◆◇◆◇
パチン―――と、指を鳴らす。
次の瞬間、“そこ”に映る情景が切り替わる。
遥か遠くの景色が、浮かび上がる。
仄暗い一室。
真夜中の闇の中で、仄かな明かりだけが灯される。
その“子供”は、木製の椅子に寄り掛かり。
眼の前の“鏡”を、無言で見つめていた。
ガムテは懐にポテトチップスを携えて、黙々と口に運んでいく。
右手を油で汚しながら、もぐもぐと咀嚼を続ける。
舞踏鳥がこの場にいたら、「こんな夜中に菓子なんて」とでも釘を刺されていただろう。
聖杯戦争が始まってからは色々と忙しなくなったし、彼女が手料理を振る舞ってくれる機会も減った。
そして思えば、ここニ週間―――いや、既に三週間は超えているか。ガムテはろくに“眠る”ことが出来ていない。
既に脳が“まともではなくなった”彼は、重度の不眠症を患っている。
この苛烈な聖杯戦争においては、特に気を張り続けている時間が長く。
結果としてガムテは、ろくな休息を取ることができていなかった。
それでも彼は、動けてしまう。戦えてしまう―――頭がイカれているから。
心も体も、どうしようもなく壊れているから。
それでも、ふいに想いを馳せてしまう瞬間がある。
―――最後に舞踏鳥に寝かしつけてもらったの、いつだっけな。
そんな風にガムテは物思いに耽り、再び目の前の光景へと意識を向ける。
黄金時代(ノスタルジア)はあの大海賊共との対面を余儀なくされている。
神戸あさひには既に妹の存在などに関して伝えておいた。
ガムテは一先ず手が空いた為、自らが仕向けた事柄の顛末を確認する。
鏡の中に映る“男”の後ろ姿を、見据えた。
疲れ果て、窶れながらも、その男は確かな決意を滲み出す。
283プロダクションの“
プロデューサー”が、そこに映っていた。
◆
プロデューサーはサーヴァントと共に、283プロの脱出派への攻撃のために世田谷へと赴いていた。
『解放者』や『礼奈』からの報告でランサーが脅威的な探知能力を持っていることは既に把握している。
正確な座標が分かっていない283の一味が何処に潜んでいるかも割り当てられるだろう。
何故ガムテは、283プロの一味への即時的な攻撃を指示したのか。
答えは単純。ビッグ・マムが独断で敵連合への殲滅戦を仕掛け、そして敗退したからだ。
蜘蛛の会談。子供達の殲滅を目的とした敵連合と283プロの結託。
その直後に、グラス・チルドレンのサーヴァントが同盟者を率いて拠点への強襲を仕掛けた。
言うなればそれは、“お前たちの情報は我々に筒抜けになっている”と相手に喧伝するような所業。
それで相手側の勢力を崩したならまだ良いが、結果としては敗退。
敵戦力を一組も落とせず、それどころか意図せずして敵に塩を送るような結果を齎し。
結局ビッグ・マムは、圧倒的に有利な状況からの撤退を余儀なくされた。
で、ここから先はどうなる。
あの蜘蛛共が再び、より綿密な連携を取るに決まってる。
我々の情報が漏洩している、子供達は早急に攻撃すべきだ―――と。
ビッグ・マムに手傷を負わる程の“覚醒”を果たした敵連合が、そこから更に283との連携を強化する。
ああ、そうなれば厄介だ。間違いなく。
所詮は小細工や猿知恵と笑い飛ばせる段階ならまだ良い。
だが、二人の蜘蛛の頭脳に“質と数の戦力”が加わると捉えれば――見過ごす訳にはいかない。
ゆえに連合が現状の立て直しを果たす前に、283側の布陣も同時に崩す必要があった。
共にグラス・チルドレンの標的となった以上、283と連合が組み続ける旨味は絶対にある。
だから最低でも、蜘蛛同士の連携を阻害するだけの消耗を迅速に与えなくてはならない。
その上で、ガムテは
プロデューサーを使った。
無論、直接の襲撃はランサーや使い魔達が担っている。
プロデューサーがグラス・チルドレンの隠れ家から離れることはない手筈だ。
そして、付近に鏡がある限り
プロデューサーは有事の際にも即時の離脱ができる。
仮に逃走や謀反を試みたとしてもミラミラの監視からは逃れられないし、鏡の遠隔視を掻い潜ったとしても見張りの使い魔を通じて不信な動きはすぐに此方へと伝えられる。
既に隠れ家周辺の主要な“鏡の座標”は構成員(ダチ)たちが調査済みだ。
プロデューサーが下手な真似に出た時、あるいは283の連中が奴を奪還しようとした時、即座に回収しに行く準備は出来ている。
