819 :佐白 :2008/05/19(月) 16:55:57.83 ID:vORy/rs0
『シガレット→しがれっと』第十話
『シガレット→しがれっと』第十話
久しぶりの大学は、春休みに入る前とまったく変わっていなかった。よく目にしている掲示板には、学生課からの張り紙や新入生に向けたサークル勧誘のポスターが所狭しと貼られている。
その中には、俺が所属する演劇サークルの勧誘ポスターも貼られていた。もちろん、この体になってからは一度も顔を出していない。
「そこの君!新入生?」
不意に後ろから声をかけられた。相手は数人の男達で、見るからにチャラい格好をしている。
「今、そこの勧誘ポスター見てたでしょ?オレらのサークルはチョー楽しいぜ?試しに入ってみなよ」
「い、いえ・・・・・・。興味ないですから」
そうか、今は女の姿をしているからこういう奴等が寄ってきてしまうのか。女も大変だな。そう思いながらその場を離れようとしたが、いつの間にか俺の周りは男達に囲まれていた。
「あの、すみません。どいてくれませんか?」
「そんなつれない事言わないで、さ。良いじゃん良いじゃん、見学だけでもしてよ」
俺は身の危険を感じ始めていた。この数人の男達に対し、今の俺は狼に囲まれた兎なのだ。
「あー、メンドいな!良いじゃんかよ!」
「あっ!」
一人の男が俺の態度に痺れをきたしたのか、乱暴に腕を掴んできた。
「やめっ・・・・・・、離してください!」
「いいじゃんか、減るもんじゃないし」
助けを求めて周りを見回してみても、仲間の暴走を止めるどころか他の男達もニヤついた顔で見ているだけだった。
──ヤバい!そう思った時だった。
「お前等、そこで何をしている!」
凛と澄み切った声がその場に響き渡った。
「やべぇ、風紀がきちまった。おい皆、逃げるぞ!」
リーダー格の奴がそう叫ぶと、俺を囲んでいた男達は蜘蛛の子を散らすように逃げていってしまった。
俺はというと、安心したせいで体から力が抜け、その場に座り込んでしまった。
820 :佐白 :2008/05/19(月) 16:56:58.34 ID:vORy/rs0
驚いたことに、俺を助けてくれたのは女性だった。腕には”風紀”と書いてある腕章を付けている。
「大丈夫か?」
「はい・・・・・・。助けていただいてありがとうございます。ところで、あなたは?」
「私は法学部3年の厳島綾。見ての通り、風紀委員会の一員だ」
「あいつ等は度々問題を起こすサークルでね。今日も見回りに来て正解だったよ」
とても勇ましい風格の彼女は、近くで見ると意外と小柄で可愛らしい顔付きをしている。噂には聞いていた風紀委員を、まさかこんな可愛い女の子がしていたなんて、驚きだ。
風紀委員会とは、この大学内で最も権限を持っている大学自治体の事だ。パワハラをする教授を独断で解雇したり、構内でのトラブルに介入し事態収拾をするなど、一部からは憧れの対象であり、一部からは畏怖される存在なのだ。
「さて、私は先ほどの奴等に制裁を与えなければいけないから、これで失礼するよ」
「はい、ありがとうございました!」
厳島さんは、まるで突風のように走って行ってしまった。
それにしても、今回は助けが来たから良いものの、次からは気をつけないとな。なんてったって、今の俺は非力な女の子なんだから。
821 :佐白 :2008/05/19(月) 16:58:05.25 ID:vORy/rs0
気を取り直して、俺は教室に向った。1限目の講義は個別に出席確認をしない先生だったため、難なく講義を受けることが出来た。しかし、問題は2限目だった。2限目は必修単位の講義であると共に、教授が一人一人の名前を呼び上げて出席確認をするため、今の俺では講義に出席できないのだ。
どうしよう、どうする?俺は解決策を必死考えてみるが、良い案は一向に浮かんでこない。
その時、ポンッと肩を叩かれた。
「ひゃいっ!」
不意打ちに、つい驚きの声を上げてしまった。
「あはは、ひゃい!だって。何をそんなに怯えているのよ?まるで本物の女の子ね」
「え?」
そこにはスーツ姿のカグヤが居た。なんでカグヤがここに?
