっていないで、そろそろ本題に入りましょう」


突然不機嫌になり、意識があったら激怒しそうなことを言いながら鏡の使い魔を蹴る少年を諌める。
何はともあれ、ここまで材料が揃えば件の事務所に何かがあるのは間違いない。
そして、その鍵を握っている人物も都内に現在その身柄がある人物に限られる。
そこまで絞る事ができればこの割れた子供達(グラス・チルドレン)のマンパワーがあれば存分に叩く事ができるだろうと沙都子は踏んだ。
しかし、ガムテは首を横に振った。


「ン〜〜今は特攻寄りの監視(アリよりのナ〜シ)!!」
「あら、随分と弱腰ですわね。このままその蜘蛛さんが毒糸を張り巡らせるのを指を咥えて待つと?」


沙都子は直接犯罪卿を見たわけでは無い。伝聞でそう言った厄介なサーヴァントがいると聞いただけだ。
加えて、察知能力が高い主従の多くに既に割れた子供たちが補足されていることも余り把握していない。
そのため、犯罪卿が割れた子供たちの情報を横流しする前に叩くべきは今であると主張した。
後ろ盾がない孤軍である沙都子にとっても割れた子供たちの組織力や鏡面世界の諜報力は喪うには惜しい戦力だからだ。
同時に、いずれ対決するときには消耗しておいてほしい存在でもある。
その為の主張だったし、ある意味ではガムテ側からしても的を射ている意見でもあった。
だが、この発言を彼女を十秒後に後悔する事となる。


「ハ〜ハハハハママママ……全くその通り!ウチのマスターはどうにも弱腰でいけねぇ。
おれはお前の意見を全面的に支持するぜ!傘下に入るのも認めてやろうじゃねぇか…!」


空間が、急激に膨張する。
ぞく、と。
沙都子の背筋に冷たいものが走った。
さっと顔が青ざめていく。手が震えそうになる。
この感覚には覚えがあった。と言うより、数時間前に体験したばかりだ。
この、魂を震わせるような感覚は―――


「―――が、ウチは働かざる者食うべからずだ!入る前に仕事を一つしてもらう!
なァに…難しい事じゃねぇから安心しな!ママママママ……」


ドン!!!と。
満を持した様に、その女は姿を現した。
巨人と見間違う体躯―――数時間前に会ったライダーと比べてなお大きい。
その暴食を現す様なだらしない体型であったが、体内に満ちる覇気は暴力的なほど。
あの鬼のライダーと並ぶ圧倒的な威圧感を以て―――四皇、シャーロット・リンリンは姿を現した。


「な……――、ッ」


何だこれは、今回の聖杯戦争で召喚されたサーヴァントはこんなのばかりなのか?
だとしたら自分はとんでもない外れくじを引いたのでは?
圧倒的な不公平感と畏怖の感情に晒され、思わず声が上擦る。
魔女ではない北条沙都子の残滓が思わず見えてしまったが、奇しくもこの時彼女が取るべき反応としては完璧(パーフェクト)な物だった。

もし魔女として余裕綽々の顔で目前のライダーと出会っていれば―――彼女は既にこの世にいないだろう。

助け舟を求める様に、ガムテの方を向く。
そして、その時彼女はやられた、と悟った。
彼の表情はいつも通りのアホ面だったからだ。
勝手に話を進めようとするライダーにもまるで慌てていない。
つまり、最初からこうなるように示し合わせていたのだ。
自分の口から強硬な言質を引き出すのが目的だったのだろう。


「理解(ワカ)ってるぜ黄金時代(ノスタルジア)ァ〜俺もト〜ゼンこのまま済ますつもりは皆無(ネ)ーって」


今ガムテが最も避けたいのは「そうか!283プロの関係者が怪しいから攻撃するぞ!」と勇み足になった結果それが囮であり罠だった場合だ。
都内に残っている283プロの関係者……その家族も含めて特攻(カチコ)むとなれば大規模な動きにならざる得ない。
そしてそれが罠であればいよいよ他の主従から袋叩きを受けてもおかしくない。
白瀬咲耶を当て馬にしたという犯罪卿の言葉を素直になぞれば、それが最も可能性の高い奴の狙いだとしてもおかしくないのだから。
故に割れた子供達(グラス・チルドレン)は動かせない。動かせたとしても少数だ。
偶像(ドル)達の攻撃もできない。蜘蛛の毒は、今もしっかりとその効果を発揮している。
だが―――、