ババアにでも呼ばれた時には代理の監視を同盟者に任せればいいし、鏡の映像を見張るだけなら子供達にも出来る。
それに鏡世界に出入りしている限りは、異変を知らされた瞬間に即座の対応を行うことも出来る。
聖杯戦争の主従には魔力パスが存在する以上、物理的な距離が近い方がサーヴァントの出力を十全に発揮できるのだという。
故に彼を世田谷の隠れ家に待機させることで、奴のランサーの全力を引き出すことが出来る。
そして現場に赴かせることで、拠点のマンションにいる
神戸あさひと意図的に分断させている。
“動画の送信”や“見せしめ”によって、現状において
プロデューサーが裏切る可能性は低くなっている。
しかしそれでも腹に一物を抱えている彼のリスクが消えた訳ではないし、裏切りの手段としてあさひを当てにする算段も大きい。
有事のどさくさに紛れて、
プロデューサーが密約や連携へと踏み切るという懸念は否定できない。
だからこそ“いつでも取り押さえられる監視環境”を作った上で、
プロデューサー達を世田谷へと単独で出撃――つまり敢えて孤立させていた。
仮にあさひを噛ませるとしたら、「鏡の中の
プロデューサーが不審な動きを見せたらすぐにサーヴァントを差し向けて取り押さえろ」という単純な指示を任せて自身が場を離れる時くらいだろう。
プロデューサーは283に対する人質だ。
だが同時に“腹に一物を抱えた戦力”でもある。
奴は単なる駆け引きの道具には留まらない。
敵勢力――283と衝突する上で、利用するだけの価値を持っている。
そして彼を戦力として使う場合、件のアイドル達こそが“
プロデューサーを動かす為の人質”へと反転する。
そのことを見据えて、ガムテは“特例”として彼を単独で動かした。
連中のサーヴァントは排除するが、その主であるアイドル達の命は保障する。
あの時
プロデューサーは、確かにビッグ・マムとそう取引した。
だが、所詮は脆い口約束に過ぎない。
力関係が拮抗していない取引など、結局のところ強者側が気まぐれに弄べてしまう。
つまり何時でも反故にできるし、都合よく捻じ曲げることだって出来るのだ。
そして取引の相手があの大海賊である以上、自身の顔に泥を塗った連中の安全が確保される訳がない。
プロデューサーは決して愚か者ではない。
それに気付けないような間抜けでもない。
そして―――それを念頭に置いて、腹を括れる奴だ。
だからこそ、そこに利用する余地があった。
ビッグ・マムやグラス・チルドレンが約束通りアイドルを守るという保障はない。
それを裏付けるように、敢えて“
NPCアイドルの死体”を
プロデューサーを見せつけた。
わざわざ殺戮(コロシ)の現場にまで案内して、だ。
既に“裏切りを告白した動画”は283の連中に送り付けたし、それは
プロデューサーにも伝えている。
プロデューサーが此方の陣営に付いていることが表明された以上、人質としての価値は下がっている。
奴を陣営に取り込み、動画を撮影した時点で、そういったリスクは承知していた。
しかし同時に、動画の公開は“
プロデューサーをグラス・チルドレンへと縛り付ける”ことへと繋がる。
プロデューサーが283を裏切ったという事実で連中が混乱に陥る可能性は高いし、彼を見捨てるか否かで内紛の余地を与えることも出来る。
そして仮に
プロデューサーがグラス・チルドレンから離反したとしても、283が彼を無条件で受け入れてくれるという保障は一切無くなる。
つまり
プロデューサーにとって、“ガムテを裏切る”という行為のリスクは飛躍的に高まっているのだ。
だからこそ予めそれを見越して、
プロデューサーが自発的に此方へと協力するように誘導した。
動画の送信によって裏切りという行為のリスクを高めて、
プロデューサーの行動を縛る。
その上で“アイドルの見せしめ”を突きつけ、奴の危機感を煽る。
このまま攻撃が本格化すれば、ビッグ・マムやグラス・チルドレンがアイドルの命を見逃すとは限らないぞ―――と。
そうして奴の尻を叩き、“絶対に283のサーヴァントを落とさなくてはならない”という意志を持った尖兵へと仕立て上げる。
奴の身動きを取れなくして、ギリギリまで追い詰め、そうして腹を括った戦力へと変える。
