656 :佐白 :2008/01/27(日) 20:09:46.72 ID:a.7O5AQ0
『シガレット→しがれっと』第九話
『シガレット→しがれっと』第九話
季節は桜満開の春。そこらじゅう新生活の新鮮な雰囲気に溢れかえっている。
そして、今日は恐れていた大学2年生最初の授業日だった。
俺が通っている大学では、必修単位とそうでないものの講義体系が違っている。
必修単位の授業は20人ほどの少人数制の講義を受け、そのほかの単位の講義は300人は余裕で入る広い講義室で講義を受けるのだ。
後者は学生証に内蔵されているICチップを講義室の入り口にあるカードリーダーに通せば出席扱いになり、本人確認などは行わない。
つまり、今の姿の俺でも講義を受けることができるのだ。
問題は前者の少人数制の講義だ。今の俺の姿では、どう考えても講義を受けるのは無理だろう。
なにせ、その講義を受け持つ講師の大半が1年次にお世話になった講師の方達なのだ。顔も覚えられているだろう。
しかし、必修単位を取らないでいると、3年に上がれない─つまり、留年になってしまうのだ。
どうすれば良いものか前々から悩んではいたが、結局良い案を一つも思い浮かばないまま今日を迎えてしまった。
俺は暗い気持ちで朝食を食べ終えると、すぐさま自室に戻り身支度を始めた。
ちなみに、妹のマキは先日から夢にまで見た高校生活が始まっており、今日も元気に登校して行った。
早速友達もできたみたいで、それは何よりだ。
話を戻すが、今日は最悪な事にどちらの講義もあるのだ。必修のほうはどうするべきか。
俺は対策を考えながら、女物の服を着こなし、軽く化粧をすると、鏡で自分を見てみた。
・・・・・・うん。どこからどうみても女の子だった。
「うん?昭人、そんなにおめかししてどこへ行くんだ?まさかデートだなんて言わないでよ」
何しに来たのか、マキの部屋に居るはずのカグヤが扉から頭だけ出して俺の部屋を覗いていた。
「あのなぁ・・・。昨日も言っただろうけど、今日から俺は大学が始まるんだ」
そう告げると、カグヤは直ぐに昨日の会話を思い出したのか、ぽんっと手を打った。
「そういえばそうだったわね。すっかり忘れていたわ」
カグヤは何かを思い出したのか、急いでマキの部屋に戻っていった。
それにしても、昨日した会話くらいは覚えていてくれれば良いのに。
「まあ、いいけどさ・・・」
結局、俺は不安を抱えたまま大学に向った。
657 :佐白 :2008/01/27(日) 20:45:03.70 ID:a.7O5AQ0
俺が通う大学へは、バスに乗り40分ほどで行くことができる。
今日もいつものバスに乗り込むと、空いている座席に腰を降ろした。
久しぶりに大学へ行くため、少し懐かしい感じがして、嬉しくなった。
高弘や明美は元気にしていただろうか?メールでは何度か連絡を取っていたが、会うのは久しぶりである。
そんなことを考えながら外の風景を眺めていると、バスはトンネルの中に入ったらしく、窓には自分の顔が映し出された。
そうだった。いくら期待したところで、今の姿じゃあいつらには会えないじゃないか・・・。
窓に映る女の子の顔は、とても悲しそうな表情をしていた。
いくつかの停留所に止まり、次第にバスの中は人で溢れてきた。その殆どが学生だった。
そんな中、一人のお婆さんが困ったように立っていた。お婆さんの視線の先には、優先席で馬鹿みたいに騒いでいる男たちがいた。
なぜ誰も注意しないのだろうかと思い周りを見渡してみると、殆どの乗客は友達と喋っていたり、携帯を弄っていたりと、自分たちのことで周りにまで気が回っていないようだった。
仕方ない、俺はお婆さんに優しく声をかけた。
「あの、良かったらここに座りませんか?」
そう言って席を立つと、お婆さんは気品のある笑顔でありがとうと答えてくれた。
「助かったわ。私はこの通り足が悪くてね、立ってるのが辛いのよ」
お婆さんの手には頑丈そうな杖が握られていた。
「優先席はほら、あの通りだしねぇ。最近の子は怖いから注意もできなくて・・・」
「本当にすみません」
同年代の奴らが起こした迷惑行為だったため、気持ち的につい謝ってしまった。
「あらあら、お嬢ちゃんが謝ることないのよ。貴女はとても優しいじゃない」
「あはは・・・、当然のことをしたまでですし」
「貴女、もしかしてこの先にある大学の学生さんかしら?」
「ええ、そうです。今日から二年生になります」
すると、お婆さんは少し驚いた表情を見せた。何か変なことを言ってしまっただろうか?