「いるんだよなァ〜一人だけ、偶像事務所(ドルムショ)から距離取って
なおかつ数日程度の失踪(ドロン)じゃ騒がれそうにない奴が……」


ガムテが指を鳴らす。
すると、彼の背後の鏡が映す景色が切り替わった。
切り替わった景色が照らすのは、アパートの一室。
そこで神妙な顔をしてじっとスマートフォンを握りしめる少しやつれた成人男性。
その手には、ガムテや沙都子に刻まれた物と同じ物が刻まれていた。


「それじゃ開戦(ハジメ)っか!Pたん捕獲作戦☆」





この作戦の主目的は犯罪卿、ウィリアム・ジェームス・モリアーティの正体を見極める事。
即ち、本当に白瀬咲耶を当て馬にし、283プロを隠れ蓑にした非情の悪魔なのか。
それとも、283プロを甲斐甲斐しく守護しようとして弱点を晒してしまった張り子の虎か。
283プロの関係者…その中で最も交流が広かったであろうプロデューサーの身柄を抑える事でそれは図る事ができる。


もし割れた子供達への追求が弱まれば後者、そうでなければ前者となる。
自分たちを追い詰めるという事は、共にいるプロデューサーも巻き添えで窮地に追いやるのと同義なのだから。
もし前者の場合であってもマスターであることは確定しているため空振りはない。
あの男がアサシンのマスターであるなら、マスターさえ押さえてしまえば後は煮るなり焼くなり好きにできる。
違うサーヴァントを従えていれば、あの男が使役しているサーヴァントが持ち駒として手に入るのだ。
しかも、成人男性。
それも休職中で社会との繋がりを絶っている者など失踪したところでニュースにもなりはしない。
有名人でもない大の男が一人、数日消えた所で誰も気にしないからだ。
他の主従にも感づかれるリスクは少ない。
複数の名が売れたアイドル達に手を出すより余程安全と言える。
無論それでも他の勘の鋭いマスターには察知される恐れもあるが―――マスターであることが既に確定している以上、勝負に出る価値はあるとガムテは判断した。
だが、万全には万全を期す。
ベストなのは、割れた子供達の仕業ではないと思わせる事。
北条沙都子のサーヴァントを使うのもその一環だ。ライダーは何しろ目立ちすぎる。
そして、作戦に投入する割れた子供達もごく少数…実働部隊は今回たった一人だ。


「なぁ……礼奈(レナ)ホントに一人で大丈夫か?向こうにゃサーヴァントだっているんだぞ?」
「大丈夫だよ解放者(リベレイター)。そのために黄金時代(ノスタルジア)ちゃんが協力してくれるんだもん。ぞろぞろ行って私達の仕業ってバレたらこの作戦の意味がなくなっちゃう」


白のロングスカートの下に取り付けられたホルスターに、トレードマークの獲物である鉈を刺す。
黒の指抜きグローブと無骨なブーツを履いて、正に準備は万端と言った様子で。
「準備できたよ」と。
茶髪の少女―――割れた子供達が一人、礼奈(レナ)はガムテに語り掛けた。
これから向かう場所はまず間違いなく、苛烈な戦闘が予想される。
にも拘らず、少女の様子は穏やかだった。


「そうだぜ〜礼奈(レナ)。ゼッテ〜露見(バレ)んなよッ!支援(アシスト)はしてやれね〜ケド☆」
「うん、分かってる。必ず成功させてくるから」


今回の作戦で選ばれた礼奈(レナ)という少女は、ガムテからすれば見たことのない顔だった。
だが、一目見て確信した。こいつは、玉石であれば玉の方に当たると。
それ故に、この重要作戦に投入する事を決め、礼奈の方もそれを快く受け入れた。