“283を守るために自分達を裏切るかもしれないマスター”を、逆に“283を守るために敢えて自分達の駒となるマスター”へと引っくり返す。
それがガムテの狙いだった。
実際のところ、ビッグ・マムの敗退によって当初の予定を一気に加速させたのは確かだった。
今の段階では“
プロデューサーを追い詰めて尖兵に仕立てること”だけが目的だったし、実際に襲撃へと赴かせるのはもっと後になると考えていた。
しかしマムを撃退して戦力を強化した蜘蛛同士が情報漏洩を知った上で結束を強めるリスクを考えて、ガムテは急遽彼を出撃させた。
尤も、多少予定が早まっただけと考えれば問題はないが。
追い詰められたアイツは“仕事”を果たす。
ガムテはそう考えていた。
偶像共を守るために、あの怪物(ビッグ・マム)とサシでの取引を成立させた程の男だ。
その覚悟も、胆力も、認めざるを得ない。
だからこそ、見込んでいた。
283の戦力を落とす為なら、あの男は命(タマ)を張れると。
奴にはそれだけの素質があると、ガムテは確信した。
――――アイツは間違いなく“
プロデューサー”だよ。
――――偶像共を守るために、ババアに“寿命の九割を差し出す”って言った時。
――――白瀬咲耶と同じ目をしてたんだからな。
あいつは彼女のように、子供(オレ)達にまで手を差し伸べたりはしない。
聖杯を穫る。その道を歩む意味を、あいつ自身が分かっている。
それでも、あの瞬間。
他の誰かの幸福(しあわせ)の為に祈った、あの時。
あの眼差しが、殺戮の王子に強烈な既視感を与えさせた。
だからこそ、あの時ガムテは伝えたのだ。
白瀬咲耶を殺ったのは自分である、と。
白瀬咲耶は確かに強かった、と。
それは
プロデューサーに対する、彼なりの称賛だった。
故に彼は、
プロデューサーをある種の形で“信頼”していた。
動画を送ったことや脅しを掛けた以上、現時点ではまだまだ可能性は低いとはいえ。
仮に
プロデューサーが裏切りへと走る場合、考えられる引き金は二つ。
ひとつは、
神戸あさひと個人的な同盟を結んだ時。
もうひとつは、283とグラス・チルドレンが衝突して互いに状況を支配できない混戦状態に陥った時だ。
先も述べたように土壇場での叛意を防ぐために、
神戸あさひと
プロデューサーは敢えて分断している。
更に
プロデューサーを単独で追い詰めて、彼一人で覚悟を引き締めさせる状況も作り上げている。
後者の乱戦に関しても、全面抗争になる前に予め
プロデューサー自身を“283を削る尖兵”として送り込んだ。
“今後グラス・チルドレンが283を蹂躙するための土台”、つまり混戦状態になっても此方が状況を一方的に支配できる程の絶望的な不均衡状態を作る。
プロデューサーがそれを避けるためには、ここで全力を以て283の布陣を破壊しなくてはならないという訳だ。
そして今回の攻撃へと駆り出させることで
プロデューサーが裏切りの為に温存しているであろう“何らかの手段”を吐き出させ、以後の余計な計画を崩す。
尤も、不均衡状態を作ること自体は“念を入れる為の戦術”だ。
283の戦力は、恐らく――“弱い”のだから。
何故なら奴らは、犯罪卿による脅迫以外でグラス・チルドレンへの効果的な対処を殆ど果たせていない。
都内に残されたアイドル達の安全を確保していなかったのも、それが出来るだけの戦力を持ち合わせていないからだと推測できる。
犯罪卿が黒幕を装ってまで事務所を軟着陸させようとしていたのは、“標的にさせないこと”でしかアイドル達を守る術を持たなかったからだろう。
つまり自前で敵襲から守り切る実力は無いし、それだけの勢力も揃えられていない。
ステータスからして戦闘向けのサーヴァントではない犯罪卿が日中に単身で矢面に立ったことも、却って“それ以外にビッグ・マムを迎撃する手段を持たない”裏付けとなっている。
だからこそ、
プロデューサーが全力を引き出して運用するランサーとマムから借りた使い魔の軍勢だけでも十分やれると判断した。
仮に相手方の戦力規模を見誤ったとしても、ミラミラによる逃走経路は既に作っている。
プロデューサー達が生き延びさえすれば“敵の勢力の内訳”という情報は持ち帰れる。
舞踏鳥(プリマ)らを妨害した侍(チョンマゲ)は、恐らく283の連中とは無関係。
仮に犯罪卿が関与しているのなら、他のアイドル共を守護するための手も打っているはずだからだ。
