105 :名無草 :2007/05/01(火) 06:58:37.85 ID:FwBHcOQ0
春の昼下がり、
「お腹、減ったぁ……」
空腹に目を覚ます。
時間は12時を回った辺り。
あれ、私なんでソファーで寝てるんだっけ?
身を起こそうとして、もたれ掛かるどこか心地良い重みを感じて。
「気持ち良さそうに寝ちゃって」
安堵からか、本当に安からに眠っている自称“男”。
――嘘でも、本当でも。この子がいつでもこんな風に眠れるように守ってあげたい。
女の私がこんな事を思うのは変だろうか? でも、変でも構わないと、本気で私はそう考えてるみたい。
無垢で、本当に可愛いと思えるその寝顔を堪能してから彼女を起こさないようにソファーから抜け出して。
さぁ、ご飯はどうしよう?
春の昼下がり、
「お腹、減ったぁ……」
空腹に目を覚ます。
時間は12時を回った辺り。
あれ、私なんでソファーで寝てるんだっけ?
身を起こそうとして、もたれ掛かるどこか心地良い重みを感じて。
「気持ち良さそうに寝ちゃって」
安堵からか、本当に安からに眠っている自称“男”。
――嘘でも、本当でも。この子がいつでもこんな風に眠れるように守ってあげたい。
女の私がこんな事を思うのは変だろうか? でも、変でも構わないと、本気で私はそう考えてるみたい。
無垢で、本当に可愛いと思えるその寝顔を堪能してから彼女を起こさないようにソファーから抜け出して。
さぁ、ご飯はどうしよう?
結局、手軽にパスタにすることにした。
寝起きで手の込んだものを作るなんてめんどくさいし。
寝起きで手の込んだものを作るなんてめんどくさいし。
109 :名無草 :2007/05/01(火) 21:43:09.97 ID:FwBHcOQ0
ご飯を作り終えて、“男”を起こそうとソファーに近づく。
「……泣いてる?」
考えればそれも当然、か。
いきなり女の子になって、気持ちの整理も出来ていないまま家を飛び出して。
少しくらい安心感を得られたってそれでも不安が消えてくれた訳ではないんだろう。
そんなことを考えながら気付けば私はその涙を拭っていた。
「ぁ……」
寝起きの、焦点の定まらないような目が私を――そして私も彼女を――覗き込んでいて。
なんだか気恥ずかしくなって、
「おはよ、ご飯食べる?」
無理矢理に挨拶。
「おはよう、ご飯?」
小さく欠伸して訊ねてくる“男”、なんだか仕草一つ一つが可愛いなぁもう。
「そ、ご飯」
言ってテーブルを指差す。
「うん、食べる」
僅かに赤くなった目を擦りながらテーブルに歩いていく。
その背中は見た目以上に小さく見えて、
ご飯を作り終えて、“男”を起こそうとソファーに近づく。
「……泣いてる?」
考えればそれも当然、か。
いきなり女の子になって、気持ちの整理も出来ていないまま家を飛び出して。
少しくらい安心感を得られたってそれでも不安が消えてくれた訳ではないんだろう。
そんなことを考えながら気付けば私はその涙を拭っていた。
「ぁ……」
寝起きの、焦点の定まらないような目が私を――そして私も彼女を――覗き込んでいて。
なんだか気恥ずかしくなって、
「おはよ、ご飯食べる?」
無理矢理に挨拶。
「おはよう、ご飯?」
小さく欠伸して訊ねてくる“男”、なんだか仕草一つ一つが可愛いなぁもう。
「そ、ご飯」
言ってテーブルを指差す。
「うん、食べる」
僅かに赤くなった目を擦りながらテーブルに歩いていく。
その背中は見た目以上に小さく見えて、
――どうにか、彼女を支えることが出来ないだろうか。
出来ることはほんの些細なことしかなくて、自分の無力さが恨めしい。
それでも、ほんの少しでも。
彼女の不安を紛らわせることは出来ないものか。
考えながら、“男”の向かいに腰掛けて食事を始めることにした。
“男”は美味しいと言いながら食べてくれて、朝よりは少し元気になったかな?
110 :名無草 :2007/05/01(火) 21:43:51.44 ID:FwBHcOQ0
ご飯を食べ終えて、後片付け。
後片付けと言っても食器洗い機に放り込むだけだけど。
うん、文明は偉大だ。
なんと言っても水仕事を機械がやってくれれば、女の人は手についてあれこれと悩むことも少なくなるんだから。
時計を見るともう2時前。
「あ」
思いっきり変な声を出してしまった。
「どうしたの?」
驚いたように聞いてくる“男”。
「そういえば、これからどこに住むとかの予定というか当てはあるの?」
多分無いから私の所に来たんだろうけど、それでも一応聞いておこう。
「ない、かな」
やってしまった、返答は予想通り。
けれどおまけで悲しげで不安げな表情をする“男”。
少し考えればこうなることは分かるだろう、何を考えてるんだ私は!