「ガムテ君の夢は、私達の夢だもん…少なくとも私はそう思ってる。その為なら命だって賭けられるし、誰だってブッ殺せる」

情報によると、礼奈と言う少女の人生は、悲惨極まる物だった。
両親が幼い頃に離婚し、父に引き取られ。
その父が美人局に引っかかった事で財産の全てがむしり取られそうになった。
そうして彼女は家を護るために…その手を汚した。
美人局の相手と、脅しをかけてきた金髪の男性を不意を突いて惨殺したのだ。
だが、警察に感づかれ―――暫くの間、貯金の幾らかを引き出し別の場所に身を隠す事とした。
そして、その先で知る事となる。
生まれ故郷が、大災害で滅んだことを。
帰った時には全てが後の祭りで。
あれだけ護ろうとしていた父も死に、家庭も無くなってしまった。
その時の身を引き裂かれる様な悲しみは今でも克明に覚えている。
覚えているのに、自分の心には消せない罪と割れた傷があるのに――――
それすらも、否定された。
偽物だと。聖杯が用意した作り話に過ぎないと断じられたのだ。
そして、自分たちの存在が、あと一か月程であることも。


「この身体も、思い出も―――全部が嘘だって思い知らされて、未来はないんだぞって言われて。
それでも生まれちゃったから、仕方なく最期の時まで生きるなんて…私には耐えられない。
それなら、疾走(はし)って、夢見て死にたい。私が死んじゃっても、ガムテ君が勝ってくれれば私はガムテ君の中で生きられる。この狭い世界から―――自由になれる。そうでしょう?」


私達はきっと、これからも塵のように死んでいく。
私達には此処しかないし、何処にも行けないけれど。
貴方の中に還る事ができたなら。きっと、何処へだって行ける。


「了解(おけぴ)。分かってるぜ〜〜礼奈(レナ)んで、作戦のためなんだどさァ……」


そんな礼奈(レナ)達の想いに、相も変わらずお道化た調子で王は応えて、
ごにょごにょと礼奈に耳打ちをする。
その内容を把握した途端、花が咲いたように礼奈の顔は輝いた。


「え〜〜!!なりたいなりたいなりたーい!!本当に誰でもなれるの?」
「勿論(モチ)」
「え、えっとね!じゃあ礼奈(レナ)。この子になりたい!」
「………?んん?何でそいつなん?ま、構わね〜ケドォ
んじゃ、鏡の前に立ってみ(スタンドアーップ)」


怪訝そうな顔を浮かべて準備するガムテを尻目に、期待に胸を膨らませ、礼奈(レナ)は鏡の前に立つ。
すると、彼女の目の前…鏡の中に鏡を持った老婆が姿を現した。
老婆が持つ鏡の中には283プロの『元』アイドル―――七草にちかが映し出されていた。
そして数瞬後―――礼奈(レナ)の姿は七草にちかになっていた。
鏡の中に映した人物の虚像を投影することでその姿になれるミラミラの実の能力。
ネットに転がっていた七草にちかの活動写真を鏡に投影することで、七草にちかの姿を手に入れる事に成功したのだ。


「は…!はうぅ〜!!!にちかちゃんか〜いいよ〜!!おっもち帰りィ〜〜!!!」
「いや、今はお前がにちかだろ〜が」
「はうっ!そ、そうだった!!」


成果は上々。
可能性無き者(NPC)がミラミラの実の能力に干渉することは不可能でも、此方から干渉することは可能らしい。
無論この能力にも時間制限や何らかの制約が加わっている可能性もあるが―――今の礼奈の姿は何処からどう見ても七草にちかだ。



「でもな〜んで偶像(ブス)共の中でこんな今は事務所(ムショ)に所属してもいね〜凡夫(モブ)選んだんだァ?」
「―――好きだったんだ、この子。歌が、ちょっと哀しくて……
最後のライブにも行ったんだよ!それで引退しちゃったみたいだけど…ダメ、かな?かな?」
「ま、イ〜けどォ。ンじゃ、今すぐ作戦区(ポイント)で準備(スタンバ)っとけ
黄金時代(ノスタルジア)のサーヴァントが着いたら作戦開始(クエストスタート)だかんな〜」
「……うんっ!頑張ってくる!!」