奴の存在は283にとっても計算外だった可能性が高い。
何者なのかは分からないが、警戒する必要はあるだろう。
ともあれ、今は
プロデューサーが“何処までやれるか”を眺めるだけだ。
これで犯罪卿を落とせるのなら、別にそれでも構わない。
蜘蛛同士の厄介な連携は確実に断たれるし、犯罪卿についても「所詮はここまでの敵だった」と割り切ることも出来る。
どちらにせよ、奴らはもうジリ貧だ。
最終的な四面楚歌は避けられないし、陣営としては頭打ちになっていく。
しかし、もしも犯罪卿がこの強襲を生き延びたのならば。
その時は今度こそ、全身全霊を以てブッ殺す―――徹底的に“心を砕いたうえで”。
ただ、それだけだ。
そして仮に、ここで
プロデューサーが犯罪卿を仕留められたとしたら。
283プロに対する人質としての彼の役割は、殆ど終えると言ってもいい。
何故ならば、犯罪卿を落とした時点で283が陣営として大幅に弱体化する可能性が高いのだから。
狡猾に策を張り巡らせる犯罪卿が居なくなれば、最早小細工や駆け引きを介在させる必要はほぼ無くなる。
そう―――後はただの殲滅戦と化す。
偶像(アイドル)の持つ素養も、底力も、決して油断はできない。
奴らの中には、奇跡のような意志を押し通せる者だっている。
先程、黄金時代にも忠告した通りだ。
それでも尚、大局的な戦略として見れば―――犯罪卿亡き後の脱出派は、確実に陣営としての力を失う。
あの場では戒めたが、黄金時代が奴らを侮っていたのも理解はできる。
偶像達は、真っ当であるが故に“強い”。
そして、だからこそ“弱い”。
それは紛れもない事実だった。
真っ当であるがゆえの意志は、確かに強靭だが。
真っ当であることを捨てれば、人間は幾らでも冷酷になれる。
この戦いで連中を落とした場合、以後の
プロデューサーの処遇についてはまだ考えていない。
283の陣営さえ崩せれば、奴は本当の意味で“叛意を抱えた戦力”になるのだ。
以後も利用し続けるか。あるいは、処分するか。
その結論は、いずれ出すことになるだろう。
ただし、言ってしまえば。
例え
プロデューサーの身柄を連中に抑えられたとしても。
例え
プロデューサーがここで刺し違えたとしても。
その前に犯罪卿を落とすという大金星さえ果たせれば―――“元は取れる”と言っていい。
後に残された集団が、果たしてもう一人の蜘蛛との連携が取れるのか。
グラス・チルドレンの組織力にどれだけ対応できるのか。
ビッグ・マムとその馬鹿げた旧友(ダチ)に、脱出派の戦力がどれほど及ぶというのか。
――――腹を括ったアイツは確実に強い。
――――偶像共だって、油断ならない。
――――だがな。あのババアは超えられねェよ。
――――俺が最後に殺す標的(タマ)なんだからな。
それが、ガムテの意志。
それは、歪んだ信頼。
共に聖杯戦争を戦い抜く、殺意の共闘関係。
そうだ。アイツを殺すのは、俺(ガムテ)だ。
全部殺し尽くして、勝利の頂きへと至り。
それから奴に、屈辱的な死を与える。
そうして子供(オレ)達は。
奇跡の願望器、聖杯を掴み―――――。
◆◇◆◇◆◇♦♢♦♢♦♢♦♢
《ねえ、ガムテ》
聖杯戦争の予選期間。
なんてことのない、ある一日。
《一つ、聞きたいことがあるの》
朝の日差しは、カーテンで遮られ。
屋内は仄暗い電球の灯りで照らされている。
テーブルを挟んだ、二人きりの食卓。
向き合う形で椅子に座った舞踏鳥(プリマ)が、ガムテを見据えていた。
彼女は、ガムテの右腕であり。
側近であり。最も信頼する幹部だった。
だから聖杯戦争においても、その立ち位置は変わらない。
元いた世界での舞踏鳥と、何一つ変わらない。
こうしてガムテの世話を焼いて。
ある意味で家族のように接して。
そして時折、二人で食卓を挟む。
二人の日常は、ここでも変わらない。
―――ガムテはこれから、聖杯戦争へと本格的に身を投じる。
だから、こんな束の間の一時も終わる。
互いに、口に出すことはないが。
安らぎの余韻を確かめるように、二人は“最後の時間”を過ごしていた。
《どしたァ〜〜〜舞踏鳥?》
《……聖杯戦争に勝利すれば、万物の願望器が得られる》
《そ!みんなブッ殺したヤツに与えられる……賞品(トロフィー)ってワケ☆》
