12 : タコ(中国地方) :2007/03/31(土) 01:02:12.54 ID:1EkbbKTY0
「では、これを食べてみろ」
突き出されたのは我が家の食料棚にあったど○兵衛きつね。
フタを開けると巨大な油揚げが鎮座していた。あ、目眩が……
とりあえずお湯を入れて5分待つ。立ち上る湯気。ラーメンは好きなので、そう思い
こめば少しは食欲も出てくる。……かもしれない。
箸で倒すべき敵を持ち上げてみる。お湯を吸っていい感じに柔らかくなった油揚げ。
湯気が立ち昇り、あの独特の匂いが……
フタを開けると巨大な油揚げが鎮座していた。あ、目眩が……
とりあえずお湯を入れて5分待つ。立ち上る湯気。ラーメンは好きなので、そう思い
こめば少しは食欲も出てくる。……かもしれない。
箸で倒すべき敵を持ち上げてみる。お湯を吸っていい感じに柔らかくなった油揚げ。
湯気が立ち昇り、あの独特の匂いが……
……
……
……
「すいません無理です」
吐き気を訴え、あえなく食べる権利を稲荷様に譲渡する。僕って弱い。
「しょうがないな」
僕の不甲斐なさに辟易しながらもずずーと豪快にど○兵衛を啜る稲荷様。あまりの遠
慮のなさに、自分が食べたかっただけじゃないのか?と猜疑心が芽生える。
ものの数分でおツユまで飲み干し、たいそうご満悦な様子だった。綻んだ顔がいやと
いうほど眩しい。
慮のなさに、自分が食べたかっただけじゃないのか?と猜疑心が芽生える。
ものの数分でおツユまで飲み干し、たいそうご満悦な様子だった。綻んだ顔がいやと
いうほど眩しい。
13 : タコ(中国地方) :2007/03/31(土) 01:02:48.99 ID:1EkbbKTY0
「ふむ、普通の油揚げは駄目か。では聞こう、お前は大豆製品は食べられるか? たと
えば……そう、納豆はどうだ?」
えば……そう、納豆はどうだ?」
「納豆は普通に。ただの豆だし」
「豆腐は?」
「普通」
「そうか……。ではなぜ油揚げだけが食べられないのだ!」
「そんなこと言われても……」
気づいたら自分の中で嫌いな食べ物の最上位になっていた。特に嫌いになるようなエ
ピソードはなかったように思う。いつのまにか──そう、いつのまにか口に入れること
もできなようになっていた。その理由が味なのか食感なのか匂いなのかは自分のことな
がらわかっていない。
ピソードはなかったように思う。いつのまにか──そう、いつのまにか口に入れること
もできなようになっていた。その理由が味なのか食感なのか匂いなのかは自分のことな
がらわかっていない。
「なぜ油揚げの素晴らしさがわからないのだ! あのジューシーな肉、ほんのりと甘い
醤油の風味、調和に調和を重ねたまさに完全かつ完璧な食品ではないか!」
醤油の風味、調和に調和を重ねたまさに完全かつ完璧な食品ではないか!」
「力説ついでにもうちょっと油揚げのいいところを詳しく」
先入観が邪魔しているんだとしたら、それを払拭できるような新要素があれば食べら
れるようになるかもしれない。
れるようになるかもしれない。
14 : タコ(中国地方) :2007/03/31(土) 01:03:31.19 ID:1EkbbKTY0
「……そうだな、まずは肉がジューシーだ」
「それは聞いた」
「そうか? それならば、味がほんのり醤油風味で」
「それも聞いた」
「それからだな……えー……あー……うー……もうその話題はいいではないか!」
あ、逃げた。
「油揚げの崇高さはとても言葉では言い表せない。とても残念だ」
「こっちも残念ながら今ので余計に食べたくなった」
墓穴の底で墓穴を掘っているような感じだ。いいところがその2点しかないなら、食
べる理由にはならない。
べる理由にはならない。
「よし、決めたぞ。私は油揚げの伝道師として当分この家に厄介になることにした」
「そんな勝手な!」
「期限は無期限。お前が喜んで油揚げを食するようになるまでだ」
一生居候ってこと?