割れた子供達(グラス・チルドレン)のメンバーだとバレず、いきなり相手にサーヴァントをけしかけられない姿ならそれでよかった。
前々から知っているアイドルなら、ある程度演じる事もできるだろう。
そして、作戦区に向かおうとする礼奈(レナ)に、今は虎の子として厳しく管理されている地獄の回数券(ヘルズクーポン)を手渡し、静かにガムテはその姿を見送った。
まだまだやるべき仕事は残っている。
それでもガムテは一切疲れた様子を見せず、最も信頼する右腕に司令を出す。


「さ〜〜て、次は舞踏鳥(プリマ)、お前が他の幹部と指揮を取って偶像共(ドル)共の関係者に張り付いてくれ」
「襲撃(カチコ)むの?」
「いや、今はまだ近くで様子見で良い。俺が特攻(ブッコミ)命令出さね〜限りゼッテ〜他の仲間が先走らないよう管理頼むわ。MPが低いやつらは特にな」
「……分かったわ、精一杯頑張るから。でも、北条沙都子の事は大丈夫?」
「俺が黄金時代に殺されると思うか?」
「……いいえ、あり得ないわね」
「そ、だから頼んだぜ?俺の右腕」


あの犯罪卿の手によって割れた子供達の運用は方向転換を余儀なくされている。
これまでの遊撃ではあまり効果が上がらないどころかサーヴァントとの偶発的な遭遇戦によって返り討ちにされ、情報漏洩という事態を引き起こした。
となればこれまでの様な遊撃ではなく、割れた子供達本来のスタイル…狙いを定めたピンポイント攻撃に切り替えるほかない。

現状の目標(ターゲット)は都内に残る社長や事務員を含めた283プロの関係者十名あまり。
そこに数グループに分けた100人余りの割れた子供達を遠すぎず近すぎない位置に配置する。
だが、攻撃は控えさせる。今はまだ、遠巻きに圧力をかけるだけでいい。
攻撃命令を途中で出すとしたらそれは残った事務所の関係者が一斉に都心を離れる動きをした場合のみだ。
一定期間自宅がある場所を離れるとしたらそれなりの準備が必要だろう。着の身着のままという訳にはいかない。
そして、そう言った怪しい兆候は鏡面世界を通じていち早く傍受できる。
攻撃を行うときは一度に、それも迎撃(インターセプター)のサーヴァントが出てきても追尾しきれないように飽和攻撃を仕掛けるのが肝要だ。
残り主従の数を考えると迎撃に出られるサーヴァントは多くとも数騎程度。
どこか一、二か所が迎撃を受けても、他の283の関係者は全員拉致あるいは殺害できる。

それだけでなく、NPCの護衛でマスターの守りが手薄になると言うならむしろ僥倖。
悠々と自分とライダーは鏡面世界を通じてがら空きになったマスター達を殺りに行ける。
もっとも、この作戦は犯罪卿が283の関係者を守護ろうとしている前提が無ければ成立しない。
プロデューサーの捕獲失敗や、成功した場合でも犯罪卿が見殺しにすることを選べば割れた子供達を撤収させるしかなくなるが、今は置いておく。


練度の低い者はライダー用のお菓子の調達に回す。
第三宝具を解禁した以上、ライダーのお菓子の摂取による魔力の備蓄はこれまで以上に重要となる。
穴をあける事が無いように彼等にはフル回転してもらわなければならない。
業務の格差で不満が出る者が出ないよう、犯罪卿との本格的な激突(コウソウ)では彼らも作戦に投入することを約束して納得してもらった。


そして、残りのメンバーは誰か幹部に指揮をとらせ、緊急時の拠点の確保に動いてもらう。
ガムテはそう遠くないうちにこの高級住宅塔のアジトを放棄することとなるのは予感していた。
そのため、今の段階から新たな拠点の確保に動いておく必要があると判断したのだ。
新たな拠点とは即ち割れた子供達の雇い主である竹本組傘下の極道事務所や屋敷だ。
そこに出入りしている極道達は近々大きな戦争があると伝えて暫くバカンスにでも行ってもらう。
裏の業界では鼻つまみ者の割れた子供達だが、メキシカンマフィアを壊滅させた話は竹本組傘下の極道達には知れ渡っている。
その割れた子供達が戦争するとなれば必然的に血の雨が降る。
面倒事と言うレベルではない厄種に自ら首を突っ込もうと言う極道は少ない。
命がかかっているなら猶更だ。
多少の反発はあるだろうが、巻き込まれることを恐れた極道の大部分は快く譲ってくれるだろう。


