その国は豊かだった。食料、衣服、住居..なんでも揃っていて生活に困ることなくシアワセだった。
そんな国で少年は生まれた。
朝、目が覚めると暖かいご飯があり、好きな物はたくさん食べ、嫌いなものはゴミ箱へ捨てる。
暑い日は涼しい部屋で。寒い日は暖かい部屋ですごす。そんな堕落した生活。変わらない日常。
それは少年には当たり前だった。そんなある日少年はいつものように暖かい布団で眠りについた。
気づくと少年は立っていた。見渡すとそこはいつものような朝ごはんはなく、荒れ果てた荒野。寂れた村。蹲る人々があった。
少年は驚いた。『ここは何処だろう』少年は思った。とりあえず村の中を歩いてみた。
少し歩くと開けた広場へと出た。
そこには2人の子供がいた。名をラプランカとマオと言った。
『何をしているの?』
少年は2人に話しかけた。
『この芽を育てるためにたくさんの水が必要です』
『しかし、村は貧しく今日生きるための水しかありません』
2人は落胆していた。
みんなに頼んでも相手にされず、自分たちが生きるためのわずかな水も小さな種に与えてしまう…
そんな日々に2人は疲れきっていた。
少年はこの2人の力になりたいと思った。
次の日少年はその日の分の配給をもらった。それはわずかながらの水と食料。
いつも贅沢している少年にとっては物足りなく、一口でなくなってしまうほどの量。
少年はつい、私欲に負けすべてたいらげてしまった。
その日、少年は村へと向かった。
そこには昨日の二人の姿があった。二人は村人の手伝いをしその報酬としてわずかな水を貰っていた。
そしてその水を自分では飲まず全て芽に与えていた。
自分はなんて愚かだろう。自分と同じくらいの年なのに、2人と自分は全然違う。少年は後悔した。
次の日、少年は頑張って水を飲む量を減らした。それはたった一口にも満たないが、少年はその水を芽に与えた。
とてもとても少ない水だったがラプランカとマオは喜んでくれた。
食べるものも飲むものも貧しかったが、なんだか胸が温かくなった。
それから少年は毎日少しの水を持っていった。
はじめは少しの水しかもって行くことができなかったが、日が経つにつれ、だんだんと我慢できるようになり持っていける水の量も増えていった。
その頃にはラプランカとマオの努力の甲斐もあり、村中の人が水を与えにきていた。
一人ひとりが持ってくる水はわずかだったが、それでもみんな集まると苗を潤すことができた。
村人は想いをひとつにし毎日水を与え続けた。
月日は流れ、木はすくすくと育っていった。
そしてある朝、木はたくさんの実をつけた。
村人たちは喜んだ。ラプランカとマオを褒め称えた。
少年も一緒になって喜んだ。
ラプランカとマオは言った。
『ありがとう。あなたが最初の一歩を…。最初に水を分けてくれたから村のみんなも水を分けてくれるようになった』
『本当にありがとう』
心のこもった言葉。
少年はうれしかった。こんなに心のこもった言葉を聞いたのは生まれて初めてだった。
少年はのども乾いて、お腹も空いていたが何だか心が満たされた。
みんなで紡いだ希望の木。インプランタ。
少年も木の実をひとつもらった。
その村は貧しかったがみんなで育てた木が、その実が村人の喉を潤した。
その村は貧しかったがみんなとても活き活きとしていた。
その村は貧しかったがとても温かかった。
安心するとまぶたが重くなった。
薄れゆく意識の中で少年はインプランタを見上げた。
木は風にそよめきキラキラと輝いていた。
目が覚めると少年はいつものベッドの中にいた。
いつもの日常。水も食料も満たされた豊かな国。
でも何かが足りなかった。
心は満たされなかった。
少年は思った。
この国はこんなにも豊かなのに…なぜ人の心は貧しいんだろう。
本当の理想郷とは何なのか。
この国を変える最初の一歩は何なのか。
少年はひとつの木の実を見つめながら考えた…
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