「偶然ねぇ、私の孫娘もその大学に通っているのよ。学年も貴女と同じよ。保母さんを目指してる優しい子なの」
「そうなんですか!?それはすごい偶然かも。将来の夢が保母さんなら同じ教育学部かもしれませんから」
教育学部は学年の人数が他の学部よりも随分少ないため、もしかすると知っている子かもしれない。
「まあまあ、そうするとお嬢さんと私の孫はお友達かもしれないわねぇ」
「ええ、よろしければお名前を教えていただけませんか?」
「琴美ちゃんっていうの。佐宗琴美。今時珍しく綺麗で長い黒髪の女の子なのだけれど・・・」
その名前を聞いて、俺は凍りついた。
その娘の事はよく知っている。佐宗琴美、入学した当初から仲の良かった女の子だ。
そして、今日は恐れていた大学2年生最初の授業日だった。
俺が通っている大学では、必修単位とそうでないものの講義体系が違っている。
必修単位の授業は20人ほどの少人数制の講義を受け、そのほかの単位の講義は300人は余裕で入る広い講義室で講義を受けるのだ。
後者は学生証に内蔵されているICチップを講義室の入り口にあるカードリーダーに通せば出席扱いになり、本人確認などは行わない。
つまり、今の姿の俺でも講義を受けることができるのだ。
問題は前者の少人数制の講義だ。今の俺の姿では、どう考えても講義を受けるのは無理だろう。
なにせ、その講義を受け持つ講師の大半が1年次にお世話になった講師の方達なのだ。顔も覚えられているだろう。
しかし、必修単位を取らないでいると、3年に上がれない─つまり、留年になってしまうのだ。
どうすれば良いものか前々から悩んではいたが、結局良い案を一つも思い浮かばないまま今日を迎えてしまった。
俺は暗い気持ちで朝食を食べ終えると、すぐさま自室に戻り身支度を始めた。
ちなみに、妹のマキは先日から夢にまで見た高校生活が始まっており、今日も元気に登校して行った。
早速友達もできたみたいで、それは何よりだ。
話を戻すが、今日は最悪な事にどちらの講義もあるのだ。必修のほうはどうするべきか。
俺は対策を考えながら、女物の服を着こなし、軽く化粧をすると、鏡で自分を見てみた。
・・・・・・うん。どこからどうみても女の子だった。
「うん?昭人、そんなにおめかししてどこへ行くんだ?まさかデートだなんて言わないでよ」
何しに来たのか、マキの部屋に居るはずのカグヤが扉から頭だけ出して俺の部屋を覗いていた。
「あのなぁ・・・。昨日も言っただろうけど、今日から俺は大学が始まるんだ」
そう告げると、カグヤは直ぐに昨日の会話を思い出したのか、ぽんっと手を打った。
「そういえばそうだったわね。すっかり忘れていたわ」
カグヤは何かを思い出したのか、急いでマキの部屋に戻っていった。
それにしても、昨日した会話くらいは覚えていてくれれば良いのに。
「まあ、いいけどさ・・・」
結局、俺は不安を抱えたまま大学に向った。
657 :佐白 :2008/01/27(日) 20:45:03.70 ID:a.7O5AQ0
俺が通う大学へは、バスに乗り40分ほどで行くことができる。
今日もいつものバスに乗り込むと、空いている座席に腰を降ろした。
久しぶりに大学へ行くため、少し懐かしい感じがして、嬉しくなった。
高弘や明美は元気にしていただろうか?メールでは何度か連絡を取っていたが、会うのは久しぶりである。
そんなことを考えながら外の風景を眺めていると、バスはトンネルの中に入ったらしく、窓には自分の顔が映し出された。