以上が、ガムテが定めた割れた子供達の今後の方針であった。
一先ず、これまで目立ち過ぎたことを考えれば割れた子供達は一度前線から下げるしかない。
もっと御しやすいサーヴァントであれば柔軟な手が打てたのだが――


―――マ〜マママママ…いいだろう、ガムテ。お前の案に乗ってやる。
ただ殺すだけじゃ気が済まねぇ…このおれに、四皇ビッグマムに喧嘩を売ったことを後悔させてやりな!
これでもおれはお前の事は買ってるんだ。お前はおれが喰いたいお菓子を喰いたくなる前から用意してくれるからねぇ……


よく言うぜクソ婆が、とガムテは心中で毒づく。
天上天下唯我独尊、その時の気分で言っていることがコロコロ変わるから始末が悪い。
と言うか、割れた子供達のキルスコアではあの婆が敵主従を抑えて堂々一位だ。
これで強くなければ即座に自害を命じている。

「―――行っておきますが、使い走りのような事をするのは、これが最初で最後ですわよ」


と、ガムテがライダーへの苛立ちを募らせている時だった。
隣で、ジト目を浮かべた沙都子がどこか不服そうな表情で見つめていたのは。
次瞬、ガムテはまたお道化た表情に戻って。


「オッケ〜!Pたん捕まえれば黄金時代にンな手間かけさせる事も無いしな〜!
まッ礼奈(レナ)の作戦成功を祈って俺たちは他の偶像(ドル)共の家、盗視(デバガメ)しちゃおうぜ〜」
「もう少し言い方どうにかなりませんの?」


相変わらずお道化た様子の少年の姿は魔女である沙都子をして単なる馬鹿にしか見えない。
どれだけ油断ならぬ相手だと分かっていても、このお道化っぷりを見せられればそう思わざる得ない。
厄介な相手が競争相手にいる者だと、沙都子は強く実感した。


(……しかし、レナさんまでいるとは、まさか、全員いらっしゃるのではございませんよね?)


作戦の実行役だと言って彼女が出てきた時は表情には出さなかったが、正直面食らった。
この調子だと園崎姉妹までいるのではないだろか。
まぁいた所で今の沙都子にとって、いずれ来る理想の世界の彼ら以外興味はないのだが。
だから、危険な作戦にかつての仲間が参加するとなっても特別な感慨はいだかなかった。
北条沙都子は既に魔女なのだから。
正常な倫理観など、とうに昔に彼女自ら崩壊させている。



(ま、精々頑張ってくださいまし、レナさん。損な役回り(ババ)はさっさとプロデューサーと言う方に押し付けて仕舞いたいので)


沙都子に任された仕事とは、プロデューサーが従えているであるサーヴァントの足止め。
その間に礼奈(レナ)がプロデューサーに近づき、交渉ないし強襲を行う手はずだった。
なし崩し的に巻き込まれた形になったが、沙都子にとっても悪い話ではない。
頼まれたのは足止めだけなのだから、そこから先はガムテ達の仕事だ。それはガムテに確約させた。
この仕事が成功すれば自分は割れた子供達の中での地盤を固める事ができる。
失敗してもガムテの信条から殺される事はないだろうし、もし怪しいなら皮下の陣営に寄れば良い。


(蜘蛛さん達の失敗は、一切の危険を排除しようとしたこと。
……隠そうと思えば思うほど、その意図は露になる物でございますのにね?)


