井の中の蛙は幸せでした。
井戸の外に何も興味がなかったから。
井の中の蛙は幸せでした。
井戸の外で何があっても関係なかったから。
そしてわたしも幸せでした。
蛙が井戸の外に出ようとはしなかったから。
◆
おなかのなかで、何かがないている。
朦朧。
酩酊。
混濁。
全ての境目にいる
北条沙都子が知覚していたのは、熱と、痛みと、『胎動』だった。
『神』への編成を是とした後に待っていたのは、異界生命体との同化に至る交わり。
何も複数の自我を持ったのは初めてのことではない。
元より人の子・
北条沙都子の上から、『魔女』としての
北条沙都子を上塗りしている。
だが、そこに『呪われた龍の心臓』と『邪神の一端』が埋め込まれてきた。
界聖杯の内より生じたエーテル塊と、領域外より引き寄せられた生命がぶつかった。
幾つもの界面が衝突する。
『
北条沙都子』という概念が分解される。
腸(ハラワタ)が耕され、解体され、再構築される。
内臓どころか、細胞の一つ一つが別々のものに置き換わる。
くうくうおなかが鳴るのと、ぱくぱくおなかが噛みつかれるのが同時進行する感覚。
異界からの呪胎告知。
魔女でさえなお足りぬと殻を破り、更なる上位存在を目指すことへの禊の痛み。
それが沙都子には、幾つもの生き物のなきごえのように聞こえた。
烏の嘶き。
小さな黒猫の声。
脈打つ悪龍の唸り。
または荒ぶる蛇の舌音。
どこかで嘲笑する美しき大猫。
そして、何より、ひぐらしだ。
それのなく頃でなくては。
味わったことのない感覚となつかしい知覚に、沙都子は狂う。
幾つもの、走馬灯を見る。
上位存在として俯瞰するように、カケラとなって現れる。
◆◇◆◇
――きっと夢は叶うよなんて、誰かが言ってたけど
――その夢はどこで僕を待ってるの?
鬱陶しい歌。
それが
北条沙都子というマスターにとっての聖杯戦争、佳境一日目の朝だった。
サビの部分が耳に入って来たかと思えば、宣伝映像よろしく歌い始めに戻って同じことを繰り返し。
ポスターやキャッチコピーを読みながら歌詞を耳にいれるにつれて、不快感が腹の底からせりあがる。
この時は、よりによって
古手梨花が、そいつらに関わっていることを知らなかったけれど。
似たような鬱陶しさであれば、その時ほど酷くはなかっただけで、一か月ずっと味わっていた。
ふわふわとした車酔いしそうな甘ったるい匂いをさせて、流行の話をする東京育ちの少女たち。
エンジェルモートでさえ田舎臭いとばかりに、やたら華美な店でお茶会もどきをして友情を確かめる女子高生。
そういう連中を見下げ果てることで耐えて生きのびていたのも、違いなかった上で。
あの日に、生理的嫌悪感を増幅させた理由はおそらく歌詞にもあった。
――きっと憧れてるだけじゃだめだって知ってるんだ
――僕の靴はまだ白いままで
それは要するに、歌詞のすべてが新しい世界に出て行くことを奨励する歌だ。
永久永遠(とことわ)ではなく夢を叶える方に向かおう。未知の憧れには飛びつこう。
こいつらは、そういう価値観で生きている。
そういう生きざまを消費させて商売にしている。
幼なじみの夢は、そうやって応援していくのがあるべき姿だと。
井の中の蛙に、お前にも翼があるのだと嘯いて世界の外に誘うなんて、滑稽だ。
まして人を辞めた者に、人界の道理は通用しない。
魔女人格の底に眠っていた『
北条沙都子』という割れた子どもは、もはや神の贄として食われた。
もう
北条沙都子のもとに、『
北条沙都子』が返されることはない。
神であれば、世界のありようなど引っ繰り返して自由にできる。
望んだ世界を生み出し、望まない世界は地獄の釜を開けて転覆させる。
他の世界は曼荼羅でも何にでも使われてしまえばいい。
最後に残ることになる唯一無二の世界は、『そこ』だけだ・
ひぐらしがなく、開かずの森へ。
雛見沢村。分校。部活動メンバー。
すべてがある、終わらない昭和58年の六月。
家庭断絶、村八分、祟り、虐待と、人の世の辛酸を嘗めきった少女にとっての、たった一つ。