そうだった。いくら期待したところで、今の姿じゃあいつらには会えないじゃないか・・・。
窓に映る女の子の顔は、とても悲しそうな表情をしていた。
いくつかの停留所に止まり、次第にバスの中は人で溢れてきた。その殆どが学生だった。
そんな中、一人のお婆さんが困ったように立っていた。お婆さんの視線の先には、優先席で馬鹿みたいに騒いでいる男たちがいた。
なぜ誰も注意しないのだろうかと思い周りを見渡してみると、殆どの乗客は友達と喋っていたり、携帯を弄っていたりと、自分たちのことで周りにまで気が回っていないようだった。
仕方ない、俺はお婆さんに優しく声をかけた。
「あの、良かったらここに座りませんか?」
そう言って席を立つと、お婆さんは気品のある笑顔でありがとうと答えてくれた。
「助かったわ。私はこの通り足が悪くてね、立ってるのが辛いのよ」
お婆さんの手には頑丈そうな杖が握られていた。
「優先席はほら、あの通りだしねぇ。最近の子は怖いから注意もできなくて・・・」
「本当にすみません」
同年代の奴らが起こした迷惑行為だったため、気持ち的につい謝ってしまった。
「あらあら、お嬢ちゃんが謝ることないのよ。貴女はとても優しいじゃない」
「あはは・・・、当然のことをしたまでですし」
「貴女、もしかしてこの先にある大学の学生さんかしら?」
「ええ、そうです。今日から二年生になります」
すると、お婆さんは少し驚いた表情を見せた。何か変なことを言ってしまっただろうか?
「偶然ねぇ、私の孫娘もその大学に通っているのよ。学年も貴女と同じよ。保母さんを目指してる優しい子なの」
「そうなんですか!?それはすごい偶然かも。将来の夢が保母さんなら同じ教育学部かもしれませんから」
教育学部は学年の人数が他の学部よりも随分少ないため、もしかすると知っている子かもしれない。
「まあまあ、そうするとお嬢さんと私の孫はお友達かもしれないわねぇ」
「ええ、よろしければお名前を教えていただけませんか?」
「琴美ちゃんっていうの。佐宗琴美。今時珍しく綺麗で長い黒髪の女の子なのだけれど・・・」
その名前を聞いて、俺は凍りついた。
その娘の事はよく知っている。佐宗琴美、入学した当初から仲の良かった女の子だ。
そしてつい最近、告白して見事に振られた相手なのだから・・・。
658 :佐白 :2008/01/27(日) 21:11:06.15 ID:a.7O5AQ0
こんな偶然があって良いのか、最近の忙しさでやっと忘れかけていた失恋相手をこんな形で思い出すなんて。
これは神様が俺に与えた更なる苦痛か、それとも何かの前触れか・・・。
「あら?もしかして知らなかったかしら?」
どうやら、暫くの間返事をしていなかったらしく、お婆さんの心配する声で我に返った。
「あ、ええと、多分知らないです・・・。ごめんなさい」
「あらあら、謝らなくて良いのよ。でも、もしも会う機会があったら仲良くしてあげてね。琴美ちゃん、最近元気が無いみたいで」
俺はそれを聞いて少し心配になった。佐宗さんは元々明るい子ではなく、どちらかといえばクールな女の子だったが、元気が無いという様子を見たことは無かったからだ。
「お病気・・・ですか?」
「いいえ、体調は問題ないみたいなんだけどね。何か辛いことがあったのかしらねぇ」
辛いこと・・・・・・、まさかね。彼女は俺の告白ぐらいではどうもならないだろう。
暫くして、俺が降りるバス停に到着する旨を伝えるアナウンスが車内に響いた。
「お婆さん、それじゃあお・・・私はここで降りますので」