「じゃぁ今日はとりあえずウチに泊まっていけば?」
こいつ女の子の友達なんてほとんど居ないし、これだけ可愛いと野郎の所に行かせる訳にもいかない。
「でも、良いの?」
“男”は迷惑になるんじゃないかと言いたげな表情をして訊いてくる。
「良いの良いの。お父さんもお母さんもそう言うの大好きだし」
本当にあの二人は子供みたいにそう言うのが大好きだ。
私に催促してくるくらいに。
「……うん、それじゃ、一日だけお世話になります」
一日だけ、か。
女の子になって、自分のことすらどうしようもない状態で遠慮なんてするんじゃないってぇのよ。
「その後はどうするつもりよ」
不機嫌そうな声に、自分でも驚く。
“男”は何も言えずに俯いていて、
「もっと回りに甘えてみなさい。あんた見てると逆に不安になってくるのよ」
続けて驚く、なんで私はこんなに優しそうな声で、こんなことを言っているんだろう?
111 :名無草 :2007/05/01(火) 21:44:14.41 ID:FwBHcOQ0
それから、なんとなく気恥ずかしいような気まずいような、そんな沈黙のなか時間を過ごして気が付けば5時。
二人の帰ってくる時間だ。
「正直に、あんたが“男”だって言ってみる?」
最後に確認。
「まかせても、良い?」
「じゃぁ任せてもらう」
その言葉を合図に、計ったようにドアが開いて。
「「ただいま」」
二人の声が聞こえる。
さぁ、勢いで任せてもらうなんて言ったけど、どう話そうかな。
「あ、“女”、友達が来てるんだね」
「可愛い子ね、なんだか妹のこと思い出しちゃうな」
言いながら入ってきた両親に、
「うん、今日ウチにこの子泊まってもらっても良い?」
どう切り出そうか、迷って、結局言いだせずにそれだけを確認する。
「ん、構わないよ」
「そうね、布団は出しておくから」
そう言れだけ言って奥に引っ込むお父さん。
お母さんはそのまま台所に入っていって、多分夕食の準備だろう。
お母さんの妹と言うとあの叔母さんだろうか。
と言うかその叔母さんしか居ないのだが、やけに小柄で、本当子供を二人も生んでいるのかと疑いたくなるような童顔を思い出しながら。
なるほど、確かに似ているかもしれない。
そんなことを思いながら“男”の顔を眺める。
112 :名無草 :2007/05/01(火) 21:45:04.24 ID:FwBHcOQ0
その後、ご飯を食べて、お風呂に入って、私と“男”は私の部屋に引っ込んだ。
「んー、どう切り出そうかなぁ」
未だに言い出せずにいた。
だってこんなこと信じられる訳がないし。
その時不意にドアが開いて、
「はい、布団。困ったことがあったら言ってね」
布団を下ろして、そのまま出て行こうとするお母さん。
「あ、お母さん」
思わず呼び止めてしまった。
「何?」
真っ直ぐ見つめてくるお母さん。
もう正直に言ってしまおう、考えるだけ無駄な気もするし。
「あのね、この子。“男”なんだ」
なんて捻りの無い言葉だろう。
「“男”って、あのあんたの幼馴染の?」
驚いた風でもなく聞き返すお母さんの表情は、気のせいか呆れているように見える。
「そう、信じられないかもしれないけど、あの“男”なの」
“男”を一瞥して、
「そう、久しぶりね、“男”くん。今は“男”ちゃんの方が良いのかな?」
何なんだろう、疑うでもなくふざける様でもなく、そんな言葉を返してくるお母さん。
「お、お久しぶりです」
困ったように返す“男”。
「え、と。信じられるの?」
聞かずには居られなかった。
「ええ、だって私の妹、あんたから見れば叔母だけど、あの子も元々は男の子だったのよ」
衝撃の新事実発覚。
「え!?」
我ながら分かりやすい驚きの表現だと思いながらも思わず叫んでしまった。
113 :名無草 :2007/05/01(火) 21:45:43.28 ID:FwBHcOQ0