人生でその時期だけが、心の底から笑えていた幸せな黄金時代。
◆◇◆◇
数えだして、痛みの数7つ。眠るまでずっと。
黒い鳥が飛んで見えた。
小さい猫は去って消えてた。
心が枯れるまま叫ぶ、その報いを。
◆◇◆◇
帳の内で、猫の鳴き声がした。
物理的に侵入したわけでないことは何となく理解している。
ではどこからでしょうと走馬灯(カケラ)の心当たりを見渡す。
小動物を可愛がろうという心持ちは一切ない。
ただ恩義ある上位存在は大好きな友人を猫と呼び、彼女自身も時に『猫』を自称していたから。
雛見沢から見上げた夜空の星ほどあるカケラの中に、心当たりのない記憶が混ざっていた。
間近に寄せれば、その景色は明らかに己の知っているどことも違う。
どころか、己のものだという質感さえなかった。
異国の、寒そうな風が吹きすさぶ陰鬱そうな村だった。
雛見沢とは似ても似つかない灰色の土地に、霧に囲まれた貧しい景色。
おとぎ話の絵本のような昔風の装いをした西洋人の住民は悉く土気色の顔をしている。
村に響き渡る烏の嘶きの耳障りさは、胎内で蠕動している獣のそれを思わせた。
それによって、確信する。
これは、私の内に入り込んできた『何か』の記憶なのだと。
吊るせ、吊るせ――――。
誰かが叫んでいる。
吊るせ、吊るせ――――。
べつの誰かが叫び、拡大していく。
吊るせ、吊るせ――――。
奴を高く吊るせ、と狂気が伝染する。
吊るせ、吊るせ――――。
悪魔を吊るせと叫ぶ住民たちは、生者ではなく食屍鬼の顔をしている。
――地上の人々は、裁かれる機会を逸した。
――その魂は救われないまま。
――でも、もういいの。渇きに苦しまなくても。
なるほど、と内側に侵入してくる存在を、沙都子は理解する。
これは知っている。
とてもよく知っている。
これは罪を犯した者を罰するための『祭り』だ。
雛見沢の住民が悪いことを『鬼』のせいにするように、その村では『悪魔』が求められていた。
戒律を破った者には罰を与えるのが神だから。痛い目を見ることで人はもういいと赦されるから。
――報いを(punish)!報いを(punish)!報いを(punish)!報いを(punish)!報いを(punish)!
このカケラの持ち主もまた、『神の遣い』であり『魔女』であり、この土地を『繰り返す者』だったのだ。
そしてその考え方は、よく分かる。他者の妄執にまで共感はないけれど。
罪を悟らせるには、惨劇(イタミ)が必要だ。
だから、神は腸(ワタ)流しを要求する。
裏切り者が心変わりをしないなら、心が折れるまで閉じ込めて繰り返す。
さぁ『誰か』をここに誘いなさい。
食屍鬼(おに)さんこちら、手のなる方へ。
招き寄せて、閉じ込めて、繰り返す。世界の全てを私の箱庭にする。
――私は……親友が欲しい、と。神の愛の届かない。とても、とても、可哀想な子を……。
――でも……私なら、愛せると、思います。
彼女(ワタシ)は、そういうモノだ。
親友が世界のどこに逃げたって、手を届かせて、捕まえて、引き戻す。
世界中どこにでも繋がる『鍵』を持った神(ワタシ)になら、それができる。
生きている限り誰しもに罪がある。だから敵でさえ救済の対象には入るのだ。
本来のオヤシロ様の生まれ変わりであった親友も、己を殺そうとした敵を赦したのだから。
親友を奪っていく『外の世界』という全人類には、平等に苦痛(すくい)を与える。
大好きな親友には、私のもとから逃げて行った報いを万倍にして受けさせる。
そういう自我(エゴ)で、オヤシロ様は世界を塗り替えるのだ。
◆◇◆◇
あの子が欲しいと――嘲笑った。
◆◇◆◇
半透明の、それでいて銀色の輝きを帯びた泡が弾けた。
少女の腹部から、泡沫がいくつも現われ始めた。
幾つも幾つも、体表を作り替えるように浮かんでは消える。
あたかも銀の小さな花がまばらに咲いては散ってを繰り返すかのようだった。
深淵から半不可視の生命が浮上するように、泡沫の下からは別の姿が形作られていた。
それまで外見においては幼い少女と変わりなかったそれが、龍脈の心臓を源泉とするエーテルを纏っていく。