蜘蛛の毒糸はそもそもリスクを徹底的に排除する運用は想定していない。
最善の防御策は、社会情勢を掌握した素早く広い探知と権謀術数を生かした先制攻撃だ。
謀略の本質は相手を陥れ、追い詰め、破滅させる事。
そして根幹にあるのは攻撃こそ防御という思想。
だがその蜘蛛を運用する者達の前提は、決定的に攻撃精神に欠けていた。
その大いなる矛盾が…最高のパフォーマンスを発揮した蜘蛛の防御策にほんの僅かな穴を空けてしまった。


「そンじゃ〜頼むぜ黄金時代(ノスタルジア)お仕事(ちごと)の時間だ
1ラウンド目は向こうにとられちゃったけどォ〜…2ラウンド目はこっちが殺る」
「えぇ…でも、案外こんな大がかりな事をしなくてもあの方は取り込めるかもしれないですけどね。
ガムテさんも気づいているでしょう?」
「あぁ、そうなりゃ超絶僥倖(ウルトラ・ラッキー)ッ!」


鏡で見た映像に映っていたあの男。
あの男の瞳の奥に燻る炎は―――人を殺した者の目だ。
正常な倫理と、鮮血に染まった掌の狭間で揺れる者の目だった。
ガムテは割れた子供達の勧誘時に、沙都子は雛見沢で起きる惨劇のループの中で。
慣れ親しんだ瞳だった。
もしかしたらこんな策を労せずとも取り込めるかもしれないが、今は現実的な範囲で最善を尽くす。


「―――――リンボさん?ええ無事ですわ。ただ怖い叔母様に少しお仕事を頼まれまして…
は?窮極の地獄界曼荼羅?……まぁ、後で伺いますわ。ともかく今は―――」


そして、悪童(ワルガキ)二人は悪事(ワルさ)かます。
不遜な悪魔を殺すための第一の矢を放つ。
紳士と悪童。
第二局目、開始。



【中央区・某タワーマンション(グラス・チルドレン拠点)/一日目・夕方】

【ガムテ(輝村照)@忍者と極道】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:地獄への回数券。
[道具]:大量のお菓子(舞踏鳥(プリマ)持ち)
[所持金]:潤沢
[思考・状況]
基本方針:皆殺し。
1:Pたん捕獲作戦開始ィ〜☆
2:283プロへの攻撃は今は控えさせる。
3:あのバンダイっ子(犯罪卿)は絶望させて殺す。
4:黄金時代(北条沙都子)に期待。いざという時のことも、ちゃんと考えてんだぜ? これでも。
[備考]
※ライダーがカナヅチであることを把握しました。
※ライダーの第三宝具を解禁しました。
※ライダーが使い魔として呼び出すシャーロット・ブリュレの『ミラミラの実の能力』については以下の制限がかけられています。界聖杯に依るものかは後続の書き手にお任せします。
  • NPCの鏡世界内の侵入不可
  • 鏡世界の鏡を会場内の他の鏡へ繋げる際は正確な座標が必須。
  • 投射能力による姿の擬態の時間制限。

【ライダー(シャーロット・リンリン)@ONE PIECE】
[状態]:健康、怒り心頭
[装備]:ゼウス、プロメテウス、ナポレオン@ONE PIECE
[道具]:なし
[所持金]:無し
[思考・状況]
基本方針:邪魔なマスターとサーヴァント共を片づけて、聖杯を獲る。
1:あの生意気なガキは許せないねえ!
2:ビッグマムに楯突いた事を後悔させる


【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に業】
[状態]:健康
[令呪]:残り3画
[装備]:トカレフ@現実
[道具]:トカレフの予備弾薬
[所持金]:十数万円(極道の屋敷を襲撃した際に奪ったもの)
[思考・状況]
基本方針:理想のカケラに辿り着くため界聖杯を手に入れる。
1:最悪脱出出来るならそれでも構わないが、敵は積極的に排除したい。
2:割れた子供達(グラス・チルドレン)に潜り込み利用する。皮下達との折り合いは適度に付けたい。
3:ライダー(カイドウ)を打倒する手段を探し、いざという時確実に排除できる体制を整えたい
4:ずる賢い蜘蛛。厄介ですけど、所詮虫は虫。ですわよ?





時系列順


投下順



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042:虎穴にて 輝村照(ガムテ) 073:絶望と、踊れ
038:283さんちの大作戦〜紳士と極道編〜 ライダー(シャーロット・リンリン)
042:虎穴にて 北条沙都子 063:まがつぼしフラグメンツ

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最終更新:2021年11月18日 06:25