「まぁそんな訳だから、そう言うことには慣れてるのよ」
そう言って笑うお母さんはどこか懐かしそうに続ける。
「それじゃぁ妹呼んでみようか? 明日は休みだし、何か役に立つこと聞けるかもよ?」
子供っぽく言うお母さん、なんて言うか新鮮で、いつも以上に若々しく見える。
「えと、お願いします」
「それと、しばらくこの子ウチに泊めても良い?」
その一言で察したのか、
「ええ、別にずっと居ても構わないけど。あの時も居候なら一人居たし、もしかしたら今回も増えるかもしれないわね」
言いながら部屋を出ようとドアノブに手を掛けたお母さんは、
「世の中案外どうとでもなるものだから、あんまり落ち込んだり考え込んだりしすぎないようにね」
“男”にそんな言葉を送って、部屋を後にした。
「僕だけじゃ、なかったんだね」
そのあと“男”はそんな言葉を漏らした。
時計を見ればもう11時に差し掛かっていて、
「それじゃ、もう寝よっか」
明日は叔母が来るらしいし、きっと騒がしい一日になるんだろう。
明日一日騒ぐためにも、今日は早めに眠っておこう。
「うん、おやすみ」
「おやすみ」
それを合図に電灯を消して、それぞれ寝床に潜り込む。
「“女”、ありがとう」
「私は別に何もしてないじゃない」
「うんん、信じてくれたでしょ?」
その言葉に答えられず、ゆっくりと瞼を閉じた。
「疑う要素が無かったんだもん」
それだけ言って、ゆっくりと眠りに就いた。
114 :名無草 :2007/05/01(火) 21:46:02.70 ID:FwBHcOQ0
「疑う要素がなかったんだもん」
“女”はそう言った。
でも、それを言うなら信じる要素だってどこにもないんだよ。
それでも彼女は僕を信じてくれた。
「ありがとう」
もう一度、小さくそう言って瞼を閉じる。
それでも、ほんの少しでも。
彼女の不安を紛らわせることは出来ないものか。
考えながら、“男”の向かいに腰掛けて食事を始めることにした。
“男”は美味しいと言いながら食べてくれて、朝よりは少し元気になったかな?
110 :名無草 :2007/05/01(火) 21:43:51.44 ID:FwBHcOQ0
ご飯を食べ終えて、後片付け。
後片付けと言っても食器洗い機に放り込むだけだけど。
うん、文明は偉大だ。
なんと言っても水仕事を機械がやってくれれば、女の人は手についてあれこれと悩むことも少なくなるんだから。
時計を見るともう2時前。
「あ」
思いっきり変な声を出してしまった。
「どうしたの?」
驚いたように聞いてくる“男”。
「そういえば、これからどこに住むとかの予定というか当てはあるの?」
多分無いから私の所に来たんだろうけど、それでも一応聞いておこう。
「ない、かな」
やってしまった、返答は予想通り。
けれどおまけで悲しげで不安げな表情をする“男”。
少し考えればこうなることは分かるだろう、何を考えてるんだ私は!
「じゃぁ今日はとりあえずウチに泊まっていけば?」
こいつ女の子の友達なんてほとんど居ないし、これだけ可愛いと野郎の所に行かせる訳にもいかない。
「でも、良いの?」
“男”は迷惑になるんじゃないかと言いたげな表情をして訊いてくる。
「良いの良いの。お父さんもお母さんもそう言うの大好きだし」
本当にあの二人は子供みたいにそう言うのが大好きだ。
私に催促してくるくらいに。
「……うん、それじゃ、一日だけお世話になります」
一日だけ、か。
女の子になって、自分のことすらどうしようもない状態で遠慮なんてするんじゃないってぇのよ。
「その後はどうするつもりよ」
不機嫌そうな声に、自分でも驚く。
“男”は何も言えずに俯いていて、
「もっと回りに甘えてみなさい。あんた見てると逆に不安になってくるのよ」
続けて驚く、なんで私はこんなに優しそうな声で、こんなことを言っているんだろう?