それは肉体だけでなく、装束にとっても同様だった。
動きやすくも年相応だった、ノースリーブシャツとホットパンツの少女は、まったく別の姿にすげ替わる。
それは黒灰色の袖を振り撒いた巫女装束の形だった。
彼女にとってもっとも思い描きやすい浄衣であるところのそれは、一般的な紅白のそれにはほど遠い。
下着や単(ひとえ)を着こまないまま素肌にじかに纏ったかのように脇の袖が切り離され、胴と袖がまったく繋がっていない。
あくまで彼女にとっての『浄衣』であり、むしろ異端の姿だという証左はいくつもあった。
彼女と共にいた法師の邪な神衣のように、合わせの左半分がごっそりと露出している。
胴の半分は何も着込む余地なくめくりあげられ、垂らされた帯の余りは腹のあたりで三又に分かれた招き手の形をしていた。
代替として左半身を覆うのは、無数の黒灰色の虫だった。
蝶のようにも小魚のようにも見える異形の生物を象った連鎖を、幾本も首から伸ばしている。
羽虫の中央に一つ一つ描かれるのは、赤く見開かれた瞳だった。
繰り返す上位存在の瞳のように、鍵穴の向こうから世界を覗き見る領域外存在のように。
そして何よりも分かりやすい異端者の特徴として。
半透明な触手が、枝葉のように伸び始めていた。
装束の下の肌色が、人間にはあり得ないほど蒼褪めた色に変じていた。
ただの人間の身に起こることはあり得ない現象だった。
霊衣をまとうにとどまらない、体質ごと肉体を作り替える限界突破。
霊基の再臨。
現実の肉によってのみ身体を構成する生命には、ありえない事象。
であれば、その身体はもはや生身の肉体でない。
呪いによって加工された龍の心臓。
神霊の受け皿たる英霊の肉体そのもの。
加えて、邪神の権能をわずかでも宿していた『特級呪物』でもある変異物。
それらの全てを拒絶せず取り込んだ器に、生じるべくして生じた紋様の変化。
疑似サーヴァント化を果たしたのであれば、おおむね神霊の側に人格が浸食される。
だか龍脈そのものに心は無かったが故か、器そのものたるアビゲイルが顕在であった故か。
あるいは依り代が以前にも、上位存在の手で人格(アルターエゴ)の調律を経験したことがあったが故か。
そして、それは『英霊融合』ではなく『人口英雄(偽)』が生み出される手口に酷似していたことに依るものか。
彼女が自認するのは、降臨する外からの神ではなかった。
オヤシロ様。
眠りにある少女は、しかし異界の神の眷属ではなく独立した神であると、確かな意志によって選択している。
力を継承した上で、狂気の源泉は禍ツ神の浸食によるものではなく、
古手梨花への愛によることに変わりないからこそ。
カケラを渡り歩いてきた魔女は、今日を以って理想のカケラを創造する神になる。
二人の長い旅路を、とうとう終わらせる時が来たのだと。
まどろみの中に、食いしばった口元を緩ませた。
眠っている間に、別の誰かが梨花を始末しているかも、とはいったん考えない。
そういうヘマをしない女かと言われたら、『いつの間にか生死不明になっていた』という前科はあったけれど。
さすがにもう後がないぞという局面でそれはやらないと思いたいところだったし。
決定的な敗北を知らしめる一撃は、己の手で刻みたいのが本音でもあった。
それに、どこに逃げても、決着の時に相対してくれなければ失望するところだ。
せっかくの最後の本気の勝負が、不戦勝でお流れなんてありえないのだから。
たとえ上手く逃げ延びても、死んでも、沙都子が聖杯を手にしてしまえば梨花は永遠に囚われ続ける。
そのことを梨花は、再会の宣戦布告によってもう知っているのだから。
それに、どこに逃げても、決着の時に相対してくれるようなら、やはり失望するところだ。
それは、そうまでしても梨花が『沙都子の選択と違う未来を望んでいる』という証明に他ならないのだから。
そのことを沙都子は、再会の宣戦布告によってもう知っているのだから。
どこまでも、己のもとに高揚をもたらしてくれる梨花のことが大好きで。