舞踏鳥お手製の朝食“ハムエッグ”を咀嚼しながら、ガムテはおちゃらけた態度で喋る。
界聖杯。勝者に奇跡を与える願望器。
それが聖杯戦争の戦利品だ。
マスターやサーヴァントは、それを求めて殺し合う。
当たり前の知識として刷り込まれたことに関して、ふいに問われて。
《なら……》
そして、舞踏鳥は。
真っ直ぐな眼差しで、ガムテを見据えて。
《ガムテは、何を望むの?》
彼に向かって、そう問いかけた。
《オレの願望(ねがい)?》
ふいに飛んできた質問。
ガムテは、きょとんとした表情を見せて。
《ん〜〜〜〜〜〜〜〜……》
わざとらしく悩むように、考え込むように。
ガムテは腕を組んで、首を傾げてみせる。
暫く沈黙して、視線を逸らして。
それからガムテは、ふいにピタリと動きを止めた。
舞踏鳥と視線を交差させて、口を開いた。
《――――何だと思う?》
はぐらかすように。
あるいは、戯けるように。
にんまりと笑って、そう答えてみせた。
◆◇◆◇◆◇♦♢♦♢♦♢♦♢
袋に手を突っ込んだ。
再び一つ、摘もうとした。
しかし、何もない。
油塗れの内側だけが、感触として残る。
気が付けば、ポテチを食べ終わっていた。
未だに目は冴え続けている。
相変わらず、眠ることはできない。
“夢”を見ることも、叶わない。
まあ―――とっくに、慣れている。
殺戮の王子は、心割れた子供達を率いて。
自らの従者―――豪胆なる大海賊“ビッグ・マム”を殺すことを見据える。
自らの尊厳のために。仲間の尊厳のために。
子供を踏み躙る“大人”への殺意を、その胸に滾らせる。
そして奴を踏み台にして、超えるべき“父親”も必ず殺すと誓う。
そう、大人(おや)達は殺す。
しかしそれは、目的であって。
彼自身の“願い”とは、違う。
犯罪卿。黄金時代。
プロデューサー。
神戸あさひ。暴走族神――――。
この界聖杯において、全ては敵だ。
いずれは等しく、一人残らず、踏み越えなければならない。
そうして彼らを叩き潰して、乗り越えた果て。
ひび割れた眼差しで“少年”が見据える結末。
万物の願望器へと託す、一つの祈り。
それは、心という藪の中に未だ潜み続けているのか。
あるいは、聖杯に託す想いなど最初から持ち合わせていないのか。
その答えは、王子(ガムテ)のみが知る。
しかし。
これだけは、言える。
例え、奇跡というものに縋れたとしても。
例え、全てを超越する願望器を掴んだとしても。
どんなモンを使ったとしても。
どんなモンに頼ったとしても。
―――子供達(オレたち)は、もう天国(らくえん)なんか行けないんだよ。
そういうモンなんだろ。
なあ、殺島の兄ちゃん。
それは理屈ではなく、実感であり。
確かなる諦観として、ガムテの胸中に宿っていた。
何のために、白瀬咲耶の手を振り払ったのか。
何のために、彼女の慈悲を払い除けたのか。
ハナからその意味は―――分かっている。
【中央区・某タワーマンション(グラス・チルドレン拠点)/二日目・未明】
【ガムテ(輝村照)@忍者と極道】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:地獄への回数券
[道具]:携帯電話(283プロダクションおよび七草はづきの番号、アドレスを登録済み)
[所持金]:潤沢
[思考・状況]
基本方針:皆殺し。
1:蜘蛛共を叩き潰す、峰津院の対策も講じる。
2:283プロ陣営との全面戦争。
3:あのバンダイっ子(犯罪卿)は絶望させて殺す。とはいえ、この攻撃で死滅(くたば)るようならそれまでの敵だったというだけ。
4:黄金時代(
北条沙都子)に期待。いざという時のことも、ちゃんと考えてんだぜ? これでも。
5:黄金時代……流石に死んだかな? いやあいつなら何とかすんだろ。
[備考]
※ライダーがカナヅチであることを把握しました。
※ライダーの第三宝具を解禁しました。
※ライダーが使い魔として呼び出すシャーロット・ブリュレの『ミラミラの実の能力』については以下の制限がかけられています。界聖杯に依るものかは後続の書き手にお任せします。
NPCの鏡世界内の侵入不可
鏡世界の鏡を会場内の他の鏡へ繋げる際は正確な座標が必須。
投射能力による姿の擬態の時間制限。
時系列順
投下順
最終更新:2022年05月30日 07:44