111 :名無草 :2007/05/01(火) 21:44:14.41 ID:FwBHcOQ0
それから、なんとなく気恥ずかしいような気まずいような、そんな沈黙のなか時間を過ごして気が付けば5時。
二人の帰ってくる時間だ。
「正直に、あんたが“男”だって言ってみる?」
最後に確認。
「まかせても、良い?」
「じゃぁ任せてもらう」
その言葉を合図に、計ったようにドアが開いて。
「「ただいま」」
二人の声が聞こえる。
さぁ、勢いで任せてもらうなんて言ったけど、どう話そうかな。
「あ、“女”、友達が来てるんだね」
「可愛い子ね、なんだか妹のこと思い出しちゃうな」
言いながら入ってきた両親に、
「うん、今日ウチにこの子泊まってもらっても良い?」
どう切り出そうか、迷って、結局言いだせずにそれだけを確認する。
「ん、構わないよ」
「そうね、布団は出しておくから」
そう言れだけ言って奥に引っ込むお父さん。
お母さんはそのまま台所に入っていって、多分夕食の準備だろう。
お母さんの妹と言うとあの叔母さんだろうか。
と言うかその叔母さんしか居ないのだが、やけに小柄で、本当子供を二人も生んでいるのかと疑いたくなるような童顔を思い出しながら。
なるほど、確かに似ているかもしれない。
そんなことを思いながら“男”の顔を眺める。
112 :名無草 :2007/05/01(火) 21:45:04.24 ID:FwBHcOQ0
その後、ご飯を食べて、お風呂に入って、私と“男”は私の部屋に引っ込んだ。
「んー、どう切り出そうかなぁ」
未だに言い出せずにいた。
だってこんなこと信じられる訳がないし。
その時不意にドアが開いて、
「はい、布団。困ったことがあったら言ってね」
布団を下ろして、そのまま出て行こうとするお母さん。
「あ、お母さん」
思わず呼び止めてしまった。
「何?」
真っ直ぐ見つめてくるお母さん。
もう正直に言ってしまおう、考えるだけ無駄な気もするし。
「あのね、この子。“男”なんだ」
なんて捻りの無い言葉だろう。
「“男”って、あのあんたの幼馴染の?」
驚いた風でもなく聞き返すお母さんの表情は、気のせいか呆れているように見える。
「そう、信じられないかもしれないけど、あの“男”なの」
“男”を一瞥して、
「そう、久しぶりね、“男”くん。今は“男”ちゃんの方が良いのかな?」
何なんだろう、疑うでもなくふざける様でもなく、そんな言葉を返してくるお母さん。
「お、お久しぶりです」
困ったように返す“男”。
「え、と。信じられるの?」
聞かずには居られなかった。
「ええ、だって私の妹、あんたから見れば叔母だけど、あの子も元々は男の子だったのよ」
衝撃の新事実発覚。
「え!?」
我ながら分かりやすい驚きの表現だと思いながらも思わず叫んでしまった。
113 :名無草 :2007/05/01(火) 21:45:43.28 ID:FwBHcOQ0
「まぁそんな訳だから、そう言うことには慣れてるのよ」
そう言って笑うお母さんはどこか懐かしそうに続ける。
「それじゃぁ妹呼んでみようか? 明日は休みだし、何か役に立つこと聞けるかもよ?」
子供っぽく言うお母さん、なんて言うか新鮮で、いつも以上に若々しく見える。
「えと、お願いします」
「それと、しばらくこの子ウチに泊めても良い?」
その一言で察したのか、
「ええ、別にずっと居ても構わないけど。あの時も居候なら一人居たし、もしかしたら今回も増えるかもしれないわね」
言いながら部屋を出ようとドアノブに手を掛けたお母さんは、
「世の中案外どうとでもなるものだから、あんまり落ち込んだり考え込んだりしすぎないようにね」
“男”にそんな言葉を送って、部屋を後にした。
「僕だけじゃ、なかったんだね」
そのあと“男”はそんな言葉を漏らした。
時計を見ればもう11時に差し掛かっていて、
「それじゃ、もう寝よっか」
明日は叔母が来るらしいし、きっと騒がしい一日になるんだろう。
明日一日騒ぐためにも、今日は早めに眠っておこう。
「うん、おやすみ」
「おやすみ」
それを合図に電灯を消して、それぞれ寝床に潜り込む。
「“女”、ありがとう」
「私は別に何もしてないじゃない」
「うんん、信じてくれたでしょ?」
その言葉に答えられず、ゆっくりと瞼を閉じた。
「疑う要素が無かったんだもん」
それだけ言って、ゆっくりと眠りに就いた。
114 :名無草 :2007/05/01(火) 21:46:02.70 ID:FwBHcOQ0
「疑う要素がなかったんだもん」
“女”はそう言った。
でも、それを言うなら信じる要素だってどこにもないんだよ。
それでも彼女は僕を信じてくれた。
「ありがとう」
もう一度、小さくそう言って瞼を閉じる。
春の夜。
風はまだ冷たくても、側に居ればその冷たさもしのげるはずと寄り添って。
もう目の前の夜明けを今か今かと待ちわびる。
風はまだ冷たくても、側に居ればその冷たさもしのげるはずと寄り添って。
もう目の前の夜明けを今か今かと待ちわびる。