15 : タコ(中国地方) :2007/03/31(土) 01:04:26.53 ID:1EkbbKTY0
僕のするべきことは二つある。
ひとつは稲荷様がホームステイすることについて、もうひとつは今の僕についてを家
族に説明しなければならない。
特に後者は文字通り死活問題だ。今の僕といえば女の子でキツネで、昨日までの僕と
接点がない。最悪の場合家を追い出されて根無し草になる可能性もある。そうなれば油
揚げを食べるどころの話じゃない。
ひとつは稲荷様がホームステイすることについて、もうひとつは今の僕についてを家
族に説明しなければならない。
特に後者は文字通り死活問題だ。今の僕といえば女の子でキツネで、昨日までの僕と
接点がない。最悪の場合家を追い出されて根無し草になる可能性もある。そうなれば油
揚げを食べるどころの話じゃない。
「まあなるようになるだろう」
ストレスで胃に穴があきそうな僕に対し、楽天的な稲荷様。
しかし稲荷様の言う通り、なるようにしかならないことも確かだ。潰瘍ができようと
も唯一の家族である母さんに話をつけないといけない。
両者のせめてもの心の衛生のために、直接性をやわらげようとフルフェイス型のベイ
ダー卿のお面(ボイスチェンジャー付)を被り、母さんを探す。
しかし稲荷様の言う通り、なるようにしかならないことも確かだ。潰瘍ができようと
も唯一の家族である母さんに話をつけないといけない。
両者のせめてもの心の衛生のために、直接性をやわらげようとフルフェイス型のベイ
ダー卿のお面(ボイスチェンジャー付)を被り、母さんを探す。
「ねえ、母さん(コーホー)」
「なにか用?」
浴槽を掃除しながら母さんはいつもと同じような笑顔を僕に向けてくれた。この顔が
崩れたことはあまりない。僕が悪いことをしたときは無表情で叱責した。
果たして、今回はどうなるんだろう。卒倒しないといいけど。
崩れたことはあまりない。僕が悪いことをしたときは無表情で叱責した。
果たして、今回はどうなるんだろう。卒倒しないといいけど。
16 : タコ(中国地方) :2007/03/31(土) 01:05:39.51 ID:1EkbbKTY0
「驚かずに(コーホー)、聞いてほしいんだけど(コーホー)」
決意を固めてお面を脱ぐ。
「お、女の子になっちゃった……」
馬鹿馬鹿しい。言ってからそう思った。
僕に似ても似つかない女の子が突然現れて「自分はあなたの息子です」と訴える。
どこのドッキリだ。しかも仕掛け人(僕)は動物的な特徴をそなえている。
これはだめだ。信じるとかそんな親近な問題じゃない。
僕に似ても似つかない女の子が突然現れて「自分はあなたの息子です」と訴える。
どこのドッキリだ。しかも仕掛け人(僕)は動物的な特徴をそなえている。
これはだめだ。信じるとかそんな親近な問題じゃない。
「そう。じゃあ服を買い換えないとね」
しかし母さんはあっさり僕を僕だと認めた。早すぎる。まさかドッキリのターゲットは僕のほう?
「あなたはわたしの息子なのよ? 女の子になったからってわからないわけはないわ」
理由を尋ねると、不覚にも涙腺が緩んでしまうような答えが返ってきた。
久々に誰かの前で泣いた気がする。
女の子になってからあまり取り乱さなかったけど、そうならなかったのはただ事態に
心が追いついてなかったからだった。追いついた今は……涙がこぼれて止まらない。
ふいに母さんに抱きしめられた。
心にまとわりつく不安は、頭をなでられているうちにだんだんと薄くなっていった。
久々に誰かの前で泣いた気がする。
女の子になってからあまり取り乱さなかったけど、そうならなかったのはただ事態に
心が追いついてなかったからだった。追いついた今は……涙がこぼれて止まらない。
ふいに母さんに抱きしめられた。
心にまとわりつく不安は、頭をなでられているうちにだんだんと薄くなっていった。
「あら、もう泣き止んだの? あなたの泣き顔、ぜひ写真に撮っておきたかったぐらい
可愛かったのに、もったいない」
可愛かったのに、もったいない」
……母は色んな意味で強い。