「言わなかったかしら?アンタが元に戻るまで、私たちが生活をサポートするって」
私たち、とは勿論カグヤが所属する団体のことだろう。
「サポートって、具体的には?」
「んー、昭人が今まで通りの生活を送るためのサポート」
全然具体的じゃなかった。
「とにかく、大学に関してはもう心配要らないわよ」
「どうしてさ?」
「アンタの必修講義は、全部私がすることになったから」
「な、なんだって!?」
カグヤが言うには、あっちの世界のありがたーい技術を駆使して、この大学の講師に成りすまし、俺の必修講義を受け持ったらしい。さらに、俺が他に履修している授業の講師も、全員カグヤたちのスタッフらしい。ということは、さっき出席した講義の講師も・・・・・・。
「なんていうか、やっぱ無茶苦茶だよな。そっちの世界は」
「その言葉は心外ね。もっと感謝の言葉を言って欲しいくらいよ」
「はいはい、ドウモアリガトウゴザイマス」
何はともあれ、こうして俺の安らかな大学生活は保障された、この時の俺はそう思っていた。
その中には、俺が所属する演劇サークルの勧誘ポスターも貼られていた。もちろん、この体になってからは一度も顔を出していない。
「そこの君!新入生?」
不意に後ろから声をかけられた。相手は数人の男達で、見るからにチャラい格好をしている。
「今、そこの勧誘ポスター見てたでしょ?オレらのサークルはチョー楽しいぜ?試しに入ってみなよ」
「い、いえ・・・・・・。興味ないですから」
そうか、今は女の姿をしているからこういう奴等が寄ってきてしまうのか。女も大変だな。そう思いながらその場を離れようとしたが、いつの間にか俺の周りは男達に囲まれていた。
「あの、すみません。どいてくれませんか?」
「そんなつれない事言わないで、さ。良いじゃん良いじゃん、見学だけでもしてよ」
俺は身の危険を感じ始めていた。この数人の男達に対し、今の俺は狼に囲まれた兎なのだ。
「あー、メンドいな!良いじゃんかよ!」
「あっ!」
一人の男が俺の態度に痺れをきたしたのか、乱暴に腕を掴んできた。
「やめっ・・・・・・、離してください!」
「いいじゃんか、減るもんじゃないし」
助けを求めて周りを見回してみても、仲間の暴走を止めるどころか他の男達もニヤついた顔で見ているだけだった。
──ヤバい!そう思った時だった。
「お前等、そこで何をしている!」
凛と澄み切った声がその場に響き渡った。
「やべぇ、風紀がきちまった。おい皆、逃げるぞ!」
リーダー格の奴がそう叫ぶと、俺を囲んでいた男達は蜘蛛の子を散らすように逃げていってしまった。
俺はというと、安心したせいで体から力が抜け、その場に座り込んでしまった。
820 :佐白 :2008/05/19(月) 16:56:58.34 ID:vORy/rs0
驚いたことに、俺を助けてくれたのは女性だった。腕には”風紀”と書いてある腕章を付けている。
「大丈夫か?」
「はい・・・・・・。助けていただいてありがとうございます。ところで、あなたは?」
「私は法学部3年の厳島綾。見ての通り、風紀委員会の一員だ」
「あいつ等は度々問題を起こすサークルでね。今日も見回りに来て正解だったよ」
とても勇ましい風格の彼女は、近くで見ると意外と小柄で可愛らしい顔付きをしている。噂には聞いていた風紀委員を、まさかこんな可愛い女の子がしていたなんて、驚きだ。
風紀委員会とは、この大学内で最も権限を持っている大学自治体の事だ。パワハラをする教授を独断で解雇したり、構内でのトラブルに介入し事態収拾をするなど、一部からは憧れの対象であり、一部からは畏怖される存在なのだ。
「さて、私は先ほどの奴等に制裁を与えなければいけないから、これで失礼するよ」
「はい、ありがとうございました!」
厳島さんは、まるで突風のように走って行ってしまった。
それにしても、今回は助けが来たから良いものの、次からは気をつけないとな。なんてったって、今の俺は非力な女の子なんだから。
821 :佐白 :2008/05/19(月) 16:58:05.25 ID:vORy/rs0
気を取り直して、俺は教室に向った。1限目の講義は個別に出席確認をしない先生だったため、難なく講義を受けることが出来た。しかし、問題は2限目だった。2限目は必修単位の講義であると共に、教授が一人一人の名前を呼び上げて出席確認をするため、今の俺では講義に出席できないのだ。
どうしよう、どうする?俺は解決策を必死考えてみるが、良い案は一向に浮かんでこない。
その時、ポンッと肩を叩かれた。
「ひゃいっ!」
不意打ちに、つい驚きの声を上げてしまった。
「あはは、ひゃい!だって。何をそんなに怯えているのよ?まるで本物の女の子ね」
「え?」
そこにはスーツ姿のカグヤが居た。なんでカグヤがここに?
「言わなかったかしら?アンタが元に戻るまで、私たちが生活をサポートするって」
私たち、とは勿論カグヤが所属する団体のことだろう。
「サポートって、具体的には?」
「んー、昭人が今まで通りの生活を送るためのサポート」
全然具体的じゃなかった。
「とにかく、大学に関してはもう心配要らないわよ」
「どうしてさ?」
「アンタの必修講義は、全部私がすることになったから」
「な、なんだって!?」
カグヤが言うには、あっちの世界のありがたーい技術を駆使して、この大学の講師に成りすまし、俺の必修講義を受け持ったらしい。さらに、俺が他に履修している授業の講師も、全員カグヤたちのスタッフらしい。ということは、さっき出席した講義の講師も・・・・・・。
「なんていうか、やっぱ無茶苦茶だよな。そっちの世界は」
「その言葉は心外ね。もっと感謝の言葉を言って欲しいくらいよ」
「はいはい、ドウモアリガトウゴザイマス」
何はともあれ、こうして俺の安らかな大学生活は保障された、この時の俺はそう思っていた。