どこまでも、己と反対の道を行こうとする梨花のことを憎んでいた。
いつもいつも、私が東に行けばいいじゃないかというのに貴女は西に行く。
私が二人の幸せの為に聖杯を目指そうというのに、貴女はくだらない連中とつるんで出て行こうとする。
それほどまでに、外の世界で生きていきたいというのなら。
世界の全てが、惨劇の舞台(ヒナミザワ)になればいい。
それが、『地獄』を定義するための呼び水になった。
宿業を埋め込まれた英霊剣豪が、屍血山河の死合舞台を当然のものとして展開するように。
呪物を取り込んだ異界の巫女は、やり方を知っているかのように夢中にて動いた。
その指で印相を――親指と人差し指を絡める形をつくり、『パチン』と弾く。
音とともに、少女は降り立っていた。
懐かしきカケラを眺めるのではなく、その足で踏みしめる心象風景の中に。
部活の皆に詩音も招いて日が暮れるまで遊んだ河原が、空気の匂いもそのままに再現されていた。
さらに指を弾くたびごとに、景色は次々と切り替わる。
遊んで、笑って、競って、戦って、殺して、そして自殺を繰り返した、懐かしい思い出がありありと蘇る。
梨花と二人で暮らし、最も梨花を殺す場所に使ったプレハブ小屋。
いつも一緒に下校して、時には用水路で心中することになった田圃道。
何度も何度も赤本の棚の前で喧嘩をして轢死体を出した分岐点の本屋。
数えきれないほど縁日を楽しみながら、発症の効果を確かめた神社の祭り櫓。
梨花の百年分も含めて、どれほど汗と血を流したか知れない分校の木造校舎。
景色の全ては思い浮かべられる。
ホームグラウンドという言葉さえ足りない、ありとあらゆる
ルールを知り尽くした世界。
同じ閉鎖世界でも、『禁忌の降臨庭園』に比べて地獄を冠するには色鮮やかすぎるけれど。
オヤシロ様として降り立つことになる以上、いくらでも惨劇(イタミ)は操れる。
この土地はもともと鬼が沼から幾らでも湧き出てくるところだったのだから。
オヤシロ様が望めば、狂気だろうと災害だろうと起こる世界になる。
それを現実において具現しようとすることが、どれほどの秘奥であるかを生まれたての神は知らない。
己がサーヴァントの悪霊佐府を目の当たりにする機会はなかったけれど、仮に見ていれば連想したかもしれない。
そして、人の身に過ぎなかった頃の彼女であれば、連想した上で恐怖していたことは疑いない。
それが『呪い』のなかでは魔女であっても総毛だつほどの毒性を持った規格外であることに対しても。
人の身で到達するには至難を極める、力と器と研鑽の全てにおいて身の丈を越えた御業であることに対しても。
だがそれを維持するための莫大な力は、界聖杯の地脈そのものでもあった龍の心臓として収まった。
さらには疑似的に英霊を取り込み、『空間を接続して書き換える権能』を宿す巫女となったことで器を変質させた。
その上で『禁忌降臨庭園』という一つの結界術式を鍵としてを体感したことが、研鑽に至ろうとする過程を縮めた。
この景色は、あの『降臨者の箱庭』と同じように『招いて閉じ込める』ものだと悟っていた。
生得領域/心象風景の、際限ない拡張。
それが行き着いた先にあるのは、この世を楽園にも地獄界にも塗り替えるものだ。
神秘を持つ者は、それが現実味を帯びるにつれて『固有結界』と呼び。
呪力を持つ者は、それが最高水準に成長したものを『領域展開』と呼ぶ。
切り替わり続けていた景色に、ぱっと光が差した。
山間から太陽が姿を見せて、今見ている景色が『雛見沢の夜明け』だと悟る。
ずっと遠い昔に梨花を連れ出して二人で観に行った、箱庭そのものを一望する視界がある。
そう、単純な話だった。
星の数ほど逃げようとするというのなら、現実(すべて)が沙都子の世界に塗り替わればいいのだ。
なるほど、と理解する。
かつて繰り返す力を与えてくれた角ある存在は、数多の箱庭を見下ろしてはよく笑っていた。
愉快そうに、面白くてたまらないと言わんばかりに。
あの嗤い方は、まさにこういう気持ちだったのか――と、同じように口元が歪むのを感じていた。