「今日はありがとうね。助かったわ」
お婆さんは優しく手を握ってくれた。しわしわだけど、暖かかな手だった。
「あの子は友達も少ないみたいだし、もしよかったら友達になってあげてね」
「はい、わかりました」
そしてバスを降りると、佐宗さんのおばあさんを乗せたバスは直ぐに発車していった。俺はそれを暫く見送っていた。
あのお婆さんと出遭った事により、俺の中で冷めかけていた気持ちが、また加熱し始めたのを感じた。
佐宗さん、そういえば彼女とはあの日以来、何の連絡も取っていなかった。
毎日のようにしていたメールのやり取りもあの日を境に途絶えてしまっていた。
もうあの頃には戻れないと一人諦めていた。
そんな時、窓ガラスに映った自分の姿を思い出した。そして、最後のお婆さんの言葉が脳裏をよぎる。
「(あの子と友達になってあげてね)」
そうか、そうだ!この姿なら、もう一度友達になれる!また佐宗さんと話すことができる!
俺は居ても立ってもいられなくなり、突然駆け出した。さっきまでうだうだ考えていた悩みもどこかに行ってしまったような、そんな爽快感があった。
658 :佐白 :2008/01/27(日) 21:11:06.15 ID:a.7O5AQ0
こんな偶然があって良いのか、最近の忙しさでやっと忘れかけていた失恋相手をこんな形で思い出すなんて。
これは神様が俺に与えた更なる苦痛か、それとも何かの前触れか・・・。
「あら?もしかして知らなかったかしら?」
どうやら、暫くの間返事をしていなかったらしく、お婆さんの心配する声で我に返った。
「あ、ええと、多分知らないです・・・。ごめんなさい」
「あらあら、謝らなくて良いのよ。でも、もしも会う機会があったら仲良くしてあげてね。琴美ちゃん、最近元気が無いみたいで」
俺はそれを聞いて少し心配になった。佐宗さんは元々明るい子ではなく、どちらかといえばクールな女の子だったが、元気が無いという様子を見たことは無かったからだ。
「お病気・・・ですか?」
「いいえ、体調は問題ないみたいなんだけどね。何か辛いことがあったのかしらねぇ」
辛いこと・・・・・・、まさかね。彼女は俺の告白ぐらいではどうもならないだろう。
暫くして、俺が降りるバス停に到着する旨を伝えるアナウンスが車内に響いた。
「お婆さん、それじゃあお・・・私はここで降りますので」
「今日はありがとうね。助かったわ」
お婆さんは優しく手を握ってくれた。しわしわだけど、暖かかな手だった。
「あの子は友達も少ないみたいだし、もしよかったら友達になってあげてね」
「はい、わかりました」
そしてバスを降りると、佐宗さんのおばあさんを乗せたバスは直ぐに発車していった。俺はそれを暫く見送っていた。
あのお婆さんと出遭った事により、俺の中で冷めかけていた気持ちが、また加熱し始めたのを感じた。
佐宗さん、そういえば彼女とはあの日以来、何の連絡も取っていなかった。
毎日のようにしていたメールのやり取りもあの日を境に途絶えてしまっていた。
もうあの頃には戻れないと一人諦めていた。
そんな時、窓ガラスに映った自分の姿を思い出した。そして、最後のお婆さんの言葉が脳裏をよぎる。
「(あの子と友達になってあげてね)」
そうか、そうだ!この姿なら、もう一度友達になれる!また佐宗さんと話すことができる!
俺は居ても立ってもいられなくなり、突然駆け出した。さっきまでうだうだ考えていた悩みもどこかに行ってしまったような、そんな爽快感があった。