その箱庭に、桜の花びらが舞い込んできた。
風にのって数枚、どこからともなく眼前をひらりと横切って足元に落ちる。
春先の景色ではないのにと沙都子はいぶかしみ、しかし疑念はそう長く続かなかった。
ここはまだ夢の世界なのだから、ノイズが紛れ込んでくることもあるだろう、と。
そして、それは真実、夢であったからこその現象でもあった。
かつて、セイレムに接続したアビゲイルと、天文台のサーヴァントにもそれが起こったように。
降臨者の依り代は、距離と空間を越えて繋がる楔として『他者の夢』を介することができる。
誰かの夢とわずかでも繋がり、見るものを共有することがある。
そして沙都子の求める少女は、まさに奈落の夢において満開の夜桜と相対していた。
そのことを知らず、しかし桜の花びらは沙都子の愉快さに水を差した。
あまり好きではない花だ。
昭和58年の雛見沢から進級してしまう時に咲いていた。
あの学園に入学する時にも咲いていた。
誰かが雛見沢から離れる時に、いつも開花する。
皆はその満開を、晴れ姿のように、ありがたいものだと扱うけれど。
それは、『卒業』を意味する花だ。
皆がそれを誉めそやしても、沙都子だけはそれを歓迎しない。
ああ、でも。同じように『卒業』を悪いものだと、来てほしくないものだと扱う人がいたなと、思い出した。
そう遠くない、でも遠く切り離したところにある過去のことだ。
――けど黄金時代、お前は……悪童(ガキ)のまま、オレから去っていくんだな
己の居場所ではないと切り離すことを選択した、今はもういない王様。
けれど『悪くはなかった』と、外の世界で初めて思えた硝子の破片。
「ガムテさん、私を羨んでくれてありがとう」
置き去りにしていった立場だ。義理を尽くすようなことは言わない。
だが彼は、『お前は卒業しないなんて良いなぁ』と言ったのだ。
雛見沢の外の住人が、沙都子を素晴らしいと仰ぎ見たのは、初めてのことだった。
ならば、尊いものだと見上げられた己は、『神』としてそのように在り続けよう。
永遠の子どものまま、地平のその先にある箱庭(ネバーランド)に君臨しよう。
「私は絶対に『卒業』しないまま、ここに居続けますから」
絶対のオヤシロ様が口にするのだから、これは本当に絶対の決まり事だと。
瞬間、創造された武器が現われ、彼女はもう一つの手でそれをつかみ取る。
巫女としての姿をとるならば無くてはならない武器、銀の円環を飾った錫杖がしゃらりと音を立てる。
彼女の知る上位存在の持っていたそれによく似ていたが、先端に『扉を開く鍵』のような返しがあるのは記憶と異なっていた。
生得領域(オリジン)の雛見沢に、ひとひら紛れ込んできた。
桜の樹の花弁を、銀の虚樹の揺らめきとともに生まれた錫杖でぐしゃりと踏み潰す。
虚樹の沙羅(はな)が、奈落の桜木に宣戦で応えた瞬間だった。
【品川区・奈落の夢/二日目・朝】
【
北条沙都子@ひぐらしのなく頃に業】
[状態]:『異界の巫女』、アルターエゴ『オヤシロ様』半覚醒
[令呪]:残り二画
[装備]:銀鍵の形をした錫杖、トカレフ@現実
[道具]:トカレフの予備弾薬、地獄への回数券
[所持金]:十数万円(極道の屋敷を襲撃した際に奪ったもの)
[思考・状況]
基本方針:理想のカケラに辿り着くため界聖杯を手に入れる。
0:?????????????
1:脱出の道は潰えた。願うのは聖杯の獲得による、梨花への完全勝利のみ。
2:皮下達との折り合いは適度に付けたい。
3:ライダー(
カイドウ)を打倒する手段を探し、いざという時確実に排除できる体制を整えたい
4:ずる賢い蜘蛛。厄介ですけど、所詮虫は虫。ですわよ?
[備考]
※龍脈の欠片、アビゲイルの触手を呪的加工して埋め込まれました。何が起こるは未知数。
※龍脈のエーテル塊とアビゲイルの肉体を受け入れたことで、疑似サーヴァントに近い体質に変質しつつあります。詳細は書き手に任せますが、『心象風景の具現化』を習得しつつあります。
時系列順
投下順
最終更新:2023年07月29日 04:18